スポーツ教育学研究
Online ISSN : 1884-5096
Print ISSN : 0911-8845
ISSN-L : 0911-8845
竹馬乗り学習の適時期に関する研究
習得・習熟過程の筋電図的分析ならびに練習による習得率の年齢差から
後藤 幸弘
著者情報
ジャーナル フリー

1991 年 11 巻 1 号 p. 9-23

詳細
抄録

竹馬乗りの経験のない5歳から13歳の幼児・児童・生徒, ならびに成人, 計18名 (いずれも男子) を対象に本運動の習得・習熟過程を筋電図とVTRを用いて追跡するとともに, それぞれの年齢層の熟練者7名についても筋電図を記録し, 筋作用機序の年齢差ならびに竹馬乗りの運動構造を検討した。また, 竹馬乗りの経験のない6歳幼児から12歳の児童, 男女計252名を対象に, 4日間の練習 (20分/日) を行わせ, 習得率や習得に要する練習回数の年齢差から竹馬乗り学習の適時期を明らかにした。
得られた結果は下記のごとくである。
1) 熟練者では膝・股関節の屈曲により接地の衝撃を吸収し, 肩関節を伸展, 肘関節を屈曲することにより竹馬に積極的に乗り込み, 肘・膝・股関節角度をほぼ一定に維持しながら竹馬底部を軸に逆振子のように身体を前方に回転させるとともに, 支持脚の大腿を外転させ前方の竹馬に体重を移動させていることが認められた。また, 離床期には肘・膝・股関節を屈曲することにより竹馬を浮かし, 手関節を中心とした回転によって竹馬底部を前方に振り出していることが認められた。すなわち, 竹馬と身体を前方に倒すことによって得られる運動エネルギーと下肢を振り出すエネルギーによって推力を得ているものと考えられた。
2) 熟練者の基本的な筋放電パターンには顕著な年齢差はみられず, 6歳で既に成人と類似したパターンを示すことが認められた。
3) 7歳, 9歳児の未経験者の本運動習得時の筋電図には, 11歳や13歳児のそれに比して, 後二竹支持期の足底屈筋や膝関節伸展筋の放電の消失がクリアーにみられ体重移動や上肢と下肢の協応のとれた合理的な筋の使い方ができていると考えられるステップが多く観察された。
4) 足台を床まで下げた竹馬においても竹馬を前傾させて乗った場合, 筋放電パターンは熟練者に類似したものが得られ, 上肢と下肢の協応動作やスムーズな体重移動を学ばせる手段になることが認められた。
5) 開眼での両足立位時の重心動揺面積と10歩以上歩けるようになり竹馬乗りを習得したと考えられるまでに要する練習回数 (r=0.710, p<0.01), ならびに重心動揺距離と20歩以上歩けるようになるまでの練習回数の間 (r=0.739, p<0.01) には有意な相関関係が得られた。しかし, 閉眼でのバランス能力との間には有意な相関関係は得られなかった。
6) 9歳以降の児童では, 男女ともに4日間の練習で, 94%以上の者に竹馬乗りを習得させることができた。しかし, 6歳児の習得率には性差がみられ, 男子で53%, 女子で63%であった。
7) 竹馬乗り習得に要する練習回数は, 6歳から9歳にかけて顕著に減少することが認められた。
以上の結果から, 竹馬乗りの学習は6歳前後から可能で, 本運動学習の適時期は9歳頃に存在するものと考えられた。
本研究は, 文部省科学研究費 (一般研究C62580091) にもとづくものであり, 四天王寺国際仏教大学・奥野暢通, 佐治小学校・藤田洋子, 兵庫教育大学・松下健二, 同附属小学校・梅野圭史の各先生, ならびに多くの被験者の方々の協力によって行うことができたことを記して, ここに深謝の意を表します。

著者関連情報
© 日本スポーツ教育学会
前の記事 次の記事
feedback
Top