抄録
Wilson 病は, 肝硬変, 錐体外路症状, Kayser-Fleischer 角膜輪を主徴とする先天性銅代謝異常で, その麻酔管理には問題が多い.
症例は11歳時に本症と診断され, D-ペニシラミンの長期投与を受けている26歳の女性, ドロペリドール, フェンタニール, 笑気-酸素を用いたNLA原法とパンクロニウムの筋弛緩下に, 脊椎管狭窄症に対する椎弓切除術 (C3-7) を行い, 良好な結果をえた. 本例では, 術中に軽度の体温上昇を認めたほかには, 麻酔によると思われる呼吸•循環系, 肝•腎機能への影響を認めず, 術後, 錐体外路症状も増悪することはなかった.
本症に病態生理に基づき, 麻酔薬の選択および術中•術後管理について, 文献的考察を加えた.