要 旨
本研究は,がんに対する入院治療を終了し,地域で社会生活をおくっているがん体験者が,自己をどのようにとらえ,またその認識をどのように扱っているのかを質的な研究手法を用いて明らかにし,がん体験者の適応を特徴づける認識の構造を帰納的に導き出したものである.
データ収集にはインタビューと参加観察を用い,研究への同意の得られた成人がん体験者30人にインタビューを実施した.分析の結果,がん体験者の適応過程の進行をあらわす2つのテーマ:①自分自身の責任を果たそうとする意思,②自分がおかれた状況を引き受けようとする意思が導き出された.これらのテーマは,がんの体験に適応していくことに対する,がん体験者の主体性をあらわすカテゴリー:4領域と,その主体性を左右する要因としてのカテゴリー:2領域によって構成されていた.
本研究結果には,がん体験者は自分と他者とを区別することを通して,自己に対する責任と自分自身の能力を認め,適応を可能にするような自己概念を形成することが示されていた.また,がん体験者が自己の個性を主張できるような関係を形成することの重要性が示唆された.