日本ペインクリニック学会誌
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短報
帯状疱疹関連痛と咽頭潰瘍を伴う咽頭痛を併発した1症例
渡邉 智美諸橋 徹板倉 紗也子岩永 浩二川口 慎憲池田 健彦
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2021 年 28 巻 1 号 p. 5-7

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I はじめに

咽頭潰瘍は日常診療でも散見され,局所療法で容易に治癒が可能である.しかし,なかには再発を繰り返すものや,全身性疾患の部分症状として発症し早期の対応が必要なものも存在する1).また,ペインクリニックでは他科から紹介されることが多いが,病状が変化していることもあるため,すでに診断を受けている患者であっても常に診断を見直し治療していく必要がある.今回,三叉神経領域の帯状疱疹痛として当科を紹介受診したが,診断の見直しを行い難治性咽頭潰瘍の診断に至った症例を経験したので報告する.

II 症例

41歳男性.頭痛を主訴に当院脳神経外科を受診した.頭痛は頭頂部から後頸部にかけての拍動性頭痛で,流涙や顔面の痺れ感を伴っていた.その際,顔面の水疱および髄液検査でvaricella-zoster virusを検出したため無菌性髄膜炎と診断し,アシクロビルの点滴投与を行った.また,患者は頭痛が出現した2週間後より咽頭痛を訴え,耳鼻科による内視鏡検査で軟口蓋の粘膜に複数の潰瘍があり(図1),三叉神経領域の帯状疱疹痛として疼痛コントロール目的で当科へ紹介された.当科初診時の咽頭痛はnumerical rating scale(NRS)2~3/10程度で咽頭には喉の異常感覚と嚥下時に右耳へ放散する痛みがあった.また,潰瘍は非片側性であり,帯状疱疹とは異なる病態も考えられた.帯状疱疹関連痛による神経障害性疼痛と潰瘍による侵害受容性疼痛の双方の可能性を考慮し,ロキソプロフェン,トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン,プレガバリン,デュロキセチンで治療を開始したが,明らかな効果は認められなかった.髄膜炎時の嘔吐による外傷性の口蓋感染を疑い,ステロイド治療を行った際には,咽頭潰瘍は一時的に消退したものの,半年以上の寛解期の後再燃した.抗ウイルス薬やステロイド薬の再投与も効果は乏しく,さらに1年後に増悪した(図2).

図1

口蓋垂・咽頭後壁に繰り返す咽頭潰瘍

図2

治療経過および症状

疾患鑑別のため,感染性疾患,抗核抗体等の血液検査や消化管の内視鏡検査等を実施したが,感染性疾患や自己免疫性疾患は否定的であった.また,病変部の生検では非特異的な炎症以外の所見はなかった.以上より,難治性咽頭潰瘍と診断しコルヒチンやセファランチンを投与したところ咽頭潰瘍は軽快した.

III 考察

本症例の場合,咽頭潰瘍は片側性ではなく,帯状疱疹による咽頭潰瘍とするには非典型的であった.加えて,初期の段階で高用量の抗ウイルス薬で治療しており,三叉神経領域の皮疹や症状が軽快している状況で,咽頭潰瘍だけが再燃を繰り返す可能性は低いと考えられた.また,VZVによる髄膜炎と咽頭潰瘍の関連性や,三叉神経と舌咽神経あるいは迷走神経の合併例の報告はなく,疾患の鑑別を行った2).再発性の潰瘍病変から自己免疫性疾患を疑い,内科に併診依頼し各種血液検査や消化器内視鏡検査を行った結果,自己免疫性疾患は否定的であった.感染性疾患については,HIV,梅毒,ウイルス性肝炎,結核,カンジダやクラミジアの真菌検査を行ったが,EBウイルスのIgG抗体が陽性となった以外はすべて陰性であった.また,数回にわけて複数箇所採取した生検では,悪性腫瘍や感染性疾患に特異的な所見はなかった.以上の鑑別結果から,難治性咽頭潰瘍の可能性が高いと判断した.

難治性咽頭潰瘍とは,口腔咽頭のみに生じた潰瘍性病変であり,皮膚,消化管症状を伴わない.原因がはっきりしないまま再発を繰り返す傾向があり,適切な治療を行わないと1カ月以上治癒しない咽頭潰瘍のことを指す3).治療は,原因疾患への対処およびステロイドの全身投与に加え,コルヒチン,セファランチン,アゼラスチンの投与が推奨される2).本症例ではコルヒチン,セファランチンを投与した結果,潰瘍の改善がみられた.本症例のステロイド使用については,とくに帯状疱疹罹患後であったことから,長期的な使用については注意が必要であると考えられる.

咽頭潰瘍に関して,生検時に病変を採取できていない可能性や,全身疾患の部分症状として発症している可能性もあることから,潰瘍が治療抵抗性であったり,潰瘍以外の症状が現れた場合には,適宜診断を見直し対処していく必要がある.また,難治性咽頭潰瘍に対し,コルヒチンが有効な症例で,後にベーチェット病が判明したという報告や3),本症例のように生検では炎症所見のみでステロイド投与により経過をみていた患者が,約半年後にリンパ節腫大が出現し,鼻性NK/T細胞リンパ腫と診断されたケースも存在するため2),注意が必要である.

今回,われわれは帯状疱疹後に咽頭潰瘍を伴う咽頭痛を発症した1症例を経験した.難治性咽頭潰瘍は全身疾患の部分症状として発症している症例や他疾患との鑑別が困難な例も少なくない.前医からの診断や情報をうのみにしてしまう危険性に留意し,常に診断を見直しながら治療を行うことが大切である.

この論文の要旨は,北関東甲信越ペインクリニック学会第8回学術集会(2019年3月,埼玉)で発表した.

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