園芸学会雑誌
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原著論文(英文)
地中海沿岸部原産のナシ台木種 P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia の耐塩性はアジア原産の台木種に比べ強い
松本 和浩田村 文男千 種弼田辺 賢二
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2006 年 75 巻 6 号 p. 450-457

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抄録

アジア原産ナシ台木種:Pyrus betulaefoliaP. pyrifolia および P. xerophila と地中海沿岸原産ナシ台木種:P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia の耐塩性の差異を,75 mM および150 mM の NaCl 溶液を30日間処理し,調査した.地中海沿岸原産台木種は30日間の NaCl 処理期間中,いずれの処理区においても葉に障害は発生しなかった.一方,アジア原産台木種は NaCl 処理により葉に障害が発生した.根幹,細根および 1 個体当たりの Na および Cl 含量に原産地による大きな差異はみられなかった.しかし,葉の Na および Cl 含量は,いずれの NaCl 濃度においても地中海沿岸原産台木種の方がアジア原産台木種に比べ著しく少なかった.したがって,地中海沿岸原産台木種 P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia は,根幹に Na および Cl の葉への移動を抑制する何らかの機構を備えているものと考えられた.Stem water potential 値および Ci/Ca 値は NaCl 処理に伴い原産地にかかわらず低下したため,光合成速度の低下要因のひとつは体内の水ポテンシャルの低下による気孔の閉鎖であることが示唆された.しかし,地中海沿岸原産台木種における NaCl ストレス下の光合成速度はアジア原産台木種に比べ高かったことから,地中海沿岸原産台木種の葉の Na および Cl 含量が低いことが光合成速度の低下抑制に寄与した可能性が示唆された.本実験結果は地中海沿岸原産ナシ台木種:P. amygdaliformis および P. elaeagrifolia はアジア原産ナシ台木種:P. betulaefoliaP. pyrifolia および P. xerophil に比べ強い耐塩性を持つことを示すものである.地中海沿岸原産台木種はニホンナシの耐塩性台木を育成する上で重要な遺伝資源となるものと考えられた.

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