抄録
トウガラシの品種'ししとう'の土耕育苗した苗を,れき耕用園試処方第一例培養液(園試培養液と省略)50%の多量要素と100%の微量要素を含む培養液で水耕栽培すると,移植直後に葉に褐変斑点が発生し,一部障害の激しい個体は落葉,枯死した.この生理障害は,
園試培養液に6.5×10-5Mで含まれるNaFeEDTAによることが明らかとなった.断根茎ざしのトウガラシでは,NaFeEDTAによる生理障害は1.6×10-5M以上の濃度で発生した.
水耕栽培へ移す前のトウガラシの土耕苗でかん水量が少ない場合に,水耕に移した直後にNaFeEDTAによる生理障害の発生が著しかった.2週間水耕栽培したトウガラシでは,NaFeEDTA濃度を20.8×10-4Mに高めても,落葉,枯死を伴うほどの障害の発生は認められなかった.土耕苗を水のみで2~4日間培養するとNaFeEDTA1.3×10-4Mで生理障害は発生しなかった.
種々のキレート鉄の中で,FeEDDHAが生理障害を発生せず,その濃度を5.2×10-4Mに高めても,断根茎ざしのトウガラシで障害の発生は認められなかった.
断根茎ざし法でNaFeEDTAを吸収させた場合,トウガラシの葉にはNaFeEDTAは認められなかったが,FeEDDHAを吸収させた場合には葉に多量のFeEDD-HAが認められた.
謝辞 本実験の遂行にあたり,いろいろとご教示いただいた京都大学農学部高橋英一名誉教授および岡山大学農学部川崎利夫教授に慎んで感謝する.また,鉄の分析方法などをご指導いただいた京都大学農学部西村和雄助手ならびに実験の遂行上,終始ご助力いただいた京都府立大学農学部寺林敏講師および鉄の分析その他で助けていただいた山下悟氏に深く感謝する.