園芸学会雑誌
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水耕におけるリン施用量がキクの生育とリン吸収量に及ぼす影響
景山 詳弘小西 国義
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1992 年 61 巻 3 号 p. 635-642

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抄録

水耕栽培によって, 切花ギクの生育とリン吸収量について検討した.
夏秋ギク'精雲'を用いて, 発らい期前後の16日間に培養液のリン濃度を変えて, 生体重の増加速度とリンの吸収速度の関連を調査した. キクのリン吸収量は培養液のリン濃度が高くなるにつれて多くなったが, 生体重と乾物重の増加量はリン濃度に影響されなかった.また, この実験期間中にリン吸収量が0であった植物体においても, リンを吸収したものよりその割合は低かったものの生体重は増加しつづけ, そして, 実験終了時の乾物重には差がなかった.
次に, 秋ギク'乙女桜'を用いて, 商品価値のある切花ギクを生産するために必要なリンの最低吸収量を検討した. 実験は定植時に1株当たり50,100,200mgのリン (P) を全量施用する区, および1週間毎に培養液のリン濃度を修正して20ppmに維持する区を設けた.
その結果, 50mg施用区では, 栽培期間のほぼ半分の定植5週間後に, 全量が吸収されて培養液のリン濃度は0になった. この場合, 葉中のリン濃度 (対乾物)は0.13~0.18%であり, 植物体の下位葉にリン欠乏症が現れ, さらに開花が遅れた. 100mg施用区では, 定植7週間後 (開花3週間前) にリンの全量が吸収されたが, 葉中のリン濃度は0.32~0.50%であり, 植物体は正常に生育し, 開花の遅れはなかった. また, 200mg施用区と20ppm維持区では, 生育は順調であったが,中位葉および下位葉にリン過剰障害とみられるクロロシスが現れ, さらに葉色が全体的にうすくなり切花品質が悪くなった. 次に, 生体重の増加速度は20ppm維持区と200mg施用区で他の2区よりやや速かったが,最終的な生体重には4区の間で統計的な有意差はなかった.
以上の結果から, 切花ギク栽培におけるリン (P)の正味の吸収量は1株当たり100mgであり, 本実験では1株2本仕立てとしたので, 切花1本当たりでは50mg (切花100g当たりでは56mg) であると考えられた. そして, このリンの最低必要量は栽培の初期から中期にかけて吸収させれば, 生育の後半期はまったくリンを吸収させなくても正常に生育するものと考えられた.

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