抄録
症例は70歳代の男性で,左背部の痛みを発症し,第3病日に左前胸腹部~左背部に皮疹が出現した.第6病日に当院皮膚科を受診し,帯状疱疹と診断されて入院となった.抗ウイルス薬の治療により皮疹は改善してきたが,痛みが持続するため第12病日に当科へ紹介されて転科となった.診察時,左第7,8,9胸神経領域に痛みを伴う皮疹があり,アロディニアと触覚低下も伴っていた.併存疾患の心房細動の治療として抗凝固療法が行われていたため,神経ブロックは行わず薬物療法を開始したが,転科当日に発熱して傾眠傾向となり,発語困難で意識レベルが低下した.神経学的所見として項部硬直,ケルニッヒ徴候を認めた.頭部画像検査では明らかな出血や梗塞はなく,四肢麻痺等の臨床症状も出ておらず,脳卒中ではないと考えて,脳脊髄液検査を施行した.臨床経過から帯状疱疹に伴う脳髄膜炎と判断し,抗ウイルス薬とステロイド治療を開始した.その後,脳脊髄液検査の結果により,帯状疱疹に伴う脳髄膜炎と診断した.薬物療法を継続して患者は後遺症なく退院した.脳神経領域以外の帯状疱疹であっても,脳神経症状が併発した場合には帯状疱疹による脳髄膜炎も考慮する必要がある.