園芸学会雑誌
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富有'における胚のうおよび種子の発育異常について
福井 博一水野 泰孝若山 善秋中村 三夫
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1993 年 61 巻 4 号 p. 773-778

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抄録

'富有'における胚のう形成から種子形成までの過程をつうじて胚のうおよび種子の発育異常の発生を観察した.
胚のう母細胞は開花24日前に分化が完了したが,開花20日前から胚のう母細胞が退化消失する発育異常が急激に増加し,開花18日前にはその発生率が20.5%に達した.その後は開花日まで14~29%の範囲で推移した.4大胞子期から胚のう細胞期の胚のうは開花12~14日前に観察されたが,この直後から胚のう細胞が退化消失する発育異常が認められた.しかしその発生割合は極めて少なく,最も発生が多かった時期でも2.5%に過ぎなかった.1胚珠内に複数の胚のう母細胞あるいは胚のう細胞から由来して形成された複数胚のうの発生率は2%程度であったが,このうちの一つの胚のうは正常な種子形成能力を持っていたので,この複数胚のうの発生は形成される種子数の低下に関与しないことが明らかとなった.これら以外の胚のうの発育異常の発生は極めて少なかった.
人工受粉('禅寺丸'花粉)によって生じた種子の発育過程で,胚のう内の胚乳遊離核分裂が認められず,その後珠心組織に由来する小細胞で胚のうが覆われて退化消失する発育異常(胚乳遊離核分裂異常)と,胚乳の遊離核分裂開始後の胚乳細胞形成期において胚乳組織が発育不全を起こし,その後に珠心組織によってそれが覆われる発育異常(胚乳退化)が観察された.胚乳遊離核分裂異常の発生率は平均22.6%であったが,これは不受精に基づくものであることが明らかとなった.胚乳退化種子は開花15日後から増加し,その発生率は約21%であった.

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