犯罪社会学研究
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「児童福祉から児童保護へ」の陥穽 (課題研究:犯罪社会学におけるリスク社会論の意義)
ネオリベラルなリスク社会と児童虐待問題
上野 加代子
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 41 巻 p. 62-78

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抄録

本稿では,「虐待する親から子どもを守る」と称する実践が,どのような形でリスク言説と結びつき, 「ネオリベラル体制」の一翼を担っているかを示す.本稿で言う「リスク」とは,「新しい統治様式」 である.社会福祉の分野において,リスク概念の導入は,児童福祉の実践を根本的に転換させるもの であった.従来の児童福祉では,子どもや子どものいる家族のニーズに対して必要なサービスを提供 することが主要な目的だったが,近年,「虐待のリスク」という考え方の台頭によって,リスクアセス メントを用いて親をリスクの程度で分類し,「ハイリスク」と判定された親をモニターすることが児童 福祉の主要な目的になってしまった.つまり,児童福祉は「子どもの福祉」ではなく,「親を統治する 手段」に変容したのだ.本稿では,先行研究を整理しつつ,日本における児童虐待リスクアセスメン トの実態を,児童虐待事例に即して検討する.それによって,虐待のリスクとは「疑う余地のない事 実」や「統計的事実」ではなく,複数の解釈の余地がある事象に,「虐待のリスク」という単一の解釈 枠組を押し付ける営みであることを示す.

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© 2016 日本犯罪社会学会
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