2021 年 28 巻 4 号 p. 49-57
会 期:オンデマンド配信 2020年11月2日(月)~11月15日(日)
ライブ配信 2020年11月7日(土)
会 場:Web開催
会 長:松田陽一(大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室)
波多野貴彦
富士診療所
超音波装置は,現在ペインクリニック領域においてもさまざまな疾患の診断や治療に用いられ欠かせないものになっており,以前はランドマーク法やX線透視下で試行していた神経ブロックも超音波ガイド下での施行が可能となってきている.今回,「超音波ガイド下治療手技の課題を克服する」というテーマでお話する機会をいただいた.治療手技の課題と一言にいっても,患者選択や手技の方法,他の治療法との比較などさまざまなとらえ方がある.そこで本シンポジウムでは,これまで超音波ガイド下では試行困難とされてきた治療手技をどのように超音波ガイド下で施行するか?を中心に,X線透視下法との相違等を踏まえお話ししたい.
当施設では,X線透視室の使用枠が限られており,常時使用できる環境ではない為,神経ブロックが必要と考えられる症例に対して,いかに正確に簡便に,かつ安全に超音波ガイド下で施行できるか検討してきた.例えば胸部経椎間孔的硬膜外注入法はじめ,腰椎椎間関節ブロック(脊髄神経後枝内側枝ブロック),仙腸関節ブロック(仙腸関節枝ブロック)などを,超音波ガイド下での新しいアプローチ法で施行しているが,これらが超音波ガイド下に正確かつ安全,短時間に,簡便にベットサイドで施行可能となったことで,ブロック件数は増加し,X線透視下ブロックの割合は減少した.ただし,もちろん課題はまだ山積みである.超音波ガイド下での描出方法や穿刺方法,鎮痛効果など,当施設における超音波ガイド下治療手技の実際と,課題についてお話させていただく.本シンポジウムが,超音波ガイド下治療のさらなる発展の一助になれば幸いである.
2. 脊椎疾患に対するインターベンションの課題とその対策藤原亜紀*1 渡邉恵介*2
*1奈良県立医科大学麻酔ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学ペインセンター
脊椎疾患に対するインターベンションの課題は3つあげられる.
1つ目は,治療の選択である.例えば,若年者の腰椎椎間板ヘルニアによる急性痛と高齢者の側弯症による慢性痛では,同じ腰下肢痛であってもインターベンションの適否,種類の選択や施行頻度は異なってくる.とくに高齢者の慢性痛の場合,ベストな高侵襲の治療よりもベターな低侵襲の治療が適切な場合もある.病態生理のみならず,年齢や理解力,家族のサポート,心理社会的因子などの患者因子を評価し,患者と家族のニーズを理解して,適切にインターベンションを施行することが重要である.正確な診断のもと,患者のニーズに沿う適切なインターベンションは非常に有用であるが,そのいずれが欠けても良い結果は得られない.
2つ目は,依存形成である.前述のようにインターベンションは切れ味が良く,患者の満足度も高い.しかし,その反面,依存を形成しやすい.痛みの治療は,痛みの認知・受容,積極的な運動などが必須で,治療の主体は患者であるが,インターベンションに関しては医療者側がイニシアティブをとる必要がある.患者の望むままに漫然と行うのではなく,頻度や回数などを治療開始時から決めておくことが望ましい.
3つ目は,合併症である.インターベンションは比較的低侵襲なトリガーポイント注射から手術に準じるような高侵襲な脊髄刺激療法や椎間板内治療などがあり,多様である.合併症の種類や頻度は異なるが,出血や感染・神経損傷・硬膜穿刺,ときには重篤な合併症を起こす可能性がある.また,抗血栓薬を一時中断してインターベンションを行う場合は,血栓塞栓症のリスクもある.
本発表ではこれらの課題についてさらに考察し,その対策を提案したい.
3. EBMと臨床研究の課題を克服する植松弘進
大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室
神経ブロックやインターベンショナル痛み治療は侵襲を伴うがゆえに,その臨床適用においてはエビデンスを吟味し,個々の症例ごとにリスクベネフィットを十分に検討したうえで判断する必要がある.すなわちEBM(evidence-based medicine)の実践が必要であるのだが,エビデンスが十分にあるとは言えない.とくに,有効性をプラセボや従来治療と比較する無作為化比較試験(randomized controlled trial,RCT)については数が少なく,質の高いシステマティックレビューやメタ解析もほとんど行われていない.したがって,われわれが臨床適用の根拠とすべきインターベンショナル痛み治療ガイドラインや慢性疼痛ガイドラインでも,全体的に推奨度は低く抑えられている.今後適応と適用を拡大する上で,RCTのような質の高い臨床研究の実施が望まれるものの,クリアすべき課題は多い.本講演では,実際にプラセボ対照RCTを行った際にどのような障害がありどのように克服したのか,慢性疼痛ガイドライン作成に関わった経験から学んだ今後の課題と展望について示す.
別府曜子*1 武田勇毅*2 滝本佳予*1 森 梓*1 神崎由莉*1 小野まゆ*1
*1市立池田病院麻酔科,*2あいち小児保健医療総合センター麻酔科
【はじめに】痛みの診断においては,その原因となる器質的疾患の有無を確認することは必須であり,とくに重大な疾患に起因する危険な兆候を見逃してはならない.
すでに診断のついている症例では原因の再検索を怠ってしまいがちであり,それが重篤な結果を招く可能性がある.今回,遷延性術後痛として紹介された患者を再評価し,急性胆嚢炎と診断した症例を経験したので報告する.
【症例】93歳女性.右乳がんに対して右胸筋温存乳房切除術を施行した.術後19日目に右前胸部痛を訴え,術後21日目に術後遷延痛の診断で当科紹介となった.初診時,右前胸部にVAS 90 mmの激痛を認め,超音波ガイド下傍脊椎神経ブロックを施行した.神経ブロック後も頻脈,頻呼吸が持続したため,各種検査を行った.WBC 20,380/µl,CRP 26.1 mg/dl,ALP 835 IU/ml,γGTP 80 IU/lと著明な炎症反応および肝胆道系酵素の上昇を認め,さらに身体診察ではMurphy兆候陽性だったため,腹部CTを施行し急性胆嚢炎の診断に至った.その後,腹腔鏡下胆嚢摘出術施行し,前胸部痛は消失した.
【まとめ】本症例は術後遷延痛で紹介され,急性胆嚢炎と診断することが困難であった.神経ブロック後にも持続する頻脈,頻呼吸の存在から診断に至った.痛みの診療においては入念な診察を繰り返し,適切な検査の実施が重要である.
I–2 側腹部痛を契機に判明した傍神経節腫の1例長田多賀子 博多紗綾 高橋亜矢子 植松弘進 松田陽一
大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座麻酔・集中治療医学教室
【はじめに】側腹部痛の精査中に副腎腫瘍が疑われ,切除により疼痛が完全消失した症例を経験したので報告する.
【症例】47歳男性.2型糖尿病,睡眠時無呼吸症候群にて近医通院中.X−2年8月ごろから右側腹部痛を自覚.X−1年1月に同部位に発作的に数時間程度持続する強い痛みがあり,かかりつけ医を受診した.その際,右副腎に腫瘍を指摘されたが,症状とは無関係と評価されNSAIDsにより痛みは軽快していた.その後も同部位に軽度の痛みはあったが,同年7月,12月に再び同様に強い痛みを同部位に自覚し前医紹介となった.CTにて右副腎領域に30 mm大の腫瘍を認め,糖尿病もコントロール不良であったため褐色細胞腫を疑われた.血中のカテコールアミンに異常はなく,MIBGシンチグラフィーでは同領域に集積を認めず,さらなる精査目的にX年5月に当院内分泌内科に紹介された.その際,側腹部痛のコントロール目的に当科紹介受診となった.受診時,疼痛は腫瘍の指摘されている部位と一致しており腫瘍に関連した痛みと考えられた.X年10月に再び同部位の強い痛みと高血圧が出現し緊急入院された.右副腎腫瘍は3.8 cmに増大しており,褐色細胞腫によるプレクリーゼが疑われたため,当院泌尿器科にて右副腎腫瘍摘出術が施行され,副腎に接する(副腎外)傍神経節腫と病理診断された.術前の血圧と疼痛コントロール下に腹腔鏡下右副腎摘出術が行われ,術中は全身麻酔および硬膜外麻酔で管理しとくに異常を認めなかった.術後3カ月時点で術前の痛みは完全に消失している.
【考察】腹部の疼痛を契機に発症し,病理組織検査で傍神経節腫と確定された症例を経験した.傍神経節腫はまれな腫瘍であり,偶発的に発見されることがほとんどであるが,本症例のように疼痛を契機に判明したとの報告もある.本例の疼痛メカニズムについて文献を交えて考察する.
I–3 リウマチ性多発筋痛症であった1例神岡 翼*1 佐藤仁昭*2 阿瀬井宏佑*1
*1北播磨総合医療センター,*2神戸大学医学部附属病院
73歳男性.X年1月にとくに誘因なく両側肩痛出現し,近医整形外科にて両側肩関節周囲炎と診断された.関節内注射(詳細不明)にて改善を認めないため,さらに高次の病院の紹介を受け,当該病院にて両側肩関節造影および関節受動術が施行された.受動術後から可動域の改善を認めたとのことであったが,両肩の疼痛が遷延し左上肢の腫脹も生じてきたことからCRPSを疑われ,当院ペインクリニック内科に紹介となった.
身体所見上,痛みは両側の上下肢に認め,とくに両側の上腕二頭筋部位の圧痛が著明であった.左右の手の甲は腫脹していた.痛みの訴えが強かったことから,フェンタニルを用いた点滴静注を施行した.するとNRS 10→2と軽快を認めたため,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠を処方し,疼痛コントロールを行いつつ精査することにした.
発熱はなく,血液検査上はCRP・WBC高値を認め,筋原性酵素の上昇はなかった.
急性発症の両側肩の痛み,年齢65歳以上,両側上腕の圧痛,また血液検査所見からリウマチ性多発筋痛症を疑ったが,ステロイドの投与は開始せずリウマチ膠原病内科に診察を依頼した.リウマチ膠原病内科での更なる精査の結果,やはりリウマチ性多発筋痛症が疑われた.また痛みの程度も強かったため,ステロイド内服投与が開始された.ステロイド内服開始後6日間で,疼痛・腫脹・可動域制限はほぼ消失し寛解に至った.
典型的な経過をたどったリウマチ性多発筋痛症の1例を提示し,リウマチ性多発筋痛症の診断・治療を,文献を交えながら考察したい.
I–4 トリガーポイント注射が奏効した乳房切除後疼痛症候群の1例植月信雄*1 加藤果林*1 川本修司*2 廣津聡子*1 角山正博*3
*1京都大学医学部附属病院麻酔科・漢方診療ユニット,*2京都大学医学部附属病院集中治療部,*3京都大学医学部附属病院手術部
乳房切除後疼痛症候群とは,前胸部から腋窩,上腕にかけてのヒリヒリ,チクチクとした痛みが特徴の慢性疼痛であるが,その原因は明らかではない.今回われわれはトリガーポイント注射が有効であった乳房切除後疼痛症候群の1例を経験した.
【症例】50歳女性.X−1年2月に左乳がんに対して左乳房切除,腋窩リンパ節廓清を施行,術後,放射線治療およびホルモン療法が施行された.手術直後より左前胸部の痛みがあり,ロキソプロフェンおよびプレガバリンが処方されたが痛みには効果がなく,その後,左肩甲骨部の痛みおよび左上肢のしびれも自覚するようになった.X年8月,左前胸部および肩甲骨部の痛み,左上肢のしびれに対する治療目的で当院形成外科より紹介となった.初診時所見は,痛みの性状はびりびり,ずきずき,引っ張られるような,差し込むような痛みで,痛みの強さはVAS 82/100,神経障害性疼痛スクリーニング質問票15点,左前胸部にアロディニアあり,肩関節可動域は屈曲80度,外転80度と可動域の低下を認め,触診で左肩甲骨周囲に多数のトリガーポイントを認めた.前胸部のアロディニアは放射線による皮膚障害と考えられたが,肩甲骨部の痛みおよび上肢のしびれについては肩甲骨周囲筋由来の筋筋膜性疼痛およびその関連症状と考え,試験的に0.5%メピバカインによるトリガーポイント注射を施行したところ,肩甲骨部の痛みの軽減を認めるとともに上肢のしびれも軽減,肩関節可動域が屈曲130度,外転120度と改善を認めた.その後2週間に1回ベースでトリガーポイント注射を5回施行するとともに肩関節可動域訓練を指導し,X年11月には前胸部のつっぱり感は残るものの前胸部および肩甲骨部の痛み,上肢のしびれは消失し,また肩関節可動域も屈曲150度,外転150度と改善を認めた.
【結語】乳房術後疼痛症候群の原因の一つに肩甲骨周囲筋由来の筋筋膜性疼痛が考えられた.
I–5 腹部に冷えがある人の愁訴に大建中湯が有効であった1症例戸田 寛
京都桂病院ペインクリニック科
症例は60歳台,女性.2019年2月中旬ごろからとくに誘因なく左鼠径部にしびれ,痛みを自覚するようになった.その後,症状は軽減と悪化を繰り返した.整形外科受診では軽度の腰椎変形,側弯を認めたが,腹部症状の原因にはならないと評価,子宮筋腫開腹手術後でもあったため婦人科も受診したが異常は指摘されなかった.外科受診で画像検索上,鼠径ヘルニアもなかったため当科紹介となった.初診時の自覚症状は左鼠径部のしびれ感,違和感,膨満感,鈍痛であった.症状は前屈,座位,立位で悪化した.食欲はあったが,便通は便秘傾向でかかりつけ医から処方された酸化マグネシウム内服でコントロールしていた.舌診上,舌下静脈の軽度怒張があり,腹診上,臍右横と左下腹部に圧痛があった.下腹部正中に手術痕を認めた.症状はしびれを伴う鈍痛で神経障害性痛の可能性は低い(神経障害性疼痛スクリーニング質問表によるスコアも3/28)と考えワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液2錠/日と加味逍遥散エキス顆粒5.0 g/日を投薬した.2週間後再診時,腹部にガスが溜まった感じがあり冷えるとの訴えがあった.再度腹診すると下腹部に冷えがあったため漢方薬を大建中湯エキス顆粒5.0 g/日に変方した.以後は2~4週間間隔で診察を続け,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液は4錠/日,大建中湯エキス顆粒は10.0 g/日まで増量し症状は軽減していった.初診から約2カ月ごろには漢方薬の飲み忘れが多くなった.初診から約5カ月後には痛みはほぼなくなり,腸のガスや腹部の張りも気にならなくなった.初診から約6カ月後,visual analogue scale(VAS)が0になったため終診とした.腹部に冷えのある愁訴に漢方薬を使う場合,大建中湯が良い適応となることを再認識した.
I–6 顕微鏡的多発血管炎に起因した多発神経炎による難治性疼痛にメキシチレンが著効した1例中田亮子 宮﨑里紗 栗山俊之 水本一弘 川股知之
和歌山県立医科大学附属病院
顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)関連血管炎に分類される疾患であり,毛細血管を主体とした小型血管に壊死性血管炎をきたす疾患である.MPAでは,血管炎に起因する虚血性変化を病態の特徴とした末梢神経障害を50~70%で合併するとされている.今回,MPAによる四肢の難治性疼痛にメキシチレンを投与し疼痛緩和が得られた症例を経験したので報告する.
症例は61歳女性.X年7月,左足の腫脹や疼痛が出現し,近医整形外科を受診するも原因不明であった.痛みの範囲は徐々に拡大し,9月ごろには強いしびれと痛みが四肢に生じるようになった.また原因不明の発熱を認めたため,10月前医を受診したところ,尿潜血と蛋白尿,炎症反応高値を認め,血管炎による末梢神経障害を疑われ,11月当院膠原病科に紹介となった.精査の結果,MPAと診断され,グルココルチコイドとシクロホスファミドによる完解導入療法が開始された.治療開始時点では,四肢末梢に強い異常感覚と振動覚の低下,軽度の筋力低下を認めた.また,下肢の末梢神経伝導検査では導出不可能であり,強い軸索障害が疑われた.治療開始後,疾患活動性の指標であるMPO-ANCAの力価は低下したが,下肢の強いしびれと痛みが残存したため,12月当科に紹介となった.初診時はミロガバリン10 mg/日,トラマドール100 mg/日,アセトアミノフェン1,500 mg/日を服用していたが,強い痛みのため夜間不眠で,NRSは10であった.神経障害性疼痛として,ミロガバリン30 mg/日,トラマドール200 mg/日,アミトリプチン20 mg/日,デュロキセチン20 mg/日まで増量し,夜間眠れるようにはなったが,日中のNRSは10のままで強い痛みが残存した.そこで,メキシチレン300 mg/日を追加したところ,約一週間後にはしびれは残存するものの強い痛みは緩和されNRSは0~1に低下した.現在,ステロイドを漸減しているが,痛みの再燃はなく経過は良好である.
井内貴子 植松弘進 松田陽一 藤野裕士
大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学麻酔・集中治療医学教室
症例は74歳男性,膀胱がんの既往のみで生来健康であった.帯状疱疹の発症から約3カ月が経過しても頻回の突出痛により日常生活動作が障害され,不眠も出現し,プレガバリン,ガバペンチン,コデインリン酸塩等の内服加療に抵抗性のため,当科に紹介となった.初診時には,右前胸部から右背部と右上腕内側から腋窩に痂皮化した皮疹を認め,その部位に一致してNRS(numerical rating scale)7~10程度の強い痛みと,アロディニアを訴えていた.これらの所見からTh2もしくはTh3の帯状疱疹後神経痛と診断し,日常生活動作の維持のため神経ブロック治療を行うこととした.Th2およびTh3の傍脊椎ブロックと硬膜外ブロックをTh3/4の椎弓間から行い,右背部のアロディニアと右前胸部から右背部の持続痛はNRS 7から4まで改善したが,右上腕内側から腋窩にかけての突出痛の改善は乏しく,不眠が持続していた.突出痛の範囲が,肋間上腕神経支配の範囲に一致していたため,超音波ガイド下肋間上腕神経ブロックを行ったところ,突出痛はNRS 10から4まで改善し,不眠も改善した.その後も,再燃はするものの,薬物治療と適宜神経ブロックを追加することにより疼痛のコントロールが可能な状態である.
今回難治性の帯状疱疹後神経痛に対して,超音波ガイド下肋間上腕神経ブロックが効果的であった症例を経験した.肋間上腕神経は腋窩において,体表から浅い部位を走行しており,超音波装置により描出が容易であり,超音波ガイド下での神経ブロックを安全かつ効果的に行うことができる.この新しいアプローチを用いた超音波ガイド下肋間上腕神経ブロックが有効であった本症例について,文献的考察を含めて報告する.
II–2 難治性仙腸関節痛に対し超音波ガイド下仙骨神経外側枝高周波熱凝固が有効であった関節リウマチ合併乾癬性関節炎症例三上麻紀子 植松弘進 鈴木史子 須田万理 藤原優子 玉井 裕 花田留美
公益財団法人日本生命済生会日本生命病院麻酔・緩和医療科
症例は63歳女性で,関節リウマチ合併の乾癬性関節炎と診断を受け,以前から内科で加療を受けていたが難治性であった.3年前より左臀部痛が出現し,保存的加療に抵抗性で徐々に増悪し,歩行障害が出現したため,当科紹介受診となった.初診時,左臀部にNRS(numerical rating scale)10程度の強い動作時痛を訴え,仙腸関節部の圧痛およびパトリックテスト陽性であったことから,仙腸関節由来の痛みと判断した.仙腸関節ブロック(ステロイド添加)を複数回行ったが効果は一時的であったため,超音波ガイド下に仙骨神経外側枝高周波熱凝固を行った.直後より左臀部痛が改善し,1カ月後にはNRS 2程度となった.施行3カ月後には痛みが消失し,鎮痛薬内服を中止した.また,当科初診までの約2年間,メトトレキサートやNSAIDsを内服してもCRPは1~2 mg/dlであったにもかかわらず,0.5 mg/dl以下まで改善した.1年後の現在まで左臀部痛の再燃はなく,CRPも0.5~1 mg/dlとコントロール良好な状態を維持している.
乾癬は特徴的な皮膚症状を呈する自己免疫性慢性炎症性疾患であり,その6%に難治性の関節炎を合併する.とくに関節リウマチを合併する場合,関節炎は難治性進行性であることが多く,関節痛の治療に苦慮することが多い.今回,超音波ガイド下仙骨神経外側枝高周波熱凝固により難治性の仙腸関節痛を良好にコントロールすることで,炎症所見改善につながったリウマチ合併乾癬性関節炎症例について,文献的考察を加え報告する.
II–3 高張食塩水を用いない経皮的硬膜外癒着剥離術49件の治療成績橋爪圭司 恒遠剛示 川居利有 岡田夏枝
高清会高井病院麻酔科ペインセンター
われわれは高張食塩水を用いない経皮的硬膜外癒着剥離術を行っている.遡及的に治療成績を調べた.
【対象】神経根症状を呈し,数回以上の神経根ブロックに抵抗性の腰部脊柱管狭窄症spinal canal stenosis以下,SCS群25例と,同様の腰椎術後症候群failed back surgery syndrome以下,FBSS群12例.
【方法】腹臥位,バイプレーン透視下,局所麻酔下に仙骨裂孔(一部は椎間孔かS1後仙骨孔)を穿刺し,病変高位の腹側硬膜外腔を目標にRaczカテーテル®の先端を誘導し,造影剤6~10 mlと生理食塩水3~6 mlで硬膜外造影とその拡張を確認後,デキサメサゾン4 mgと1%メピバカイン3~5 mlを注入し,カテーテルを抜去して終了した(一回注入法).術直後に脊椎CTで薬液の拡がりを観察した.自覚症状が50%以下となれば有効とし,1週,1カ月,6カ月後に判定した.
【結果】SCS群は男/女=11/14例,平均72歳(44~88歳)で,痛みの再燃等の理由で6例が2回施行し合計31回施術した.有効率は1週後61.3%,1カ月後54.8%,6カ月後41.9%であった.L5経椎間孔法の1例で数日間神経根刺激症状を訴えた.FBSS群は男/女=10/2例,平均78歳(65~92歳)で,6例が2回施行し合計18回施術した.有効率は1週後55.5%,1カ月後50.0%,6カ月後38.9%であった.術後脊椎CTでくも膜下流入が1症例で確認された.術後に各群3例ずつが脊髄刺激電極留置術を受け,FBSS群の1例は2回目の腰椎除圧術を受けた.
【まとめ】Racz原法は高張食塩水投与がスタンダードであるが,非使用でも有効例の報告がある.高張食塩水は注入部位によって合併症の可能性もある.今回,神経根ブロック抵抗性の症例に対して,高張食塩水を用いない経皮的硬膜外癒着剥離術を行い,ある程度の臨床的有用性を確認できた.
II–4 椎間板内酵素(コンドリアーゼ)注入療法における椎間板高の経時的変化を検討した1症例中村 仁*1 石川慎一*1 南 絵里子*1 森本明浩*1 小橋真司*1 田中正道*2
*1姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック,*2姫路赤十字病院整形外科リハビリテーション科
【はじめに】腰椎椎間板ヘルニアにおける低侵襲治療の一つにコンドリアーゼ(ヘルニコア®)注入療法がある.椎間板高の低下はよくみられる合併症の一つであり,30%以上の低下は14.4%(添付文書)に起こるとの報告がある.椎間板高の低下の程度だけでなくその期間も重要である.今回,椎間板高の経時的変化を追跡できた1症例をもとに報告する.
【症例】症例は,30代男性.約3年前に重量物運搬時に右腰臀部痛が出現した.その後,腰痛と右下肢痛が出現し,近医で腰椎椎間板ヘルニアと診断された.本人がコンドリアーゼ治療を希望したため当院紹介受診となった.来院時所見はSLRテスト30/80度,筋力低下は認めずVAS 25~80/100,腰椎疾患治療成績判定基準(JOAスコア)は12/29点であった.腰椎MRIでは,L4/5に傍正中型の後縦靭帯下脱出型ヘルニアを示しており,これによる右L5,S1神経根症状と診断した.右L5,S1神経根ブロックにより痛みはVAS 18/100まで軽減したが数日でVAS 46/100となった.L4/5椎間板造影を行い後縦靭帯下脱出型ヘルニアであることを確認し,コンドリアーゼ注入療法の適応と判断した.造影2日後にL4/5レベルに椎間板内酵素注入を行った.注入後に経時的に腰椎X線撮影にて椎体高変化を評価した.注入後2週,13週,25週における椎間板高の変化は治療前と比較して−14.4%,−9.8%,−14.3%であった.13週後においてJOAスコアは26/29点と改善していた.
【結語】椎間板内酵素注入療法における前後椎体高の経時的変化を1症例で検討した.椎体高の変化は治療後2週間で最も大きく変化した.治療後2週間は腰椎への負担軽減にとくに注意する必要があると思われた.
II–5 頸部神経根ブロック(後側方法)時に軽度の神経根損傷を起こした1症例山上裕章
ヤマトペインクリニック
頸部神経根ブロック施行時に軽度の神経根損傷を起こした症例を経験した.
【症例】46歳,女性.X−4年発症.X−3年10月当院初診.主訴:右頸肩上肢痛・指先のしびれ.MRIでC5/6 C6/7椎間板突出.近医でプレガバリン(75 mg)4T/日,ロキソプロフェン(60 mg)3T/日を投与されたが効果不十分.頸椎症性神経根症と診断し,T1神経根ブロック,C6 C7神経根ブロックを施行し,いったん軽快した.薬も不要となった.その後は愁訴が再燃すると来院,神経ブロックで軽快していた(1年に1~2回).
X年6月,右上肢外側痛,中指しびれで来院.右C7神経根ブロック(後側方法)を施行した.25 G針で穿刺し,イオヘキソール1 mlで神経根像を確認,1%メピバカイン0.5 mlと水溶性デキサメタゾン0.425 mgを注入した.穿刺時は無痛,薬液注入時は上腕外側に軽度のひびきがあった(過去の施行時と同程度).終了時X線撮影のため,Cアーム透視装置を動かしつつ「痛くなかったですか」と声をかけた.その声に反応し,患者が頸を回旋させた.「動かないで」と制止し,すばやく抜針した.患者は愁訴なく帰宅したが,その夜から上肢の痛み・しびれが強くなった.通常頸の動きで愁訴が出現していたが,体位に関係なく痛み・しびれが続くため4日後に来院.疼痛部位,知覚異常(allodyniaもあり)から,単なる刺鍼部痛ではなくC7神経根損傷が疑われた.プレガバリン225 mg.ノリトリプチリン10 mgを投与したが,1週間後に軽快,2週間後には薬物療法も不要となった.
【考察】針が残っている状態で頸部を回旋し神経根に針が強く当たり,神経根損傷を引き起こした.薬液注入後であったため,麻酔が効いており痛みを訴えなかった.その後C7神経根領域に持続性の痛み・しびれを訴えたことから,針が神経根に通常よりも強く当たったことは間違いない.患者は6回頸部神経根ブロックを受けており,その都度頸椎の動きを禁止しつつ施行していた.それでも頸椎を回旋させたため,不用意な声かけはやめるべきであった.
II–6 脊髄刺激電極留置後早期に硬膜外膿瘍をきたした症例上原圭司 白井 達 岩元辰篤 松本知之 辻本宜敏 湯浅あかね 中尾慎一
近畿大学医学部麻酔科学教室
脊髄刺激電極植込み後5日目に硬膜外膿瘍を合併し,電極の抜去を余儀なくされたが,神経症状を残すことなく保存的治療で管理し得た症例を経験したので報告する.
症例は,52歳,女性.158 cm,55 kg.腰椎術後痛に対して,薬物療法,神経根ブロック(パルス高周波法)などの治療を行っていたが,十分な効果を得なかったため,脊髄刺激療法を計画した.糖尿病など特別な併存疾患はなかった.サージカルトライアルとして,8極電極リードを2本使用し,正中を挟み込むように留置し,電極先端を各々T8椎体,T10椎体の上縁に置いた.術後5日目に37.2℃と軽度の発熱とCRP 20.8,WBC 9,470/mm3を認めた.創部の汚染,神経症状はなかったため,セフジトレンピボキシル300 mg/日の経口投与で経過観察とした.術後6日目に38℃の発熱,CRP 30とさらなる上昇と腰背部痛をみたため,緊急MRIを撮像したところ,刺入部高位(L2–3)の硬膜外膿瘍が確認された.形成外科共観のもと,リードの抜去と創部の切開排膿を行い,検体培養を依頼した.術後9日目,培養結果がStaphylococcus aureusと判明し,MRSAも視野に入れ,感染対策室と相談のうえ,バンコマイシン1.5 g/日の投与を開始した.術後12日目,MSSA(メチシリン感受性)と判明したため,VCMをセファゾリン(CEZ)6 g/日に変更し,静脈投与を継続した.術後21日目にはCRP 0.2となり,術後28日目にMRIで硬膜外膿瘍の縮小を確認できたため,以後抗生剤を経口投与に切り替え,退院となった.その後も後遺症を残すことなく経過している.
以上,感染の危険因子のない健常者において脊髄刺激電極留置後5日目に硬膜外膿瘍を発症した症例を経験した.硬膜外膿瘍の診断は発症を疑うことが重要で,本症例でも速やかに診断,治療し得た.他の報告例と比較して考察を加える.
II–7 当院におけるがん患者に対する脊髄電気刺激療法の調査石本大輔*1 高雄由美子*2 橋本和磨*1 永井貴子*2 助永憲比古*3 廣瀬宗孝*1
*1兵庫医科大学麻酔科学・疼痛制御科学,*2兵庫医科大学病院ペインクリニック部,*3すけながペインクリニック
近年がん患者数は増加しており,またガンサバイバーの患者数も増えている.脊髄電気刺激療法(SCS:spinal cord stimulation)は,難治性の神経障害性疼痛に有効な治療法であるが,今後はがん患者に対しても施行する機会が増えていくのではないかと思われる.
今回われわれは,当施設で過去10年間にがん病名の患者に対して施行したSCSを調査した.
【方法と結果】2007年4月から2019年9月までの期間に当施設でSCSを施行した患者(トライアル+植え込み術)のなかで,がん病名のある患者を抽出したところ,14症例であった.このうち7症例はSCS施行目的が,がん性疼痛(原疾患や転移巣の痛み)のコントロールであったが,残りの7症例は原疾患とは関係のない痛みに対して施行しており,痛みの原因は帯状疱疹関連痛3症例,脊柱管狭窄症による腰下肢痛3症例,脊椎圧迫骨折による腰痛1症例であった.がん性疼痛患者では,7症例中5症例で有効であったものの,1症例では本人が植え込みを希望せず,4症例で植え込み術が施行された.がん以外の痛みの患者では,3症例で植え込み術が施行された.植え込み術を施行しなかった4症例は全症例トライアルのみで症状が軽快した.
がん患者に対するSCSは,これまで症例報告やcase seriesのみの報告しかないが,レビュー(Cochrane Database of Systemic Reviews 2015)によると,80%以上の患者で痛みが少なくとも50%以下となり,50%以上の患者で麻薬の投与量が減少したと報告されている.
今後がん患者に対するSCSは,がん患者増加に伴い,がん関連痛に対してのみならず,併発する難治性疼痛のペインコントロールに使われる機会が増えると思われる.
溝渕敦子*1 高橋亜矢子*2 松岡由里子*3 大迫正一*4 植松弘進*2 井内貴子*2 松田陽一*2
*1関西医科大学総合医療センター麻酔科,*2大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座麻酔集中治療医学教室,*3独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター麻酔科,*4大阪国際がんセンター麻酔科
53歳女性.中学生の時から嘔吐を伴う頭痛があり,その都度市販薬で対応していた.数年前より市販薬の効果が減少し近医でゾルミトリプタンを処方された.当初は症状軽減したが1年程で効果消失し,ゾルミトリプタンやNSAIDSを15回/月以上内服する状態が2カ月継続,頭痛のため起床できず出勤不能となりX年当科受診した.初診時頭部CTに異常なく,前兆のない片頭痛に薬物乱用性頭痛の合併と判断し,病態について患者に説明した上で,バルプロ酸ナトリウム400 mg/日,疼痛時頓服としてアセトアミノフェン600 mg/回を処方した.1カ月後,寝込むような痛みは消失した.症状聴取し服薬タイミング等を説明の上,疼痛時頓服としてナラトリプタン2.5 mg/回に変更し,その後数カ月は2~3回/月程度の屯用使用で症状安定していた.X+5カ月,手関節痛と朝のこわばりが出現,リウマチ専門医により自己免疫疾患の可能性は否定されたが手指疼痛が強いため,鎮痛薬を漸増しトラマドール100 mg/日,セレコキシブ200 mg/日を追加した.X+12カ月に片頭痛が悪化し救急病院に搬送された.その後薬物乱用性頭痛再発や片頭痛自体が変容している可能性を説明しトラマドール,セレコキシブを中止,予防薬をバルプロ酸ナトリウムからアミトリプチリン30 mg/日,疼痛時屯用をスマトリプタン100 mg/日に変更し,不安時屯用としてエチゾラム0.5 mg/回を追加処方した上で頭痛ダイアリーによる生活指導を継続した.X+19カ月には2~3回/月程度の発作で症状安定し現在も継続している.片頭痛は15歳以上の全人口の8.4%にみられ,女性の有病率は男性の3.6倍である.また女性の場合はライフステージの変化により片頭痛の病態にはさまざまな変化が起き,とくに閉経前後(更年期)においては片頭痛の様相が変化することに注意が必要である.本症例に文献的考察を加え報告する.
III–2 小児片頭痛患者に対して食事療法が有効であった1症例松村陽子 前田 倫 大森 学 菅島裕美 徐 舜鶴 平井康富
西宮市立中央病院麻酔科ペインクリニック内科外科
【はじめに】小児片頭痛患者への対症療法として食事指導(低糖質食)を行い,発作回数が減少した症例を経験したので報告する.
【症例】12歳女児,身長146 cm,体重28 kg.既往歴なし,母親に頭痛あり.小学4年生ごろから1回/月程度の頭痛が出現,小学5年生には1~2回/月,同年冬には1~2回/週と発作回数が増加した.発作回数が増えたため近医脳神経外科を受診した.画像検査,血液検査にて異常所見はなく臨床症状より片頭痛と診断されアセトアミノフェンとドンペリドンを処方された.以後,発作時内服を試みたが,すぐに嘔吐してしまい無効であった.頭痛のため遅刻や早退など学校生活にも支障をきたすことが多くなり,小学6年5月に当科紹介となった.診察の結果,典型的前兆をともなう片頭痛(ICHD3-1.2.1.1)と診断し,スマトリプタン点鼻薬を処方,母親に対して食事指導(低糖質食)を行った.片頭痛発作時,スマトリプタン点鼻薬は有効であった.また,食事療法開始1カ月後には1回/月程度の頭痛,4カ月経過後は1回/1.5月と頭痛発作回数が減り,体力がついて頭痛で学校を早退してくることもなくなったとの報告を得た.
【考察】片頭痛は代表的な一次性頭痛であり,有病率は日本人中学生で4.8%との報告がある.頭痛予防のために生活リズムを整えることが重要であるが,近年てんかんの治療法であるケトン食が片頭痛治療にも有効であることが報告されている.今回の食事指導はケトン食より制限の少ない低糖質食であったが,頭痛発作回数の減少と体力の向上という結果を得ることができた.低糖質食は服薬治療が困難な小児の片頭痛発作の予防対策として有効である可能性がある.
III–3 CT脊髄造影後24日後に硬膜下血腫をきたし馬尾症状を訴えた脳脊髄液漏出症の1症例木本勝大*1 渡邉恵介*2 藤原亜紀*1 吉村季恵*1 篠原こずえ*1 川口昌彦*1
*1奈良県立医科大学付属病院麻酔・ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学ペインセンター
【症例および経過】35歳女性.起立性頭痛を主訴にX−1日当科初診となった.X+0日,入院の上でCT脊髄造影(以下CTM)を施行し,C5~T8に硬膜外造影剤貯留を認めたため脳脊髄液漏出症の確定診断を得た.X+3,X+6,X+10,X+14,X+17日,X+20日の計6回,透視下硬膜外自家血パッチ療法(以下EBP)を施行した.施行後安静解除を試みたが,起立性頭痛が残存していたため,X+23日漏出の有無検索のために,再度CTMを施行した.同CTMにて,左T3,4,5レベルで硬膜外に造影剤貯留およびL1–4レベルで血腫の形成によると思われる脊髄圧排像を認めた.経過観察をしていたが,X+24日夜,下肢後面の激痛で覚醒し,その後も痛みが軽快しなかったために,硬膜外血腫を疑いX+25日,緊急で単純脊椎MRIを施行したところ,L1~L4レベルにわたる硬膜外血腫を認めた.膀胱直腸障害および歩行困難等みとめず,プレガバリン内服により症状は軽快し,その後も痛みは増悪しなかった.X+26日目に通算7回目のEBPを施行し,症状軽快しX+30日に退院となった.
【考察】本症例の硬膜外血腫の形成原因は,①くも膜穿刺後の硬膜外での出血,②EBP時の注入血液の貯留が考えられる.本症例ではEBPは上位胸椎レベルより上位で施行しており,かつ注入量も少量であるため,注入血液が腰椎レベルで貯留し硬膜外血腫を形成したとは考えにくい.また,くも膜穿刺後3日目に異所性に血腫を形成した報告もあり,血腫による一過性の馬尾症状をきたしたのは①が原因であった可能性が高いと考える.
【結語】CTM後に血腫を形成し,遅発性に馬尾症状をきたした1症例を経験した.
III–4 硬膜外生理食塩水注入が診断や治療に有用であった脳脊髄液漏出症の3症例石川慎一 林 文昭 南 絵里子 中村 仁 岡部大輔 森本明浩 小橋真司
姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック
【緒言】脳脊髄液漏出症は,硬膜破綻による脳脊髄液漏出により起立性頭痛を中心とした症状を呈する疾患である.硬膜外生理食塩水注入(ESI)は,おもに腰部硬膜外腔に生理食塩水投与する手技であり,持続ESIを治療に用いた報告もある.
今回われわれは,ESIが診断や治療に有用であった3症例を経験したので報告する.
【症例1】20代男性.髄膜炎疑いにて硬膜穿刺を施行された.無菌性髄膜炎の診断にて加療退院したが,頭,めまい,嘔気が継続するため硬膜穿刺後14日目に当科紹介となった.硬膜穿刺後頭痛と診断して単回ESIを行った.症状は速やかに軽減し,再発なく治療後7日目より復職を指示した.
【症例2】10代女性.校内活動中にサッカーボールが頭部に当たり,その後起立性頭痛と腰痛が出現した.保健室での臥床なしではほぼ登校できなくなった.受傷8カ月間に,大学病院脳神経外科を含む4件以上の病医院を受診し,精査を行ったが確定診断に至らなかった.その後近医ペインクリニックで単回ESIにて著明な改善を示したため当院紹介となった.頸胸椎MRIおよびCT脊髄造影にて第6胸椎近傍での髄液漏出を示した.硬膜外自家血注入(EBP)を計1回行い起立性頭痛は速やかに改善,その後登校が可能になった.
【症例3】30代女性.本来頭痛もちであった.強い頭痛を自覚して近医受診,検査で腰椎穿刺を受けてから頭痛が増強,めまい,嘔気も継続した.他院で頸胸椎部での脳脊髄液漏出症と診断され計3回のEBPを行うも軽快しないため当院紹介となった.当院でも精査して頸胸椎レベルを中心に計3回のEBPを行ったが一時的な軽快であった.起立性頭痛は明らかなため,持続ESIを3日間行い,頭痛は一時的に軽快したためEBPを胸腰部に行い軽快した.
【結論】硬膜外生理食塩水注入は,診断の再評価,検査結果の検証,治療として有用であった.
III–5 認知症のため全身麻酔下にガッセル神経節ブロックを行った三叉神経痛の1症例吉村季恵*1 渡邉恵介*2 藤原亜紀*1 木本勝大*1 川口昌彦*1
*1奈良県立医科大学麻酔・ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学ペインセンター
【はじめに】一般に神経ブロック治療は合併症予防のため,深鎮静下での施行は避けるべきである.今回,認知症のためやむなく全身麻酔下にガッセル神経節ブロック(GGB)を施行した症例を経験したので報告する.
【症例】84歳男性.X−12年,V2.3領域の三叉神経痛と診断され,カルバマゼピン(CBZ)400 mg/日でコントロールされていた.既往に内頸動脈狭窄でステントが挿入されクロピドグレルを内服していた.X年9月初旬から左側頬部と口腔内の疼痛が悪化し食事ができなくなった.衰弱と脱水が進み9月12日に総合診療科に緊急入院した.疼痛コントロールについて当科紹介となった.
【初診時現症】認知症があり詳細な問診は困難であった.左鼻下部,オトガイ部,側頭部上部にトリガーゾーンのある発作痛を認めたが,日によっては明らかでない時もあった.飲水時にも強い疼痛があり舌咽神経痛の合併も疑われた.誤嚥性肺炎を併発し入院後は寝たきりになっていた.
【治療経過】疼痛のために内服を拒否され,投薬ルートとして胃管の留置は不可であった.リドカインとフェニトインの静脈内投与は,一定の効果はあるが不十分であった.さらにリドカインの持続投与により,傾眠傾向・譫妄状態を併発した.リドカインスプレーの咽頭噴霧は本人の協力が得られなかった.ガンマナイフ・手術療法については現状では適応外とされ,状態改善にGGBしか選択肢がないが,認知症・譫妄状態のため全身麻酔が必要であった.このため家族に十分説明し,全身麻酔下でGGBを施行した.効果を術中に確認できないうえ再施行は困難であるため,3カ所で70℃×180秒の熱凝固と高周波パルス療法を3分間併用した.術後は疼痛改善し,CBZが内服でき食事も可能となり退院した.
【結語】やむなく認知症患者に全身麻酔下にてGGBを施行し寛解を得ることができた.
III–6 微小血管減圧術後に再発した三叉神経痛に対し,超音波ガイド下での上顎神経パルス高周波法が有用であった1例山崎広之 稲田陽介 藤田麻耶 矢部充英 土屋正彦 森 隆 西川精宣
大阪市立大学大学院医学研究科麻酔科学
微小血管減圧術は特発性三叉神経痛の根治術として確立されているが,術後に再発した痛みのコントロールに難渋することがある.今回,われわれは微小血管減圧術後に再発した三叉神経痛に対し,超音波ガイド下で上顎神経パルス高周波法を行い,有効であった症例を経験したので報告する.
【症例】38歳,女性.左第2,3枝領域の特発性三叉神経痛に対し内服薬,三叉神経末梢枝のブロックを行ったが強い疼痛が残存するため,微小血管減圧術が施行された.術後は疼痛が完全に消失していたが,3カ月後に再発した.カルバマゼピン内服で痛みのコントロールを行っていたが上顎神経領域の強い発作痛の訴えが続き,再発から5カ月後に眼窩神経高周波熱凝固法を行ったが歯肉,歯の発作痛が残存していた.再発から8カ月後に超音波ガイド下で上顎神経パルス高周波法を行ったところ,発作痛は消失した.
【考察】微小血管減圧術後の特発性三叉神経痛に対して薬物治療が無効であった場合,痛みをコントロールする方法として三叉神経に対する高周波熱凝固術が選択されることが多いが,近年はパルス高周波法の有用性が報告されており,高周波熱凝固術と異なり術後に感覚鈍麻やしびれ感をきたさない点において優れている.上顎神経への穿刺は一般的にX線ガイド下で行われるが,動脈誤穿刺の危険性が高く,血管走行を確認できる超音波ガイド下の穿刺は合併症軽減につながる可能性がある.
III–7 中間神経痛を伴った顔面痙攣の1例岩井謙育*1 池田英敏*1 朴 基彦*2
*1大阪市立総合医療センター脳神経外科,*2ぱくペインクリニック
【目的】中間神経痛を伴った顔面痙攣の1例を経験したので報告する.
【症例】6年前から左眼瞼周囲の痛みを自覚,眼科でドライアイと診断,その後も左眼の痛みは持続した.同じ頃から口腔内乾燥感を自覚,歯科にて口腔内乾燥症と診断,抗うつ剤服用するも効果は無かった.3年前から左側眼瞼の痙攣が出現,2年前から左側顔面全体に痙攣をきたすようになる.顔面痙攣が強くなると左側鼻根部の痛みや外耳の痛みを伴うようになった(外耳の痛みは嚥下,会話,外耳の刺激で誘発されない).同じ頃より朝晩に左鼻腔からの鼻汁が多くなった.神経内科にてボツリヌストキシン注射を2回施行,顔面痙攣は軽快した.1年前に左側顔面痙攣の再燃にてボツリヌストキシン注射を希望するも,血液検査にてアレルギー反応の可能性を指摘され,1カ所のみ注射を施行,顔面痙攣は改善しなかった.その後,ガバペンチン,クロナゼパムの服用にて経過を見ていた.2カ月前ペインクリニックを顔面の痛みの治療の相談に受診,神経血管減圧術を強く勧められ当院紹介となった.神経学的には左側顔面全体の顔面痙攣を認めた.MRIにて左側顔面神経のroot exit zoneへの後下小脳動脈の接触を認めたが,左側三叉神経には血管接触を認めなかった.中間神経痛を伴った顔面痙攣と診断し,神経血管減圧術を施行した.術後1週間で,口腔内乾燥感,外耳の痛み,左鼻腔からの朝晩の鼻汁流出は軽快した.軽度の顔面痙攣と左眼の痛みの遺残にて,術前に服用していたガバペンチン,クロナゼパムを術後約3カ月服用した.術6カ月後には,術前に認めた症状はすべて軽快し,1年後の現在も症状の再燃は認めていない.
【考察】中間神経痛を伴う顔面痙攣の報告はきわめてまれであるが,口腔内乾燥感,ドライアイの合併を認めた報告は無く,興味ある症例と思われ報告した.