園芸学会雑誌
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十字科蔬菜數種の抽苔現象に就て
杉山 直儀
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1943 年 14 巻 4 号 p. 267-276

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抄録

昭和16~18年の3年間就中昭和16年秋~昭和17年春に十字科蔬菜數種60數品種を播種期を變へて栽培し抽苔, 開花状態を調査した。
1. 大根は生態的には秋大根型, 春大根型, 廿日大根型の3つの型に分類される。秋大根型には所謂秋大根各品種及びみの早生が屬し, 秋播した際翌春の抽苔開花早く, 春播した際にも抽苔が早いので根の肥大が行なはれず春播栽培は困難である。春大根型には二年子, 時無大根, 夏大根等が屬し, 秋播した際の翌春の抽苔, 開花は遲く, 春播した際の抽苔も遲いか, 或は座止するため根の肥大が充分に行なはれ, 晩秋乃至春播栽培が可能である。廿日大根型にはラピッドレッド, ホワイトアイシクル等の廿日大根と龜戸大根が屬し, 秋播した際の翌春の抽苔開花期は前2型のほゞ中間で, 春播すれば播種期の遲れる程漸次抽苔迄の日數が短かくなる。根の肥大が速かに行なはれるので抽苔がやゝ早いにも拘らず春播栽培可能である。
2. 白菜は秋播すれば翌春大根より早く抽苔開花するが春播すれば播種期の遲れるに從ひ抽苔開花が困難になる。抽苔し易い方から品種名を擧げれば縮緬, 春播山東, 愛知, 包頭蓮,直隷, 花心, 芝罘の順である。春播栽培には抽苔の遲い品種を用ひる必要がある。
3. 蕪菁も又秋播すれば翌春の抽苔開花は一般に早いが, 春播すれば白菜類よりも更に抽苔は困難であり, 3月12日播で既に大部分の品種は全株の抽苔を行なはず, 東京時無小蕪は全然抽苔しなかつた。聖護院は蕪菁中特に抽苔し易い品種である。
4. 染色體數n=10を有する他の種類, 品種も多くは播種期と抽苔との關係に就ては白菜, 蕪菁と似た性質を持つてゐる。
5 染色體數n=18を有する芥菜, 高菜類は秋播した際翌春の抽苔, 開花期は比較的遲いが, 春播すれば播種期の遲れるに從つて抽苔迄に要する同數は少くなる。
6. 大根の中で秋大根型は抽苔には低温と長日が促進的に働き, 春大根型はやゝ長期の低温を必要とし, 廿日大根型は長日の方がより強く促進的に働くものと考へられる。
n=10群のものは抽苔に低温を必要とし長日は殆んど作用せず, n=18群のものには低温は殆んど必要がないが長日が抽苔を促進するものと考へられる。
7. 春播採種は大根では秋大根型, 廿日大根型に屬する品種では容易であり, Brassica 屬蔬菜中n=18群に屬する芥菜, 高菜等も一般に容易である。大根の中春大根型のもの及びBrassica 屬の蔬菜の中n=10群に屬するものは抽苔開花の比較的容易な品種を除き, 種子の低温處理等を行なふのでなければ春播採種は一般に困難である。

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