抄録
世界的な長寿化が進む中,健康寿命の延伸がますます重要となっている.慶應義塾大学医学部では,30年間にわたり百寿者研究を推進し,認知機能の保持,心血管疾患の低リスク,慢性炎症の抑制とフレイル予防が健康長寿の重要な特徴であることを明らかにした.実際にどのような食習慣や食事パターンが健康長寿を可能とするか解明することは,国民の健康寿命の延伸につながる重要なテーマであるが,長期にわたる観察期間が必要であり,これまでのところ大規模疫学研究のエビデンスは限られている.
100歳時点の食事調査の結果から,体重あたりの摂取エネルギー,たんぱく質は比較的保たれており,特にADLが高い百寿者ではたんぱく質摂取を保つことがフレイル予防に有効であった可能性が示された.近年,簡易型自記式食事歴質問票を用いた超高齢者の統合栄養疫学が進み,ω 3系多価不飽和脂肪酸と歩行機能の関連や,口腔機能が食品摂取に与える影響が明らかとなってきた.将来的には,コホート連携による全ライフステージをカバーする栄養疫学の確立,健康長寿者に特徴的な腸内細菌叢をターゲットとした食品開発などが期待される.