園芸学会雑誌
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温州ミカン葉中の無機成分の組成ならびに土壌リンに及ぼす10年間のリン酸肥料施用の影響
坂本 辰馬円木 忠志奥地 進船上 和喜
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1964 年 33 巻 3 号 p. 204-212

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抄録

縦1.8m, 横1.8m, 深さ1mのコンクリートわくに中生層白堊紀砂岩の風化した未耕地土壌をつめ, 3年生の普通温州ミカン (南柑4号) を供試して, 1953年からマルチ管理 (敷草) のもとでリン酸肥料試験を10年間継続した。試験区はリン酸区-I(過リン酸石灰施用), リン酸区-II(熔成リン肥施用) および無リン酸区の3区で, 試験10年目の葉中の無機成分組成ならびに土壌リンについて分析し, 温州ミカンに対するリン酸肥料の影響を考察した。
1. 供試温州ミカンの樹の生育, 収量および果実の品質を, 試験7~8年目の幹径および樹容積, 1956~'61年の期間の1樹当りの収量合計, 試験6~8年目の果汁中の糖および酸の含量, ならびに8年目の収穫果の着色調査などの結果からみると, リン酸区-Iの樹容積が8年目より小さくなつたことを除けば, 他は試験区間で差異がなかつた。
2. 試験10年目の5月から11月までの各月に採取した新旧葉 (10年目の春葉および9年目の春葉) ならびに新旧緑枝 (10年目の春枝および9年目の春枝) 中のリン酸含量には, 試験区間に差がなく, また5~11月の期間の含量の変化にも試験区で一定の傾向がなかつた。
3. さらに, 新旧葉および新旧緑枝中の窒素, カリ, 石灰および苦土の含量についても, 全くリン酸含量と同じ傾向であつた。しかしながら, いずれの無機成分の含量にも供試樹間のひらきが大きく, 分析精度の低いことを考慮すれば, リン酸施用の有無と樹体内の無機成分との関係については, さらに検討の余地がある。
4. 試験10年目のわく土壌は, 10年の間石灰などを全く施用しなかつたため, 各試験区とも pH(H2O) 4以下に低下した。土壌リンの形態は, 深さ30cmまでの土壌中で, 無リン酸区に比べてリン酸施用区の aluminum P, iron P および total P が多くなり, これらのリン酸は深さ0~30cmの範囲内の土壌で施用リン酸の移動を示すような集積分布であつた。無リン酸区の0~30cmの土壌には, マルチ材料から由来したと思われるリン酸の集積分布が, aluminum P, iron P およびtotal P に認められた。他の形態の土壌リン, ならびに深さ30cm以下の土壌リンには, 試験区間ではほとんど差がなかつた。なお, リン酸区-Iの深さ0~30cmの土壌中の細根群の減少が著しく, これは過リン酸石灰の施用量および連用が原因であると推察された。
5. 以上の結果から判断すれば, 10年間の本試験では, 温州ミカンに対するリン酸肥料の施用の効果がほとんど認められなかつた。したがつて圃場に生育する温州ミカンに対するリン酸肥料の施用については, 今後さらに検討究明されなければならない問題のあることを示唆した。

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