抄録
緩和医療の臨床で生の無意味,無価値,空虚などの苦しみを訴える終末期がん患者のスピリチュアルペインを「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義して,それを人間存在の時間性,関係性,自律性の三次元から分析した.その結果,終末期がん患者のスピリチュアルペインを,将来の喪失(時間性),他者の喪失(関係性),自律性の喪失(自律性)から生じる苦痛であると解明し,この構造解明に基づきスピリチュアルケアの指針は,死をも超えた将来の回復,他者の回復,自律の回復にあることを示した.そして,終末期がん患者のスピリチュアルペインの緩和が患者の身体的苦痛の軽減に影響を与えることを示唆した.