日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌
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欧米・日本における呼吸器疾患に対するマクロライド系抗菌薬の現状
新海 正晴
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2014 年 34 巻 Suppl1 号 p. 46

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抄録

 マクロライド系抗菌薬は,比較的有害事象が少なく,抗菌スペクトルも広い抗菌薬として広く 知られている.特にマイコプラズマ・クラミジア感染症においては第一選択薬であり,非結核性 抗酸菌症においてもキードラッグである.最初に実用化されたのは,エリスロマイシンで,フィリ ピンの土壌から分離された放線菌の一種,Saccharopolyspora erythraea から精製された.その後, 1990年代にクラリスロマイシン(CAM),ロキスロマイシン,アジスロマイシン(AZM)が紹介 された.  免疫調整作用は,免疫抑制をもたらさず,過剰免疫・過剰炎症を正常化すると定義される.マクロ ライド系抗菌薬は,抗菌作用のみならず,少量長期投与することにより抗炎症・免疫調整作用を 持つことが知られているが,その歴史は1960年代に重症喘息の治療に使用され,”steroid︲sparing”と 呼ばれた.その後,工藤先生によりマクロライド少量長期療法が紹介され,びまん性汎細気管支炎の 生存率が29%から88%に改善し,病態の類似性からCystic fi brosis (CF),気管支拡張症,閉塞性 細気管支炎,COPD増悪・ウイルス感染の予防などに応用された.In vivoでは,気腫化抑制や 線維化抑制作用なども報告されている.日本における多くの研究の結果,保医発0928号第1号 平成23年9月28日において,原則として,「クラリスロマイシン【内服薬】」を 「好中球性炎症性気道 疾患」に対して処方した場合, 当該使用事例を審査上認めると通知された.  欧米においても1998年のRoyal Brompton病院にてCFに対するマクロライド維持療法の報告が なされた.その後いくつかの臨床研究においてCF肺病変におけるマクロライド維持療法は,AZMが 主体となっている.AZMは,緑膿菌の感染にかかわらず肺病変の増悪を抑制し,緑膿菌が感染した CF患者の呼吸機能を改善させる.本作用はAZMの抗菌作用によるとの意見もあるが,筆者は, 前述の大規模なエビデンスは抗菌作用だけでは説明が困難と考えており,免疫調整作用も一部関与 していると考えている.共著者であるCAMの国際共同無作為二重盲検交差研究をとおして,今後, CF肺病変のマクロライド維持療法の有用性をより明らかにするにあたっては,研究期間・患者背景 (関与遺伝子,肺病変の病期)・介入時期などに考慮する必要があると考えている.その後,欧米に おいても,COPD増悪抑制,気管支拡張症増悪抑制,非好酸球性重症喘息などに対するマクロライド 維持療法を支持する大規模臨床研究が報告されている.  マクロライド系抗菌薬の抗炎症・免疫調整作用のメカニズムは,菌体毒素産生抑制などの菌に 対する作用,気道炎症抑制作用などの宿主に対する作用などが報告されている.我々もその一端が 転写の上流にあるERKのリン酸化抑制から開始するcell signaling modulationの可能性を示した. また,CAMは,NHBE細胞においてERKを抑制し細胞周期S期への移行を遅延させ細胞増殖に影響を 与え細胞保護作用をもたらしている可能性も示した.同様に,CAMはERKのリン酸化等を抑制し 喀痰制御も可能とする.呼吸器臨床の現場において,キードラッグと考えられるステロイドは免疫 抑制作用があり喀痰制御作用が弱く,しばしば感染症が問題になる.一方,マクロライド系抗菌薬は, 前述のように,免疫抑制作用を認めず免疫調整および喀痰制御作用を有し,臨床現場で使用しやすい.  以上より今後も欧米・日本において呼吸器疾患に対するマクロライド維持療法の活躍が期待される. 〔共催:大正富山医薬品株式会社〕

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