2017 年 16 巻 1 号 p. 59-69
本研究では、イラン・イスラーム共和国(以下、イランと記す)を調査地として、重症型サラセミア(地中海性貧血)の若者たちの結婚とリプロダクションに対する看護支援について考察する。
イラン国内には約25,000人の重症型サラセミア患者がいるとされる。近年の治療環境の改善とセルフケア・マネジメントの充実に伴い、患者の寿命が延び、彼(女)らにも教育を受け、職業をもち、結婚し子をもうけて家族生活を享受するという人生設計が可能になった。しかしながら、遺伝性疾患をもち、種々の合併症や随伴症状を抱えた彼(女)らは、結婚とリプロダクションの選択において、多くの困難に直面している。
調査はイランで第三の人口規模をもつ都市イスファハンにおいて3つの異なる手法で実施された。(1)現地の状況を知るための文献調査とフィールド調査、(2)サラセミア病棟に輸血に通う患者51名を対象にした質問紙調査、(3)地区病院のサラセミア病棟とサラセミア患者団体での参与観察。分析方法として(1)と(3)、(2)の自由記載部分はエスノグラフィーの手法に基づく質的研究の方法論に従い、(2)の自由記載部分以外は記述統計量の算出をおこなった。
イランにおける重症型サラセミア患者の結婚とリプロダクションに関する背景と、質問紙調査の結果を踏まえ、質問紙調査と参与観察で情報を得た6事例から必要な看護支援を考察し、以下の4つの必要性を提示した。 (1)妊孕力に関するカウンセリング、(2)サラセミアの遺伝に関する情報提供、(3)サラセミアと合併症の症状と治療に関する情報提供、(4)自己決定への支援。