背景:卵管癌では,腫瘍細胞が子宮内膜細胞診で検出されることがある.
症例:56 歳.傍胸骨リンパ節,腹膜,左付属器,子宮体部に腫瘍を認め,ダグラス窩から上腹部にかけて著明な腹水貯留を認めた.子宮内膜細胞診の所見より,子宮体癌よりも卵巣癌/卵管癌/腹膜癌を疑い,化学療法を 2 コース施行後,両側付属器を摘出し,子宮鏡下に子宮内膜を一部子宮筋層とともに生検した.右卵管に正常卵管上皮と front を形成する漿液性卵管上皮内癌を認めた.子宮内膜の病理組織診では,萎縮した正常内膜とは独立した少量の腺癌細胞の集塊を認め,子宮筋層内への腺癌の転移を疑った.化学療法を計 6 コース施行後に子宮と大網を摘出した.病理組織診で子宮筋層内と大網に高異型度漿液性癌を認めたが,子宮内膜に癌細胞は認めなかった.子宮筋層内に転移した stage ⅣB 右卵管癌と最終診断した.
結論:子宮内膜細胞診において腫瘍性背景が欠如し,正常子宮内膜細胞とともに小型集塊状に異型細胞が散在する場合は,子宮体癌よりも卵巣癌/卵管癌/腹膜癌を疑うことが可能である.
背景:芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)は,形質細胞様樹状細胞の前駆細胞に由来するまれな腫瘍である.BPDCN の鑑別疾患の 1 つとして,急性単球性白血病(AMoL)が挙げられる.今回われわれは BPDCN の 2 例の細胞像を検討し,AMoL の細胞像と比較検討したので報告する.
症例:症例 1.60 歳代,男性.全身性紅斑を認めた.症例 2.70 歳代,男性.右季肋部に皮下硬結を認めた.両症例で皮膚生検とリンパ節針生検を施行した.リンパ節針生検の捺印標本では,症例 1,2 ともに偽足様突起を有する腫瘍細胞を認めた.Giemsa 染色では細胞質は灰青色で,小空胞がみられたが,AMoL のような顆粒はみられなかった.両症例の皮膚生検による免疫染色で,CD4,CD56,CD123,TCL1,CD303 が陽性であり,BPDCN と診断した.
結論:BPDCN と AMoL は近縁疾患とされているが,両疾患の治療方針は異なる.迅速に作製できる細胞診標本で偽足様突起を有する腫瘍細胞を認め,Giemsa 染色で顆粒を欠く細胞所見を捉えて BPDCN を鑑別疾患として挙げ,マーカー検索により早期診断を行うことが重要と考えられた.
背景:傍神経節腫は副腎以外の傍神経節組織より発生する粘膜下腫瘍であるため通常,腫瘍細胞自体が自然尿や膀胱洗浄液中に出現することはきわめてまれである.われわれは膀胱洗浄細胞診内に観察された傍神経節腫の 1 例を経験したので,その細胞像を中心に報告する.
症例:50 歳代,男性.他院にて数年前より膀胱腫瘍を指摘されるも良性腫瘍として経過観察されていた.数ヵ月前より血尿および腫瘍の増大を認め当院に紹介受診となった.膀胱洗浄細胞診にて清浄な背景内に微細顆粒状の細胞質と粗大顆粒状のクロマチンを有する N/C 比の高い異型細胞が散在性に出現していた.2 核~多核細胞も認められた.異型細胞の出現が少数であり結果は疑陽性(由来不明の異型細胞).その後,膀胱鏡検査にて後壁の粘膜下に隆起性腫瘤を認め経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を施行.病理組織学的に膀胱原発傍神経節腫と診断された.
結論:膀胱洗浄細胞診内の腫瘍細胞は,1)微細顆粒状の細胞質を有し N/C 比が高いこと,2)核は類円形で微細なクロマチンを有し核小体は目立たないこと,3)2 核~多核細胞が出現することが特徴であった.
背景:甲状腺未分化癌は悪性度の高いまれな疾患である.今回われわれは,甲状腺穿刺吸引細胞診で扁平上皮成分を含む多彩な細胞像を示した甲状腺未分化癌の一例を経験した.
症例:60 歳代,女性.頸部腫瘤を触知,急速増大を認め当院受診.頸部 CT・エコー検査で甲状腺右葉腫瘤と右頸部リンパ節腫大を認め悪性が疑われた.甲状腺細胞診で角化異型細胞が散見され扁平上皮癌が疑われた.組織所見では角化細胞を含む未分化癌と乳頭癌成分が確認され,扁平上皮分化を伴う未分化癌と診断された.細胞所見の再検討で乳頭癌成分や多彩な多核巨細胞,高度異型細胞集塊内への好中球浸潤像が確認された.
結論:甲状腺穿刺吸引細胞診で角化異型細胞を認めた場合は,扁平上皮分化を伴う未分化癌,乳頭癌の扁平上皮化生,甲状腺内胸腺癌,好酸球増多を伴う硬化性粘表皮癌,びまん性硬化型乳頭癌などを念頭に鏡検する必要がある.背景に壊死と炎症細胞を認め,多様な形態を示す大型異型細胞や核の分裂像がみられた際には,扁平上皮分化を伴う未分化癌が推定される.
背景:紡錘形細胞型横紋筋肉腫(Sp-RMS)は頭頸部領域に発生するまれな腫瘍である.今回,筋上皮癌(MC)術後に発生した左耳下腺 Sp-RMS の 1 例を経験したので報告する.
症例:30 歳代,女性.3 年前に左耳下腺摘出術にて MC と診断され,化学療法および放射線療法施行後であった.MRI および PET-CT にて術後部位に腫瘤が認められ,穿刺吸引細胞診が施行された.腫瘍細胞は紡錘形核で一部に核内細胞質封入体や細胞質内に横紋が認められた.また有尾状の横紋筋芽細胞が散見された.組織像では,紡錘形腫瘍細胞の束状あるいは錯綜構造を示しながら増生する像が認められた.免疫組織化学的検索では,Desmin,HHF35,Myogenin,MyoD1 が陽性,S-100a,AE1/AE3,αSMA,Calponin が陰性であり,Sp-RMS と診断された.
結論:Sp-RMS でも核内細胞質封入体が認められる場合があり,横紋筋芽細胞や細胞質内の横紋を認めた場合は本疾患を推定しうると考えられる.