2021 年 4 巻 1 号 p. 1-17
吃音のある成人では,発話運動制御に過度に注意が向くことが不適切な対処行動を引き起こし,臨床的な困難につながるという仮説があり,認知行動療法などの心理・行動面での支援が効果的であると考えられる。本研究は,発話運動制御に対する過度な注意を弱める認知行動療法が,吃音中核症状頻度,心理・行動面での困難の緩和につながるかを調べることを目的とした。吃音のある成人48名が参加し,介入前・後での吃音頻度(吃音検査法・フリースピーチ;主要アウトカム)・質問紙得点(副次アウトカム)の変化と,介入6ヶ月後での質問紙得点の変化を調べた。その結果,吃音頻度は,吃音検査法とフリースピーチ共に有意に減少し,一部の質問紙得点は,介入前に比べて介入6ヶ月後でも有意な改善を示していた。発話運動制御に対する過度な注意を弱める認知行動療法は,吃音頻度の減少に加え,長期的な心理・行動面の困難の緩和にもつながり得ると考えられた。
Previous studies suggest that excessive attention to speech motor control may lead to inappropriate coping behaviors and clinical distress for adults who stutter. However, when combined with psychological-based approaches, such as cognitive behavioral therapy (CBT), it is possible that these behaviors and distress could be effectively alleviated. This study investigated whether group CBT, with a specific focus on decreasing the excessive attention to speech motor control, could reduce stuttering frequency as well as the psychological and behavioral difficulties associated with stuttering. A group CBT training program for adolescents and adults who stutter was conducted over the course of five weeks. Forty-eight adolescents and adults who stutter participated in eleven groups. Changes in stuttering frequency and self-reported outcomes (questionnaire scores) from the baseline (pre-intervention) were investigated immediately post-intervention and six months post-intervention. Results show that stuttering frequency was significantly reduced after intervention. Additionally, some questionnaire scores, including those on overall impact of stuttering, social anxiety, and coping behaviors, showed significant improvement both immediately post-intervention and six months post-intervention. Therefore, it is suggested that group CBT focusing on the reduction of excessive attention to speech motor control is effective in reducing stuttering frequency as well as the psychological and behavioral difficulties associated with stuttering.
一般的な成人の吃音の言語治療方法の一つである流暢性形成法(Blomgren,2010;Guitar,2019)では,流暢性が改善すると心理的な問題が解決するはずであることを前提としているが,発話の再構成は特に成人にとって容易ではなく,発話運動への十分な注意を要する。このため,緊張が高い場面等の困難状況で破綻しやすく,長期的な成功率が低い(Constantino et al.,2020;Howie et al.,1981;Iverach et al.,2009;Martin,1981)。また,容易な場面から困難な場面へと階層化された段階を設定することで成功体験を増やす戦略となっているが(O’Brian et al.,2018),失敗をできるだけ体験しない訓練であるために,困難な発話場面での不安の減少がゆるやかである。もう一つの代表的な言語訓練として吃音緩和法があり(Van Riper,1973),吃音に向き合い,その心理的影響を軽減することを主目的とするが,集中訓練を要し,原法での習得は困難であることが多い。Avoidance Reduction Therapy for Stuttering(ARTS:Sheehan & Sisskin,2001;Sisskin,2018)は,つらくて目立つ症状を楽で発話の邪魔になりにくい症状や随意吃に置換することで,コミュニケーションと心理面の改善を目指しており,近年の吃音緩和法はこの意味で使われることもある。吃音のある成人は,発話に過度な注意を向け(Bluemel,1957;Eichorn et al.,2019;Iimura et al.,2016;Kamhi & McOsker,1982),しばしばどもる予感(予期)があり(Bloodstein,1960;Garcia-Barrera & Davidow,2015;Jackson et al.,2015;Wischner,1952),この不安がつらいとされているが,予期があると,発話の回避ないし吃音を軽減すると考えた対処行動(流暢性形成法等の習った方法や,声を出さずにリハーサルする,力を入れるなどの不適切な対応を含む)を行っている(Jackson et al.,2015;Vanryckeghem et al.,2004)。しかし,この方法では,外見上はどもることを避けられたとしても,どもる予期とそれによる不安を解消することはできないし,吃音者であるという自覚の軽減にはつながらない。いずれの方法も一長一短があり,それぞれが目標とすることには有効としても,全般的な吃音の改善のためには,発話運動制御に注意を向けるのではなく,発話内容(思考)に注意を向けるべきであり(Bluemel,1957),認知行動療法を導入するのが良いと示唆されている(Prins & Ingham,2009)。
吃音のある成人は,発話の問題だけではなく,社交不安(Iverach & Rapee,2014),抑うつ(Iverach et al.,2010)など,心理・行動面での問題も抱えうる。認知行動療法は,行動療法と認知療法を組み合わせたものである(e.g.,熊野,2012)が,吃音のある成人に対しても用いられる(Amster & Klein,2018;Harley,2015;Menzies et al.,2009;Neiders & Grossman,2021;Neiders & Ross,2013;富里他,2020)。Menzies et al.(2008)は,吃音に関連した社交不安に焦点を当てた認知行動療法と発話再構成法の無作為割付比較試験を吃音のある成人に対して実施し,認知行動療法の実施によって社交不安や抑うつ・特性不安,吃音に関する非機能的信念などが低下したが,社交不安症に対する認知行動療法単独では吃頻度の改善にはつながらなかったことを報告している。これは,発話状況への一般的な不安が吃音の原因ではないとする以前の研究からも予測されることである(Peters & Hulstijn,1984)。Beilby et al.(2012)は,認知行動療法の一種であるACTを用いた8週間のグループ訓練を実施し,有意な流暢性の改善を報告しているが,言語訓練を併用しているため,吃音症状への認知行動療法単独の効果は不明である。
一方,Amster and Klein(2008)は,完璧主義の緩和に焦点を当てた認知行動療法が,完璧主義の緩和に加え,コミュニケーション態度の改善や吃頻度の低下につながったことを報告しており,認知行動療法の治療ターゲットによっては,吃頻度の低下にもつながる可能性がある。わが国独自に開発された,自然で無意識な発話への遡及的アプローチ(Retrospective Approach to Spontaneous Speech;RASS,旧メンタルリハーサル法,都筑,1983,2008,2015)は,言語訓練を実施せずに流暢発話をイメージ内で繰り返し行うことにより,自然な発話を獲得しようとするものであるが,治療初期から言い換えや回避を禁止して発話場面に直面することを求めるため,認知行動療法の一手技である曝露療法が組み込まれていると言うことができる。また,流暢発話のイメージ訓練によって,非流暢な発話の反芻を少なくとも部分的には抑制し,自己と吃音の同一視(fusion)や発話制御への過度の注意を減らす効果もあると思われる。Neiders et al.(2013,2021)は,楽な繰り返しによる随意吃を用いる言語療法も併用しているが,心理・行動面を主なターゲットとして認知行動療法の一種のRational emotive behavior therapy(REBT)を用い,吃音症状の改善も見られている。
過度な発話運動への注意やどもらないようにと意図して行う安全確保行動(一時的に不安を低下させるために行う対処行動)は,吃音のある成人の社交不安の維持要因でもある(Iverach et al.,2017)。富里他(2020)は,吃音のある成人が発話直前に声を出さずに行うリハーサルに注目し,これを低減する目的で「吃音が生じるかどうか」から注意をそらすことを指導し,また社交不安に対して曝露療法等を用い,心理面に有意な改善があったが,吃音頻度は改善傾向を認めたものの有意差を認めなかった。このような,発話に対する過度な注意を外すことに直接的に焦点を当てた認知行動療法を吃音のある成人に対して応用して,心理・行動面の問題の緩和だけではなく,吃頻度の低下にもつながるかどうかを検証することは有益であると考えられる。
本研究は,発話に対する過度な注意を外すことに焦点を当てた認知行動療法を用いたグループ訓練が,吃音のある成人の吃音症状,および心理・行動面での問題の緩和にどの程度つながるかを定量的に明らかにすることを目的とした。
選択基準は,吃音のある18歳以上の者であることであり,著者らの所属機関の病院を受診した者,あるいは,受診を検討した者,および一般公募でグループ訓練を希望する者が含まれた。ここで,プログラム第1回目で実施した吃音検査法において吃音症状が確認された,あるいは,困難場面で吃音症状があると面接で判断された場合に,吃音があると見なした。除外基準は,吃音症でない者,吃音が重症でひとことも発することができない者,重度のうつ状態を呈する者,知的理解度が十分でない者,指導者の指示に従えないと思われる者,吃音の改善を希望しない者であった。
2. 介入全5回の集団認知行動療法を実施した。原則として毎週末の午後に約2時間のセッションを実施した。参加者の人数によってセッションの時間が3時間になるプログラムもあった。また行事その他の実施者の都合によってセッション間隔が一部で2週間になったグループもある。プログラムの内容は,2011年6月から所属施設で開始した「成人吃音相談外来」での臨床経験と研究結果をもとに,精神病や吃音のグループ訓練に関する文献的考察等もふまえ,著者ら(言語聴覚士,臨床心理士,児童精神科医,耳鼻咽喉科医)が議論のうえ作成した。各セッションの構成を表1に示す。なお,介入を行う中で,参加者の反応を見ながら一部の課題を差し替えたり順番を変えたりするなど,セッションの構成を変更した(表1)。介入実施者は,成人の吃音臨床経験のある1名の医師,および2名の言語聴覚士であった。他の共著者は,吃音検査,運用の補助,フリースピーチやその他の課題の聴衆等として随時参加した。
| セッション | 内容 |
| 第1回 | 研究としての訓練の説明・参加の確認と注意事項の説明 ワークシートの記入・吃音検査 自己紹介と目標設定の発表(フリースピーチ) 吃音の理解と認知行動療法 自然に言う能力の確認と実践 認知行動療法の入門的説明 マインドフルネス入門 シャドーイングの説明と練習 振り返りとホームワーク |
| 第2回 | 前回の復習とホームワーク マインドフルネス瞑想訓練の実習 楽にどもる・わざとどもる(第3グループで,第3回からセッション移行) 考え方の切り替えとどもった後のコーピング 振り返りとホームワーク |
| 第3回 | 前回の復習とホームワーク マインドフルネス瞑想訓練の実習 発話における情緒的表現のトレーニング(第3グループで第2回セッションから移行) ロールプレイ(第3グループで第2回セッションから移行,第8グループで廃止) 意味を理解しながらの音読(第8グループで導入) 振り返りとホームワーク |
| 第4回 | 前回の復習とオームワーク マインドフルネス瞑想訓練の実習 不安の説明とチャレンジ 脳に騙される?(不安・吃音についての講義) これまで学んだ技法の総合演習 振り返りとホームワーク |
| 第5回 | 前回の復習とホームワーク 吃音検査 全体の振り返り 目標達成状況,将来の展望の発表(フリースピーチ) 終了式 |
第1回のセッション:5~10分間のフリースピーチとして,一人ずつ,自己紹介と,プログラムを受けることを通して達成したい目標について,他の参加者と主催者の前で話してもらった。同様なスピーチは最終回にも実施し,前後比較ができるようにした。各スピーチの直後に自己評価と他の人のスピーチの点数評価(挿入語,文の長さ・終わり方,語尾の強調・癖,声の明瞭さ,語の選択・流暢さ・理解しやすさの5項目を各6件法で評価,松崎,2013)を行い,本人が開示を希望した場合に全員で結果を共有した。
その後,吃音と認知行動療法に関する導入説明・心理教育をスライドによる説明とテキストを併用して行った。特に強調したのは,吃音のある人にはもともと自然で楽に話す能力が備わっていること(例:歌,独り言)である。これを実感できる方法の一つとしてスピーチ・シャドーイング(阿栄娜他,2015,2018,以下「シャドーイング」)を導入し,これによって自然で楽に話せる能力の確認を行うとともに,実践場面で目標とする楽な発話へとつながり得ることを説明し,インターネットの発話素材を各自のスマートフォンで再生しながら,個人ごとにシャドーイングの練習を行った。また,苦手な単語や表現を,それが想起されたタイミングで(語頭音が何かという確認をせずに,リハーサルなどの事前準備をせずに)そのまま言う「すっと言う」(Mori,2015)練習も行った。
次に,自然で楽な発話に留まるために,吃音から注意を外すことの必要性(Constantino et al.,2020;Eichorn et al.,2019)や,どもらないための努力が吃音を悪化させること(Bluemel,1957),したがって,吃音の改善のためには,逆説的ではあるが,吃音を治そうという目標を(少なくとも意識から)外す必要があることについて説明した。また,コミュニケーションの本来の目的である,伝えたい内容(Bluemel,1957)や伝えるときの情緒に焦点を当てることの重要性を説明し,それに必要となる注意をコントロールするための練習としてマインドフルネス瞑想訓練(Boyle,2011;Silverman,2012;熊野,2012)を導入した。
次回セッションまでに行うホームワークとして,発話時に自然で楽に話す能力があることを実践場面で確認し,マインドフルネス瞑想訓練とシャドーイングは毎日各5分程度ずつ自主練習を行うように教示した。これらのホームワークは,治療プログラム全体を通して設定された。
第2回のセッション:まず楽にどもる(easy stuttering,Neiders & Ross,2013),わざとどもる実習を行った。ここでは,どもろうとしてどもったときの体験や,どもった自分を見せる体験,また,どもっている相手を見た体験を重視し,どもらないように話そうとする考えからのシフトを図る。なお,この課題は当初第3回のセッションに実施していたが,その前の第2回に情緒的表現のトレーニングで流暢に言える体験を進めると流暢性への固執が強化される様子が観察され,本研究の介入の理念に反することになるため,第3グループからは順序を入れ替え,第2回のセッションで実施することとした。
次に,考え方の切り替え(認知再構成法,Harley,2015),どもった後のコーピング(伊藤,2021)の例示と考案を行った。参加者が体験した具体的な場面を用いて,コミュニケーションの本来の目標である意図の伝達のために,はじめに頭に浮かんだ考えの他に,現実的でメリットのある代替となる考えを,参加者がブレインストーミングで提案したものを,実施者がファシリテーターとなってまとめた。また,「どもったらどうしよう」で思考停止するのではなく,いざどもってしまってもコミュニケーションの失敗を防ぐためにできることを事前に考えておく,練習しておくなどの準備や心構えなどをグループで考案した。コーピング・リストの項目を考えることと,これらのスキルを日常生活で活用することをホームワークとして設定した。
第3回のセッション:気持ちや情景を伝えることに力点を置くなど,発話場面で感情を込めて表現する方法に関する説明と実践を行った(Haley,2009参照)。ここでは一つの単語について様々な感情を喚起し,それらの感情を表現し分けて,聞き手(他の参加者)がその感情が出ていたかについて評価・コメントした。また,これと関連して,第7グループまでは,感情を込めて所定の役割(「赤ずきん」でのオオカミ等)を演じるロールプレイを行った。第8グループ以降,この内容は,意味を理解しながらゆったりと音読を行う実習に切り替えられた。自身の感情の表現や社会的役割に焦点を当てたり,文意などを深く理解して話そうとしたりすること(Bluemel,1957)で,結果的に注意が吃音から外れることを目標とし(Constantino et al.,2020参照),これらの方法を日常生活で活用することをホームワークとした。
第4回のセッション:不安や安全確保行動に関する説明を行い,恐怖場面に自ら曝露すること(チャレンジ)の重要性を説明した。また,オペラント条件付け(Wischner,1952)など,関連する原理や理論を説明した。加えて,これまで学んだ技法(「すっと言う」,楽にわざとどもる,感情を込めて話す)を総合的に実践する機会を設けた。ホームワークとして,これまで行ってきたスキルを総合的に日常生活で実践することを設定した。
最終(第5回)セッション:これまでの振り返りを行うとともに,第1回で発表した目標達成の状況や,将来の展望についてのフリースピーチを行った。また,参加者の努力をねぎらうために,プログラムの終了証を個別に手渡した。
2017年3月から2019年3月の期間で,計11グループに対して介入を実施し,1グループあたりの参加者数は2~6名の範囲で,平均参加者数は4.4名(SD = 1.1)であった。また,各グループの継続週数は4週間から7週間の範囲であり,平均継続日数は33.1日(SD = 7.1)であった。
本研究では,第5回のセッションまで連続で2回以上の不参加がなかった者を介入完了者とみなした。
3. アウトカム本試験は,介入開始前にプロトコルやアウトカム測定項目等について,UMIN-CTRに登録された(試験ID:UMIN000026785)。
3.1. プライマリ・アウトカム吃音検査法(小澤他,2016)によって算出される吃頻度をプライマリ・アウトカムとした。第1回目の最初と,第5回目(最終回)の最後には,個別の吃音検査法(小澤他,2016)と参加者全員と一部の著者らの前での5~10分のフリースピーチ(表1)を行い,吃音症状の介入前後での比較を行った。吃音検査法は検査実施経験のある言語聴覚士,あるいは臨床心理士が録画・録音しながら実施し,フリースピーチも録画・録音を行い,吃音臨床の経験のある言語聴覚士2名(第1・第4著者)が,録画された発話データから吃頻度を算出した。吃頻度の代表値として,拡張検査を含めた全検査の中核症状頻度を用いた。ただし,欠測した下位検査がある場合は,その下位検査を除いた全体での中核症状頻度を算出した。
3-2. セカンダリ・アウトカム以下の質問紙得点をセカンダリ・アウトカムとした。これらは主に心理面の評価を行うもので,治療開始前(Pre時点),初回以降の毎回のセッション前(OASES,FFMQ,GSESは除く),治療終了時(Post時点),および終了後フォローアップ(最終セッションから1ヶ月後,3ヶ月後,および6ヶ月後)にて実施した。本研究では,Pre時点,Post時点,および6ヶ月フォローアップのデータを分析に用いた。初回以降の毎回のセッション前の得点,および1ヶ月・3ヶ月フォローアップ時点でのデータは,統計モデルの推定(後述)にのみ用いた。
(1)Overall Assessment of the Speaker’s Experience of Stuttering for Adults(OASES-A)日本語版(Sakai et al.,2017;Yaruss & Quesal,2006)
吃音に関する経験について尋ねる質問紙であり,4つの下位セクションから構成される。各質問には1~5の5件法で回答を求め,全体での平均のインパクトスコア(1~5点)を分析に用いた。
(2)Liebowitz Social Anxiety Scale 日本語版(LSAS-J:Liebowitz,1987;朝倉他,2002)
様々な24の社交場面での社交不安の程度について尋ねる質問紙であり,「恐怖感/不安感」「回避」の下位尺度からなる。恐怖感/不安感については,「0. まったく感じない」「1.少しは感じる」「2.はっきりと感じる」「3.非常に強く感じる」で回答を求め,回避については,「0.まったく回避しない」「1.回避する(1/3以下の確率)」「2.回避する(1/2程度の確率)」「3.回避する(2/3以上~100%)」で回答を求めた。全体での合計得点(0~144点)を分析に用いた。
(3)吃音の悩みに関する質問紙(角田他,2017;坂田,2003)
吃音の悩みに関する16項目が,現在の自分にどの程度あてはまるかを尋ねる質問紙である。「1.全くあてはまらない」「2.あまりあてはまらない」「3.どちらともいえない」「4.よくあてはまる」「5.非常によくあてはまる」の5件法で回答を求め,合計得点(16~80点)を分析に用いた。
(4)改訂版エリクソンS-24コミュニケーション態度調査票(Andrews & Cutler,1974;酒井他,2014)
吃音のある人と,ない人のコミュニケーション態度を識別するために作成された質問紙である。24の質問に対して「はい」「いいえ」で回答を求め,合計得点(0~24点)を分析に用いた。
(5)発話に関する自己評価調査票(Huinck & Rietveld,2007)
自身の発話について総合的に評価する尺度であり,「自分の話し方に1~10の得点をつけるとしたら,あなたは何点をつけますか?」の1項目からなり,「1=とても悪い~10=とてもよい」の10件法で回答を求めた。
(6)発話の満足度尺度(Sakai et al.,2017)
「あなたは自分の話し方にどのぐらい満足していますか?」の1項目からなり,「1.全く満足していない」から「5.非常に満足している」の5件法で回答を求めた。
(7)吃音者が発話前に行いがちな準備作業チェックリスト(森,2017)
吃音のある人が発話前に行いがちな準備作業(対処行動)について尋ねる質問紙である。20項目からなり,それぞれについて「0.しない」「1.たまに」「2.時々」「3.しばしば」「4.いつも」の5件法で回答を求めた。合計得点(0~80点)を分析に用いた。
(8)発話努力尺度(森,2017)
しゃべるときに必要な努力のうち,何割をなめらかにしゃべることに使っているかを尋ねる尺度である(単位:割)。1項目からなり,0~10の11件法で回答を求めた。
(9)Unhelpful Thoughts and Beliefs About Stuttering 6項目版(UTBAS-6)日本語版(Iverach et al.,2016)
吃音のある成人の社交不安に関連する助けにならない認知について査定する質問紙である。6つの助けにならない思考に対して,そのように考える頻度・それらの思考に対する確信度・そのように考えた時の不安について,1~5の5件法で尋ね,全体での合計得点(18~90点)を分析に用いた。
(10)Five facet mindfulness questionnaire(FFMQ)日本語版(Baer et al.,2006;Sugiura et al.,2012)
マインドフルネス特性を測定する質問紙である。「体験を観察すること」「体験を描写したり名づけたりすること」「気づきとともに行動すること」「体験に対して判断しないこと」「内的体験に対して反応しないこと」の5つの下位尺度からなる。39項目からなり,「1.まったくあてはまらない」から「5.いつもあてはまる」の5件法で回答を求め,全体での合計得点(39~195点)を分析に用いた。
(11)Acceptance and action questionnaire-II(AAQ-II)日本語版(Bond et al.,2011;嶋他,2013)
思考や感情,身体感覚などが生起する頻度や,その内容などを変えようとする,体験の回避と呼ばれる非適応的な行動を測定する質問紙である。7項目からなり,「1.全くそうでない」から「7.常にそうである」の7件法で回答を求めた(合計7~49点)。
(12)Cognitive Fusion Questionnaire 7項目版(CFQ-7)日本語版(Gillanders et al.,2014;嶋他,2016)
思考の内容と,現実に起こっている出来事を混同する認知的フュージョンと呼ばれる非適応的な行動を測定する質問紙である。7項目版を用いて,「1.全くあてはまらない」から「7.いつもあてはまる」の7件法で回答を求めた(合計7~49点)。
(13)一般セルフ・エフィカシー(自己効力感)尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES:坂野・東條,1986)
セルフ・エフィカシーは,「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという個人の確信」(坂野・東條,1986)を表す。GSESは,特定場面に限らない,長期的に行動に影響を与えるセルフ・エフィカシーを測定する質問紙である。16項目からなり,「はい」「いいえ」で回答を求め,合計得点(0~16点)を分析に用いた。
(14)考えの連鎖チェックシート(森,2017)
「感情」「対処・行動・結果」「考え」の3つの分類からなり,各分類における10の項目に対してあてはまる程度を0%~100%で回答を求めた。各分類における中央値を分析に用いた(表2~4では「感情中央」「対処中央」「考え中央」と表記)。
| 尺度 | 記述統計量 | 時点間比較の結果 | ||||||||||
| n | M(SD) | Pre-postの比較 | Pre-6Mの比較 | |||||||||
| Pre | Post | 6M | t | p | pcorrected | g[95% CI] | t | p | pcorrected | g[95% CI] | ||
| OASES | 48 | 3.12(0.48) | 2.59(0.50) | 2.77(0.49) | 7.78 | <.001 | <.001 | 1.06[0.63,1.48] | 4.67 | <.001 | <.001 | 0.72[0.31,1.12] |
| GSES | 47 | 5.89(3.59) | 6.61(3.66) | 6.40(3.29) | –1.93 | .060 | .082 | –0.20[–0.60,0.21] | –1.48 | .146 | .323 | –0.15[–0.55,0.26] |
| FFMQ | 47 | 111.84(13.57) | 115.19(11.94) | 117.15(13.14) | –2.19 | .033 | .082 | –0.26[–0.66,0.14] | –2.91 | .006 | .035 | –0.39[–0.80,0.01] |
| LSAS | 48 | 47.19(25.26) | 30.59(22.29) | 34.07(24.66) | 6.40 | <.001 | <.001 | 0.69[0.28,1.10] | 4.83 | <.001 | <.001 | 0.52[0.12,0.93] |
| S-24 | 48 | 16.81(4.61) | 14.96(5.10) | 15.41(5.47) | 3.99 | <.001 | .001 | 0.38[–0.02,0.78] | 1.64 | .108 | .323 | 0.27[–0.12,0.67] |
| 悩み | 48 | 61.28(9.75) | 49.32(11.74) | 52.28(11.47) | 7.89 | <.001 | <.001 | 1.10[0.67,1.53] | 6.91 | <.001 | <.001 | 0.84[0.42,1.25] |
| 発話努力 | 48 | 5.83(2.44) | 4.22(2.05) | 4.86(2.42) | 3.65 | <.001 | .003 | 0.71[0.30,1.12] | 2.25 | .029 | .147 | 0.39[–0.01,0.79] |
| 自己評価 | 48 | 3.74(1.85) | 4.95(1.74) | 4.93(2.13) | –4.67 | <.001 | <.001 | –0.67[–1.08,–0.26] | –3.97 | <.001 | .002 | –0.59[–1.00,–0.19] |
| 満足度 | 48 | 1.84(0.65) | 2.68(0.78) | 2.36(1.02) | –7.23 | <.001 | <.001 | –1.16[–1.59,–0.73] | –2.94 | .005 | .035 | –0.60[–1.01,–0.20] |
| 準備作業チェックリスト | 47 | 37.08(15.57) | 20.75(14.10) | 23.76(14.52) | 8.46 | <.001 | <.001 | 1.09[0.66,1.52] | 5.48 | <.001 | <.001 | 0.88[0.46,1.30] |
| UTBAS-6 | 48 | 46.06(15.79) | 36.68(13.93) | 38.12(12.89) | 5.89 | <.001 | <.001 | 0.62[0.22,1.03] | 3.08 | .003 | .028 | 0.55[0.14,0.95] |
| PHQ-9 | 48 | 5.81(4.71) | 4.84(4.38) | 5.39(3.39) | 3.23 | .002 | .009 | 0.21[–0.19,0.61] | 0.61 | .548 | .548 | 0.10[–0.29,0.50] |
| STAI-T | 47 | 49.33(8.76) | 42.78(10.03) | 43.26(9.90) | 4.46 | <.001 | <.001 | 0.69[0.28,1.10] | 4.29 | <.001 | .001 | 0.64[0.23,1.06] |
| AAQ-II | 48 | 23.52(9.04) | 21.02(8.72) | 20.78(7.67) | 2.28 | .027 | .082 | 0.28[–0.12,0.68] | 2.20 | .033 | .147 | 0.32[–0.07,0.72] |
| CFQ-7 | 48 | 26.71(8.53) | 21.97(9.40) | 23.41(8.34) | 4.48 | <.001 | <.001 | 0.52[0.12,0.93] | 3.19 | .003 | .023 | 0.39[–0.01,0.79] |
| 感情中央 | 48 | 68.91(24.35) | 36.09(28.44) | 32.17(26.99) | 8.14 | <.001 | <.001 | 1.23[0.8,1.66] | 8.80 | <.001 | <.001 | 1.42[0.97,1.86] |
| 対処中央 | 48 | 60.69(26.63) | 26.50(23.95) | 30.48(23.50) | 8.89 | <.001 | <.001 | 1.34[0.90,1.78] | 8.58 | <.001 | <.001 | 1.19[0.76,1.62] |
| 考え中央 | 48 | 46.95(30.61) | 25.88(24.75) | 22.48(24.42) | 4.77 | <.001 | <.001 | 0.75[0.34,1.16] | 4.92 | <.001 | <.001 | 0.88[0.46,1.29] |
注1)nは人数,Mは平均値,SDは標準偏差,6Mは6ヶ月フォローアップを示す。
注2)M,SDは,MMRMによる最尤推定値である。
(15)Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)日本語版(Muramatsu et al.,2007;Spitzer et al.,1999)
抑うつ障害のスクリーニングに用いられる質問紙であり,症状を表す9項目で構成される。「0.全くない」「1.数日」「2.半分以上」「3.ほとんど毎日」の4段階で回答を求め,合計得点(0~27点)を分析に用いた。
(16)State-Trait Anxiety Inventory(STAI)日本語版(Spielberger et al.,1983;清水・今栄,1981)
状態不安を測定するA-State尺度,特性不安を測定するA-Trait尺度の下位尺度からなる。A-State尺度では,今現在の一過性の心理状態について20項目で尋ね,「1.全くそうでない」から「4.全くそうである」の4件法で回答を求めた。A-Trait尺度では,ふだん一般の持続的な心理傾向について異なる20項目の組み合わせで尋ね,「1.決してそうでない」から「4.いつもそうである」の4件法で回答を求めた。本研究では,A-Trait尺度得点(20~80点)を分析に用いた。
3-3. 質問紙データの記入と回収Pre調査では,事前に質問紙等一式を研究参加者に送付し,初回セッション時に持参するように依頼した。Post調査では,第5回セッション時に質問紙等一式を研究参加者に手渡し,第5回セッション終了後1週間経過時に,質問紙等一式を返送するように依頼した。フォローアップ調査では,質問紙等一式を郵送し,到着後1週間以内に記載した質問紙等一式を返送するように依頼した。
4. データ分析はじめに,治療の完了者と脱落者との間で,デモグラフィックデータ(性別・年齢),および初回評価時点での吃頻度と質問紙得点が異なるかを調べた。この時,ウィルコクソンの順位和検定,およびFischerの正確検定を用い,前者の検定においては,連続変数と二値変数(ダミー変数)との間のピアソンの積率相関係数(点双列相関係数)に相当する効果量r(Rosenthal,1991;Rosenthal & Rubin,2003)を,後者ではオッズ比(Odds ratio:OR)を算出した。
次に,吃音検査法の全体での中核症状頻度,およびフリースピーチで測定された吃頻度間の関連を確かめるため,完全情報最尤法を用いた相関分析を行った。
具体的には,主な分析として,治療から脱落した者も対象に含めるIntention-to-treat(ITT)分析を行った。本研究では,無作為な欠測(Missing at random:MAR)を仮定し,最尤法に基づく反復測定混合モデル(Mixed model for repeated measures:MMRM)(Mallinckrodt et al.,2003;Mallinckrodt et al.,2008)を用いた。MARの仮定は,治療経過によって脱落が説明されることを想定しており,一般に治療研究における脱落を扱う際に採用されうる(Mallinckrodt et al.,2003)。MMRMはアウトカムの反復測定値を考慮するため,より適切な治療効果の推定につながり得る。
MMRMによって推定された平均と標準偏差,時点間の相関係数を基に,危険率を5%(両側)に設定し,対応のあるt検定を行った。ただし,全時点で回答が欠測している者については,分析から除外した。また,補足的に,介入および測定を完了した者を対象にした完全ケース分析を行い,治療プログラムを完了したときの効果(efficacy)を調べた。一般に,治療プロトコルを完了したときの効果(efficacy)と,必ずしも全員が治療プロトコルを完了するとは限らない現実場面における治療の有効性(effectiveness)は異なるため,両者は区別される。
各時点において,Pre時点(吃頻度は初回セッション時点)からの改善がどの程度認められるかを明らかにするため,効果量として標準化平均値差であるHedges’ gとその95%信頼区間(CI)を算出した。Hedges’ gは,治療前,治療後(質問紙についてはフォローアップも含む。以下同様)のサンプルサイズ(治療前後で共通)・平均値・標準偏差を用いて算出した(Dunlap et al.,1996;Hedges,1981)。Sawilowsky(2009)は,標準化平均値差の解釈として,小さい(0.2),中程度(0.5),大きい(0.8),とても大きい(1.2),きわめて大きい(2.0)という目安を提供している。
質問紙の項目レベルでの欠測については,Parent(2013)に倣い,利用可能な項目の平均値を算出することで対処した。Pre時点と第5回目セッション時点での比較,Post時点での比較,およびPre時点と6ヶ月フォローアップ時点での比較のそれぞれにおける有意確率の補正には,Holmの方法を用いた。
全てのデータ分析にはR4.0.3(R Core Team,2020)を用いた。MMRMを推定する際は,Mplus version 8.0(Muthén & Muthén,1998–2017),およびMplusAutomationライブラリ(Hallquist & Wiley,2018)を用いた。
5. 倫理的配慮本研究は,国立障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会の承認(承認番号:28-120)を受け,研究参加者からはインフォームド・コンセントを得,個人は匿名化されたうえで統計的に処理された。すべてのセッションは後の解析のためにビデオ撮影と録音を行ったが,課題毎に撮影や録音を希望しない者は,カメラの画角に入らない位置に移動する,録音中は発言しないようにする,あるいは記録を削除する等の配慮を行った。
18歳以上の者108名(女性18名,男性90名)が研究参加を希望した。その内訳は一般公募2名,著者らの所属機関の病院を受診した者8名,受診を検討した者が98名であった。第1著者が電話で適格性の評価を行い,59名が除外された。うち,個別訓練を希望した者が32名,後日参加の最終確認の連絡で音信不通となった者が22名,日程調整が困難な者が3名,遠方により参加困難だった者が1名であった。また知的障害があるために除外基準が適用された者が1名であった。さらに,プログラム初回の吃音検査において,吃音ではなく側音化構音であることが明らかになった1名が除外された。
最終的に吃音のある成人48名(女性10名,男性38名:全体平均年齢27.1歳,SD = 10.1,18~65歳)が研究に参加した。うち,著者らの所属機関の成人吃音相談外来への受診を検討したが,外来を経由せずにグループへの参加を希望した者が40名で,一般公募が2名,所属機関において言語聴覚士による訓練を受けている中で,グループへの参加を希望した者が6名であった。また,フルタイム労働者は21名,学生は23名,学生でないパートタイム労働者が3名,学生でない無職者が1名であった。
治療の完了者は40名(男性33名,女性7名,全体平均年齢27.5 ± 10.7歳)であり,治療中の脱落者は8名(男性5名,女性3名,全体平均年齢24.9 ± 6.0歳)であった。脱落の理由として,「体調不良」が4名,「他院での認知行動療法の効果が持続している」が1名,「他院での流暢性形成技法を希望」が1名,「交通事故」が1名,「仕事の都合」が1名であった。図1に,CONSORT声明(Moher et al.,2010)を参照して作成した参加者のフロー図を示す。完了者・脱落者間で,年齢(p = .87),性別(OR = 2.76,p = .34),アウトカムとなる吃頻度(ps ≥ .36,rs ≤ .14),いずれの質問紙得点(ps ≥ .10,rs ≤ .23)についても,統計的に有意な差は認められなかった。

第1回目・第5回目セッションともに吃音検査法を完了した者は37名,フリースピーチを完了した者は35名であった。ただし,記録の不具合のため,初回セッション時点において,吃音検査法の自由会話で4名,モノローグで1名,フリースピーチで2名のデータが欠測した。また,絵の説明で4名(最小43文節),自由会話で12名(最小14文節),モノローグで20名(最小12文節)のデータの発話文節数が50文節に満たず,絵の説明で2名(最大114文節),自由会話で1名(108文節)のデータの発話文節数が100文節を超えた。初回セッション,および第5回セッション時点での,吃音検査法全体での中核症状頻度と,フリースピーチの中核症状頻度との間の相関はそれぞれ,r = .67(n = 48,95% CI[.48,.80]),.73(n = 37,95% CI[.54,.86])であった。
2-1. プライマリ・アウトカムのITT分析平均吃頻度(n = 48,Pre:M = 10.60,SD = 13.00,第5回セッション:M = 8.05,SD = 11.66,t = 2.98,pcorrected < .01,g = 0.20,95% CI[–0.19,0.60]),フリースピーチ(n = 47,Pre:M = 9.48,SD = 14.23,第5回セッション:M = 7.13,SD = 12.21,t = 3.54,pcorrected < .01,g = 0.18,95% CI[–0.23,0.58])ともに統計的に有意に改善したことが示された。
2-2. プライマリ・アウトカムの完全ケース分析次に,介入・測定完了者のみを対象に,対応のあるt検定を行った。平均吃頻度(n = 37,Pre:M = 11.73,SD = 14.40,第5回セッション:M = 8.95,SD = 12.70,t = 2.76,pcorrected < .01,g = 0.20,95% CI[–0.25,0.65]),フリースピーチ(n = 35,Pre:M = 9.20,SD = 13.91,第5回セッション:M = 6.74,SD = 11.60,t = 3.09,pcorrected < .01,g = 0.19,95% CI[–0.27,0.65])ともに統計的に有意に改善したことが示された。
個別の症例では,重症のために第1回目のフリースピーチではほとんど話せなかったが,最後には「シャドーイングの感じで話すようにしたら話せました」という感想とともに,大幅に吃頻度が下がった参加者も存在した。
3. セカンダリ・アウトカムPost時点と,6ヶ月フォローアップ時点における質問紙の回答者数はそれぞれ,32名(男性27名,女性5名,全体平均年齢28.6 ± 11.6歳:回答率32/40 = 80%),24名(男性21名,女性3名,全体平均年齢29.7 ± 12.5歳:回答率24/40 = 60%)であった。
3-1. セカンダリ・アウトカムのITT分析表2に,MMRMにより推定された,Pre時点,Post時点,6ヵ月フォローアップ時点での各アウトカムの平均値と標準偏差,および時点間比較の結果と,Hedges’ gとその95%信頼区間を示す。
3-1-1. PreとPostとの比較多重検定に伴う有意確率の補正を行った場合,GSES,FFMQ,AAQ-II以外のすべての尺度で統計的に有意な改善を示し,上記の3つの尺度も改善する傾向を示した。また,下位尺度を有するOASES,LSAS,UTBAS-6について,各下位尺度が介入前後で変化したかを調べた。その際,各尺度の有する下位尺度数によって,有意確率の補正を行った。その結果,OASESのすべての下位セクション(I,II,III,IV)(ps < .001,順にg = 1.23,1.10,0.44,0.84,平均値差は0.52,0.65,0.31,0.56),LSASの両下位尺度(恐怖・回避)(ps ≤ .001,順にg = 0.67,0.62,平均値差は8.90,7.58),UTBASのすべての下位尺度(頻度・確信度・不安)(ps ≤ .01,順にg = 0.66,0.28,0.64,平均値差は3.69,1.79,3.81)で変化が認められた。
3-1-2. Preと6ヵ月フォローアップとの比較有意確率の補正を行った場合,pre時点と比べて,OASES,FFMQ,LSAS,吃音の悩みに関する質問紙,発話の自己評価尺度,発話満足度尺度,準備作業チェックリスト,UTBAS-6,STAI-T,CFQ-7,考えの連鎖チェックシートの各尺度において統計的に有意な改善を示した。一方,GSES,S-24コミュニケーション態度尺度,PHQ-9については,有意確率の補正を行わなくても,統計的に有意な改善は示さなかった。同様に,下位尺度の比較を行ったところ,OASESについてはセクションI,II,IVで変化が認められたが(ps ≤ .01,順にg = 1.12,0.85,0.50,平均値差は0.49,0.48,0.33),セクションIIIの変化は有意水準に満たなかった(p = .08,g = 0.22,平均値差は0.16)。また,FFMQについては,いずれの下位尺度(観察・描写・気づき・判断しない・反応しない)でも変化は有意水準に満たなかった(ps ≥ .87,順にg = –0.13,–0.16,–0.24,–0.21,0.17,平均値差は–0.79,–0.71,–1.57,–1.21,1.00)。LSASについては,両下位尺度(恐怖・回避)で得点の低下が認められ(ps ≤ .001,順にg = .49,.41,平均値差は6.30,5.24),UTBASについては,頻度・確信度の下位尺度得点の低下は有意水準に達しなかったが(ps ≥ .05,順にg = 0.43,0.27,平均値差は2.28,1.49),不安の下位尺度得点の低下は有意水準に達した(p = .01,g = 0.58,平均値差は3.42)。
3-2. セカンダリ・アウトカムの完全ケース分析表3に,PreとPost測定の完了者について,表4に,Preと6ヶ月フォローアップ測定の完了者について,各アウトカムの平均値と標準偏差,および対応のあるt検定の結果と,Hedges’ gとその95%信頼区間を示す。
| 尺度 | 記述統計量 | 効果量 | 検定結果 | ||||
| n | M(SD) | g[95% CI] | t | p | pcorrected | ||
| Pre | Post | ||||||
| OASES | 32 | 3.13(0.46) | 2.58(0.49) | 1.14[0.61,1.66] | 6.29 | <.001 | <.001 |
| GSES | 32 | 5.81(3.75) | 6.62(3.85) | –0.21[–0.70,0.27] | –1.77 | .086 | .259 |
| FFMQ | 31 | 87.10(37.83) | 83.61(38.81) | 0.09[–0.40,0.58] | 0.88 | .385 | .385 |
| LSAS | 32 | 46.19(22.49) | 30.88(21.00) | 0.70[0.20,1.19] | 4.48 | <.001 | .001 |
| S-24 | 31 | 16.68(4.96) | 15.13(5.57) | 0.29[–0.20,0.78] | 2.61 | .014 | .072 |
| 悩み | 31 | 59.74(10.03) | 48.68(12.13) | 0.98[0.46,1.50] | 6.04 | <.001 | <.001 |
| 発話努力 | 31 | 5.65(2.27) | 4.23(2.08) | 0.64[0.14,1.15] | 2.61 | .014 | .072 |
| 自己評価 | 31 | 3.74(2.07) | 4.87(1.73) | –0.59[–1.09,–0.08] | –3.49 | .002 | .012 |
| 満足度 | 31 | 1.84(0.69) | 2.68(0.75) | –1.15[–1.68,–0.62] | –6.00 | <.001 | <.001 |
準備作業 チェックリスト |
32 | 35.25(15.98) | 19.78(14.56) | 1.00[0.49,1.51] | 6.22 | <.001 | <.001 |
| UTBAS-6 | 32 | 46.03(16.50) | 36.84(14.18) | 0.59[0.10,1.08] | 4.51 | <.001 | .001 |
| PHQ-9 | 32 | 5.50(4.68) | 4.53(4.23) | 0.21[–0.27,0.70] | 2.67 | .012 | .072 |
| STAI-T | 32 | 49.22(8.42) | 41.53(10.49) | 0.80[0.29,1.30] | 4.27 | <.001 | .002 |
| AAQ-II | 32 | 23.72(9.16) | 21.59(8.72) | 0.23[–0.25,0.72] | 1.55 | .132 | .263 |
| CFQ-7 | 32 | 25.31(8.24) | 21.44(9.53) | 0.43[–0.06,0.92] | 3.01 | .005 | .036 |
| 感情中央 | 32 | 68.91(23.11) | 34.61(26.56) | 1.36[0.82,1.90] | 6.58 | <.001 | <.001 |
| 対処中央 | 32 | 58.84(26.57) | 25.78(23.11) | 1.31[0.78,1.85] | 6.78 | <.001 | <.001 |
| 考え中央 | 32 | 50.34(29.67) | 26.41(24.30) | 0.87[0.37,1.38] | 4.44 | <.001 | .001 |
注)nは人数,Mは平均値,SDは標準偏差を示す。
| 尺度 | 記述統計量 | 効果量 | 検定結果 | ||||
| n | M(SD) | g[95% CI] | t | p | pcorrected | ||
| Pre | 6M | ||||||
| OASES | 24 | 3.18(0.40) | 2.74(0.47) | 1.00[0.41,1.59] | 4.13 | <.001 | .006 |
| GSES | 24 | 5.67(3.81) | 6.17(3.19) | –0.14[–0.70,0.42] | –0.93 | .363 | .725 |
| FFMQ | 22 | 89.67(36.37) | 74.32(40.81) | 0.39[–0.20,0.98] | 1.93 | .067 | .469 |
| LSAS | 24 | 45.08(18.87) | 33.67(19.51) | 0.59[0.02,1.15] | 2.99 | .006 | .078 |
| S-24 | 23 | 17.09(4.54) | 15.35(5.40) | 0.34[–0.23,0.91] | 1.44 | .164 | .560 |
| 悩み | 23 | 60.04(8.46) | 50.65(11.09) | 0.94[0.34,1.54] | 4.68 | <.001 | .002 |
| 発話努力 | 23 | 5.91(2.15) | 5.00(2.15) | 0.42[–0.16,0.99] | 1.66 | .112 | .560 |
| 自己評価 | 23 | 3.43(1.78) | 4.74(2.12) | –0.66[–1.24,–0.07] | –2.89 | .008 | .093 |
| 満足度 | 23 | 1.74(0.62) | 2.43(0.99) | –0.83[–1.42,–0.23] | –2.65 | .015 | .132 |
準備作業 チェックリスト |
24 | 37.25(16.02) | 23.00(14.23) | 0.92[0.34,1.51] | 4.41 | <.001 | .003 |
| UTBAS-6 | 24 | 48.21(16.63) | 39.83(11.69) | 0.57[0.00,1.14] | 2.25 | .034 | .275 |
| PHQ-9 | 23 | 5.30(4.93) | 4.74(3.32) | 0.13[–0.44,0.70] | 0.55 | .586 | .725 |
| STAI-T | 24 | 51.46(8.13) | 45.38(9.21) | 0.69[0.12,1.26] | 2.88 | .008 | .093 |
| AAQ-II | 23 | 24.35(9.25) | 21.26(7.36) | 0.36[–0.21,0.94] | 1.55 | .135 | .560 |
| CFQ-7 | 23 | 26.78(6.63) | 24.04(7.80) | 0.37[–0.20,0.94] | 1.80 | .086 | .517 |
| 感情中央 | 23 | 69.67(23.55) | 35.43(26.45) | 1.34[0.71,1.97] | 5.37 | <.001 | <.001 |
| 対処中央 | 22 | 59.45(23.66) | 31.25(22.30) | 1.20[0.57,1.84] | 5.27 | <.001 | <.001 |
| 考え中央 | 23 | 51.24(27.86) | 22.61(22.40) | 1.11[0.50,1.73] | 4.11 | <.001 | .006 |
注)nは人数,Mは平均値,SDは標準偏差,6Mは6ヶ月フォローアップを示す。
本研究の目的は,発話に対する過度な注意を外すことに焦点を当てた集団認知行動療法が,吃音のある成人の吃音症状や心理・行動面での問題の緩和にどの程度つながるかを明らかにすることであった。
1. 発話面に対する効果社交不安に焦点を当てた認知行動療法が,吃音症状の緩和に対して有意な効果を現さなかったことが報告されている一方(Menzies et al.,2008;富里他,2020),本研究で行った集団認知行動療法は,吃音症状の緩和につながることが示唆された。社交不安に焦点を当てたMenzies et al.(2008)では,1%弱しか吃頻度の低下が認められなかったのに対して,本研究では2.5%程吃頻度が低下した。本研究と類似した一部の方法を採用している富里他(2020)で報告されている介入前後での平均値と標準偏差からは,g = 0.15の効果量が算出され,本研究で得られた効果量(g = 0.20)と大差はなかった。これらのことから,本研究で採用した治療手続きには,小さい効果量ではあるが,吃音頻度を一定程度低下させる可能性がある。本研究では吃頻度に床効果が認められ,尺度の特性上顕著な効果は検出されにくかったと考えられる。
近年の吃音治療において発話訓練と認知行動療法を組み合わせる訓練が推奨される(川合,2010)。発話を伴う練習と認知行動療法を合わせたグループ訓練も報告されているが(e.g.,Beilby et al.,2012;Menzies et al.,2008),これらで用いられた発話訓練は流暢性形成法(発話再構成)が主であり,流暢性形成法は再発が多く,発話運動へ注意を払うことが要求されるので,本研究で行った発話のトレーニングとは構成概念が大きく異なる(Constantino et al.,2020)。
本研究ではシャドーイング,感情表出に重点を置いたロールプレイや,内容理解を重視した音読などの発話を用いた練習を行った。これらは,発話運動制御の方法を指導する流暢性形成法とは異なり,参加者が本来有する自然で楽な発話の促進に焦点を当てた練習であり,これにより,直接的な発話の再構築を伴わずして,わずか1~2ヶ月で流暢性が促進された可能性がある。また,随意吃については,ゆったりして緊張のない楽などもり方(Neiders & Ross,2013)であり,吃音症状からの抜け出し(pull-out,Van Riper,1973)に使われるものに近いが,吃音症状や予感が出てから使うのではなく,「どもらないように話したい」という意図を否定して話すことで,どもっていても楽に話せることを体験し,流暢性を目的化しない発話の方がコミュニケーションの改善につながることを体験的に理解するためのものである。流暢性形成法などの直接法のみでは十分な不安の軽減効果が得られるとは限らないが(e.g.,Blomgren,2013;Menzies et al.,2008),本研究では,考え方の切り替えやどもった後のコーピング,不安の理解など,心理・行動面へのアプローチも並行して行った。短期間で発話の流暢性が促進されるに至った背景には,吃音があってもほとんどの成人は独り言ではどもらないことから,発話再構成のような訓練をしないでも流暢に話す能力があるということへの着目があると考えられる。流暢に話したいという意図で行う発話運動制御への過度の注意集中から吃音症状が生じやすくなること(e.g. Eichorn et al.,2019;Jackson et al.,2020)と,発話への注意によって発話が努力性になり(Bluemel,1957),楽な自然性が失われること(Constantino et al.,2020)から,発話運動制御への過度の注意集中を減らすことをターゲットにして認知行動療法のプログラムを組み立てて実施したことで流暢性の改善を得たことは,合理性があったと考えられる。
一方,自然で無意識な発話への遡及的アプローチ(RASS,旧メンタルリハーサル法)では自然で無意識的な発話を目指す点で本研究の目的とするところと近似する。しかし,RASSでは無意識的発話をイメージの中で練習するのみで現実場面で発話練習は行わないためか,平均の治療期間が2年程度になる。開始初期から発話の回避と言い換えを禁止し,曝露療法を実施していることになると思われるが,それに対しての合理的説明や患者のサポートのプロトコルが明確になっていない。また,限られた場面での特定の表現についてのみ吃音症状が出る場合は改善が得られにくいとされている(都筑,2008)。本研究で用いた介入手技でも,例えばシャドーイングでは自分の名前等の特定の苦手な単語の発話は改善しにくい。しかし,楽な随意吃やそれ以外の複数の方法を総合し,注意を吃音以外に向けることで,苦手な単語を,随意吃も含めて努力を要さずに発話できる体験ができるようにし,発話面や心理・行動面を変容させ,コミュニケーションを改善することを重視するプログラムとした。これにより本介入法は,特定場面での発話や特定の単語の発話についても短期間で改善効果を上げられ,より広い吃音症例のニーズに対応できるものである可能性がある。
2. 心理・行動面に対する効果OASESのセクションI,II,IVの得点,LSAS合計得点,吃音の悩みに関する質問紙得点,発話の自己評価と満足度得点,吃音者が発話前に行いがちな準備作業チェックリスト得点,考えの連鎖チェックシート得点,UTBAS得点,STAI-T得点についてはPost時点,6ヵ月フォローアップ時点ともに,中程度以上の効果量(gs > .50)で改善が認められていた。本研究で行った集団認知行動療法は,吃音に関する生活困難(OASESセクションI,II,IV),特性不安・社交不安(STAI-T,LSAS,UTBAS),吃音の悩み,発話に対する評価や満足度,発話への対処行動,吃音に伴う否定的な感情・行動・思考の緩和に対しては,長期的にも効果的であることが示唆された。
一方で,コミュニケーションに関連するOASESセクションIIIやS-24得点では,6ヶ月フォローアップの時点では,有意水準に達しない小さな効果(gs ≤ .27)でしか改善が認められなかった。このことは,吃音のある成人のコミュニケーションの質を長期的に向上させるには,吃音に焦点化した治療アプローチだけでは不十分であることを示唆しているのかもしれない。一般に,ネガティブな思考・感情・行動と,ポジティブな思考・感情・行動には独立した神経生物学的メカニズムが作用している(Dockray & Steptoe,2010)。また,吃音のある成人のコミュニケーションの質には,コミュニケーション場面におけるポジティブ感情が関与していることが示唆されている(灰谷,2019)。長期的に吃音のある成人のコミュニケーションの質を向上させるには,吃音に伴う困難を緩和させるだけではなく,コミュニケーションにおける快い経験や感情を増やすアプローチ,ないし,全般的なコミュニケーション・スキルの向上等の吃音と直接は関係ないが,小児期からの吃音によって不十分になっていると考えられる能力の訓練や,いろいろな場面・状況での十分な発話経験の蓄積が必要であるかもしれず,今後の課題であろう。
本研究における治療中の脱落率は16.7%であったが,認知行動療法の脱落率についてのメタ分析(Fernandez et al.,2015)では,治療中の脱落の重みづけ平均は26.2%であり,集団療法では24.6%,外来患者においては26.0%,不安症のある人では19.6%であることが報告されている。これらよりは,本研究における治療中の脱落率は,比較的低かった。セッション数の短さや不安症の診断は治療中の脱落率の低さと,また,うつ病の診断は脱落率の高さと関連することが報告されている(Fernandez et al.,2015)。本研究における認知行動療法のセッション数は5回であり,表2にあるように,各種質問紙からはPreの不安がやや高かった一方,抑うつの程度(PHQ-9の得点)が比較的軽度であったことが,脱落率の低さにつながったと考えられる。
3. 臨床的意義本邦では成人の吃音を対象にした治療機関が少ない(原他,2009)。その結果,少数の治療機関に多くの患者が集中し,治療の待機者・待機期間の増加や,通院頻度ないし回数の必要以上の低下につながっていることが予想される。本研究で行った介入はグループでの対応であり,かつ参加者に特別な発話スキルの習得を促すもの(e.g. Beilby et al.,2012)ではない。これにより,5回(1~2ヶ月)という短期間で効果が得られ,長期的にも心理・行動面での効果が維持された。これは他の認知行動療法を用いた吃音の集団訓練(Beilby et al.,2012)と比べても少ない回数である。これらのことから,本治療法は費用対効果が高く,かつ持続的な効果が得られるものであることが示唆される。現在の吃音臨床,特に成人の吃音の治療に対応できる機関が少ないわが国においては,効果(effectiveness/efficacy)だけでなく効率性(efficiency)も求められており,本介入法が本邦の吃音臨床の問題解決の一助になり得る可能性が示唆された。
4. 限界と今後の展望本研究では統制群を設けず,同じ検査法を用いて比較的短い間隔で同一対象者に吃音症状の測定を行い,治療前後での質問紙調査の結果を分析した。このため,吃音検査やフリースピーチに対する慣れの効果が吃音症状の低下につながった可能性があるうえに,治療に非特異的な効果(例. 吃音の仲間ができたことなど)によって,吃音症状や心理尺度の改善が認められた可能性がある点には注意が必要である。ここで,およそ2週間の間隔での再検査によって,OASESの全体得点,および各セクション得点が変動する範囲は0.02点~0.03点(標準誤差は0.02点~0.03点)であることが報告されているが(Yaruss & Quesal,2006),本研究におけるOASES得点の変化は,いずれもこの範囲を超えている(3-3参照)。このことから,吃音に伴う困難度の変化は,再検査による偶然の変動ではなく,治療による系統的な変化を表していると考えられる。
本研究では,概要説明の段階で集団訓練であることを告げており,リクルートする側が集団訓練を希望しない者に集団訓練を割り当てたわけではない。そのため集団訓練よりも個別訓練を希望して辞退した者が1/3程度いた。翻って集団訓練であることを知ったうえで希望した者は2/3であり,これらの者は集団訓練に対するレディネスが既に整っていた可能性があったことは否めない。そのため,集団訓練に対するレディネスが整った者に一定の効果があるとしても,個別訓練を望む者に同程度の効果が得られるかは推測できない。
本研究で行った認知行動療法のプログラムには,様々な治療的要素が含まれているが,パッケージとして実施したため,これらのうちのどの要素が結果にどの程度作用したのか,あるいは,個別ではなく集団で実施することにどの程度の効果があったのかを特定することはできない。当然のことではあるが,参加者ごとにどのプログラムが有効であるかは異なることが予想され,パッケージとすることによって多くの参加者がプログラムの少なくともいくつかを有効なものとして体験できるように組んだものであり,すべてのプログラムがすべての参加者に有効なわけではない。このことは,参加者への最初の説明でも念押ししているが,本研究のプログラムから個別の課題を抽出して個人訓練に用いる場合には留意すべきである。使用した個別のプログラムのほとんどはすでに吃音の治療として何らかの有効性が知られているものかその応用であるが,例えば,スピーチ・シャドーイングを言語療法としてではなく,発話運動から注意がそれると流暢に発話する能力があることを自覚し,流暢な発話パターンを定着させるために毎日のホームワークとして5分程度実施するなど,以前は言語訓練として実施されていたものを,本研究で行動療法としての意味づけで実施しているものも多い。実施に際して,そのような意味づけの説明(心理教育)も含めないと,期待する効果は得にくいと思われる。本研究の途中でも,参加者の反応を見ながらプログラムの順序の入れ替え等の修正を行ったが,今後のさらなる改良のためには,治療パッケージに含まれる個別の臨床技法の効果を,できればより客観的な方法で,検証する必要がある。また,個別訓練においては,対象とする参加者の属性や特性によって個々のプログラムの内容を調整したり差し替えたりする必要があると思われる。なお,本研究の途中で一部の臨床技法を差し替える等の調整を行ったため,一部の参加者については,確定した後の治療パッケージの効果の評価とはなっていないことに留意する必要がある。
治療プログラム終了後の長期フォローアップでは,質問紙による調査では有意な効果が見られているが,吃音症状の測定ができていないため,吃音症状に対する長期効果が不明であり,今後の研究が必要である。なお,4名についてはプログラム終了後に追加治療を希望し,外来にて継続治療を行った。このことから,少なくとも一部の参加者にとって,5回のセッションは短すぎたか,フォローアップ期間において追加の訓練(ブースター)を行った方が良い可能性がある。
最後に,本研究ではグループ訓練を行っているが,新型コロナウイルス感染症流行下においてグループ訓練の実施が困難になっている。本研究で採用した多くの手技は,個別訓練でも効果に大きな差異はないと思われるが,本研究の参加者には吃音のある他の成人と話したことがない者も多く,吃音のある者同士で会うことによって良好な心理的効果が得られた可能性もある(Tichenor & Yaruss,2019;Yaruss et al.,2002)。単なる印象ではあるが,随意吃については臨床家を相手にするより,参加者同士で練習する方が受け入れられやすいようである。臨床家による随意吃の導入は,特にはじめのうちは心理的抵抗を引き起こすことが報告されており(Byrd et al.,2016),参加者同士での練習を組み入れたことで心理的抵抗が緩和されたことが,そのような印象につながったのかもしれない。フリースピーチにおける評価のフィードバックについても,臨床家の評価より,当事者が互いの評価をフィードバックし合う方が,自己に対する発話の評価が厳しすぎることを認識しやすいように思われた。また,ホームワークの実施状況も,参加者同士の実践状況の報告をする機会がある集団訓練の方が個別訓練よりも積極的な取り組みが行われた印象もある。これらの効果については定量的に比較検証を行う必要があるものの,できれば十分な感染対策をしたうえで,少なくとも特定の課題についてはグループで訓練を実施すると,比較的少ない回数で心理面に好影響を与えることができるのではないかと思われる。
発話運動制御に対する過度な注意を外すことを治療要素として含む集団認知行動療法は,比較的短期間で吃音症状の緩和と心理的困難の軽減につながり得ることが示された。また,長期的にも,吃音に伴う広範な困難,社交不安・特性不安,発話への対処行動,発話の満足度と自己評価の改善につながることが示された。
本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)から資金提供を受けた(課題番号 JP18dk0310066)。
利益相反自己申告:申告すべきものなし。