抄録
ニホンナシの自家和合性突然変異体である‘おさ二十世紀’と, さまざまな不和合性のS因子を有する品種との交配和合性について, ほ場および in vitro で試験を行なった.
1.‘おさ二十世紀’を雌とした時は, 試験された全ての品種と和合性を示した. 逆に雄として用いた時は, S2S4因子をもつ品種と和合性を示さなかった. しかし, 同じS2S4因子をもつ‘菊水’と‘二十世紀’とでは‘おさ二十世紀’に対する不和合性の程度が異なった. 前者は若干の着果が見られたが, 後者の場合は全く着果が認められなかった.
2. 切り取った花柱のシステムを用いて‘おさ二十世紀’の和合性を調べたところ,‘おさ二十世紀’は自家受粉でも花柱切断面から花粉管を突出した. しかし‘二十世紀’の花柱では,‘おさ二十世紀’の花粉管生長は完全に抑制され,‘菊水’の花柱内でもかなり抑制された. これらの実験結果より,‘おさ二十世紀’は花柱が突然変異を起したために自家和合性になったものと考えられた.
3. けい光顕微鏡下で‘おさ二十世紀’の自家受粉, ‘二十世紀’の自家受粉および‘二十世紀’と‘長十郎’との他家受粉花内の花粉管生長率及び生長速度を調査した結果,‘おさ二十世紀’の自家受粉区では‘二十世紀’の他家受粉区より生長速度が劣った. また, 2で行なった花柱切断面からの花粉管出現率も,‘おさ二十世紀’の自家受粉区は他の区より劣る傾向を示しており,‘おさ二十世紀’は自家不和合的な性質も有しているものと考えられた.