日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
日本ペインクリニック学会 第1回東京・南関東支部学術集会
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2021 年 28 巻 5 号 p. 78-89

詳細

会 期:2021年1月30日(土)

ライブ配信:2021年1月30日(土)

オンデマンド配信:2021年1月30日(土)~2021年2月13日(土)

会 場:Web開催

会 長:木村信康(湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター)

■招聘講演

エコーガイド下fasciaハイドロリリース 肩こり 腰痛への応用

木村裕明

一般社団法人日本整形内科学研究会会長/日本大学医学部機能形態学系生体構造医学分野客員研究員/医療法人Fascia研究会木村ペインクリニック院長

近年,整形外科,麻酔科,膠原病内科,脳神経内科,泌尿器科,歯科口腔外科などの多分野で,原因不明とされてきた「痛み・しびれ」の一因としてfasciaに注目が集まる.fasciaは,全身にある臓器を覆い,接続し,情報伝達を担う線維性の立体網目状組織であり,臓器の動きを滑らかにし,これを支え,保護して位置を保つ全身を繋ぎ・支えるものである.そして,筋膜myofasciaだけでなく支帯,靭帯,関節包,腱鞘,脂肪体,皮下組織,硬膜・黄色靭帯複合体などを含む.これらには侵害受容器が豊富に存在し発痛源source of painとなりうる.fasciaの定義は世界的に議論が続くが,われわれは2019年4月に「ネットワーク機能を有する目視可能な線維構成体」と表現した.このfasciaを治療対象とする手技が,2014年にわれわれが考案したエコーガイド下fasciaハイドロリリース(ultrasound-guided fascia hydrorelease,US-FHR)である.US-FHRは,エコーを用いてfasciaを生理食塩水等の薬液でリリース(剥離separation+弛緩relaxation:エコー画像上では“白く厚い帯状のfascia”をバラバラにするように薬液を注入)し,鎮痛効果に加えてfasciaの柔軟性(伸張性および滑走性)の改善を期待する手技である.局所麻酔薬を使用しないために副作用も少ない.

US-FHRの実施にあたり発痛源評価はきわめて重要である.問診,身体評価(整形学的検査・発痛時の動作分析等),末梢神経分布・関連痛パターン・dermatome・fasciatomeの他にangiosome(体組織がどの源血管によって血液供給されているかを表した血流地図)等の知識も活用する.これらを精密かつ短時間で評価するには,医師,理学療法士,鍼灸師などからなる多職種連携が必要であるが,その場合の共通言語が「解剖・動作・エコー所見」である.今回は,肩こり・腰痛におけるUS-FHRの適応と評価,そして多職種連携治療を提示する.

■教育講演

「筋膜」の痛みのメカニズム

田口 徹

新潟医療福祉大学リハビリテーション学部理学療法学科/新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所

厚生労働省が実施する国民生活基礎調査によると,肩こりや腰痛は自覚症状としてもっとも訴えの多い国民病であり,その多くは非特異的かつ慢性難治性である.肩こりや腰痛の痛みの発生源として筋や筋膜(muscle fascia)が想定されるが,これまでに筋膜自身が感覚センサーを有し,侵害受容を担う組織であるかについての実験的証拠は乏しかった.近年,われわれは下腿筋膜や胸腰筋膜に着目し,1)筋膜にサブスタンスPやCGRP,peripherin陽性侵害受容線維が密に分布すること,2)単一神経記録法による電気生理学実験より,下腿筋膜への侵害刺激に応じる細径線維受容器(Aδ/C線維)が存在し,Aδ線維は主として機械刺激のみに強度依存的に応答する機械侵害受容器である一方,C線維の多くは機械・化学・熱刺激のすべてに応じるポリモーダル受容器であること,3)下腿筋膜に侵害ピンチ刺激を行うと,痛みのマーカーであるc-Fosタンパク陽性細胞がL2~L4腰髄後角表層の中央部に密に分布すること,4)in vivo麻酔下の電気生理学実験において,胸腰筋膜に受容野をもつ脊髄後角ニューロンが存在し,その割合は実験的炎症において顕著に増加することをみいだした.以上の結果は筋膜侵害受容の末梢神経および脊髄機構として重要な知見であり,筋膜が正常時の侵害受容だけでなく,病態時の痛覚過敏にも寄与する可能性を示唆している.

また,ヒト被験者を用いた精神物理学的研究では,筋膜の痛みは,周辺の皮下組織や筋組織の痛みとは局在や性質が明らかに異なり,痛覚過敏をともなう病態においても,とりわけ感作されやすい性質をもつことがわかってきた.これらは筋・筋膜性疼痛における「筋膜」の重要性を示唆する知見である.

本講演では,ヒト被験者や動物実験から得られた筋膜の痛みの最新知見を紹介する.

■特別講演

現代医学的イメージで解説する『痛みを操る漢方』

冨澤英明

東京蒲田病院整形外科

演者は市中病院の整形外科医ですが,10年以上前から診療の全て(周術期,疼痛コントロール,創傷治療,リハビリなど)に漢方を活用し,運動器疾患に適した処方を模索しています.東洋医学を専門としていない分,漢方を現代医学的見地から解釈をし,薬の働きを簡単なイメージで捉えることで,簡便に処方することを追求しています.今回は疼痛漢方のイメージしやすい考え方と使い方を,具体的な処方例をもってご紹介致します.

①痛み止めの生薬:麻黄と附子の使い分け

麻黄剤は,急性期,表層の熱感を伴う炎症性の疼痛に,附子は慢性期,深層の冷えを伴う拘縮の痛みに対応します.運動器における表層とは,皮膚,関節~筋肉,深層は骨~靭帯付着部,筋付着部と考えます.―麻黄剤;皮膚,関節の急性期の炎症性の痛みに『越婢加朮湯』,急性期の頸部から上肢の筋筋膜痛に『葛根湯』,四肢・体幹には『麻杏薏甘湯』.―附子剤;冷えを伴う上肢の慢性疼痛に『桂枝加朮附湯』,冷えを伴う下肢の慢性的な痛み,しびれに『八味地黄丸』『牛車腎気丸』.麻黄と附子を両方含む『麻黄附子細辛湯』,『葛根加朮附湯』.

②血流を改善:“瘀血”,“血虚”の理解

運動器の痛みの本質は,阻血(血が行かない,循環が悪い)です.例えば外傷急性期は,動脈が破綻,阻血+炎症反応,浮腫や内出血,静脈破綻によるうっ血で痛みが出るとイメージします.うっ血=“瘀血”と捉え,駆瘀血剤―軟部組織の瘀血に『桂枝茯苓丸』.骨・骨膜に『治打撲一方』.

慢性期の疼痛は,血行が悪化しており,局所が治らないから痛みが続いている状態であると捉えます.“血虚”とは血行不良の状態を指し,生薬“当帰”を含む処方が対応します.―血虚による運動器疼痛の代表薬は,『疎経活血湯』.“麻黄+当帰”の『薏苡仁湯』.

③柴胡剤:“柴胡”を含む処方

現代の神経系疼痛抑制薬(デュロキセチンなど)に通じ,それらに併用し,効果増強が期待できる.①,②にも併用可.緊張が取れず筋が弛緩しない痛み,交感神経が優位になっているCRPS様の痛みが対象―『四逆散』『加味逍遙散』『抑肝散』など,精神状態によって使い分ける.

■企業講演

外傷性神経障害性疼痛の治療―疼痛学EBMで有用治療を検証―

金井昭文

北里大学医学部新世紀医療開発センター・疼痛学

神経障害性疼痛は障害された体性感覚神経系の分布領域に生ずる痛みで,刺痛,電撃痛,灼熱痛を主な性状とし,痛覚過敏,アロディニア,自発痛を併発しやすい特徴がある.外傷や手術による神経障害性疼痛では侵害受容性疼痛との混在である.その慢性化においては,近年のシステマティックレビューにより,若年,肥満,喫煙などの患者因子だけでなく,疼痛治療の選択や急性痛の程度など,医療者関連の要因も明らかにされた.

慢性痛の予防に有力なのが局所麻酔薬による区域麻酔であることがRCTのメタ解析で示されている.薬物全身投与では,ケタミン,リドカイン,プレガバリンが有効であることがメタ解析で示されたが,いずれもNSAIDsやオピオイド鎮痛薬に併用した場合である.急性期にプレガバリンを併用すると,急性痛は軽減し,オピオイド鎮痛薬を減量することができる.また,慢性痛,とくに慢性神経障害性疼痛が予防される.ただし,用量は150 mg/日以上であり,目まいとふらつきが生じやすく,ADLの低下した急性期には注意が要る.急性期にオピオイド鎮痛薬を過量投与すると,急性痛はむしろ強まり,慢性痛の発症頻度も高まることが明らかにされている.オピオイド鎮痛薬は痛み刺激の減弱に応じて減量することが重要である.

慢性神経障害性疼痛にはガバペンチノイド,セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI),三環系抗うつ薬が第一選択薬となる.SNRIは悪心や頭痛の副作用があり,重症の腎障害や肝障害で禁忌である.三環系抗うつ薬は口渇や便秘の抗コリン作用が強く,緑内障や心筋梗塞6カ月以内で禁忌であることなどから,最も使用されるのがガバペンチノイドである.本邦で保険適用されるガバペンチノイドには,ガバペンチン,プレガバリン,ミロガバリンがある.中枢性神経障害性疼痛への適用はプレガバリンだけである.ミロガバリンは末梢性神経障害性疼痛の適応にて新たに承認された薬剤である.

■市民公開講座

ペインクリニックとリハビリのもっといい関係

江原弘之

西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科部長/理学療法士

『ペインクリニックとリハビリが協働し,補完しあって痛みを治療することが重要かもしれない』と私は思い立ち,痛み診療にかかわるようになり12年が経ちます.リハビリといえば,干渉波治療や腰の牽引を思い出すかもしれませんが,3カ月以上続く痛みには効果的ではありません.ペインクリニックの神経ブロック療法と併せ,運動療法を行うリハビリが重要です.しかし,患者さんにおいては『リハビリしたら痛みが強くなる』という誤解があり,運動療法に抵抗がある方も多いと思います.

誤解を解くためリハビリの役割をご説明します.慢性腰下肢痛は骨や関節や靭帯や筋肉などの炎症や,椎間板ヘルニアが関与する神経痛,脳が変化し通常感じない痛みが起こるなど複合したメカニズムで構成されます.加えて心理的な要素や,環境のストレスが関与するためとても複雑になります.なかでもヘルニアによる坐骨神経痛の例では,医療者も患者さんも痛みを間違えてしまうことも多いのです.本当に神経痛が起こっている場合と,関連痛という別の痛みが神経痛と錯覚させていることがあるからです.神経の治療をして痛みの改善が停滞する場合,関連痛を疑い姿勢や筋力のアンバランスや全身持久力などから総合的に判断し,運動療法を実施できる理学療法士が対応するべきです.炎症や神経痛は治療で改善しますが,痛みと関係する体の機能低下は改善しないことも多いので,リハビリが根本的に痛みを改善するオプションとなります.

さらに運動療法には鎮痛薬より効果が勝るという研究が増えており,これからの痛み治療には『ペインクリニックとリハビリのもっといい関係』による協働がもはや必須といえます.本日はこれまでに経験してきた学際的ペインクリニック診療,赤ちゃんの動きを取り入れた運動療法,医療者と患者のパートナーシップ,地域活動や痛みの治療ネットワークなど,もっといい関係づくりに役立つお話をしたいと考えています.

■一般演題

1. 頭頸部痛

1–1 頭痛で紹介された真菌性副鼻腔炎症例

天野功二郎 田邉 豊 権藤栄蔵 宮崎里佳 中村尊子 吉川晶子

順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック

慢性頭痛として紹介され,改めて撮影した頭部MRIで蝶形骨洞の真菌性副鼻腔炎が指摘された症例を経験したので報告する.

【症例】59歳,男性.174 cm,64 kg.

【主訴】右眼窩から後頭部痛.

【現病歴】以前より頭痛を認めていたが,受診11カ月前ごろから痛みが増強し近医を受診し頭CT,MRI画像で異常は認めず,片頭痛,筋緊張性頭痛と診断された.NSAIDs,トリプタン製剤,エペリゾンが処方されたが,効果を認めなかった.いくつかの内科を受診するが,1回/2~3カ月程度で強い頭痛が生じていたため当科に紹介となった.

【初診時現症】右眼窩奥から後頭部の痛みを訴えていたが,受診時は落ち着いておりNRS 2であった.痛いときは,後ろから突き刺されているような持続痛で眼窩周囲や顎も痛くなり,夜間痛も認めていた.また1週間前ごろから手元以外は物が二重に見えるため眼科を受診し眼精疲労といわれていた.右天柱に圧痛,頭を右に傾けると肩の張り感を認めた.副鼻腔炎を示唆する症状は認めなかった.血液検査で異常は認めなかった.

【既往歴】40歳代に尿管結石以外,とくになし.

【治療経過】頸椎MRIと再度,頭部MRIを予定し,great occipital trigeminal syndromeと考え,右後頭神経ブロック(天柱);1%メピバカイン4 ml,デキサメサゾン3.3 mgを施行した.2週後に再診となり,痛みは消失していた.頸椎MRIで軽度,変形性頸椎症は認めた.頭部MRIで右蝶形骨洞の真菌性副鼻腔炎が指摘されたため耳鼻科に紹介し,受診6週後に摘出術となった.

【まとめ】great occipital trigeminal syndromeと考えたが,複視が気になり再度,頭部MRIを再検したことが診断につながった.真菌性副鼻腔炎は,健康成人ではまれである.文献的考察を含め報告する.

1–2 BMS患者におけるレスティングステートの検討

篠崎貴弘 高根沢大樹 今村佳樹

日本大学歯学部口腔診断学講座/日本大学歯学部付属病院ペインクリニック科

【目的】burning mouth syndrome(以下,BMS)は,国際疼痛学会によると,器質的な変化や検査所見にも異常がないにもかかわらず続く,舌やその他の口腔粘膜の灼熱痛を伴う疾患である.最近になってBMSと末梢神経障害や中枢神経障害の関与や,それらの相互作用が注目されるようになり,併せて中枢の痛み調節機構にも変調が生じていることが明らかとなってきている.そこで,われわれはfMRI(機能的MRI)を用いてBMS患者におけるレスティングステート(rs)での脳機能的な結合を検討した.

【方法(methods)】日本大学歯学部付属歯科病院口腔診断科およびペインクリニック科で一次性BMSと診断された,40~70歳のBMS患者を対象に,3T MRI撮影を行った.また,BMS患者ならびに健常者に対して心理テストを行い,本症患者の心理状態について分析を行った.

【結果(results)】rs-fMRIにおいて,BMS患者群は健常者(以下,Control:Co)と比較して,正の相関・負の相関それぞれにおいて変化が認められた.また,心理的側面においてもBMS患者はCoと比較し有意な差を認めた.

【結論(conclusion)】BMS患者はCoと比較して,扁桃体や前帯状皮質におけるコネクティビティが減弱しており,疼痛制御機構に影響している可能性があるだけでなく,被殻を含む報酬系ネットワークが痛み認知の際にダイナミックに活動し,痛みの慢性化に関与していることが示唆された.また,前頭皮質などのコネクティビティ増強が,情動的側面において疼痛の修飾にかかわる可能性がある.

【キーワード】BMS,fMRI,レスティングステート,コネクティビティ

1–3 糖尿病が原因と考えられた口腔顔面痛の1例

鈴木雅登 木下 勉

徳寿会相模原中央病院麻酔科

【症例】50歳男性,既往歴:なし,身長169 cm,体重85 kg.

X年6月顔面痛を訴え当院内科受診.採血にてHbA1c 10.9%,2型糖尿病と診断され,痛みのコントロール目的で当科紹介となった.糖尿病に対してはひとまず内服治療はせず,栄養指導による食事療法を行うこととなった.

食物を口に入れると電撃痛が左下顎角部・耳介後部・舌根部に出現し,一度痛みが出ると数分間持続し触れられないほどであり,この1カ月ほどまともな食事をしていなかった.痛みの部位や性状から舌咽神経痛を疑いカルバマゼピンを処方した.

治療開始より徐々に痛みは軽減し,HbA1cも7月には8.2%と低下,順調な経過をたどっていたが,8月初旬に痛みが左から右に移動したとの訴えがあった.痛みの部位も性状も左と同様であった.また嚥下時に痛みが誘発されるわけではなく,綿棒で舌・咽頭を刺激しても痛みが出現しないため,典型的舌咽神経痛ではなく糖尿病性神経障害と考え,デュロキセチン処方,星状神経節ブロックを行うこととした.

右側の痛みも徐々に軽減,HbA1cも8月末に6.1%となり,その後も痛み・血糖コントロールは良好であった.現在痛みは少し残っているものの日常生活に支障なく過ごされている.

【考察】糖尿病の三大合併症の一つである糖尿病性神経障害は四肢末端の神経障害であることが多いが,まれに脳神経である三叉神経や舌咽神経などの神経障害を引き起こすことがある.今回,痛みの部位や性状から舌咽神経痛を疑ったが,反対側にも痛みが出現したため糖尿病による神経障害性痛と考え,血糖コントロールと平行してデュロキセチン内服と交感神経ブロックを行うことで良好な鎮痛を得ることができた.

1–4 詳細な痛みの要因分析を実施した頸肋を伴う両上肢痛の1症例

西 啓太郎*1 江原弘之*1 岩﨑かな子*2 内木亮介*2 中西一浩*2

*1西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科,*2西鶴間メディカルクリニックペインクリニック科

【はじめに】頸肋を伴う両上肢痛の1症例を通じて詳細な痛みの要因分析を実施した.

【症例】20歳代,男性.

【経過】X年Y−3月に自慰行為を発端として両上肢痛が出現した.生活動作に支障をきたし,Y月Z−22日に他院を受診した.そこで星状神経節ブロック注射を受けるも症状は不変であったため,Y月Z日に紹介にて当院受診となった.

【臨床所見】痛みは前腕に強く,上腕,手指の症状は軽度だった.NRSは5/10であった.痛みは洗髪,パソコン作業,ゲームで増悪し,入浴などの温熱で緩和した.上肢下垂位でも痛みがあった.X線検査は両側に頸肋を認め,整形外科的テストはRoosテストのみ前腕に痛みを誘発したが,その他の神経系テスト,脈管系テストは陰性だった.主治医は非器質的疼痛を疑い,痛みの要因について理学療法士に評価を依頼した.

【理学療法評価】ROMは肩関節可動域の軽度低下と前腕の屈筋に圧痛を認めた.動作テストは,上肢から上部体幹を用いた動作が拙劣であった.質問紙ではQuickDASHは20.5点,仕事94点,PCSは41点,TSK-11Jは26点,HADS A 8点,D 5点だった.理学療法士は頸肋による神経および血管の圧迫の可能性はきわめて少ないと医師に報告した.

【結果】治療は星状神経節ブロックと,抗うつ剤の投薬,上肢から上部体幹の強化を目的とした運動療法を実施した.X+3カ月後,NRSは2/10,QuickDASHは10点,仕事18.75点,PCSが20点,TSK-11J25点,HADS A 4点,D 5点となった.

【考察】本症例の痛みは上肢から上部体幹のmovement systemが破綻したことによる筋筋膜性疼痛が心理社会的要因によって修飾されたものと推測される.

【結語】頸肋を伴う両上肢痛の症例に詳細な痛みの要因分析から治療を選択し,痛みの軽減を得られた.

2. 神経ブロック・インターベンショナル治療

2–1 特発性脳脊髄液漏出症に対し,Raczカテーテルを用いて自己血注入療法を施行した1症例

飯田史枝*1 今井美奈*2 秋山絢子*1 石橋千佳*1 斎藤貴幸*1 前田 剛*1 山口敬介*1

*1順天堂東京江東高齢者医療センター麻酔科・ペインクリニック,*2済生会川口総合病院麻酔科

【はじめに】特発性低髄液圧症候群(SIH)に対し,Raczカテーテルを用いた硬膜外自家血パッチ(EBP)が奏功した症例を経験したので報告する.

【症例】38歳の女性.頭痛と嘔気を主訴に,当院脳神経外科を受診した.外傷歴はなく,受診前日に軽い運動(キャッチボール)を行った.1週間の安静後も症状が持続したため,精査目的で入院となった.症状は,座位,立位保持15分で頭痛と嘔気が出現し,30分以上の立位持続が困難であったが,臥位で消失した.MRIでC1/C2に髄液漏出部位が確認され,SIHの診断となった.C1/2以下,胸椎まで漏出部位がびまん性に認められたため,Th3/4から穿刺し,Raczカテーテルの先端をC3付近まで進め,EBPを施行した.術後,頭痛,嘔気は消失したが,両肩,頸部にはりを認めたため,後日トリガーポイント注射を施行したところ,症状は軽減し,退院となった.

【考察】SIHは,脊髄硬膜外に髄液が漏出する疾患で,起立性頭痛を中心とする多彩な症状を呈する.起立性頭痛の他に,めまい,嘔気,やる気がでないなど非特異的であり,交通外傷や腰椎穿刺が原因となることもあるが,その原因が特定できないことも多い.本症例では,明らかな外傷歴がなかったものの,キャッチボールにより発症したことが推察された.治療は,保存的治療を行い,症状が軽快しない症例においてはEBPを施行することが一般的であるが,本症例のように漏出部位が上位頸椎に存在する場合,確実な血液の注入が難しい.今回,Raczカテーテルを用いることにより,目的部位への確実な血液注入が可能となり,上位頸椎に対するEBPにおいては有用な方法と考えられた.

2–2 自律神経評価によって神経ブロック療法の効果判定は可能か

小林玲音*1 武冨麻恵*1 米良仁志*1 原 詠子*1 松本美由季*1 小林如乃*2 増田 豊*3

*1昭和大学医学部麻酔科学講座,*2昭和大学医学部公衆衛生学講座,*3東京クリニック

【はじめに】神経ブロック療法が自律神経に影響を及ぼすことでQOLを改善させるかどうかの報告は少ない.今回,自律神経評価によって神経ブロック療法の効果判定が可能か調査した.本研究は昭和大学倫理委員会(受付番号3114)の承認を得た.

【対象と方法】2019年11月から2020年9月までに神経ブロック療法入院した慢性疼痛患者63例を対象とし,痛み評価としてNRSとペインビジョンによる痛み度を,QOL評価としEQ5D5L,SF36のPCSを,自律神経機能評価として心電図R-R間隔変動係数(以下CVRR)を入院加療前後で測定した.統計処理として,相関分析,t検定,Wilcoxon順位和検定,Wilcoxonの符号付順位検定を用いた.

【結果】痛み,QOL,自律神経評価すべてが評価可能であった35例で解析を行った.

これら35例において,神経ブロック療法後にNRSと痛み度は低下,EQ5D5LとPCSは上昇した.CVRRは有意差が認められなかった.

35例をCVRR上昇群16例と減少群19例に分けて解析を行った.CVRR上昇群と減少群で,痛み,QOLの変化に差は認められなかった.

次にQOL上昇(EQ5D5LまたはPCSが上昇)群27例と減少または不変群(QOL減少群)8例に分け,さらにQOL上昇群を,CVRR上昇(QupCV上昇)群13例と減少または不変(QupCV減少)群14例に分けて解析を行った.QupCV上昇群はQupCV減少群に比べてPCSが上昇した.

35例中,痛み低下(NRSまたは痛み度が低下)群31例と上昇群4例については症例数が少なかったため解析を行わなかった.

【考察】神経ブロック療法により痛みが低下しQOLが上昇したが,CVRRに変化は認められなかった.QOLが上昇した症例に限りCVRR上昇群が減少群よりもPCSが上昇したが,CVRRの変化によってQOLの変化は認められなかった.神経ブロック療法の評価として,疾患や部位,ブロックで分けた解析や,交感神経,副交感神経をより直接的に測定することができるHFやLF/HFといった自律神経機能の詳細な測定などが必要であり,症例数を増やしたさらなる研究が必要と考えられる.

【結論】神経ブロック療法により痛みと日常生活動作が改善した.

2–3 仙腸関節ブロックが診断に有効だった2例

新堀博展 丸田秀郎 打越絵理子 伊藤純子 齋藤義孝 立山俊朗

緩和会横浜クリニック

下肢痛を主訴に来院し,診断と治療に仙腸関節ブロックが有益だった2例を報告する.

症例1)10歳代男性.5年前から時々腰痛があったが,2週間前から左臀部痛,左下肢痛が出現した.近医を受診し,腰椎MRIの結果,腰椎分離症を指摘され,所属する運動部の練習休止,コルセット装着,NASIDの内服を指示された.しかし,下肢痛が次第に増強するため当院を受診した.腰椎MRIではT2およびSTIR法で両側L3椎弓根の高信号を認めたが,その他脊柱管内には異常を認めなかった.圧痛は左傍脊柱と臀部,上後腸骨棘(PSIS)内側に認め,またワンフィンガーテストでもPSIS内側を指し示した.鑑別のため超音波ガイド下に仙腸関節ブロックを行ったところ,薬液注入時に強い再現痛を認め,30分の安静後にはほぼ痛みが消失した.2週間後の診察時にも軽度の腰痛はあるものの下肢症状は認めなかった.

症例2)70歳代男性.3カ月前より出現した左下腿外側痛を主訴に来院.痛みは歩行直後に痺れを伴って左下腿外側に出現した.感覚異常,筋力低下は認めなかった.前医で撮影された腰椎MRIではL2椎体にSTIR法で高信号とL1/2,L4/5レベルで脊柱管狭窄を認めた.L4/5での硬膜外ブロック,左L5神経根ブロックを行うも効果が乏しく,鑑別のため左仙腸関節ブロックを超音波ガイド下に行った.薬液注入時には再現痛はなかったが,30分の安静後には痛みは軽減し,1週間後の診察時にも痛みは軽減していた.

今回の2症例に共通する事象として,両症例とも坐骨神経痛様の下肢痛が主訴であったこととMRIで目立つ異常が認められたことがあげられる.仙腸関節由来の痛みは多岐に渡り,ときに根性坐骨神経痛と鑑別が困難である.鑑別の手段のひとつとして仙腸関節ブロックが有用であるが,それには正確にブロックを行うことが重要である.超音波装置はその一助となると考えられた.

2–4 L5椎間板へのコンドリアーゼ投与で難渋を予想した1症例

高谷純司

明野中央病院ペインクリニック

【はじめに】腰椎椎間板ヘルニアの治療薬であるコンドリアーゼの対象は,椎間板変性や椎体変形が軽微なものまでに限られる.そのため対象症例での運針は一般に容易である.しかしL5椎間板穿刺で腸骨が干渉する場合,運針にしばしば難渋する.

今回,L5椎間板へのコンドリアーゼ投与で運針難渋を予想した症例を経験したので報告する.

【症例】31歳,男性.身長170 cm,体重62 kg.

L5椎間板ヘルニアによる右下肢痛に対し,コンドリアーゼ投与を決定した.その後に改めて確認したX線では腸骨が高く,MRIからは直線的には運針できないことが判明した.

【対策】投与部位は,椎間板の中心でなくても,9分割の中央であれば十分とされる.それに従い投与点の許容範囲を拡大し,MRI画像上は直線的に到達できる,中心よりやや外側に定めた.また穿刺時には穿刺側の側腹部を伸展させた.

【結果】計画の位置に投与できた.その位置は9分割の中央に含まれた.所要時間は平均より長かったが,患者に特段の苦痛はなかった.

【考察】体位の工夫で腸骨の高さを減じた結果,より外側に刺入点を確保できた.また広げた投与点の許容範囲を厳守したことと,ヘルニアによる疼痛がその後経時的に軽減したことから,髄核に投与できたことがわかった.

【結語】L5椎間板へのコンドリアーゼ投与に難渋すると予想したが,対策のおかげで成功した症例を経験した.コンドリアーゼは髄核に投与しなければ無効で,再投与不可なことからも,事前の計画と対策は重要である.

2–5 高度るいそう患者に対し,コーンビームCT装置を用いて安全に腰部交感神経節ブロックを施行できた1症例

外山恵美子 上島賢哉 濱口孝幸 桑原沙代子 林 摩耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】腰部交感神経節ブロックを行う際は,神経や血管に注意した穿刺が必要だが,腎穿刺の可能性は比較的少ない.今回われわれは,高度るいそう患者の腰部交感神経節ブロック刺入経路近傍に腎臓が位置したが,コーンビームCT(cone-beam CT:CBCT)で安全にブロックを施行し得た症例を経験したので報告する.

【症例・経過】73歳女性.身長155 cm,体重26 kg,BMI(body mass index)10.8 kg/m2.1年前に脊髄炎を発症.対麻痺,膀胱直腸障害をきたし,リハビリテーション後から両下肢痛が遷延し当科紹介受診となった.治療開始前の数値評価スケール(numeric rating scale:NRS)は7であったが,透視下椎間関節ブロックや神経根ブロック,硬膜外洗浄を行いNRSは3まで改善した.その後も痛みは軽減したまま3カ月経過したが両下肢の痺れと冷感が強く,腰部交感神経節ブロックを計画した.腰椎MRIでは,傍脊柱筋の萎縮と脂肪変性を認め,大腰筋は菲薄化し腎臓が腰椎に近接していた.通常の穿刺位置で計測すると,第2,第3腰椎レベルでは腎穿刺が避けられず,第4腰椎レベルでCBCTを用い刺入経路を計画した.造影剤注入後,即座にCT様画像で針先の位置と造影結果を確認し,高周波熱凝固とアルコール注入を行った.治療後は両下肢に温感を認めNRSは0となった.効果は8カ月継続し,日常生活での活動性が改善した.

【考察・結語】CBCTは低線量にもでき,また,軟部組織の描出や3次元画像の作成も可能であり,安全な刺入経路の計画が立てやすい.本症例では,るいそうに加え,下肢麻痺による大腰筋の筋萎縮が存在したことが腎臓が腰椎に近接した一因と思われる.腰部交感神経節ブロックで合併症を防ぐには事前の画像評価が重要であり,通常の透視下で穿刺が困難な場合にはCBCTが有用であると考えた.

2–6 側弯症術後の背部痛と帯状疱疹亜急性期の痛みを一時的脊髄刺激療法でコントロールした1症例

増田清夏 木村信康

湘南藤沢徳洲会病院痛みセンター

【はじめに】脊髄刺激療法は電気刺激による痛みの緩和と血流改善効果があり,帯状疱疹の痛みに対して効果があるとの報告が散見される.今回,側弯症術後,帯状疱疹亜急性期の痛みのコントロールを一時的脊髄刺激療法で行った症例を経験したので報告する.

【現病歴】79歳女性,既往歴は高血圧・糖尿病,1年半前に脊椎側弯症の手術を受け,Th10~L4まで後方固定されていた.持続する背部痛があり前屈姿勢で杖歩行であった.約1カ月前に左胸部に帯状疱疹が出現し,ボルタレン75 mg/日,プレガバリン150 mg/日の内服を行っていたが痛みが改善しないため当院を受診された.

【経過】左Th6領域に背中から前胸部まで帯状疱疹を認めた.水疱は痂疲化しallodyniaを認め,NRSは8/10であった.

脊髄刺激電極リードを2本留置した.1本は脊椎術後の背部痛に対して先端をTh6上端に,もう1本は左Th6の帯状疱疹に対してTh4の椎体中央付近に留置した.電極挿入後当日はNRS 2/10まで低下した.術後2日目は電極刺入による痛みのためNRS 8/10であったが,歩行時の杖は不要となった.3日目より痛みが徐々に減少し5日目にはNRS 3/10まで減少した.13日目に軽度発熱があり電極を抜去し術後14日目に退院となった.退院時のNRSは3/10であった.

【考察】今回,側弯症術後の背部痛と亜急性期の帯状疱疹の痛みを一時的脊髄刺激療法で軽減することができた.過去の報告では,帯状疱疹患者32例に対して一時的脊髄刺激療法を使用し62.5%に有効であり,帯状疱疹後神経痛への移行を抑制でき,疼痛緩和の機序として血流改善効果や興奮性アミノ酸分泌抑制での抗allodynia効果によるとされている.以上のことから脊椎術後の痛みや亜急性期の帯状疱疹の痛みに対して脊髄刺激療法の試験刺激は試してみるべき治療の一つであると考えられた.

3. 腰背部・四肢の痛み

3–1 遷延性背部痛を主訴とした月経随伴性気胸疑いの1例

奥富由貴 田村奈保子 曽根健元 仲本博史 杉本真理子 關山裕詩

帝京大学医学部附属病院麻酔科・ペインクリニック科

【緒言】今回,遷延性背部痛を主訴とした月経随伴性気胸(catamenial pneumothorax:CP)疑いの1例を経験したので報告する.

【症例】20代女性.3カ月前より誘因なく背部痛を認め,救急,外科,整形外科等を受診し,血液検査,CT・MRI施行するも診断に至らず,ペインコントロール目的にて当科紹介となる.初診時,NRS 4/10.疼痛は上背部から左右に放散し間欠的絞扼感も伴った.皮疹,叩打痛もなく,性周期との関連もなかった.当初は非特異的背部痛として,低用量トラマドール・アセトアミノフェン合剤および肝気鬱結も認められたため加味逍遙散を開始した.その後内科にて再度CT施行したところ,穿刺・ドレナージの必要ない程度の左I度気胸が認められた.原因としてはCPが疑われている.今後,症状によっては確定診断としての胸腔鏡検査も検討されている.器質的原因としての気胸の判明および処方薬の効果により疼痛緩和傾向となった.

【考察】CPは希少疾患であり,古典的に狭義では月経開始1日前から開始後3日以内に発症する気胸と定義されてきたが,月経期外発症のnon-CPも30%以上存在する1).近年広義ではnon-CPも含めた胸部子宮内膜症関連気胸と同義に用いられている.症状としては胸痛,背部痛,呼吸困難等があげられ,胸部異所性子宮内膜症の脱落による腹腔空気の迷入が原因とされる.発症は右肺優位だが左肺でも5%発症する2).画像診断は時期によっては陰性所見の場合もあり,再検を要する.確定診断は胸腔鏡検査での子宮内膜組織確認となる.

【まとめ】器質的原因が明確ではない若年女性の遷延性胸痛・背部痛の鑑別として,希少ではあるがCPも念頭に置く必要があると考えられる.

1) Alifano M, Am J Respir Crit Care Med, 2007.

2) Korom S, J Thorac Cardiovasc Surg, 2004.

3–2 母指CM関節症術後症例に対するpain mechanism based approach

江原弘之*1 西 啓太郎*1 岩﨑かな子*2 内木亮介*2 中西一浩*2

*1西鶴間メディカルクリニックリハビリテーション科,*2西鶴間メディカルクリニックペインクリニック科

【はじめに】pain mechanism based approachを行った母指CM関節症術後痛症例について報告する.

【症例】50歳代女性.職業:調理師.主訴は左母指の腫れと痛み.X−1年当院受診し単純X線画像にて左母指CM関節狭小化,亜脱臼疑いあり母指CM関節症と診断した.症状軽快せず大学病院に紹介し,大菱形骨切除術(タイトロープ法)施行.術後も痛みが強いため当院受診した.主治医は痛みの分類の必要性を感じ理学療法評価を指示した.

【理学療法評価】痛みはNRS 7/10で,自発痛が術創部直上にありアロディニアが認められた.握り動作時等に左母指球基部と左手関節背側と示指~小指DIP関節に痛みが出現した.圧痛は左母指球基部と前腕背側の筋・筋膜と上腕二頭筋・三角筋前面に認められた.CM関節周囲に腫脹はあるが痛みはなかった.ROM-Tは左肩関節屈曲・内旋・前腕回内・手関節掌屈に可動器制限があり,背景に著明な左翼状肩甲骨と胸郭右回旋変位との関与が経過中に推測された.Quick DASH 68.1点/仕事100点,PCS 29点であった.

【結果】理学療法は計25回施行し,体幹・肩甲骨強化と肩のストレッチを行った.肩関節ROMの左右差が改善し筋圧痛も改善した.痛みは創部の自発痛とアロディニアは残存したが,CM関節以外の痛みは改善し左肩甲骨痛に変化した.創部自発痛は医師に相談し経過観察となった.

【考察】理学療法の結果から,術後残存する痛みはCM関節症に関連するものではなく創部の神経障害性疼痛とCM関節以外の侵害受容性疼痛または非器質的疼痛の関与が推察された.CM関節以外の痛みは発症に運動系との関連が強いと考え,理学療法を行い痛みは中心化したが,中枢性感作の鑑別が必要と考えている.

【まとめ】母指CM関節症へのpain mechanism based approachにより治療ターゲットが明確になった.

3–3 化膿性脊椎炎による腰痛で生じた頻脈をペインコントロールで管理した症例

太田孝志*1 太田カンナ*2 大石泰男*1 岡 成裕*1 西居智信*1 高須 朗*1

*1大阪医科大学救急医料,*2野中診療所

1カ月以上持続する腰痛で複数回整形外科外来を受診していた77歳男性が,集中治療室(ICU)入院となり,化膿性脊椎炎と心内膜炎と診断された.入院前の整形外科外来では腰痛は既知の脊柱管狭窄症の影響と考えられ,鎮痛剤で経過観察となっていた.血液培養から原因菌はMRSAであり,抗生剤治療を行った.入院後RRが不整な頻脈が持続しており,抗不整脈や電気的カルディオバージョンを繰り返したが,改善しなかった.腰痛に対してフェンタニルを使用したところ,頻脈は落ち着き同調律となった.治療抵抗性の頻脈に対して,疼痛が原因と考えられる場合にはペインコントロールが有効だと思われる.

Tachyarrhythmia improved by management of low back pain in a patient with delayed diagnosis of infective spondylodiscitis

A 77-year-old man presented to the emergency room with a 1-month history of persistent low back pain with the absence of vital sign abnormalities. On several previous orthopedic surgery clinic visits, pathological back pain had not been considered and pain killers had been prescribed because he had low back pain due to lumbar spinal canal stenosis. He was admitted to the intensive care unit for infectious spondylodiscitis and infective endocarditis with disseminated abscess caused by methicillin-resistant Staphylococcus aureus. Shock refractory tachyarrhythmia could not be managed with antiarrhythmic agent in the intensive care unit. Intractable low back pain and persistent tachyarrhythmia were adequately managed by pain control with fentanyl in the intensive care unit. Infectious spondylodiscitis and infective endocarditis were effectively managed with anti–methicillin-resistant Staphylococcus aureus drugs, initially in rotational usage, but the patient died of extended-spectrum beta-lactamase-producing Escherichia coli pneumonia on day 50 of hospitalization. Infectious spondylodiscitis should have been considered for persistent low back pain with hemodialysis, fever, and a history of device implantation. Pain management may be necessary for persistent tachycardia that proves unresponsive to usual antiarrhythmic medications.

3–4 変形性膝関節症による疼痛の原因と治療に超音波が有用であった1例

澤田龍治 中川雅之 森 玲央那 林 摩耶 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【背景】変形性膝関節症(osteoarthritis:膝OA)の診断はX線検査によるKellengren-Lawrence(K-L)分類が用いられ,Grade 0~4に分類される.Grade 2以上でX線検査による膝OAの診断となるが,骨形態変化の乏しい初期の膝OAはGrade 1以下となりX線検査で診断できない.また,骨形態変化が必ずしも疼痛と関連しておらず,膝OAの疼痛には関節外の腱や靭帯を含む軟部組織が関与していることがあり圧痛部位として認められる.超音波は軟部組織の描出に優れており,圧痛部位を確認しながらベッドサイドで施行できるため膝OAの診断や疼痛の原因検索に用いられることがある.

【症例および経過】73歳女性.当科受診5カ月前から左膝内側と後面の疼痛が出現した.膝関節内注射を複数回施行されたが疼痛の改善なくペインクリニック科を受診.荷重時に膝関節痛の増悪や膝内側と後面の圧痛を認めた.超音波では内側側副靭帯に水腫を認めた.X線検査ではK-L分類でGrade 1と膝OAの診断に至らなかったが,MRI検査では内側顆の軟骨の菲薄化と内側半月板が外周への逸脱を認め初期の膝OAと診断された.また,膝後面の疼痛部位に一致して腓腹筋滑液包に水腫を認めた.超音波ガイド下に内側側副靭帯と腓腹筋滑液包へ1%カルボカインを局所投与したところNRS 7から3へ疼痛の軽減が得られた.

【考察】本症例はMRI検査で初期の膝OAと診断されたが,関節内注射が無効で膝関節に圧痛を認めたため関節外の軟部組織に疼痛の原因があると判断した.超音波を用いて疼痛部位を同定し治療につなげることができた.超音波の他の特徴としては,動的な評価や患部の血流増加の有無の評価が可能であり膝OAの診断につながる可能性がある.

【結語】変形性膝関節症による疼痛の原因検索と治療に超音波の使用が有用であった症例を経験した.

3–5 股関節痛に対する神経ブロック療法の経過のなかで見つかった急速破壊性股関節症の1例経験

森 玲央那 中川雅之 澤田龍治 萩原信太郎 林 摩耶 上島賢哉 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【背景】急速破壊型股関節症は70歳以上の女性に多く,1年以内に股関節の破壊を起こす原因不明の疾患である.変形性股関節症に骨粗鬆症,骨盤後斜,臼蓋形成不全,骨頭軟骨下骨脆弱性骨折が関与して発症し,保存的治療が難しい.

【症例】65歳,女性(身長155 cm,体重80 kg).既往歴:子宮筋腫,虫垂炎で手術.内服歴:ボルタレン頓服.10カ月前の転倒を機に発症し,その半年後から急激に悪化した左股関節痛,左下肢痛で当科を受診した.左脚を庇う逃避性跛行があり,Patric-testが陽性で,股関節X線で左股関節裂隙狭小を認めたため変形性股関節症と判断した.患者は手術を希望せず,神経ブロックによる保存的治療となった.

【経過】左股関節痛に対して透視下股関節ブロック(1%メピバカイン5 ml,イオヘキソール300 5 ml,ヒアルロン酸ナトリウム25 mg)を施行し疼痛が改善した.しかし,2カ月後に症状が増悪し同様のブロックを行ったが痛みはほぼ改善なく,透視画像で大腿骨頭の破壊の進行を認めた.当院整形外科を紹介したところ急速破壊型股関節症と診断され全人工股関節置換術が施行された.術後,痛みの軽減とADL(activities of daily living)は改善した.

【考察】急速破壊性股関節症は明確な診断基準がなく,初期段階で変形性股関節症との区別は難しい.通常の変形性股関節症と違い片側性で数カ月単位で急激に骨破壊とそれに伴う痛みや跛行が進行する.今回,われわれは高度の変形性股関節症として治療を行っていたが,2度目の股関節ブロックで症状の軽減がみられず,透視画像で骨頭の破壊が進行していたことから整形外科を紹介し診断に至った.急速破壊性股関節症は急速に骨破壊が進行するため股関節ブロック等の治療効果に変化を認めた場合は鑑別にあげる必要がある.

【結語】変形性股関節症で,治療反応性の急な変化を認めた場合,急速破壊性股関節症を念頭におく必要がある.

4. がん性疼痛

4–1 メサドンにより短期間で良好な鎮痛とADLの改善を得た腎細胞がん仙骨転移の1症例

関  絢 加藤 実 松井美貴 大島雪乃 荒井 梓 鈴木孝浩

日本大学医学部附属板橋病院

【はじめに】今回,複数の強オピオイドならびに神経障害性疼痛治療薬が無効であった腎細胞がん仙骨転移による強度の痛みに対し,メサドンの導入により良好な鎮痛とADLの著しい改善が得られた症例を経験したので報告する.

【症例】54歳男性.右腎細胞がん多発骨転移のため化学療法中の患者で,腰下肢の痛みとしびれのため体動困難となり疼痛コントロール目的に緩和ケアチームに紹介された.オキシコドンを開始し,徐々に増量した結果,臥位での安静時痛は緩和されたが,座位の保持までは困難であった.フェンタニル貼付剤,タペンタドールへのオピオイドスイッチング,ミロガバリン,ノルトリプチリンの併用も奏効せず,嘔気や眠気などの副作用も出現した.アドヒアランスを重視し,患者と効果,副作用について慎重に相談のうえ,メサドン15 mg/日の内服を開始した結果,翌日には安静時痛の緩和を自覚,開始5日目には7割の痛みの軽減を認め,半座位保持が可能となった.20 mg/日で座位も可能となり,病棟内をサークル歩行できるまでにADLの著しい改善が得られた.なおQT延長,過鎮静などの副作用は認めなかった.

【考察】本症例では痛み治療に難渋していた状況から,メサドンの介入により一転して鎮痛とADLの著明な改善を得た.他のオピオイドとは異なるNMDA受容体拮抗作用が有効であった可能性が推定される.薬理学的因子に加え,緩和ケアチームでは治療難渋時の選択肢の一つとしてメサドンを位置づけ,共通認識としていたこと,当初より痛みの原因と鎮痛薬の選択理由について患者に繰り返し説明し,薬物アドヒアランスを高めていたことが円滑にメサドンを開始でき,有効性が得られた要因と考えられた.

【結語】他の強オピオイドでは疼痛コントロールに難渋した腎細胞がん仙骨転移患者において,メサドンにより良好な鎮痛と速やかなADLの改善を得た.

4–2 肺がんの胸膜転移による難治性疼痛に対して神経根高周波熱凝固法が著効した1例

都築有美 西山隆久 前田亮二 岩瀬直人 板橋俊雄 石田裕介 内野博之

東京医科大学八王子医療センター麻酔科

【はじめに】肺がんの胸膜転移による難治性胸部痛に対し,胸部神経根高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RF)を行い,良好な除痛効果を得られた症例を経験した.

【症例】70歳代男性,X年−4カ月に右上葉肺がん・左第9,10,11肋骨転移,壁側胸膜転移を伴う左胸部痛を認めた.疼痛コントロールが不良で,不眠と体動時痛によるADL低下があり疼痛緩和目的で入院となった.オピオイド(ヒドロモルフォン)の増量,レスキューの使用では対処困難だった為,X年に当院ペインクリニックにコンサルトされた.診察所見から胸膜転移による第9~11胸椎領域の胸背部痛と推測された.X+3週に,第9,10,11神経根でのRFを行った.スライター針(99 mm,Ac-4 mm)を使用し,同箇所に慎重に針を刺入した.各々の神経根に電気刺激により痛みの再現を確認後,1%リドカイン1 mlを注入し,除痛とその範囲の確認をした.次に80℃90秒でRFを行った.RF中も異常のないことを確認した.施行中より除痛効果が認められ,バイタル等問題なく,施行時間は約20分で終了した.疼痛は改善したがさらにX+4週に,追加で痛みの強い範囲を追加で第7,8,10神経根にRFを行った.以後レスキューの使用は0回となり,患者の活動性は改善した.その後オピオイドは増量されたが,ADLは低下しないまま,主治医により数回の化学療法が行われた.X+6カ月後に化学療法が原因の食欲不振で入院となった.この時点でのCTでは疼痛原因となった腫瘍はやや増大していたが,痛みはコントロールされており,食欲増大に伴い退院となった.

【考察】胸膜転移は今後急速に拡大する可能性があり,腫瘍も圧痛点も胸椎に近い為,肋間神経ではなく神経根でのRFが選択された.手技として確立した神経根のRFは転移性胸壁腫瘍のがん性疼痛の選択肢になる可能性がある.

4–3 遷延性術後痛として紹介された患者の痛みの原因ががん性疼痛であった1症例

濱口孝幸 上島賢哉 外山恵美子 桑原沙代子 林 摩耶 中川雅之 安倍洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】近年の外科手術増加に伴い,遷延性術後痛が重大な社会問題として認識され,外科系診療科からの相談が増加傾向になりつつある.肺がん手術後の遷延痛として紹介された患者の痛みの原因が肋骨浸潤,がん性胸膜炎であった症例を報告する.

【症例】78歳男性,主訴は持続的な左前胸部,背部痛.当科受診3カ月前に左上下葉肺がんに対してロボット支援胸腔鏡下左上葉部分切除・下葉切除術を施行し,創部痛は2カ月前に軽減した.1カ月前から左前胸部,背部痛が出現し,遷延性術後痛の診断で紹介となった.第5肋間に4 cm,第8肋間に1 cm×4カ所の手術痕を認めたが,痛み部位とは離れていた.皮疹や神経学的異常所見はなく,左前胸部に圧痛,背部に圧痛,叩打痛を認めた.血液検査で白血球9,100/µl,CRP 0.3以下,CEA 7.9 ng/ml,胸部CTで左胸水貯留を認めたが,主治医は術後性変化として問題ないと評価し,放射線科医も再発,転移はないとの読影結果であった.胸椎MRIでも器質的異常はなく,原因は不明のまま鎮痛薬の処方を開始した.しかし,2週間後にも痛みは増悪傾向で夜間痛や湿性咳嗽もあり,胸部CTを再評価したところ,微小な左第4肋骨浸潤,胸膜肥厚を認め主治医に報告した.その後,肺がんの肋骨浸潤,がん性胸膜炎の診断で緩和ケア治療部,呼吸器内科へ紹介となり,オピオイド鎮痛薬の開始と化学療法の計画が開始された.

【考察】本邦では肺がん術後の遷延痛は手術患者の18%にみられると報告があり,術後痛に苦しむ患者は少なくない.一方で本症例のように術後再発などによるがん性疼痛の患者も隠れている可能性を忘れてはならない.本症例は湿性咳嗽や夜間痛を認めたため,胸部CTを詳細に再評価した結果,微小な肋骨浸潤を見つけ得た.悪性腫瘍術後の遷延痛は,患者の訴え,診察所見,血液検査や画像所見などの危険信号を見逃さないよう慎重に対応する必要がある.

4–4 初診時所見から悪性腫瘍を疑った1症例

山口慧太郎*1,2 井関雅子*2 千葉聡子*2 河合愛子*2 濱岡早枝子*2 鈴木博子*2 清水礼佳*2

*1聖路加国際病院麻酔科,*2順天堂大学病院麻酔科学・ペインクリニック講座

【はじめに】肩関節周囲炎の診断で治療されていたが改善しないため,当科へ紹介受診された患者に対し,当院初診時所見から悪性腫瘍の可能性を疑い,ただちに頸胸部CTを施行した結果,原発性肺がんと脊椎転移を認めたので報告する.

【症例】80代,男性.3カ月前に左肩痛のため近医整形外科を受診した.肩関節と頸椎のMRIを施行し,肩関節周囲炎の診断で肩関節内注射,トリガーポイント注射,運動療法を実施したが改善なく,プレガバリン75 mg 1錠とトラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン合剤4錠が処方されていたが効果不十分であった.そのため疼痛緩和目的で当院ペインクリニックを紹介された.初診時所見では,夜間にNRS 8の疼痛が左肩甲骨から左肩の範囲でみられ,診察時の触診では肩関節や周囲筋に圧痛はみられなかった.左肩関節屈曲・外転は自動運動で約80度,他動運動で全可動域屈曲・外転可能であった.感覚検査は左肘内側から左鎖骨周囲まで痛覚軽度鈍麻がみられた.神経学的所見では,Spurling・Jacksonテスト陰性,ALLENテスト陰性,握力は右32 kgw,左28 kgwであった.母指球の萎縮はなかったが,上腕径は左で軽度萎縮がみられた.肩関節と周囲筋に圧痛がなく,神経根のサインも陰性,筋力が不十分で上腕挙上が困難であり,夜間痛も強くこれまでの治療で疼痛緩和が不十分なことから,頸部から胸部の腫瘍病変を疑い当日にCT検査を施行した.その結果,右下葉S9に16 mm大の腫瘤がみられ,原発性肺がんが疑われた.C5左側から傍脊椎領域に3×2 cm大の溶骨性変化あり,C2,Th8,Th11にも溶骨性変化を認めた.そのため呼吸器内科に紹介し,現在治療が開始されている.

【考察】運動器疼痛を主訴とする患者のなかで,夜間痛が強度で治療抵抗性の場合には,再度身体所見を取り直し,腫瘍病変も含めた精査を進めていくことが重要だと考える.

4–5 red flag除外の重要性を再認識した首・肩凝りの1例

西村大輔 小林みどり 塩澤正之 小杉志都子

医療法人社団政松会神田痛みのクリニック/慶應義塾大学医学部麻酔学教室

【はじめに】見逃してはならない痛みの徴候をred flagと呼ぶが,悪性腫瘍の既往があっても,時間が経過している場合にどこまで検査をするか躊躇する場合がある.今回,首・肩凝りで来院した乳がんの既往がある患者さんに造影MRIを施行し転移性多発骨腫瘍,肋骨転移,胸膜浸潤,肝転移が見つかった1例を報告する.

【症例】50歳女性,7年前にStage IIの乳がんに対し左乳房切除術と腋窩リンパ節郭清を施行され,当院受診1カ月前の主治医血液検査でも異常所見は認めなかった.

3カ月前から在宅勤務で,頸部や肩が凝るようになり,中々軽快しないため筋膜fasciaリリース希望で来院した.

来院時,numerical rating scale(NRS):4/10の鈍痛を頸部~肩甲背部に,体動時にNRS:7/10の痛みを認めていた.身体所見上,肩甲背部に圧痛,叩打痛を認めたが,神経学的所見は異常を認めなかった.胸椎レントゲンを施行したが明らかな異常所見は認めなかったが,体動時痛と叩打痛が気になり,早めに造影MRIを施行したところ転移性多発骨腫瘍,肋骨転移,胸膜浸潤,肝転移が見つかった.

【考察】腰痛や頭痛では,危険徴候のred flagがあり,発症年齢・様式,悪性腫瘍やステロイドや免疫不全の既往,感染徴候,広範囲の神経症状や精神症状の有無などがあげられる.本症例では,乳がんの術後7年経過し,血液検査でも異常所見は認めなかったが,身体所見からred flagの除外が必要と考え造影MRIを施行したところ転移性の多発悪性腫瘍が見つかった.2018年版乳がん診療ガイドラインでは,再発リスクの低いStage I・II乳がん術後の定期的な画像検査は全生存期間の改善はしないというエビデンスがあるため主治医は画像検査の定期的フォローは行ってなかったと思われる.

【結語】red flags除外の重要性を再認識した首・肩こりの1例を経験した.

5. 集学的アプローチ

5–1 緩和ケアチームにおけるペインクリニック部門の関わり

飯島香子 大岩彩乃 佐藤暢一 中村陽一 武田吉正

東邦大学医療センター大森病院麻酔科

【はじめに】ペインクリニシャンが緩和チームで果たすべき役割としては,薬物療法への専門的アドバイス,インターベンション治療の実施,がん治癒後の非がん性慢性疼痛の緩和等があげられる.当院においては,緩和ケアセンター主導のもと,多職種連携した緩和ケアが行われている.2018年10月以降は週1回のカンファレンスへ当科が参加し,おもに神経ブロックを必要とする患者の担当を行ってきた.

【目的】介入の経過を振り返り,今後の緩和チームにおける活動の改善策を模索する.

【方法】2018年10月から2020年10月までにおける緩和ケアセンターの依頼表から,ペインクリニック依頼になった患者の依頼内容,介入,除痛状況,経過を抽出した.

【結果】2年間で48名の依頼(男性21名,女性27名)があり,非がん性痛10名,がん性痛38名であった.PS(performance status scale)2は9名,3は5名,4は34名であった.依頼元は消化器外科,循環器内科,泌尿器科が多かった.インターベンション治療では,神経破壊は12症例(腹腔神経叢ブロック4症例,くも膜下フェノールブロック8症例),高周波パルス4症例,埋め込み型硬膜外カテーテル2症例,持続硬膜外カテーテル7症例,持続末梢神経ブロック8症例,脊髄神経刺激装置2症例であった.介入に至らなかった症例は3症例であった.

【考察】一部には,インターベンショナル治療を施行したにもかかわらず,除痛効果が不充分な症例も散見された.その一因として,PS4の患者が大半を占めており,紹介のタイミングが遅い症例も存在した可能性がある.

【結語】依頼件数は増えているが,紹介のタイミングが遅く,介入に至らなかった症例や除痛効果が不充分な症例も存在した.今後,院内の啓蒙活動に努め,早期の介入へ対応できるチーム体制を構築したい.

5–2 一般病院でペインクリニック外来立ち上げについて

坂本典昭

金沢病院

一般病院でペインクリニック外来を立ち上げるのにあたり,病院全体にどのような働きかけが必要か経験したので報告します.

当院は麻酔科常勤が今までいなかった背景があり,ペインクリニックだけではなく麻酔科への理解が少ない状況であった.手術麻酔を行いながらペインクリニック外来を立ち上げるためにどのような問題点があるか,そして問題点に対してどのように対応すればよいか考察を行った.

まず,問題点として,外来枠の確保,看護師への教育,他科との連携に注目した.

外来枠の確保は,麻酔科常勤医が一人しかいないため手術が少ない時間を病院側と相談し,術前外来と同時にペインクリニック外来を併設した.これによって病院収益に影響がある手術数への影響を最小限にして,麻酔科管理料が取れる術前評価およびペインクリニック外来を行うことを病院側から認めてもらう形になった.

次に看護師への教育は,当院は麻酔科管理の手術は整形外科のみであるため,外来看護師は関節内注入など簡単なブロック注射への対応はできるが,硬膜外ブロックや星状神経節ブロックなど体位の工夫が必要なブロックに関する経験がなかった.そこで看護師への勉強会を数回に渡って行い,ブロックの種類,必要物品,体位,モニターの有無,安静時間などを,神経ブロックの有効性,必要性から順に説明を行うことによって,理解を得ることができた.

また,他科との連携ではとくに,整形外科との連携を行っている.まだ,ペインクリニック外来自体は行ってないが,毎朝行われている整形外科のカンファレンスに参加をして,手術対象ではないが疼痛コントロールが不十分な患者がいないか,CRPSのような対応に難渋している患者がいないか連携をとっている.

以上のことを中心とした活動で病院にペインクリニックの必要性を理解してもらい,外来の立ち上げを行っていく.

6. 薬物療法

6–1 ミロガバリンが著効したCRPS type IIの1症例

大橋みどり*1 大橋祐介*2 伊藤杏奈*1 増田陸雄*3 信太賢治*1

*1昭和大学横浜市北部病院麻酔科,*2昭和大学横浜市北部病院緩和医療科,*3昭和大学横浜市北部病院歯科麻酔科

【はじめに】ミロガバリンは電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに対する強力かつ選択的な新規リガンドである.今回,ミロガバリンの初期用量である10 mg/日の初回投与により,50%以上の疼痛改善効果が得られたCRPS type II症例を経験したので報告する.

【症例】71歳男性.X−4カ月に急性大動脈解離(Stanford B),遠位弓部動脈瘤に対して,上行弓部置換+オープンステント挿入術が施行された.術後左第4,5指を中心に尺側の軽度運動麻痺を認めた.その後,左上肢全体の痛みと痺れ,手指の拘縮と腫脹,肩・手関節の可動域制限が徐々に進行した.鎮痛薬はロキソプロフェン頓用だけであった.X年に当科紹介受診となった.受診時,左上肢から手指への鋭い痛みと痺れを訴え,左肩関節拘縮,手関節・第2~5指の腫脹と屈曲拘縮,前腕から手指にかけてアロディニアを認めた.NRSは7であった.X線では明らかな骨萎縮所見はなかった.手術時の腕神経叢損傷に伴うCRPS type IIと診断した.初診時にミロガバリンを1回5 mg,1日2回で処方を開始した.7日後の再診時には,NRSは2~3に軽減した.その後,ミロガバリンを15 mg/日(5–0–10)に増量し,1回目の再診時より星状神経節ブロックを開始した.治療開始後2カ月で,NRSは安静時0~1,リハビリ時2~3となり,左手首に腕時計ができるようになった.

【考察】ミロガバリンはα2δサブユニットに対する高い親和性を示すため,初期用量から著効したと考えられた.また,発症から4カ月と比較的短期間であり,末梢性要素が主な病態であることも著効した一原因と推察した.アロディニアの存在は脊髄後角での中枢性感作が示唆されたが,中枢神経系の可塑性変化には至っていない可逆的な病態と推察した.進行する可塑性変化に対しても予防的に作用した可能性がある.

6–2 右小指切創を契機に発生した難治性疼痛に対してリドカインおよびステロイド注射が奏功した1例

清水友也 佐野 圭 石田裕介 崔 英姫 山田梨香子 内野博之 大瀬戸清茂

東京医科大学病院麻酔科

【背景】今回,包丁による右小指切創を契機に発生した難治性疼痛に対してリドカインおよびステロイド注射が奏功した1例を経験したので報告する.

【症例】49歳女性.X−1年12月に右小指背側を包丁で切って受傷.近医を受診し,皮膚接合用テープで保護.その後,創部はすみやかに閉鎖したが,創部に沿った疼痛は残存した.疼痛コントロール目的に他院を受診し,しばらく経過観察していたが,症状の改善を認めなかったため,X年4月に当院ペインセンター紹介受診となった.受診時所見として,創部に軽度腫脹を認めていたが色調の変化に左右差はなかった.安静時痛はNRS:0/10で,アロディニアもなかったが,動作時にNRS:7/10のずきずきするような疼痛を認め,日常生活に支障をきたしていた.前医からの内服薬は,プレガバリン75 mg 2錠分2,アセトアミノフェン200 mg錠6錠分3,メコバラミン3錠分3であったが,効果を認めなかった.当院では,末梢神経ブロック等も考慮したが,本人の希望なく薬物療法での治療を継続する方針となった.ミロガバリン5 mg分1を開始し,徐々に増量したが著効はしなかった.動作時のNRS:5~6/10を推移しており,ADLの向上は達成できていなかった.初診から12週間後,創部の超音波検査を施行したところ創部の腫脹に一致した部位に炎症性変化を認めた.同日より,同部位にリドカインおよびステロイド注射を開始した.以降,受診ごとに合計5回同注射を行ったところ,NRSは徐々に低下し,創部の腫脹も縮小した.初診から29週間後,動作時のNRS:1/10となり,創部の腫脹も消失し終診となった.

【考察】本症例は,創部の炎症性変化が原因となった難治性疼痛である.炎症性変化を伴った腫瘤に対してリドカインおよびステロイド注射を行うことで,炎症が抑えられ,疼痛の改善および腫瘤の縮小に貢献したと考えられた.

 
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