日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
第44回東北ペインクリニック学会・日本ペインクリニック学会 第1回東北支部学術集会
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2021 年 28 巻 5 号 p. 70-77

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会 期:2020年12月19日(土)

会 場:Web開催

第44回会長:山内正憲(東北大学医学部麻酔科学・周術期医学分野)

第1回会長:木村 太(弘前大学医学部附属病院麻酔科)

■特別講演

1. がん疼痛治療~ペインクリニシャンとしての役割と一工夫~

佐藤哲観

静岡県立静岡がんセンター緩和医療科

がん患者生存期間の長期化に伴い,がん関連疼痛はより複雑化している.痛みの原因の複雑化・長期化によって難治化することも多く,ペインクリニシャンの果たすべき役割は大きくなっている.演者はがん専門病院の緩和ケアチーム専従医としてがん疼痛治療に従事しているが,ペインクリニシャンとしての視点を持って,神経ブロック療法の積極的な実施のみならず薬物療法にも一工夫を行っており,その一つがオピオイド併用療法である.モルヒネ,オキシコドン,ヒドロモルフォンといった古典的µオピオイドと,dual action analgesicであるタペンタドールまたはトラマドールとを組み合わせることにより,侵害刺激上行路の遮断と下行性疼痛抑制系の賦活の相乗効果を狙い,オピオイドの有害事象を最小化してより質の高い鎮痛を目指す方法である.メサドンの臨床使用においてリーダーシップを発揮することも重要な役割となっている.

2. 慢性痛の発生メカニズム~予防と治療のアプローチ~

境 徹也

佐世保共済病院ペインクリニック麻酔科

急性痛は体の損傷を知らせるためのアラームであり,多くは短期間の鎮痛薬投与と保存的療法に反応する.一方,慢性痛はその痛みの構成要素として,器質的要因よりも神経系の中枢性感作や認知などの非器質的要因が大きくなっている.慢性痛は,器質的要素である損傷が改善しているのにもかかわらず,鳴り続けている不要なアラームなのである.急性痛が慢性化する要因として,急性痛の時期での痛みの強さや持続,痛みに対する患者の不安,補償問題などの社会的背景が複雑に絡み合っている.そのため,いったん完成してしまった難治性慢性痛に対する治療は困難を極めることが多い.よって,できるだけ早い段階で治療の介入を行うことが重要となる.本講演では,痛みの慢性化のメカニズムと治療法,早期治療の重要性について述べさせていただく.

3. 脊髄刺激療法の進歩

表 圭一

社会医療法人札幌禎心会病院

MelzackとWallのゲートコントロール説(1965年)を基に,痛み緩和のための新しい技術として脊髄刺激療法(SCS)が出現することになった.この説は,「AδとC線維により伝達されるインパルスは,同時に触覚刺激や太い有髄性Aβ線維の電気刺激により遮断される」というもので,痛みに対して電気刺激を用いる科学的根拠を最初に示した.1967年にShealyらが,この説を基に初めて脊髄後索電気刺激を終末期がん性痛に苦しむ患者に適応した.しかしその後,SCSは患者選択の不適切性や技術的問題から有効な治療法として確立できなかった.しかし,最近10年間は,技術的進歩,作用機序の知見向上などによりSCSは有効な結果に導くようになり,難治性疼痛に対する治療法として広く受けいれられるようになった.さらに,刺激装置や電極などの器材の進歩や刺激モードの進歩もSCSの有効性を上げることに貢献している.本講演では,刺激装置,電極リード,刺激モード(とくに高周波刺激)の進歩について解説する.

4. 脊髄損傷患者に対する新しい幹細胞製剤―再生医療等製品―

本望 修

札幌医科大学神経再生医療科

われわれは1990年代初頭より,脊髄損傷の動物モデルに対して各種幹細胞をドナーとした移植実験を繰り返し多数の基礎研究結果を報告してきた.自己培養骨髄間葉系幹細胞を薬事法下で一般医療化すべく,治験薬として医師主導治験を実施し,医薬品(細胞生物製剤)として実用化することを試みた.本治験薬の品質および安全性については,PMDAと相談しながら前臨床試験(GLP,non-GLP)を実施し,治験薬は札幌医科大学のCPC(細胞プロセッシング施設)でGMP製造した.治験薬の成分は“自家骨髄間葉系幹細胞(剤型コード:注射剤C1)”,製造方法は“培養”.2013年10月に治験届を提出し,医師主導治験を開始,2016年2月に厚生労働省の再生医療等製品の先駆け審査指定制度の対象品目の指定を受け,2018年12月に薬事承認(早期承認)を受け,2019年2月に保険収載された.2019年5月より保険診療を開始している.

■教育講演

1. 超音波解剖学:重心の前方移動と頸部の痛み

臼井要介

水谷痛みのクリニック

座位での姿勢がよく骨盤の傾きが少ない場合は立位時の重心は耳から肩峰,大転子,膝蓋骨後面,足関節外果前方を通過するが,座位での姿勢が悪く骨盤の後傾が強い場合は立位時の重心は後方に移動する.重心を戻すために腰椎後弯,股関節屈曲,膝関節屈曲,足関節背屈により重心を前方に移動させる.

年齢別の骨格筋総量をbioelectrical impedance analysisによって四肢骨格筋群と体幹筋群に分けて測定したところ,加齢により両筋群とも筋肉量は徐々に減ってくるが,70歳を超えると体幹筋群が急激に減少することがわかった.加齢により四肢骨格筋群の筋肉量が減少しても重心移動は少なく,腰痛は悪化せず,ADLやQOLの低下もなかった.一方,体幹筋群の筋肉量が22 kgより低下すると重心が急激に前方移動し腰痛は悪化し,ADLとQOLも低下した.

前方に移動した重心の調整として頸椎は前弯し,その結果に頸部痛や後頭部痛が生じると考えられる.今回,これらの病態について超音波解剖学的検討を行いたい.

本研究は科研費18K16434「凍結肩に対する選択的超音波ガイド下神経ブロックの確立と超音波地図アプリの作成」の助成を得て行われた.

2. ペインクリニック治療の現在とこれから

伊達 久

仙台ペインクリニック

ペインクリニック治療は今までは薬物療法と神経ブロックが中心であったが,使用できる薬剤が増えてきたが,少量ずつ多種類の薬剤を併用していることも少なからずある.

神経ブロック療法は,近年超音波の普及により安全確実な神経ブロックができるようになってきた.しかしレントゲン透視下のブロックもいまだに重要である.

慢性疼痛患者の中には,薬物療法と神経ブロックだけでは十分な効果が得られないことがある.このようなときにリハビリテーションや心理的アプローチが有用である.難治性患者に対して,多くの医療スタッフがかかわるチームによる集学的治療が必要となってくる.

いまだに多くの慢性疼痛難民がいる.痛みを抱えている患者のうち医療機関に通院している人はまだ少数である.痛みで悩んでいる人に適切な医療を提供することが重要となってくる.そのため医療スタッフだけでなく,医療機関につなぐ「いたみマネージャー」の制度が来年より開始される.

3. 良質な緩和医療のためのオピオイドの整理

工藤隆司

弘前大学医学部附属病院麻酔科

1986年のcancer pain relief発表以来,がん性疼痛に対してモルヒネが積極的に使われ始め,使用可能なオピオイドの種類増加とともにオピオイド使用量も増大した.がん性疼痛の7割は対処可能ともいわれてきた.しかし,2020年10月に報告された国立がん研究センターの大規模な遺族調査では,がん患者の4割が身体的苦痛の問題が解消されないまま最期を迎えたという結果であった.緩和医療には疼痛管理以外にも重要な要素がたくさんあることは言うまでもないが,疼痛管理の質が緩和医療の質にも結びつくことは想像に難くない.2017年にはヒドロモルフォンが使用できるようになり,疼痛管理に使えるオピオイドがさらに増えたが,各種オピオイドでは鎮痛効果発現,投与経路,代謝,副作用などに特徴がみられるため,各がん患者への適合性が重要になる.それらを考慮したオピオイドの使い分けが良質な疼痛管理に重要であり,良質な緩和医療にもつながるはずである.

4. 保険診療実施のうえで注意すべき点―最近の厚生局の指導から―

安田朗雄

医療法人社団安田クリニック

ペインクリニックの診療はほとんどの先生方は保険診療で行っていると思います.ルールブックは療養担当規則で,それに沿って診療を行う分には問題は発生しないのですが,この療担規則は理解しにくく,誤解して診療を行っている先生が多くみられます.なんらかの理由で厚生局に呼ばれ,個別指導を受ける際に指摘されると,過去1年分にわたって保険診療分の返還が生じます.しかも,患者さんの自己負担分も返還しなければならなく,大変な労力がかかることになります.この講演は私が厚生局の指導に立ち会う立場で経験した保険診療上の留意点についてお話しします.

5. ~臨床・研究・教育・子育て・介護~マルチタスク時代のワークライフバランス

大西詠子

東北大学病院麻酔科

ワークライフバランスとは,「やりがいや充実感を感じながら仕事をこなし,子育て期,中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義されています.皆さんは,いかがでしょうか.

麻酔科医として働く日常には,臨床・教育・医局運営・論文などのタスクがあります.家庭には,家事・子育て・介護などのタスクがあります.仕事でのタスククリアは「評価」へつながりますが,家庭のタスクは激務の割に「やって当たり前」で,しかも無給です.このようなマルチタスク時代のワークライフバランスは,男女問わず頭の痛い問題です.いかに仕事と家庭(プライベート)を充実させるか.これには,「タスクシェアと業務効率化」が鍵となります.とくに,仕事と子育て・介護の両立には,業務のタスクシェアは必須です.

本講演では,東北大学病院麻酔科での学生教育・情報共有に関する取り組みや,医局員へ行った働き方に関するアンケート結果をご紹介します.実際に子育て・介護に日々翻弄されながら大学病院で働く者として,リアルな声をお届けできればと思います.ワークライフバランスは,個人でのバランスではありません.皆がお互い助け合い,仕事・家庭・プライベートのライフバランス保つことが大切だと思います.

本研究は科研費19K18235「ソナゾイドと改良エンベロープ法を基盤とした次世代超音波ガイド下神経ブロックの確立」の助成で行われた.

6. 頭痛診療のすすめ

石川理恵

八戸平和病院麻酔科・ペインクリニック

あなたもペインクリニック外来で頭痛診療を始めてみませんか.本講演は頭痛診療にかかわる麻酔科医の仲間を増やしたいと願い,頭痛診療のコツ,面白い症例など臨床で役立つ内容に焦点をあてて解説したい.また,著者が頭痛外来を開設するに至った経緯,外来状況などを報告する.

頭痛専門医の資格をもつ医師の多くが神経内科や脳神経外科の専門医であることが多く,麻酔科医はまだ少数である.われわれは痛み全般の診療を得意としており,薬物療法以外にも神経ブロック療法,漢方治療などを組み合わせた治療を提供できる.これが,ペインクリニック外来で頭痛診療を行うメリットであると考える.頭痛の中には,脳血管障害などの二次性頭痛も含まれているため,それらを見逃すのではないか,画像診断が苦手,あるいは薬剤使用過多による頭痛を合併した難治性頭痛で対処方法に困るなどといった意見もある.それらを克服するコツも紹介したい.

7. 凍結肩の診療の現況と治療指針の提言

山内正憲*1 臼井要介*1,2 杉野繁一*1 山本宣幸*3

*1東北大学麻酔科学・周術期医学分野,*2水谷痛みのクリニック,*3東北大学整形外科学分野

凍結肩は明らかな原因のない肩関節の拘縮により,上肢の可動域低下をきたす疾患である.好発年齢から五十肩ともいわれ,夜間痛が特徴的と考えられる場合もある.炎症に視点をおいた場合は肩関節周囲炎ともいわれる.これら腱板断裂や外傷などがない一次性の肩関節の拘縮と可動域制限については全て同じ病態であり,今年の日本肩関節学会で「凍結肩」という呼称が定義された.一般的な疾患であるにもかかわらず除外診断で定義されるため,疾患名と疾患概念がようやく統一されてきた病態である.そのため,診療内容も医師や施設によって異なり,混乱も生じていた.われわれは疾患概念と診療の統一化を目標に研究を行ってきた.本講演ではその成果を中心に,凍結肩診療の指針を提唱する.

本研究はAMED18950309「選択的神経ブロックによる個別化リハビリテーションと治療効果の定量化を重視した凍結肩の集学的診療ガイドラインの開発」の助成で行われた.

■一般演題

1–1.大後頭神経三叉神経症候群の診断は簡単か.1例報告

飯澤和恵 川前金幸 添川清貴

山形大学医学部麻酔科科学講座

大後頭神経三叉神経症候群(GOTS)は大後頭神経と同側三叉神経支配領域に痛みや感覚異常を生じる症候群であり,多彩な症状を伴い診断に苦慮することがある.複数科で原因不明だったが当科でGOTSと診断した症例を経験したので報告する.

症例は60歳代の女性.

X年1月に転倒し左頭~肩を強打.その後右後頸部痛出現.続いてめまいで入院し,4月より右頬部痛が出現し救急搬送されるほどの激痛となった.薬物療法は無効で,各頭部画像に異常なく5月当科紹介された.初診時最大NRSは10/10で持続痛.臥床で誘発され,右顔面の感覚異常,右眼窩下,後頭部に強い圧痛,頸部X線で変形性頸椎症を認めた.アミトリプチリンの内服と神経ブロック療法で速やかに症状が緩和されたためGOTSと診断した.

本症例における右頬部痛は上位頸神経が三叉神経と三叉神経脊髄路で交叉して起こった二次的な痛みであり,早期診断にはGOTSを啓蒙する必要がある.

1–2.遅発性顔面神経麻痺を合併した三叉神経領域帯状疱疹の1症例

埜口千里 伊達 久 伊藤裕之 西山遼太 唐澤祐輝 末永佑太 鈴木陽子 三浦皓子 飯澤和恵

仙台ペインクリニック

顔面部の帯状疱疹に合併した遅発性顔面神経麻痺に対して星状神経節ブロック(SGB)が奏功した症例を経験した.症例は69歳,女性.三叉神経第1枝領域の発疹と疼痛が主であり,第2枝領域の症状は軽微であった.三叉神経帯状疱疹の診断で薬物療法と1週間に2回のSGBを開始した.疼痛は速やかに軽減し経過良好と思われたが,発症から約3週間後に同側の顔面麻痺を発症した.ステロイド投与,入院での1日2回のSGBを行い,顔面神経麻痺は完全に治癒した.今回,SGBを施行していたにもかかわらず顔面神経麻痺の発症を防ぐことはできなかったが,ステロイドの投与,SGB継続などの加療により麻痺は完全に治癒した.SGBは帯状疱疹の疼痛緩和のみでなく,併発症の治療にも有効であり,発症早期からの施行が望ましいと思われた.

1–3.頭頂部の骨欠損に伴い三叉神経と上位頸髄の神経支配領域に広範な痛みと知覚低下を生じた1症例

中野裕子*1 大石理江子*1 三部徳恵*1 佐藤 薫*1 小原伸樹*1 五十洲 剛*1 小幡英章*2 黒澤 伸*1

*1福島県立医科大学麻酔科学講座,*2福島県立医科大学附属病院痛み緩和医療センター

【症例】59歳女性.

【既往歴】0歳:頭部熱傷に対し分層植皮術を施行された.

【経過】3カ月前より頭痛が出現した.頭部の植皮部位から排膿があったため,前医で感染を疑われ当院を紹介され受診した.慢性の皮膚感染と腐骨による骨欠損の診断で,1週間前に形成外科,脳神経外科でデブリードマンを施行されたが,術後も頭痛が持続したため当科を紹介され受診した.初診時VAS 84,左眼周囲を最強部とし,前額部から後頸部にかけての広範な安静時痛と,左三叉神経1~3枝領域,C2~4領域に知覚低下があった.頭部,頸椎のMRIで原因となり得る他の異常所見はなかった.薬物療法に加え,眼窩上神経ブロック,後頭神経ブロックを週2回程度継続したところ次第に創部の限局した痛みとなり,3カ月後に知覚低下はほぼ消失した.本症例では,創部の支配神経である三叉神経と後頭神経が強い侵害刺激を受け,広範な安静時痛と知覚低下を生じたと考えられる.

1–4.眼窩下神経ブロックに難渋した1例

岩岡里佳*1,2 村上 徹*1 安齋寛之*1 大西詠子*1 山内正憲*1

*1東北大学病院麻酔科,*2仙台市立病院

【はじめに】眼窩下神経ブロックの効果が得られず,後に上顎洞穿破が判明した1例を経験したので報告する.

【症例】68歳男性.30年以上前からひだり第I~III枝領域の三叉神経痛のため,内服治療や神経ブロックを受けていた.慢性膵炎仮性膵嚢胞破裂のため当院消化器内科で加療された際,経鼻膵管ドレナージチューブを鼻翼・頬部に固定された後より三叉神経痛が悪化したため,当科紹介となった.ランドマーク法で眼窩上・眼窩下・オトガイ神経ブロックをそれぞれ施行したところ,第II枝領域のみ疼痛が残存した.眼窩下孔への針刺入時に注射器で陰圧を掛けた際に空気が引けていた.後日,X線透視下に同穿刺孔より造影剤を注入したところ,上顎洞底部が造影され,上顎洞穿破が判明した.

【結語】眼窩下孔は極薄い骨組織で構成されており,慎重な針刺入が必須である.治療効果が得られにくい場合には,上顎洞穿破の可能性を考慮する必要がある.

2–1.難治性がん性疼痛に対する持続脊髄くも膜下鎮痛法導入時の医療資源の確保整備に関する考察

近藤紀子*1 北山治仁*2 伊達 久*3 千葉知史*3

*1坂総合病院麻酔科,*2坂総合病院緩和ケア科,*3仙台ペインクリニック

【症例】70代男性,X−1年12月左肺がん(Stage IIIA)と診断.抗がん剤治療を行っていたがリウマチ肺進行のためX年5月治療終了.6月に左胸背部痛,7月に心窩部突出痛出現.画像所見から主病巣の胸壁および大動脈周囲浸潤による内臓痛・胸膜痛が疑われ9月鎮痛目的に入院.強オピオイド増量と鎮痛補助薬を開始したがコントロール不良のため当科紹介.入院9日目に硬膜外カテーテルを留置し0.2%ロピバカイン4 ml/時で鎮痛が得られた.予後予測は30日生存確率70%以上であり在宅診療を視野に持続脊髄くも膜下鎮痛法を選択,31日目にくも膜下カテーテルポートシステムを造設.鎮痛維持されたが43日目に永眠.

【考察】当治療法は看取るまで継続して安全性・有効性を担保する体制が重要だが,手術麻酔専従の麻酔科医にとり『誰に何を要請すべきか』未知の領域の調整であった.当治療法選択時の留意点についてチーム医療の観点から考察する.

2–2.フェンタニル貼付剤からオキシコドン製剤にスイッチングし良好な終末期疼痛管理が可能となった肝細胞がんの1症例

寺田忠徳

産業医科大学若松病院緩和ケア・血液腫瘍科

【はじめに】フェンタニル貼付剤からオキシコドン製剤にスイッチングし,全人的医療を行った結果,良好な終末期管理が可能となった症例を報告する.

【症例】70歳代の男性.肝臓がん多発転移で,疼痛緩和のため,フェンタニル貼付製剤4.2 mgが8枚貼付されていた.オキシコドン徐放製剤,速放製剤にスイッチングし,鎮痛補助薬を追加し,支持的精神療法,がんのリハビリテーション,家族ケアを組み合わせた結果,良好な疼痛緩和が得られた.

【考察】フェンタニルの鎮痛耐性や,安全域,神経障害性疼痛に対しての基礎データ,臨床報告を鑑み,WHOがん性疼痛ラダーに沿って,オキシコドン徐放製剤,速放製剤による経口投与に変更した.患者の病態や置かれた状況に応じたオピオイド選択や鎮痛補助薬の投与,トータルペインを重視した対応が良い結果をもたらした.患者・家族第一に考えることとともに,医学的,薬理学的根拠に基づいた標準的な対応が重要であることを再認識した.

2–3.慢性疼痛治療中の悪性腫瘍

横田麻衣子 今 紀子 廖 英和

藤村病院麻酔科

慢性疼痛による治療中,既存疼痛部位と同部位に悪性腫瘍による疼痛が新たに出現した症例を3例経験したので報告する.

1例目:81歳男性.胸部帯状疱疹後神経痛の治療中,胸部の疼痛の性状が変わり,疼痛が悪化してきたと訴えあり,精査にて肺がんの胸壁浸潤が見つかった.

2例目:86歳男性.腰部脊柱管狭窄症による下肢痛の治療中,下肢痛の増悪あり,精査にて肺がんの腰椎骨転移が認められた.

3例目:76歳男性.胸腰椎圧迫骨折による背部から胸部にかけての疼痛治療中,胸部の疼痛が悪化してきたと訴えあり,精査にて胸部肋骨に肺がんの骨浸潤が見つかった.

慢性疼痛の治療中にも常に疼痛の原因の再評価を行い,新たな病態が出現していないか確認することが重要である.

3–1.神経根嚢胞を有する患者に対する硬膜外自己血注入にX線透視と造影剤を併用した1例

石川 悠*1 大塲瑠璃*1 大西詠子*1 遠藤俊毅*2 田島つかさ*3 山内正憲*1

*1東北大学麻酔科学・周術期医学分野,*2東北大学神経外科学分野,*3国立病院機構仙台医療センター緩和ケア内科

【はじめに】脊柱管内の疾患への硬膜外自己血注入(ブラッドパッチ)を,X線透視と造影剤の併用で安全に施行したので報告する.

【症例】60歳代,男性.約半年前から続く頭痛の精査でMRIを撮像し,両側慢性硬膜下血腫が発見された.比較的若年で,起立性頭痛があることから,低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫と診断した.脊髄MRIでは多発する神経根嚢胞を認め,仙骨の嚢胞周囲に液貯留があることから,同部位での髄液漏出と考えブラッドパッチを行う方針とした.MRIを元に安全に硬膜外穿刺できると判断したL3/4から,X線透視下に正中に穿刺し,自己血8 mlと造影剤3 mlの混合液が仙骨硬膜外腔に充分に広がることを確認した.3日後の頭部CTでは両側の硬膜下血腫の減少を認め,頭痛の改善が得られた.

【結語】神経根嚢胞を有する患者に対するブラッドパッチを,X線透視により穿刺針を安全な位置に進め,造影剤の併用により確実な効果を期待できた.

3–2.超高齢者の帯状疱疹後神経痛に対して硬膜外ブロック,神経根パルス高周波法で疼痛緩和を得た1例

伊藤裕之 伊達 久 西山遼太 埜口千里 三浦皓子 唐澤祐輝 末永佑太 鈴木陽子 飯澤和恵

仙台ペインクリニック

超高齢者の帯状疱疹後神経痛は治療に難渋することもしばしばである.神経ブロックにより良好な経過を得た症例を経験したので報告する.

96歳女性.強い左前胸部痛のため前医救急外来を受診.左前胸部から背部に水疱を伴う発疹を認め左Th3の帯状疱疹と診断された.入院加療されたが,疼痛緩和が不十分であったため当院に紹介受診された(発症33日目).NRS 10で皮疹が痂皮化した部位にはアロディニアを認めた.夜間痛がとくにひどく食事摂取も困難であったため,同日入院し,硬膜外カテーテルを留置した.0.8%メピバカイン2 ml/時で持続鎮痛を行い,疼痛増強時にはPCA装置で3 ml/回の追加投与を行った.入院後も夜間痛が強かったが,頻回にPCA使用するなどで徐々に痛みは改善された.入院14,15日にそれぞれ左Th3,Th4神経根パルス高周波法を行い軽快退院となった.

3–3.超音波ガイド下に石灰吸引を施行した石灰沈着性股関節周囲炎の1例

千葉知史*1,2 西山遼太*1 埜口千里*1 伊藤裕之*1 三浦晧子*1 飯澤和恵*1 伊達 久*2

*1仙台ペインクリニック,*2あおば・南吉成ペインクリニック

【はじめに】超音波ガイド下に石灰吸引を行い良好な経過を得た石灰沈着性股関節周囲炎を経験したので報告する.

【経過】32歳女性.強い左鼠経部痛(visual analogue scale:VAS 80 mm)を自覚し,症状出現翌日当院初診.左鼠径部に強い圧痛を認めたが腫脹,発赤認めず.採血では炎症反応は陰性.股関節レントゲン撮影で下前腸骨棘付近に径約8 mmの切開沈着像あり.超音波検査で大腿直筋直頭内に不整形高輝度の腫瘤を認め石灰沈着性大腿直筋炎と診断.超音波ガイド下に石灰吸引除去施行.2週間後にVAS 3 mmとなり終診.

【考察】石灰沈着性股関節周囲炎は石灰沈着性腱炎全体の約5.4%を占め,石灰沈着部位は中殿筋が多い.治療法は未確立だが,数カ月の薬物療法で軽快するとされている.本症例より石灰吸引は改善までの時間が短いことが考えられ,石灰沈着部の部位診断も容易に行える超音波ガイド下石灰吸引は石灰沈着性股関節周囲炎に有用である可能性が示唆された.

3–4.バージャー病に対して脊髄刺激療法が有効だった1症例

三浦皓子 伊達 久 千葉知史 伊藤裕之 埜口千里 西山遼太 末永佑太

仙台ペインクリニック

【症例】73歳,男性.

【主訴】両手両足の疼痛.

【現病歴】X年2月ごろに冷水で手を洗った時に両手先端部に痛みを感じた.同年4月から両手指先端の潰瘍を伴う疼痛,両下肢の疼痛も出現したため近医を受診した.53年の喫煙歴,手指虚血症状,高度壊死病変よりバージャー病と診断され疼痛に対する治療が開始されたが,疼痛が強く当院に紹介受診となった.本症例は虚血性疾患重症度分類では最も重症のIV度であった.さらに鎮痛剤やブロック療法には効果が得られなかったため脊髄刺激療法(SCS)を行うこととした.

【経過】本症例は上肢,下肢の疼痛があるため,まず下肢に対してSCSの効果を確認するため,サージカルトライアルを行ったうえで本植え込みとした.上肢に関しては下肢の結果を参考に一期に埋め込みとした.

【結果】上肢,下肢ともに疼痛や痺れは軽減している.

【結語】SCSはバージャー病のような阻血痛に対しても効果がみられた.

3–5.超音波造影剤ソナゾイド®で薬液の広がりを観察した腹直筋鞘ブロック2症例

大塲瑠璃 大西詠子 齊藤和智 熊谷道雄 村上 徹 山内正憲

東北大学麻酔科学・周術期医学分野

【はじめに】超音波ガイド下神経ブロックは,局所麻酔薬をリアルタイムに視認できるが,到達範囲の評価はできない.今回,超音波造影剤ソナゾイド®(第一三共株式会社)を用いて腹直筋鞘ブロックを行ったので,造影効果,X線造影剤との比較,安全性を報告する.

【方法】認定臨床研究審査委員会の承認を得た(CRB2180001).腹腔鏡下試験開腹術の全身麻酔導入後に,超音波診断装置Aplio 300(キャノンメディカルシステムズ株式会社)でブロックを行った.局所麻酔薬にX線造影剤と100倍希釈のソナゾイド®を添加しブロックを行った.造影モードで薬液の広がりを計測した後に単純X線撮影を行った.

【結果】ソナゾイド®で薬液を持続的に観察できたが,X線撮影では不明瞭であった.2症例とも有害事象は認められなかった.本研究はJSPS科研費19K18235および20H02156の助成をうけた.

4–1.他剤変更により牛車腎気丸が有効と判明した幻肢痛の1症例

矢越ちひろ 木村 太 工藤隆司 伊藤磨矢 山田直人 廣田和美

弘前大学医学研究科麻酔科学講座

【症例】50代男性.

【現病歴】X年Y月Z日,農器具に両腕を巻き込まれて受傷し,同日,右上腕断端形成術,左橈尺骨創外固定術,左第3中手骨ピンニングを施行された.Y+2月,右上肢のしびれや電撃痛を伴う幻肢痛のため当院整形外科から当科紹介となった.

【経過】初診時,プレガバリン,トラムセット配合錠,デュロキセチンが処方されていた.デュロキセチンを中止しアミトリプチリンを追加・増量して痛みはなくなりしびれのみとなったが,Y+6月しびれのような痛みが増強したため牛車腎気丸を追加した.しびれは軽快し,プレガバリンをミロガバリンへ変更,トラムセットを中止した.X+1年,牛車腎気丸を桂枝加朮附湯に変更したところ断端痛や左手指の痛みが強くなり,牛車腎気丸を再開すると痛みは改善した.現在は追加薬剤なく経過観察中である.

【結語】他剤変更により牛車腎気丸が有効と判明した幻肢痛の1症例を経験したので報告する.

4–2.前皮神経絞扼症候群の診断,治療にトリガーポイントブロックが有効であった1例

唐澤祐輝 伊達 久 末永佑太 埜口千里 西山遼太 伊藤裕之

仙台ペインクリニック

【症例】症例は67歳の男性で,B型肝炎,C型肝炎既感染(治癒後)の既往があった.1年前からとくに誘因なく間欠的右下腹部痛が出現し,徐々に持続痛となった.二つの病院を受診し,採血,腹部超音波,腹部CT,MRI,尿細胞診,下部消化管内視鏡を行ったが原因が指摘されず,神経障害性痛の疑いで当院に紹介受診となった.身体所見では腹直筋の右辺縁に直径3 cmの限局した持続痛を認め,体動で増悪し,Carnett's test陽性だった.採血,X線検査で有意な所見を認めなかった.前皮神経絞扼症候群を疑い,トリガーポイントブロックを施行したところ著効した.

【考察】前皮神経絞扼症候群は,肋間神経から分岐する前皮神経が腹直筋を貫く部位で圧迫されて生じる.限局した腹痛とCarnett's test陽性などの特徴があり,トリガーポイントブロックや外科手術の効果が報告されている.腹痛は鑑別疾患が多く,低侵襲の診断的治療としてトリガーポイントブロックは有用と考えられる.

4–3.手術希望のない三叉神経痛患者に対し五苓散の一時的な増量が効果を認めた症例

永塚 綾 大畑光彦 宮田美智子 鈴木 翼 本郷修平 鈴木健二

岩手医科大学附属病院麻酔科

症例は81歳女性,身長147 cm,体重50 kg.72歳で聴神経腫瘍に対しガンマナイフ治療施行.約1年前より右下顎部に疼痛出現.当院脳神経外科にて聴神経腫瘍に伴う三叉神経痛と診断されるも高齢のため手術は希望されず,カルバマゼピンによる薬物療法が開始された.2週間後薬疹出現し内服中止,疼痛消失していたため経過観察となったが,8カ月後同部位に疼痛再燃,当科紹介となった.ガバペンチン200 mg/日(分2)と五苓散7.5 g/日(分3)処方により7日後疼痛軽減するも1カ月後再燃.患者の希望もあり,五苓散15 g/日(分6)に増量.1週間後疼痛自制内へ軽減したため7.5 g/日へ減量した.2週間後再度疼痛出現,再度15 g/日(分6)へ増量した.1週間後疼痛軽減したため7.5 g/日(分3)へ減量した後は痛みの再燃なく経過中である.五苓散15 g/日は一般的な用量ではないが2度の再燃した激痛に効果を認めたことから,一時的な増量は有効な手段の一つと考える.

5–1.慢性疼痛の原因の一つに愛着障害が考えられる1例

鈴木陽子 伊達 久 西山遼太 伊藤裕之 埜口千里 唐澤祐輝 末永佑太 三浦晧子 飯澤和恵 佐藤研友

仙台ペインクリニック

愛着障害とは,主たる養育者との適切な愛着関係が形成できなかったことによる障害の総称として用いられる心理学用語である.慢性疼痛の原因に愛着障害の影響が考えられる症例を経験した.

【症例】37歳女性.

【主訴】持続する上下肢の痛み,全身の疲れ,不眠.

【現病歴】11歳から誘引なく両膝と足首の痛みがあり,数カ月に一度発作的に繰り返していた.中学生から月に一回程度の頭痛があった.その後痛みは全身へと拡がり,慢性的な全身の疲労を感じていた.5カ所以上の整形外科や内科,脳神経外科を受診したが軽快せず,X年7月当院初診.

【経過】臨床心理士によるカウンセリングで幼少期から現在にかけての母親との関係性に問題があった.慢性疼痛の原因に愛着障害があげられ,心理面談やリハビリを継続し,全身の痛みは改善してきている.

5–2.マインドフルネス呼吸法の導入によって軽快した陰部痛

末永佑太 伊達 久 西山遼太 伊藤裕之 埜口千里 唐澤祐輝 鈴木陽子 三浦晧子 飯澤和恵 佐藤研友

仙台ペインクリニック

症例は52歳の男性で,陰茎亀頭部の痛みに対して皮膚科で加療を受けたが改善せず,X年8月に当院を紹介受診した.X−1年10月の風俗店利用後より陰部に不快感が出現し,X年1月に陰茎亀頭部に痛みが出現した.着衣による患部の接触および擦れで痛みが増悪し,ADLの低下がみられた.初診時は亀頭部を中心に接触により生じる痛みがあり,VAS(VAS:visual analog scale)は45 mmであった.HADSスコア(hospital anxiety and depression scale)はA項目:14点,D項目:17点と,不安,うつ要素ともに高値であった.心理面接では,風俗店を利用した際の行為に対する不安が強く,痛みの破局化思考が生じ,陰部の痛みとして身体化されていると考えられた.マインドフルネス呼吸法の導入で痛みは軽快し,現在はロフラゼプ酸エチルの内服のみでADLを保つことが可能となった.

5–3.医療従事者のストレスチェック制度

畑中浩成 松川 隆

山梨大学麻酔科学講座

現代はストレスの多い社会である.メンタルヘルス不調になっても,本人,組織が対処出来ず,放置されている.2017年より厚生労働省により,ストレスチェック制度が導入された.本人に最初に気付いてもらう(1次予防).メンタルヘルス不調になる前に対処する.また,集団分析して会社診断(組織)の課題を考察する.今回,病院の医療従事者のストレスの程度を調査した.ストレスチェック制度の課題,医師面談について考察した.

5–4.非侵害性刺激後の脳内c-fos発現に対するオキシトシン神経系の関与

齋藤秀悠*1 日出間志寿*2 西森克彦*2 齊藤和智*1 熊谷道雄*1 村上 徹*1 杉野繁一*1 山内正憲*1

*1東北大学麻酔科学・周術期医学分野,*2福島県立医科大学肥満・体内炎症解析研究講座

【はじめに】オキシトシン(OXT)は,神経伝達物質として脊髄で抗ストレスおよび鎮痛作用を示すことが知られている.しかしながら上位中枢における作用機序には不明な点が多い.今回われわれは行動試験および免疫組織化学により,OXTが脳で非侵害刺激情報の伝達に及ぼす影響を検討した.

【方法】オス6週齢の野生型(WT)とOXT受容体ノックアウトマウス(Oxtr –/–)を用いた.von Frey試験に伴う機械刺激により下肢の逃避閾値を測定した.その後,抗c-fos抗体および抗OXT抗体を用いて,脳内での発現を観察した.

【結果】von Frey試験に対する逃避閾値はWTで0.31±0.17 g,Oxtr –/–で0.044±0.016 gであった(t検定,p<0.001,n=9).免疫組織学的評価では,扁桃体内側核(MeA)と側坐核(NAcc)においてのみ,c-fosとOXTが検出され,それ以外の部位では発現様式に差を認めなかった.さらに,WTと比較してOxtr –/–ではc-fosとOXTが共局在を示す細胞がより多く観察された.

【結語】非侵害刺激の情報伝達において,MeAとNAccのOXT神経系が関与している可能性が示唆された.

本研究はJSPS科研費20H17773の助成で行われた.

 
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