スポーツ教育学研究
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創作ダンス学習における作品発表会の指導についての一考察
発表会会場の形状と創作ダンスに対する視座との関わりから
麻生 和江
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1996 年 16 巻 2 号 p. 137-143

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抄録

本研究では, 舞踊観賞におけるコミュニケーション生成における会場の役割を確認した上で, 舞踊作品を「身体の芸術」と捉える視座と「総合的芸術」と捉える視座との相違から派生する創作ダンス学習の指導の内容・方法について言及することを目的とした。それらの結果は以下のように要約することができる。
1. 舞踊観賞におけるコミュニケーションでは, 作者・演技者と観賞者は, それぞれお互いの存在を前提としながら, 発信と受信がそれぞれ一方的であり, 同時に進行する。
観賞者の自由な意志に導出される注目による知覚が受信の方法であり, 送信内容と受信内容が必ずしも一致しない点が舞踊観賞におけるコミュニケーションの特異性である。
会場は, 作者・演技者と観賞者が作品を上演・観賞するという, それぞれの独自な創造的活動に対して非日常性が確保された, 両者に共通する環境として, コミュニケーションの成立に必要な空間である。
2. 創作舞踊を「身体の芸術」として捉えると, 作品の概念は, 身体的技巧に焦点化される。「総合的芸術」として捉えると, 演技者の身体を中心にしつつ, 演技者の身体を取り巻くあらゆる事象が観賞の対象となる。
「身体の芸術」は身体に集中する方向性をもった視座であり, 一方「総合的芸術」は身体から広がりの方向性をもった視座である。
後者では, 舞踊観賞におけるコミュニケーション生成にも会場の雰囲気が大きく影響する点で前者とは異なる。
3. 創作舞踊を「身体の芸術」と捉える視座に依拠して, 創作ダンス学習を「身体の芸術の学習」として捉えると, 学習は身体的技巧の追求が中心的な学習課題となり, 発表会はその成果を発表する会となる。「総合的芸術」の視座からすると, 会場には作風に適した雰囲気の舞台美術に工夫が求められる。
「身体の芸術」と「総合的芸術」という視座の相違は, 舞台美術の重要性という点に相違をもたらす。創作ダンス学習を「総合的芸術の学習」と捉えると, 学習内容は舞台美術や演出, にまで及ぶ広範な活動領域となる。

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