1992 年 31 巻 6 号 p. 1058-1062
婦人科細胞診標本中に性器外悪性腫瘍由来の細胞が出現する頻度はきわめて低いとされている. これらの症例の原発臓器として, 欧米では乳癌の頻度が高いのに対して, 本邦では胃癌の報告が圧倒的に多い. また, 転移性子宮癌は不正性器出血などの症状を伴い広汎な全身転移の一部として発見されることが多く, 予後不良であるとされている.
今回われわれは, 乳癌根治術2年後に子宮内膜吸引細胞診標本中に, 乳癌由来の腫瘍細胞が出現した転移性子宮癌の1例を経験した. 摘出子宮における転移巣は比較的小さいものであったが, 子宮内膜間質から筋層へかけて発育していた. また, 術前検査で肝左葉への転移も発見されたため, 術中肝動注用カテーテルを設置し, 術後肝動注化学療法を施行したところ奏功し, CT上肝転移巣はほぼ消失した. 術後1年以上を経たが患者は全身状態良好で再燃徴候はなく, 外来にて経過観察中である.