日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
症例
薬物療法のみで治療に難渋し,神経ブロック療法を併用したcrowned dens syndromeの2症例
梶原 秀年松崎 孝
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 29 巻 10 号 p. 213-216

詳細
Abstract

薬物療法のみで治療に難渋し,神経ブロック療法を併用したcrowned dens syndromeの2症例を経験した.crowned dens syndromeの治療はNSAIDsによる薬物療法が中心であるが,頚部痛や頭痛が強い場合にはトリガーポイント注射や星状神経節ブロックによる神経ブロック療法を併用し,神経障害性痛薬の導入を試みてよいと思われた.

Translated Abstract

We have experienced two cases of diagnosed crowned dens syndrome combined with nerve block refractory to pharmacological therapy. Although rest and pharmacological therapy as NSAIDs were focused, the introduction of nerve block with trigger point injection and stellate ganglion block would be considered if the patients had severe pain.

I はじめに

crowned dens syndromeは,頚椎環軸椎関節の偽痛風で,軸椎歯突起周囲にピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate dehydrate deposition disease:CPPD)が沈着することで発症することが知られている1).急性発症の頚部痛に第2頚椎歯突起周囲の石灰化を伴うことが診断に必須である.症状は頚部痛のみではなく,頭痛や後頚部痛を伴うこともあり,高齢者に比較的多く発熱を伴わない場合も知られている.今回薬物療法に反応性が乏しく,神経ブロック療法を併用し良好な経過をたどったcrowned dens syndromeを2例経験したので報告する.

II 症例

症例1:74歳男性(身長172 cm,体重61 kg).既往歴に糖尿病,逆流性食道炎を指摘されていた.糖尿病は食事療法,運動療法のみの加療で薬物療法は施行していなかった.2カ月前より後頚部痛,頭痛が出現し頚椎単純X線写真では軸椎の軽度変形を認めていた.神経学的所見では両手のしびれが認められ,巧微機能障害以外は感覚異常,筋力低下,深部腱反射に異常は認めなかった.頚部の後屈は困難で回旋および側屈は可能であった.Jackson兆候およびスパーリングテスト陽性のため,頚椎症を疑い頚椎MRIの撮影を施行,C4/5,5/6,6/7に軽度のヘルニアを認め,第2頚椎歯突起周囲に偽腫瘍を認めた.この第2頚椎偽腫瘍には水成分が多く認められていたが,これは偽痛風による炎症で椎間関節に関節液が貯留して偽腫瘍を形成していると考慮された(図1A).この結果,crowned dens syndromeを考慮しプレドニゾロン7.5 mg/日,NSAIDs(ロキソプロフェンナトリウム水和物180 mg/日)の内服とトリガーポイント注射(1%リドカイン10 ml+サリチル酸ナトリウム・ジブカイン配合剤注射液5 ml+デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム5 mg)にて疼痛管理を開始したが痛みの軽減は一時的で継続した.その後,外来加療を継続していたが痛みの改善は乏しく37.5度の発熱および激しい頚部痛,頭痛(NRS 10/10)を呈するようになったため,安静加療目的で入院となった.入院時の検査所見では白血球8,700/mm3,CRP 8.2 mg/dlと炎症反応を認めていた.ロキソプロフェンナトリウム水和物180 mg/日に加えてプレドニゾロン10 mg/日を1週間継続するも痛みの改善は軽度で微熱が継続した.感染症も否定できなかったため抗生剤セフトリアキソンナトリウム水和物2 g/日も併用した.頚部痛,頭痛に対してはトリガーポイント注射,星状神経節ブロックに加えワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の静脈注射およびホットパックを併せて行った.この結果,入院1週間後には白血球4,600/mm3,CRP 0.6 mg/dlと低下,これに伴って頚部痛もNRS 2/10と軽減を認めた.その後,頚部の可動域も改善し入院2週間目に退院となった.退院後,プレドニゾロン5 mg/日まで減量し外来加療を行っていたが,退院1週間で頚部痛は特に明らかな誘因なく再増悪を認め体動困難となり再入院となった.再入院後に施行した頚椎MRIでも椎体炎や悪性腫瘍は否定的で頭部MRIも髄膜炎の所見はなかった.MRIではC2歯突起後方の偽腫瘍は増大傾向が認められていた(図1B).この偽腫瘍の増大は偽痛風による炎症が増悪したため水成分が増加したと考えられた.crowned dens syndromeの再増悪と考え,プレドニゾロンの再増量とロキソプロフェンナトリウム水和物の投与を継続したところ症状は改善を認め再入院22日目に軽快退院となった.その後,外来加療で1カ月をめどにプレドニゾロンを5 mgずつ減量し,最終的に内服は中止に至った.その後再発は認められなかった.

図1

症例1の頚椎MRI,T2強調像

A:初診時頚椎MRI,T2強調像(矢印の部位に歯突起後面に水成分を含む偽腫瘍を認める).

B:疼痛増悪時頚椎MRI,T2強調像(矢印の部位に歯突起偽腫瘍,水成分の増大を認める).

症例2:69歳男性(身長167 cm,体重58 kg).逆流性食道炎の既往以外特記事項なし.2年前より頚椎症の診断でプレガバリン50 mg/日の内服とトリガーポイント注射や頚椎牽引,星状神経節近傍への直線偏光近赤外線照射(スーパーライザーPX)を1週間に1~2回外来で定期的に施行していた.その後両手のしびれの軽減が得られたためプレガバリンは中止していたが,1カ月前より突然後頚部痛および頭痛が出現したため近位整形外科で頭部MRIを撮影したところ明らかな異常はなく,頚椎由来の頭痛と診断された.当院整形外科で頚椎MRIを再度撮影したところC4/5と5/6に軽度のヘルニアが認められる以外は,明らかな異常はなくデキサメタゾンリン酸エステルナトリウム4 mgと1%塩酸プロカインによるトリガーポイント注射とロキソプロフェンナトリウム水和物を処方し外来加療を行っていた.しかし明らかな痛みの増悪因子はないにもかかわらず,徐々に後頚部痛は増悪を認めNRS 10/10と激痛となり体動困難となったためペインクリニック紹介となった.増悪の経過中発熱は認められず,感覚障害や運動麻痺,深部腱反射に異常は認められなかったが,頚部後屈は痛みにより不可能で,頚部の自らの意思による側屈も困難であった.左後頭神経ブロックを透視下に施行するも疼痛は継続するため,crowned dens syndromeも考慮し頚椎CTを施行した.頚椎CTでは第2頚椎歯突起周囲に石灰化を認めたためcrowned dens syndromeの診断に至った(図2).診断後はロキソプロフェンナトリウム180 mg/日,プレガバリン100 mg/日,トラマドール塩酸塩50 mg/日の薬物療法とホットパックを中心に行ったが,星状神経節ブロック,トリガーポイント注射を追加することで,一時的だが頚部の可動性改善が認められた.この結果,疼痛は改善傾向を示し入院2週間目に退院と至った.退院後,症状の増悪はなく現在は2週間に1回頚部へのトリガーポイント注射を施行し,外来診療を継続した.

図2

症例2の頚椎単純CT

A:頚椎単純CT側面像,第2頚椎歯突起先端前後に石灰沈着を認める(矢印).

B:頚椎単純CT水平断像,第2頚椎歯突起先端に石灰沈着を認める(矢印).

III 考察

crowned dens syndromeの正確なメカニズムに関しては現在も不明であるが,頚椎環軸椎関節の偽痛風で,軸椎歯突起周囲にCPPDが沈着することで頭痛や頚部痛が発症することが病態として報告されている13).偽痛風は通常手,肩,膝や足に影響を及ぼすが,頚部や胸部,腰椎にもCPPDの沈着が報告されている2).頚部に沈着すると激しい頚部痛だけでなく頭痛を生じ,頚椎の可動性は不良となるが神経学的な所見が乏しいことが特徴である3).症例1では頚部痛と頭痛,発熱が主な症状で,症例2では後頚部痛と頭痛で発熱は伴わなかった.いずれも神経学的所見は乏しいにもかかわらず,激しい激痛で頚部の自発的な可動は困難で,著しく日常生活の低下に影響を及ぼし入院加療が必要となった.

診断は,X線透視下に環軸関節穿刺を実施し,CPPDの結晶を認めたという報告もあるが3,4),環軸関節では穿刺の手技が難しく一般的でないため診断に難渋することが多い.身体所見において頚部の回旋時痛や回旋制限を伴い,痛みにより他動的に動かすことも困難であることが特徴である5).鑑別疾患として髄膜炎,リウマチ性多発筋痛症,化膿性脊椎炎,側頭動脈炎,変形性頚椎症が挙げられる6).画像診断は単純X線検査では,歯突起周囲の石灰化を検出するのが困難なためCT撮影が重要である.症例2では歯突起前方と後方に石灰化が認められた.頚椎MRIは,crowned dens syndromeの診断に特異性は低いが悪性腫瘍や脊椎炎などの除外診断に有用である.CT上の石灰化の変化は症状の改善後も3カ月継続することが報告されている4).対応が困難である急性の頚部痛では,crowned dens syndromeを早期に疑い,MRIだけで診断がはっきりしない場合はCT撮影を行うことが重要であると考えられた.予後は比較的良好で数週間以内に大部分の患者が後遺症なく改善することが知られている.治療は高用量のNSAIDs,コルヒチン,ステロイドやそれら薬剤のコンビネーションで改善する.NSAIDsは初期治療の第一選択薬だが,改善がない場合に中等量のステロイドが推奨される79)

症例1では,crowned dens syndromeの診断に至ったものの,プレドニゾロン内服と消炎鎮痛薬で頚部痛の管理が不十分であり,逆流性食道炎の既往から患者が内服の追加困難であったため,ステロイドと局所麻酔薬を混ぜた頚部へのトリガーポイント注射や星状神経節ブロックに加えワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の静脈注射およびホットパックを併せて行い,頚部痛と頭痛の疼痛軽減が得られ退院に至った.症例2でもNSAIDsに加えプレガバリン,トラマドール塩酸塩の薬物療法と安静を中心に行ったが頚部痛の軽減不十分で,星状神経節ブロック,トリガーポイント注射を追加することで,頚部痛の軽減と頚部の可動性改善が認められた.神経ブロック療法の意義として,C1,2の病変そのものへの影響ではなく,2次的に生じる頚部痛や可動域制限に有効であったと考えられた.crowned dens syndromeに対する神経ブロック療法や神経障害性痛薬使用に関するエビデンスは存在していないが,疼痛が持続している際には検討してもよい選択肢の一つであると考えられた.プレドニン投与かつ感染症を疑う症例で,歯突起近傍にトリガーポイント注射や星状神経節ブロックを施行する場合は,相対的禁忌と考え神経ブロック療法の選択肢を避けるべきと考えられた.しかし2症例とも,頚椎症の要因を考慮して神経ブロックから得られる一時的な頚部痛や頭痛の軽減から気分的な落ち込みからの改善や,痛みが消失することによる活動性の向上が考えられたため,十分に患者へ神経ブロック療法の利点と欠点を説明し同意を得たうえで施行した.神経ブロック療法によると思われる合併症なく痛みの軽減が得られた.

IV 結語

われわれは,難治性の頚部痛や頭痛が遷延した症例で,MRI検査やCT検査によりcrowned dens syndromeを診断し,消炎鎮痛薬や神経障害性痛薬に加えて神経ブロック療法を併用し症状の改善が得られた症例を経験した.

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top