2000 年 20 巻 2 号 p. 99-104
本稿では、体育が不安定な状態におかれていること、すなわち、教育政策並びに学校のカリキュラムの周辺に放置されている今日のイギリスの体育の状況を紹介していく。また、政策や教育とは無関係にイニシアチブを握っている人々から体育がより一層、対処が必要な最優先事項と認められ、教育の内部からというよりはむしろ、外部から道具や指針、教材並びに「専門的知識」が提供される方法を明らかにした。
体育のナショナルカリキュラムの最終改訂版は、体育の教育的価値とその地位向上に対して何ら貢献しなかったといえる。それは、スポーツエリートのための教授、学習へと一層傾斜した過程であったといえる。しかし、体育が、少数者達のものに留まるものではなく、より多くの人たちの教育的要求や関心に応えていくべきだというのであれば、より幅広い概念である「身体的教養を備えた人物」を位置づけていく政策やカリキュラムが必要になるし、このような広がりを踏まえて、その一層の発展を促すカリキュラムの枠組みが必要になる。諸外国や他教科に見られる動きは、そのような動きを伝える重要な役割を果たしている。体育、スポーツに関わる「多様な通路 (multiple pathways)」を求める主張の枠組みは、イングランドの体育の再定義を促すものだと指摘されている。また、体育がそのように再定義されることにより、すべての子どものためのカリキュラム内に体育がしっかりと位置付くことになる。