日本ペインクリニック学会誌
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治療手技紹介
内陰部動脈が可視化困難な症例における坐骨棘レベルでの超音波ガイド下陰部神経ブロックの手技的工夫
浅野 市子柴田 康之西脇 公俊
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2022 年 29 巻 11 号 p. 229-231

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I 緒言

陰部神経は第2,3,4仙骨神経前枝からなる2~6 mmほどの神経である.骨盤内の後壁を走行し大坐骨孔の梨状筋下孔から骨盤外へ出て坐骨棘近傍を越えると,仙結節靱帯(STL)と仙棘靱帯(SSL)の間を内陰部動静脈の内側に並走しながら小坐骨孔から再び骨盤内へ入った後,3終枝に分かれ会陰部に知覚枝と筋枝を送る.

Rofaeel1)らは2008年に超音波(ultrasound:US)ガイド下陰部神経ブロックを報告している.手技は,腹臥位で,コンベックスプローブ(2~5 MHz)を使用し皮膚から約5 cmの深さに坐骨棘を横断面で描出後,坐骨棘レベルで坐骨棘の内側へ続く高輝度のSSLとSSLの背側でSSLよりやや輝度の低い平行線として描出されるSTLおよび坐骨棘の内側を走る内陰部動脈(IPA)の4つのランドマークを確認する.穿刺は平行法で内側から外側へ進め,STL通過時のクリックを得た後,IPAのすぐ内側を走行する陰部神経を目標とする.

今回,Rofaeel1)らの報告した方法で陰部神経ブロックを施行する際,目標となるIPAが描出困難であったため,STLとSSLの靱帯間に薬液注入しコンパートメントブロックとして陰部神経ブロックを施行したので紹介する.

本症例紹介にあたっては文書による患者ご本人の承諾を得た.

II 症例

38歳男性.免疫介在性壊死性ミオパチーに対し高容量ステロイドパルス療法中に会陰部帯状疱疹を発症した.左S3~S4領域に多剤鎮痛薬抵抗性の痛みと電撃痛(NRS 10/10)が残存し坐位保持が困難となり,発症15日後にUSガイド下陰部神経ブロックを施行した.

腹臥位は痛みにより不可能であったため,患側を上にした側臥位で臀部を少し後ろに突き出す姿勢としRofaeel1)らの発表した方法でコンベックスプローブ(2~5 MHz)を使用し4つのランドマーク(坐骨棘,SSL,STL,IPA)の同定を試みた(図1).坐骨棘の同定は大坐骨切痕の横断面に置いたプローブを尾側へスライドすると高輝度の坐骨が最長の線状高輝度像となる構造物として描出した.SSLは坐骨棘より少し低輝度の坐骨棘から内側へ連続する線状高輝度像として,さらにSTLはSSLの背側で大殿筋直下にSSLよりやや低輝度の平行線像として描出した.坐骨棘の内側に走行するIPAとIPAの内側を走行する陰部神経は確認できなかった.そのため穿刺は絶縁ブロック針(B Braun Stimuplex)TM 100 mmを使用し平行法で内側から外側へ進め,STL通過時のクリックを得た後,両靱帯間に少量の5%ブドウ糖液を注入しながら靱帯間の広がりを確認した後,0.75%ロピバカイン4~7 mlを注入しコンパートメントブロックとして完了した(図2).神経刺激器を併用したが刺激反応は得られなかった.薬液注入時には局所麻酔薬が坐骨神経方向へ広がっていないことも同時に確認した.

図1

陰部神経ブロックの実際

側臥位で少し臀部を突き出す姿勢でコンベックスプローブ(2~5 MHz)を使用し平行法で内側から外側へ穿刺.

図2

陰部神経ブロックの超音波画像

坐骨棘,仙結節靱帯(STL),仙棘靱帯(SSL)は確認できたが内陰部動脈は確認できない.点線は穿刺針.

鎮痛効果については,初回施行後に電撃痛が消失し坐位が可能となった.その後,週1回のブロック治療を7回施行し,いずれも効果が得られ内服薬の減量が可能となり,最終的に痛みはNRS 1/10へ改善した.

III 考察

陰部神経は坐骨棘内側でSTLとSSL間をIPAの内側に伴走し,ここがUSガイド下陰部神経ブロックにおけるアプローチ部位の一つとなる.しかし,陰部神経は走行のバリエーションが多く超音波による描出や通電刺激反応も得られにくい.Rofaeel1)らは2008年にUSガイド下陰部神経ブロック(n=17)を施行し,坐骨棘レベルでの神経描出良好例29.4%,可能例58.8%であり,IPAの内側に確認したと報告している.Kovacs2)らは2001年にボランティアに対し陰部神経(n=106)を超音波で描出し,坐骨棘レベルでは47.2%で1本の神経が高輝度または低輝度の楕円構造物として描出でき,大きさは平均5.5+/−0.8(範囲3.5~7)mmであったと報告した.

Gruber3)らは2001年に陰部神経(n=116)を解剖した報告で,坐骨棘レベルでの陰部神経の分枝は1本(59.5%),2本(34.5%),3本(6%)あり,神経の走行部位はIPAの内側(75.9%),外側(8.6%),両側(15.5%)としている.また神経とIPAの交差例(15.5%)や,神経がSTLを貫通(4.3%)することもある.Pirro4)らは2009年に陰部神経(n=40)を坐骨棘レベルで解剖を行い,SSLとの交差例(80%)に加え,坐骨棘との交差例(15%)や,SSLと坐骨棘の両方との交差例(5%)を報告した.

IPAの超音波による描出率は坐骨棘レベルでは高いが描出できない場合もある.Rofaeel1)らはIPAの描出良好例(88.4%)と不良例(5.8%)を報告した.Kovacs2)らはIPAの描出は98.1%で確認ができたが,1.9%は陰部神経とIPAのどちらも描出できなかったと報告している.

陰部神経,IPA,坐骨棘の位置関係と距離に関しては,Kovacs2)らが超音波画像上で計測したIPAと坐骨棘先端の距離(n=97)は坐骨棘の外側7.1 mmから内側8.9 mmの範囲,陰部神経と坐骨棘先端の距離(n=50)は坐骨棘の内側0.1~22.6 mmの範囲,IPAと陰部神経の距離は神経がIPAの内側0.1~15.3 mmの範囲であったと報告した.Gruber3)らは陰部神経とIPAの距離を解剖により計測し,陰部神経はIPAの内側17.2 mmから外側8 mmの範囲であり,陰部神経と坐骨棘先端の距離は坐骨棘の内側13.4 mmから外側7.4 mmの範囲,IPAと坐骨棘の距離は坐骨棘の内側10.2 mmから外側11.1 mmの範囲と報告した.

Rofaeel1)らは超音波画像で陰部神経を描出できない場合でも針先端をIPAのすぐ内側に進めて薬液注入するとSSLとSTL間の薬液の広がりで針先を確認でき,陰部神経が低輝度の薬液の中で描出されてくる場合があると報告している.陰部神経とIPAは必ずしも動脈の内側で隣り合わせに伴走しているものばかりではなく,IPA外側の並走例,両側走行例や交差例もある3,4).また,動脈と神経の距離には幅がある2,3).本症例では神経または動脈穿刺のリスクを考慮し2つの靱帯間で坐骨棘先端の“すぐ内側”からさらに内側に少し離したポイントを針先端の目標とした.薬液注入時による靱帯間の広がりを確認したのに加えて,薬液注入前には描出できなかったIPAが薬液注入後に広がった靱帯間に初めて確認でき結果として正しい針先端の再確認になったが,陰部神経の同定はできなかった.他方,神経と針先端の距離はより離れている可能性もあり神経ブロックに必要な薬液量は増えるかもしれない.Rofaeel1)らの局所麻酔薬使用量は5 mlであったが,本症例は4~7 ml使用し局所麻酔薬量は多いほうが効果良好であった.ただし薬液量が多いと坐骨神経に局所麻酔薬が広がる可能性も大きくなり注意が必要かもしれない.

IV 結語

Rofaeelら1)の報告した超音波ガイド下陰部神経ブロック施行時,内陰部動脈が確認できない場合には両靱帯間に薬液注入しコンパートメントブロックとして施行する工夫は有用であるかもしれない.

本内容の一部は,日本区域麻酔学会第8回学術集会(2021年4月,Web開催)において発表した.

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