2013 年 53 巻 6 号 p. 302-312
本稿では,2009年に気仙沼湾内3地点で採取された1960年チリ津波に伴う堆積物コアを用いて実施した各種コア解析のうち,とくに珪藻遺骸に着目してその群集解析から土砂移動の推定を行った内容について報告する.
津波堆積物中の珪藻遺骸群集には多くの淡水生珪藻種が含まれており,気仙沼湾における海底表層堆積物に含まれている淡水生珪藻遺骸の割合を大きく上回っていた.これは,津波堆積物の多くが引き波時における陸域からの土砂の移動によることを明らかにしている.また,海水生浮遊性種Thalassiosira属が繰り返し増加する現象は,津波に伴う押し波の繰り返しを示すものと推定される.珪藻遺骸群集の特徴からは,3本のコアは津波堆積物の基底まで達しておらず,津波堆積物の層厚はより大きかったことになる.
さらに,気仙沼湾では,2011年3月以降も継続的な現地調査が続けられているが,これらのデータの解析および試料中の珪藻遺骸の分析を今後進めていく予定である.これによって,2011年3月の東北地方太平洋沖地震に伴う,湾内の地形変動と珪藻遺骸を指標とした土砂の運搬堆積過程を明らかにできるものと期待される.