園芸学会雑誌
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カンキツにおけるマンガン欠乏に関する研究 (第1報)
欠乏症状, 葉分析およびマンガン剤の施用について
尾形 亮輔
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1962 年 31 巻 4 号 p. 337-346

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抄録
1. 神奈川県下のカンキツ園に発生しているMn欠乏について, その症状, 葉分析および対策方法などを検討した。
2. カンキツにおけるMn欠乏症状は, 春枝の葉の緑化完了期に顕著になり葉脈間が黄化するが, 葉脈に沿つた部分に緑色が残り黄化部分と緑色部分間の変化は連続的であり, Zn欠乏症のように緑白色の萎黄化, 萎黄化部分と健全部分間の変化が不連続的であるのとは明確に判別できる。またMg欠乏症とはその発生時期によつて区別できる。
3. Mn欠乏症の程度は品種によつて異なり, 鳴門柑, 夏橙に発生が多く, 普通温州は中位, 早生温州, 福原オレンジ, ネーブルオレンジなどは比較的発生が少なかつた。
4. Mn欠乏症を呈する葉は樹冠の表面の枝, 樹冠内部の枝いずれにも認やられ, またMn欠乏樹はいずれの方位の傾斜園にも認められた。
5. 普通温州の春枝の葉のMn含量は8月下旬 (葉令約4か月) 頃まで漸増し, その後ほぼ一定となる。
6. 1955~57年に神奈川県下150園の普通温州園のMn栄養状態を調査し, 葉分析を行なつた。毎年9月頃の春枝の中央葉のMn含量はMn欠乏クロローシスの程度と逆の関係があり, 15ppm以下の園は全部葉に症状が認められ, 20ppm以下では77%の園に欠乏症状が認められた。
7. 神奈川県下の普通温州樹のMn含量は全般的に低く, 調査園の71%が25ppm以下であつた。火山灰土壌地域はMn欠乏園67%, 葉内Mn含量8~30ppm, 平均16.01ppmで他の火山砂礫土壌地域 (それぞれ27%, 5~38ppm, 20.91ppm) や含礫粘質土壌地域(それぞれ37%, 7~37PPm, 21.05ppm) に比べMn欠乏園の割合が高く, 葉のMn含量が低かつた。
8. 1956年度の100園の葉分析で, Nは2.88~4.14%, Pは0.14~0.24%, Kは0.76~2.04%, Feは96~375ppmの範囲を示し, それぞれMn含量との間の相関係数はMn-N: +0.042, Mn-K: -0.007, Mn-Fe: -0.013, Mn-P: +0.339**で, りん酸吸収に関係する諸要因が直接あるいは間接に影響しているのではないかと考えられる。
9. Mn欠乏症の治療対策として, 春枝の葉が緑化を完了するまでに, 0.4%の硫酸マンガンを1~2回散布するのが良く, 硫酸マンガン単用で薬害の発生なく, 展着剤の加用で満足な結果がえられた。石灰を加用すると効果が劣つていた。
10. Mn肥料の土壌施用による効果は認められなかつた。葉面散布によつて次年度の春枝の葉のMn含量は, 前年無処理であつた樹から出た本年の春枝の葉のそれより増加する傾向が認められた。
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