日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
短報
ビスホスホネート内服中に生じた左大腿骨転子下不全骨折症例
秋本 真梨子田邉 豊権藤 栄蔵宮崎 里佳天野 功二郎
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 29 巻 11 号 p. 227-228

詳細

I はじめに

骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネート製剤の副作用に顎骨壊死や腎機能障害が知られている.頻度は少ないが,長期服用による非定型大腿骨骨折の報告もある1).大腿骨骨折の多くは,転倒など強い外力で起きる大腿骨近位部や顆上部の定型的骨折であるが,誘因なく大腿骨転子下や骨幹部を横断するように骨折する非定型大腿骨骨折もある2).今回,通院中に左股関節周辺から大腿外側前面の痛みを主訴にビスホスホネート製剤関連の大腿骨転子下不全骨折(非定型大腿骨骨折)と診断した症例を経験したので報告する.

本症例報告について患者本人の文書での同意は得られている.

II 症例

85歳,男性.身長163 cm,体重59 kg.12年前から右三叉神経第1枝帯状疱疹後神経痛と治療中に発症した両手レイノー症状を当科で加療していた.既往歴に骨粗鬆症があり13年前から他院でアレンドロン酸ナトリウム水和物35 mg/週が処方されていた.骨密度測定は,行われていなかった.初診時から12年目に誘因なく立位と歩行時の左股関節周辺,大腿外側から前面の痛みを訴えた.左大腿外側に限局した圧痛は認めていなかった.パトリックテスト陽性で股関節疾患を疑い単純X線像を撮影した(図1).股関節に異常は認めず,左大腿骨幹部に異常陰影を認めた.CT画像で骨皮質の欠損を認めていなかったことから左大腿骨転子下不全骨折(ビスホスホネート製剤長期服用による非定型大腿骨骨折)と診断し,予防的髄内釘挿入術を施行した(図2).術後1カ月後に退院となった.アレンドロン酸ナトリウム水和物は,骨折時から中止し骨粗鬆症に対してはテリパラチド酢酸塩による治療を継続している.

図1

股関節単純X線像

左大腿骨にbeak signを認める(矢印).

図2

左大腿骨単純X線像

髄内釘挿入術が施行された.

III 考察

本症例は,安静時ではなく歩行時や体重が負荷となる立位時に左股関節周辺,大腿外側から前面の痛みを訴え,パトリックテスト陽性であった.単純X線像で大腿骨の不全骨折を認めた.その所見は,ビスホスホネート長期服用による非定型大腿骨骨折の典型的な所見であった.ビスホスホネート製剤の長期服用は,骨皮質内の微小骨折を繰り返させ,その微小骨折を修復する破骨細胞性骨吸収を阻害することで微小骨折が広がり進行し,骨折を発症させる1).大腿骨以外にも尺骨,骨盤,脛骨,鎖骨の骨折も指摘されている3)

非定型大腿骨骨折の頻度は6.04/10,000人・年でビスホスホネート製剤5年以上の長期服用で有意に上昇し,8年以上の服用でさらに上昇すると報告されている4).本症例では,ビスホスホネート製剤を15年間服用しており,非定型大腿骨骨折の高リスク症例であった.長期に通院している症例では,他院で処方されている内服薬の定期的な再確認が重要と思われた.

本症例では,不全骨折ではあったが痛みが強かったことや完全骨折への移行を危惧しアレンドロン酸ナトリウム水和物を直ちに中止した上で外科的固定を選択した.一般的には,外科的固定が望ましいとされている1,3).非定型大腿骨骨折の予防や治療においてビスホスホネート製剤の中止は大切である.中止により非定型大腿骨骨折リスクは,年70%ずつ減少するとされ5),不全骨折が治癒した報告1)もある.

ビスホスホネート製剤の長期服用症例で誘因なく大腿部痛を認めた場合は,非定型大腿骨骨折も疑い精査する必要がある.また長期通院中の症例では,定期的に内服薬の整理や確認をすることが大切である.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会 第2回東京・南関東支部学術集会(2022年1月,Web開催)において発表した.

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top