日本臨床細胞学会雑誌
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最新号
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総説
  • ―国際的な呼吸器細胞診判定基準の策定―
    佐藤 之俊
    2024 年 63 巻 3 号 p. 113-118
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/19
    ジャーナル フリー

    検査技術の進歩やがんゲノム診療時代を迎え,呼吸器細胞診の役割が大きく変化している.このような変化に対し,本邦では 1978 年から用いられてきた肺癌細胞診診断の 3 段階分類を見直す必要が生じたため,2017 年に日本肺癌学会と日本臨床細胞学会が共同で「肺癌細胞診の診断判定基準の見直しに関する合同ワーキンググループ」を設立し,判定基準の再検討と新たな基準が提唱された.さらに,2020 年からは World Health Organization(WHO),International Agency for Research on Cancer(IARC),International Academy of Cytology(IAC)が主体となって国際的呼吸器細胞診報告様式が検討され,2022 年末にその成果が WHO Reporting System for Lung Cytopathology として上梓された.この報告様式の主たる特徴としては,①WHO 組織分類との整合性をとっていること,②編集は Standing committee,Expert editorial board,Editors,Authors,Co-authors から構成されていること,③Key diagnostic features,Risk of malignancy(ROM),補助検査,診断・治療における推奨を含むこと,そして,④判定カテゴリーごと,かつ,採取方法ごとにマネジメントを示していること,の 4 点が挙げられる.今後は,WHO 呼吸器細胞診報告様式の目的は精度管理と実地臨床への応用であることを理解のうえで細胞診判定を行うことが要求される.それらに加えて,細胞診検体を用いた免疫細胞化学的染色や分子生物学的な検索などの補助検査を組み合わせることにより,細胞診を呼吸器疾患の診断・治療に役立てていくことが一層期待される.

原著
  • 松木 浩子, 二木 照美, 野沢 佳弘
    2024 年 63 巻 3 号 p. 119-128
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/19
    ジャーナル フリー

    目的:経口腸管洗浄液(PEG 電解質製剤の『ムーベン®』)を細胞診検体の保存液として使用し,経時的に細胞形態,染色性,セルブロック標本による免疫組織化学の反応性,さらに,肺腺癌の EGFR 遺伝子変異解析の検討を行った.

    方法:2014 年 1 月~2022 年 12 月までに提出された液状検体 26 例および肺腫瘍擦過洗浄液検体 6 例の症例を用いた.保存液を入れた検体を,4℃ で 24 時間(h),72h,7 日間保存し,おのおの従来法で標本を作製した.また,7 日間の残検体でセルブロックを作製し,免疫染色と肺腺癌の EGFR 遺伝子変異解析を行った.

    成績:採取直後の検体(以下,対照)と各保存液検体の細胞所見の比較で,変性なしが 72h で 56.3%と良好であったが,7 日間では,12.5%と低下していた.セルブロックの免疫染色は対照とすべて一致した結果が得られ,さらに肺腺癌の EGFR 遺伝子変異解析も対照と一致した遺伝子変異が検出された.

    結論:経口腸管洗浄液を用いた細胞保存は,安全で,4℃で保存することにより,従来法と同様の細胞所見や遺伝子検索が可能であることから,短期間の細胞保存液として有効であると考えられた.

症例
  • 加藤 好洋, 土戸 景子, 山田 真人, 赤澤 康弘, 水野 章吾, 大月 寛郎, 清水 進一, 小林 寛
    2024 年 63 巻 3 号 p. 129-133
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/19
    ジャーナル フリー

    背景:結節性筋膜炎は線維芽細胞,筋線維芽細胞の増生からなる皮下の腫瘤性病変である.耳下腺部に発生した本腫瘍の 1 例を報告する.

    症例:40 歳代,男性.数ヵ月前より徐々に増大する左耳下部腫瘤を自覚した.穿刺吸引細胞診において,腫瘍細胞は紡錘形,類円形および多稜形など多彩な形態や大きさを示し,孤在性に多数認められ,豊富な細胞質や偏在核を有す細胞もみられた.悪性を示唆する核形不整や核クロマチンの増加はみられず,核小体は不明瞭であった.Giemsa 染色において,異染性を示す粘液様基質が少量認められた.上皮様細胞集塊や軟骨様成分はみられないが,筋上皮細胞に類似する細胞や間質成分を認めることから多形腺腫を推定した.組織学的に,腫瘍は紡錘形細胞が主体の増殖を示し,一部に羽毛状形態を認めた.腫瘍細胞は α-SMA に陽性,サイトケラチン(AE1/AE3),S-100 蛋白に陰性であった.以上の所見から結節性筋膜炎と診断した.

    結論:耳下腺部腫瘤の穿刺吸引細胞診において,上皮様細胞集塊がみられず,多彩な形態を示す孤在性の細胞や粘液様基質を認める場合,結節性筋膜炎を考慮する必要がある.

  • 荻野 正宗, 沖津 駿介, 宇杉 美由紀, 早川 智絵, 相田 芳夫
    2024 年 63 巻 3 号 p. 134-139
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/19
    ジャーナル フリー

    背景:傍神経節腫(paraganglioma:PGL)は,頭蓋内,後腹膜大動脈周囲,膀胱等に発生するまれな神経内分泌腫瘍である.今回われわれは,後腹膜に発生した PGL の一例を経験したので報告する.

    症例:40 歳代,女性.全身の筋痙攣と,血液検査でクレアチンキナーゼ値の異常上昇がみられ,当院紹介受診.腹部画像検査にて十二指腸周囲に腫瘤影が認められ,診断目的のため超音波内視鏡下穿刺吸引法が施行された.超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診では腫瘍細胞が結合性の緩い集塊状または散在性に出現していた.細胞質はレース状で境界不明瞭,N/C 比は低く核は類円形から楕円形で,核の大小不同を認めた.核クロマチンは細~粗顆粒状で,ときに巨大核が認められ,多彩性に富んだ細胞像を呈した.摘出された手術検体では好塩基性顆粒状細胞質を有する細胞が胞巣状をなし,その周囲を血管間質が取り囲む Zellballen 構造が認められた.免疫染色で chromogranin A 陽性,支持細胞が S-100 陽性で,以上より PGL と診断された.

    結論:均質な所見を呈する腫瘍に比して多彩性に富んだ細胞像が認められた場合には PGL も考慮して推定すべきである.

  • 久保田 一輝, 磯﨑 勝, 宮崎 小百合, 涌井 架奈子, 本多 譲, 高橋 信一, 丸山 康世, 三富 弘之
    2024 年 63 巻 3 号 p. 140-144
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/19
    ジャーナル フリー

    背景:子宮頸部の胃型腺癌は進行例が多く,予後不良とされている.今回,われわれはポリープ状を呈した早期の頸管部胃型腺癌の 1 例を経験したので報告する.

    症例:60 歳代の女性.子宮頸部ポリープの細胞診で,明瞭な核小体をもつ核と淡明な広い細胞質を有する細胞のシート状集塊,核の大小不同や核分裂像が目立つ細胞密度の高い集塊,偏在核をもつ高円柱状細胞の柵状配列集塊がみられた.切除ポリープは組織学的に,円柱状の明調な細胞質と基底側に配列する核をもつ非常に高分化な胃型腺癌や顕著な核異型と泡沫状の細胞質を有する分化度の低い胃型腺癌に加え,一部に杯細胞を伴った腸型分化を示す部分もみられた.免疫染色では MUC6,CK7,MUC5AC,CDX2 陽性,MUC2,CK20 一部陽性,estrogen receptor,WT-1,p53,p16 陰性で,Ki67 標識率は 1~55%であった.追加施行された子宮頸部円錐切除や子宮全摘検体に癌の遺残はなく,FIGOⅠA 期の診断で,術後約 5 年経過したが再発や転移はない.

    結論:子宮頸部の細胞診で本例のような細胞像を示す異型腺上皮細胞がみられた場合,胃型腺癌も考慮することが重要である.

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