2025 年 8 巻 1 号 p. 1-6
吃音は,2016年に施行された「障害者差別解消法」の対象となる障害であり,大学では吃音のある学生に対して合理的な配慮を行うようになっている。吃音に対して支援を開始する方法として合理的配慮を受けるための根拠資料の作成は,医師以外でも可能な情報は広まっていない可能性があった。そこで,大学が行ってきた吃音学生に対する合理的配慮の実態を調査した。調査対象は日本全国の大学751校で,2024年1月から3月の間に実施され,回収率は19.3%(145校)であった。2023年度に合理的配慮を受けた吃音の学生は47名,2022年度は25名であった。合理的配慮の内容は,教員への吃音の周知,発表形式の変更,出席返答,外部の実習への配慮などであった。合理的配慮の根拠資料として医師の診断書が最多であったが,言語聴覚士など外部の専門家の意見書も採用されていた。改正障害者差別解消法の施行に伴い,2024年4月から私立大学も含め全大学等で合理的配慮が義務となるために,修学に困難となる吃音学生に広がる支援方法となるだろう。
Stuttering is a disability covered by the Act for Eliminating Discrimination against Persons with Disabilities, which came in force in 2016. Therefore, universities have begun offering reasonable accommodations to students who stutter. However, the process of obtaining necessary documentation for these accommodations is not widespread knowledge beyond physicians. To assess the situation, a survey on the actual implementation of these accommodations was conducted across 751 universities in Japan from January to March 2024, with a 19.3% response rate. In the 2023 academic year, 47 stuttering students received accommodations, up from 25 in 2022. These accommodations involved faculty awareness campaigns, changes in presentation formats, attendance response, and supporting external internships. While medical diagnoses were the most frequently used basis, input from specialists like speech therapists was also considered. Starting in April 2024, the Amended Act for Eliminating Discrimination against Persons with Disabilities will come into effect, making it mandatory for all universities, including private universities, to provide reasonable accommodations, thereby enhancing support for students who stutter in overcoming academic challenges.
吃音症は2016年施行の「障害者差別解消法」の対象の障害であり,合理的配慮を受けることができる。この「合理的配慮」の提供に関して,大学では障害学生支援室などの専門の部署を設置している。大学,短期大学,高等専門学校(以下,大学等)における吃音者の困難とその合理的配慮については,数々の報告がある(飯村, 2016; 飯村他, 2017; 菊池, 2019a; 2019b; 2023; 小林, 2019; 安井・飯村, 2018)。具体的には症例報告も含めた個別の合理的配慮を紹介した報告(菊池, 2019a; 2019b; 2023; 小林, 2019)や多人数の吃音学生を対象とした困り感・配慮の調査(飯村, 2016; 飯村他, 2017),言語聴覚士の養成校75校の教員に対しての調査(安井・飯村, 2018)がある。
合理的配慮を受けるための根拠資料として,障害者手帳または医師の診断書を求める大学等が多いが,吃音症に対する診断書を書ける医師がきわめて少なく(岡部, 2023),配慮を必要とする吃音のある学生等が合理的配慮を受けられない現状がある。大学等の障害のある学生の修学支援に関する実態調査を毎年行っている独立行政法人日本学生支援機構は,合理的配慮の根拠資料として,障害者手帳,医師の診断書,学内外の専門家の所見,高等学校等の大学入学前の支援状況に関する資料等の4種類を紹介している(独立行政法人日本学生支援機構, 2017)。そのため,障害者手帳や医師の診断書だけでなく,言語聴覚士などの学内外の専門家の所見でも根拠資料として,合理的配慮を受けている学生がいるのではないかと予想できる。また,各障害は国際疾病分類ICD-10で分類し,吃音症はF98.5のため,精神障害(他の精神障害)に分類される。同機関による「障害のある学生の修学支援に関する実態調査」の報告書には,「他の精神障害」という大きなくくりでの結果は示されているものの,吃音症単独のデータは公表されていない(独立行政法人日本学生支援機構, 2024)。そのため,2023年9月に日本吃音・流暢性障害学会の合理的配慮に関するワーキンググループが立ち上がった。本研究の目的は,全国の大学等に対して吃音の合理的配慮を受けた学生数,具体的な配慮,根拠資料などを問う調査を通して,本研究着手までの直近2年間(2022, 2023)の吃音症の合理的配慮に関する実態を明らかにすることである。
令和5年度全国大学一覧(文部科学省, 2024)に掲載されている805大学(国立86,公立98,私立621)のうち,2024年1~3月間に,電子メールおよび問い合わせフォームにて依頼できた751大学(国立86,公立97,私立568)を対象とした。残りの54大学は電子メールおよび問い合わせフォームがなかったため,除外した。障害のある学生支援の担当者に回答してもらえるように,障害学生相談室,学生担当係/学生支援課,教務課など各大学の中でふさわしいと思われる窓口一つにのみ連絡を行った。本研究着手までの直近2年間(2022, 2023)の実態を把握することとした。
2. 調査項目(表1)調査項目は,Q1.2023年度に合理的配慮を受けた吃音の学生数,Q2.2022年度に合理的配慮を受けた吃音の学生数,Q3.具体的な配慮の内容,Q4.合理的配慮実施を行った際に学生が用意した根拠資料,Q5.学生やその保護者に「学外の専門家の意見書」や「高校の時の支援の引継ぎ内容」も合理的配慮を受ける際の根拠資料となることを周知する方法,Q6.障害学生本人から申し出が「学生担当係等」にあった場合,「障害学生支援室等(障害学生担当者)」につなぐ条件,Q7.貴校の学生数,とした。自由記述はQ1,Q2,Q3からQ6の「その他」,Q7であり,選択式はそれ以外のQ3からQ6である(表1)。
| Q1 | 2023年度に,吃音(きつおん,どもり)のある学生が貴大学等で合理的配慮を受けた人数を教えてください。 (新規・継続合わせて) |
| Q2 | 2022年度に,吃音(きつおん,どもり)のある学生が貴大学等で合理的配慮を受けた人数を教えてください。 (新規・継続合わせて) |
| Q3 | 吃音のある学生への合理的配慮は具体的に何をされましたか?(複数選択可)(該当するものに○を) ※支援した吃音学生が0の場合は無回答 |
担当教員に吃音のことを周知 特定教科の発表を免除 特定科目の発表方式の変更(筆談,事前録画など) 出席の返事の配慮 外部の実習担当者に吃音のことを周知 その他( ) |
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| Q4 | 吃音のある学生への合理的配慮を行った際,どの根拠資料を学生が用意していましたか?(複数選択可) ※支援した吃音学生が0の場合は無回答 |
障害者手帳 医師の診断書 学内の専門家の意見書 学外の専門家の意見書 高校の時の支援内容の引継ぎ その他( ) |
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| Q5 | 上記「学外の専門家の意見書」や「高校の時の支援の引継ぎ内容」を選択された方へ。「学外の専門家の意見書」や「高校の時の支援の引継ぎ内容」が合理的配慮を受ける際の根拠資料となることを,どのような形で,学生やその保護者に周知しているでしょうか?(複数選択可) |
障害学生支援室等 学生担当係等 学生に配布する資料 貴校のウェブサイト 学生や保護者には公開してない その他( ) |
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| Q6 | 障害学生本人から申し出が「学生担当係等」にあった場合,「障害学生支援室等(障害学生担当者)」につなぐ条件を教えてください。(該当するものに○を) |
手帳や診断書など根拠資料を用意できたら,「障害学生支援室等または障害学生担当者」につなぐ 手帳や診断書など根拠資料がなくても,「障害学生支援室等または障害学生担当者」につなぐように伝えている 「障害学生支援室等または障害学生担当者」は決まっていない その他( ) |
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| Q7 | 貴校のおおよその学生数を教えてください。 |
電子メールで依頼する際に,GoogleフォームのURLを記載し,回答を依頼した。また,大学から郵送による回答の要望があった場合には,回答用紙を郵送し,記載後に返送するように依頼した。
3. データ解析Googleフォームで得た回答はエクセルデータで出力し,郵送で得た回答を追加した後に,項目ごとに検討した。
4. 倫理的配慮本研究は,九州大学医系地区部局観察研究倫理委員会で承認(23307-00)を受け,参加大学にはGoogleフォーム上または書面にてインフォームドコンセントを得た。すべてのデータは九州大学で結果の回収,解析,まとめを行った。
調査依頼した751大学のうち,国立26.7%(23/86),公立26.8%(26/97),私立16.9%(96/568)から回答を得た。以上,国立・公立・私立を合わせた751校のうち,145校(19.3%)から回答を得た。総計19.3%(145/751)の有効回答率であった。回答方法は,144校はGoogleフォームへの入力,1校は郵送であった。
2. 合理的配慮を受けた吃音学生数とその割合(Q1, Q2, Q7)回答を得た大学の学生数の合計は,国立大学では161,018名(23校),公立大学では57,253名(26校),私立大学では342,853名(96校),合計561,124名(145校)であった。
吃音の合理的配慮を受けた学生(割合)は,2023年度の国立大学は17名(0.0105%),公立大学は10名(0.0174%),私立大学は20名(0.0058%),合計47名(0.0083%)であった。2022年度は,国立大学は10名(0.0062%),公立大学は6名(0.0105%),私立大学は9名(0.0026%),合計25名(0.0045%)であった。合理的配慮を受けた吃音学生数は,2022年度が25名,2023年度が47名であり,申請者数が増加していたことが示された。
吃音学生へ合理的配慮の提供を行った大学数は,2023年は33校,2022年は19校であった。2022年の19校は,2023年の33校にすべて含まれていた(表2)。
回答大学数 (割合) |
2023年度 吃音学生数 |
2022年度 吃音学生数 |
回答大学の 学生数 |
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| 国立(86大学) | 23(26.7%) | 17 | 10 | 161,018 |
| 公立(97大学) | 26(26.8%) | 10 | 6 | 57,253 |
| 私立(568大学) | 96(16.9%) | 20 | 9 | 342,853 |
| 総数(751大学) | 145(19.3%) | 47 | 25 | 561,124 |
(注釈)合理的配慮を受けた吃音学生の数と割合の規模を分かり易く示すために,回答大学生数については,年度別の数ではなく,各大学におけるおおよその数を回答してもらった。
Q3に回答した大学数は33校であった。合理的配慮の具体的な方法は,担当教員に吃音のことを周知33校,特定科目の発表方式の変更15校,出席の返事の配慮9校,特定教科の発表を免除6校,外部の実習担当者に吃音のことを周知5校,急に発表を指名しない4校,事前に発表の予告または相談3校,発表時間の配慮2校,発表で困っていないか気にかける2校,グループワークでの配慮1校であった(表3)。
| 合理的配慮 | 大学数 |
| 担当教員に吃音のことを周知 | 33 |
| 特定科目の発表方式の変更(筆談,事前録画など) | 15 |
| 出席の返事の配慮 | 9 |
| 特定教科の発表を免除 | 6 |
| 外部の実習担当者に吃音のことを周知 | 5 |
| 急に発表を指名しない | 4 |
| 事前に発表の予告または相談 | 3 |
| 発表時間の配慮 | 2 |
| 発表で困っていないか,気にかける | 2 |
| グループワークでの配慮 | 1 |
Q4に回答した大学数は33校であった。合理的配慮を実施する際の根拠資料は,医師の診断書27校,学外の専門家の意見書7校,障害者手帳6校,高校の時の支援内容引継ぎ5校,学内の専門家の意見書3校,受給者証1校,自己申告のみ1校であった(表4)。
| 根拠資料 | 大学数 |
| 医師の診断書 | 27 |
| 学外の専門家の意見書 | 7 |
| 障害者手帳 | 6 |
| 高校の時の支援内容引継ぎ | 5 |
| 学内の専門家の意見書 | 3 |
| 受給者証 | 1 |
| 自己申告のみ | 1 |
「学外の専門家の意見書」や「高校の時の支援の引継ぎ内容」を根拠資料とした大学数は8校であった。その周知方法は,障害学生支援室等での対応が6校,学生に配布する資料が1校,学生担当係等での対応が1校,ウェブサイトが2校,学生や保護者には公開してない学校が1校であった。
6. 障害学生本人から申し出が「学生担当係等」にあった場合,「障害学生支援室等」につなぐ条件(Q6)障害学生本人から申し出があった場合には,118校(82.5%)は根拠資料がなくても,「障害学生支援室等または障害学生担当者」につないでいた。また,根拠資料が用意できたらつなぐ施設は10校(7%)であった。「障害学生支援室等または障害学生担当者」が決まっていない学校は15校(10.5%)であった。その他の項目を選んだ2校は,「聴覚障害・視覚障害の学生を前提とした学内組織であり,すべての教職員が障害学生を担当します」「具体的な支援方法が確立されていない」との回答であった。
国立大学は26.7%,公立大学は26.8%,私立大学は16.9%の回収率で,国立と公立は同じ程度の回収率であったが,私立はそれらよりも10%低い回収率であった。この回収率の違いは,2016年の「障害者差別解消法」において合理的配慮の提供が,国立大学と公立大学では義務化されたが,私立大学では努力義務までに留められていたからだろう。合理的配慮に関しての関心の高さが回収率に影響したと考える。また,調査期間が1月から3月と,大学入試の時期と重なり,多忙な時期であったことも,回収率に影響した可能性はある。
2. 合理的配慮を受けた吃音学生数とその割合(Q1, Q2, Q7)2023年度に合理的配慮を受けた吃音学生は47名(0.0083%)であった。公立大学10名(0.0174%),国立大学17名(0.0105%),私立大学20名(0.0058%)の順であったが,私立大学でも吃音の合理的配慮を受けていることを確認できた。2022年度に合理的配慮を受けた吃音学生は全大学での25名(0.0045%)と2023年度より少なかったため,合理的配慮を申請する学生が増えた可能性はある。しかし,2023年度の回答担当者が2022年の吃音学生の事例を把握できていない可能性もある。そもそも,本調査は各大学一つの窓口にしか問い合わせていないため,必ずしもその窓口が全体を把握していない可能性があり,合理的配慮を受けた吃音学生の数が低くなった可能性が考えられる。
3. 具体的な合理的配慮の方法(Q3)具体的な合理的配慮の方法は,「担当教員に吃音のことを周知する」が最多であり,吃音による周囲への誤解を防ぐためのサポートが必要とされていると考えられた。また,発表への配慮だけなく,出席の返事,外部の実習への配慮も求められていることがわかった。
この結果は,飯村らが吃音学生の要望として挙げた「吃音の認知」「吃音の理解」「吃音を考慮した評価」「代替手段の利用」などの配慮と同様であり(飯村, 2016; 飯村他, 2017)言語聴覚士養成校の教員に調査した結果と同様である(安井・飯村, 2018)。
4. 合理的配慮の根拠資料(Q4)合理的配慮を実施する際の根拠資料について,最多は医師の診断書で27校であった。また,医師以外の言語聴覚士などの「学内の専門家の意見書」も根拠資料として認めている大学は7校あることが確認できた。さらに,「学内の専門家の意見書」が3校あり,その学内に吃音の相談ができる教員である言語聴覚士が在籍していたことを確認した。
意外な点としては,障害者手帳が6校で,受給者証が1校で,合理的配慮の根拠資料として使われていたことがあげられる。吃音単独で障害者手帳や受給者証を取得している学生や,吃音単独で障害者手帳や受給者証を取得しているのではなく,他の発達障害などが主診断であり,副診断として吃音があるために,本研究で回答をしていた学生がいるのではないかと推察する。
また,自己申告のみで判断した大学が1校あったが,日本学生支援機構のホームページには,根拠資料の提出が困難な場合には「建設的対話等を通じ必要性が明白な場合は,資料の有無に関わらず合理的配慮の提供について検討する」と記されているため,自己申告でも良いのだろう。
5. 合理的配慮を受けるための「根拠資料」の学生への情報開示について上記の考察のように,大学側の吃音学生への合理的配慮の実態は把握できた。そこで,ここでは学生や保護者の視点から,合理的配慮を受ける障壁について考えていきたい。よくある話として,学生が合理的配慮を受けたいと申し出ると,「医師の診断書が必要です」とだけ言われることがある。たとえ,吃音に対して,長年言語聴覚士から支援を受けていても,「外部の専門家の意見書でも根拠資料となる」ことを知らず,診断書を書いてくれる医師を探す場合がある。吃音に対して診断書を書く医師は少なく(岡部, 2023),「医師の診断書」取得が障壁となり,合理的配慮を諦める学生もいる可能性がある。
そこで,Q5では,「学外の専門家の意見書」や「高校の時の引継ぎ内容」が合理的配慮の根拠資料となることについて,どのような形で,学生やその保護者に周知しているかを尋ねた。その結果,「学生に配布する資料」や「ウェブサイト」を用いている大学は少なく,学生や保護者には公開していない大学もあった。そして,最多回答が,「障害学生支援室」であったことから,多数の大学で,障害学生支援室にたどり着けば,このような情報が得られることも明らかとなった。
さらに,Q6で,障害学生本人から申し出が「学生担当係等」にあった場合,「障害学生支援室等」につなぐ条件を尋ねたところ,82.5%と多くの大学で,根拠資料がなくても,「障害学生支援室等または障害学生担当者」につなぐと回答した。
制度上の問題点として,吃音学生が合理的配慮の申請を躊躇する要素が生じないための措置(例えば,大学側から学生・保護者に合理的配慮申請の情報周知など)が必要であろう。
6. 限界と今後の展望本研究は,受験シーズンの多忙時期に調査を行ったため,実際には支援を行っている大学から回答を得られなかった可能性がある。また,調査をするにあたり,障害学生支援の窓口がホームページに公開されない場合は,学生係に回答を依頼した。そのため,学部ごとに支援学生数を把握している場合,全学部を反映した結果ではない可能性がある。その他,本調査では,ASDや他の障害で合理的配慮されている学生に,吃音という病名もあったので回答したという返信があり,障害による詳細な検討はできていない。
吃音症は,医師,言語聴覚士や臨床心理士,スクールカウンセラー等,多職種が関わる疾患である。多方面から合理的配慮の目的や意義について説明を行い,悩みの解決法の一つに合理的配慮という選択肢があることを伝え広めていくことが重要であると言える。
利益相反自己申告:申告すべきものなし。