日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
日本ペインクリニック学会 第2回関西支部学術集会
ジャーナル フリー HTML

2022 年 29 巻 4 号 p. 64-70

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会 期:オンデマンド配信 2021年11月27日(土)~12月26日(日)

    ライブ配信    2021年11月27日(土)

会 場:Web開催

会 長:森  隆(大阪市立大学大学院医学研究科麻酔科学講座/大阪市立大学医学部附属病院麻酔科・ペインクリニック科)

■特別講演

腸内細菌の異常と制御法

植松 智

大阪市立大学大学院医学研究科老年医科学講座ゲノム免疫学

腸内細菌叢は,食物の消化を助け,宿主である私たちに有益な代謝物を供給します.これまで,腸内細菌の機能解析は,培養法を確立し,一つ一つ行われてきました.しかしながら,腸内に共生する多くの菌は嫌気性で,難培養性の菌に関して嫌気培養法を確立することは非常に困難で,全貌の把握ができませんでした.次世代シークエンサーの開発によって,腸内細菌叢の解析は,古典的な培養法からゲノム解析に変化しました.特に16S rRNA解析の導入によって,簡便に属レベルまでの菌構成が比較的容易に分かるようになりました.それに伴い,感染症,炎症性腸疾患,肥満,糖尿病,がん,そして精神疾患などのさまざまな疾患において腸内細菌叢の構成異常であるdysbiosisが認められることが明らかになりました.dysbiosisでは,微生物の多様性の変化や菌交代現象が観察され,その結果,腸内細菌叢が宿主にもたらす有益な効果が損なわれ,炎症などの有害な機能が付加され,ホメオスタシスが崩壊します.これによって,健康障害のみならず,抗がん剤などの薬の効果への影響,精神や情動への影響,そしてそれに伴う痛みに対する影響も報告され,腸内細菌叢は,自己の身体状態を決定する重要な因子であることが認識されています.さらに最近では,炎症性腸疾患や糖尿病などで,疾患の発症に直接関わる共生常在菌(pathobiont)の存在も明らかになりました.疾患の新しい制御法として,dysbiosisを是正したり,pathobiontを特異的に制御,排除する方法が求められています.

私たちの研究室では全ゲノムシークエンスによるメタゲノム解析を実施しています.高速での解析を可能とする相同検索ソフトGHOST-MPをスーパーコンピュータ上で駆動させ,超高速でメタゲノム解析を行うパイプラインを構築しました.

本講演では,構築した超高速パイプラインの概要,それを用いた腸内細菌解析,さらに腸内ウイルス叢の解析を紹介します.さらに,dysbiosisの是正とpathobiontの特異的排除を目的とした粘膜ワクチンの開発およびファージ治療の基盤構築に関してもご報告します.

■一般演題I(脊髄刺激療法)

I–1 脊髄刺激療法により下肢痙縮が改善した脊髄損傷後疼痛の1例

松本 悠*1,2 永田沙也*1,2 弓場智雄*1,2 博多紗綾*1,3 高橋亜矢子*1,2 藤野裕士*1 松田陽一*1,2,3

*1大阪大学大学院医学系研究科麻酔・集中治療医学教室,*2大阪大学医学部附属病院疼痛医療センター,*3大阪大学医学部附属病院緩和医療センター

【はじめに】脊髄刺激療法(SCS)は神経障害性慢性痛に対する治療法であるが,痛みだけでなく運動機能も改善することがある.脊髄損傷後の両下肢痛に対してSCSトライアルを行い,下肢の痙縮が改善し歩行機能が回復した症例を報告する.

【症例】X−12年,頚髄損傷に対してC5/6前方固定術とリハビリテーションが施行され,杖歩行が可能となったが,両下肢のしびれと灼熱痛が持続した.X−4年に当科に紹介となり,脊髄障害性疼痛と診断して薬物療法を行ったが治療抵抗性であった.X年,歩行距離が低下してきたことを機に,下肢機能評価とSCSトライアルのため入院した.左優位の痙性歩行で,連続歩行(片手杖使用)は150 mが限界であった.

歩行訓練を1週間行ったが,痙性が歩行で増強するため歩行・下肢機能は改善しなかった.次にSCSトライアル(頚髄と下部胸髄の背側正中にリード留置)を行い,high dose(HD),differential target multiplex(DTM),BurstDR刺激の効果を頚髄,胸髄および両刺激で確認した.tonic刺激は不快感が強くテストを断念した.頚髄のHD刺激を開始した後から下肢の痙縮がmodified Ashworth scaleで1+から1に改善して歩行時に杖が不要となり,その後DTMやBurstDR刺激に変更しても改善は維持された.下肢麻痺の回復段階を示すBrunnstrom recovery stageは,入院時は左下肢V,右下肢VIであったが,SCSトライアル終了時には左下肢もほぼVIレベルまで改善した.下肢痛は,各刺激で明確な改善は得られなかったが,最大の痛みへの増強頻度が減少していたと自己評価された.SCS植込みを希望されたため,後日実施予定である.

【結語】脊髄損傷後の下肢運動障害に対して,SCSは痛みの緩和とは独立して運動障害を改善する可能性がある.

I–2 painful legs and moving toes syndromeに対して脊髄刺激療法が奏功した1症例

上野喬平 若林潤二 野村有紀 佐藤仁昭 溝渕知司

神戸大学医学部附属病院麻酔科

painful legs and moving toes syndrome(PLMT)は非常にまれな疾患で,片側あるいは両側下肢の痛みと足趾および足関節の不随意運動を特徴とするが,診断基準や治療法は確立したものがない.

今回臨床的にPLMTと診断し,脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)トライアルが奏功したため埋め込み術に至った症例を経験したので報告する.

患者は40歳代の女性.既往歴に特記事項なし.X−2年外傷にて左足関節観血的骨接合術が施行された.術後にリハビリ,抜釘術施行されたが疼痛が遷延し,左下肢不随意運動も生じてきたためX−1年5月当院ペインクリニック科紹介となった.MRIなどの画像検査上,症状を説明し得る器質的異常は認めなかった.複合性局所疼痛症候群(CRPS)の診断基準も満たさず,不随意運動などから臨床的にPLMTと診断し治療開始した.薬剤治療はいずれも副作用のため継続できず,神経ブロックも一時的な改善しか認めなかった.X年6月SCSトライアルを施行した.透視下にてリードを2本挿入し,Th8~11をカバーするように硬膜外腔に留置した.tonic刺激(50 Hz 200 µs)にて左下肢疼痛部位を刺激した.刺激開始後から,NRS 10→0と痛みはなくなり不随意運動も消失した.その後X年8月にSCS埋め込み術を施行し,現在まで症状は再発していない.SCS施行前と埋め込み後を比較すると,破局的思考のスコアであるpain catastrophizing scale(PCS)が52→38,不眠の評価に用いるアテネ不眠尺度が16→2と改善し,生活の質の向上にもつながった.

PLMTの病態は不明な点が多い.過去の報告では,痛みは責任病巣である末梢神経の病変からインパルスが中枢へ伝達して生じ,また不随意運動は脊髄介在ニューロンを介した前角細胞の興奮により生じていることが推測されている.PLMTに対してSCSを施行した報告は少なく,今後症例のさらなる集積が必要である.

I–3 CRPS発症5年後に脊髄刺激療法と理学療法を導入したことで,刺激装置抜去にまで至った1症例

岩崎洋平 恒遠剛示 森山萬秀

仁正会中谷整形外科病院麻酔・ペインクリニック科

【症例】30歳代,男性.

【診断名】複合性局所疼痛症候群(Type2).

【主訴】右上肢痛.

【現病歴】X−5年10月に窓ガラスを殴打し右前腕を受傷した.筋断裂,前腕骨幹神経断裂の診断で,同日神経・筋縫合術を施行された.術後に創部から遠位全体の痛みと痺れが持続し,X−4年1月に前医紹介となった.前医初診時は右前腕に安静時痛軽度だが腫脹があり,夜間に母指と示指の熱感で不眠を認めた.また同側の爪の成長不良も認めた.腕神経叢ブロック(BPB)で一過性効果を認め複数回施行されたが,徐々に効果が減弱し,上肢機能が低下したため失職した.その後BPBは中止となり投薬治療のみでフォローアップされた.X年7月に当院へ紹介受診となった.

初診時の安静時numerical rating scale(NRS)は9で,知覚低下と筋力低下(握力:右/左=2 kg/63 kg)を認めた.アロディニアは認めなかった.self-rating depression scaleは39点であった.電気生理検査で痛みの主な原因は再生途中の橈骨神経感覚枝と考えられた.

【治療経過】BPBは無効で硬膜外ブロックでNRS 6と改善したため,持続硬膜外ブロック(CEB)と認知運動療法を開始した.NRS 5まで改善を認めたがCEBを中断すると数時間でNRS 9まで再燃した.神経ブロック療法での収束は困難と判断し,同年9月に脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)を行い,退院後も認知運動療法を継続した.SCS開始14カ月ごろにはNRS 6の痛みはあるが握力は34.5 kgまで回復し,社会復帰を果たすことができた.16カ月目にはNRS 3で握力62 kgと左右差がなくなった.その後もNRS 2~3を推移し,SCS導入して6年目ごろには刺激を中断しても痛みの再燃なく,7年目には刺激装置を抜去することができた.

考察を加え詳細な治療経過を報告する.

■一般演題II(薬物療法・オピオイド)

II–1 フェンタニル貼付剤が日常生活動作の改善に有効であった重症腰痛の3症例

坂本悠篤 白井 達 岩元辰篤 辻本宜敏 松本知之 湯浅あかね 北山智哉子 中尾慎一

近畿大学医学部麻酔科学講座

著しい日常生活動作(activities of daily living:ADL)の低下をみた重症の腰痛症例において,フェンタニル貼付剤(fentanyl patch:FP)を中心とした治療により劇的な症状,ADLの改善を得た3症例を経験した.

症例は71歳女性.強度の腰痛のため,ストレッチャーで受診した.持参のMRI画像では複数箇所の胸腰椎圧迫骨折が存在したが,陳旧性であり訴えの強さとは不釣り合いな印象であった.腰椎変性に伴う腰痛と考え,硬膜外ブロック注射を行い,痛みは軽快.FP 1 mg/日を開始した.その後2回の硬膜外ブロック,エルカトニン注射とFP 1 mg/日の併用で劇的に症状は軽減,治療開始後約2カ月でFP中止が可能となった.

95歳男性.極めて強い腰痛のため,日中の大半は臥床を強いられていた.MRI画像上,下位腰椎~仙椎にかけての椎間高位が著しく減少し,椎間板膨隆も存在したが目立った下肢症状はなく,明確な圧痛点の存在より仙腸関節性の腰痛が疑われた.仙腸関節ブロックと,FP 1~2 mg/日の併用により,トイレ歩行,毎日の入浴,家族との旅行が可能になるなどADLの劇的な改善を得ている.

65歳男性.強度の腰痛のため,車いすで受診.数mの歩行で痛みがあり,外出はほとんどできていなかった.硬膜外ブロック,後肢内側枝ブロック,トラマドール製剤で治療を開始したが,十分な除痛を得なかった.圧迫骨折に起因する痛みを疑い,エルカトニン注射とFP 1~2 mg/日の併用を行ったところ,症状は劇的に軽減,歩行距離の延長,外出頻度の増加などADLの改善を得て,現在FPを漸減中である.

以上,極めて重症の腰痛治療においてFPの併用が有効であった3症例を経験した.効果と副作用の細やかなチェック,麻薬の長期投与に陥らないための治療計画が重要である.

II–2 非がん性慢性疼痛に対して大量オピオイドを不適切使用されていた1例

辻川翔吾 矢部充英 長谷川涌也 山崎広之 森  隆

大阪市立大学大学院医学研究科麻酔科学講座

【症例】47歳,男性.身長175 cm,体重105 kg.36歳時に誘因なく前胸部の鋭い痛みを自覚,複数の病院で精査されたが原因不明でさまざまな鎮痛薬による加療が行われたが無効であった.39歳時に他院で強オピオイドが導入され,一時はオキシコドン製剤が速放剤を含めて経口モルヒネ換算400 mg/日以上使用されていた.前医でオピオイド不適切使用と判断され,減量を試みたが対応困難で当科に紹介となった.当科初診時,経口モルヒネ徐放剤240 mg/日に加えてオキシコドン速放剤40 mg/回が処方されNRS 8~10/10の前胸部痛と間欠的な幻視,幻聴,不眠,抑うつ症状を訴えていた.直ちに入院とし,精神科共観の上で減量を開始した.モルヒネ減量にあたっては衝動,幻視,幻聴などの精神症状を認めたがバルプロ酸,リスペリドンなどで対応,疼痛時にはトラマドール,アセトアミノフェン,セレコキシブで対応し,入院約4カ月後モルヒネを150 mg/日まで減量した時点で退院となった.退院にあたっては訪問看護に介入を依頼,家族とともに服薬管理を行うように指示,2週間ごとに本人自身の通院を行うこととした.以降,一度もキャンセルされることなく公共交通機関を使用して独歩で通院継続中である.退院後1年9カ月の時点で精神症状は落ち着いており,経口モルヒネ30~40 mg/日まで減量することができている.

【考察】オピオイドの長期投与による生体への影響は不明な点が多いが,薬物依存,内分泌機能,情動機能,免疫機能への影響,痛覚過敏などが指摘されている.今回の症例ではオピオイドによると思われる精神症状が強く精神科と連携し,患者と話し合いながら減量を進め,退院後も精神科,本人,家族の協力で大きな問題なくオピオイドを減量できた.非がん性慢性疼痛に対してオピオイドを使用する際はその適応や用量を慎重に判断して不適切使用に陥らないように十分注意を払うべきである.

■一般演題III(帯状疱疹)

III–1 COVID肺炎感染後の帯状疱疹患者の1症例

村谷忠利

洛西シミズ病院麻酔科

【症例】69歳男性.既往歴に高血圧症と緑内障,多発腎嚢胞があった.

【現病歴】COVID肺炎治療終了後2日目,帯状疱疹と診断された.痛みが改善しないため,COVID肺炎治療終了10日後に当科へ紹介となった.

【臨床経過】右T3領域の帯状疱疹で,NSR 90 mm,アロディニア,痛覚過敏,睡眠障害があった.入院当初,コメディカルからCOVID肺炎に対する恐怖感,若干の反発などさまざまな意見があった.入院時に胸部CTを施行したが,COVID肺炎の影響と考えられる異常陰影が認められた.また患者には,COVID肺炎による体重の減少,気うつや体力の低下が認められた.入院後,胸部硬膜外持続鎮痛療法と薬物療法を開始したが,翌日頭痛を自覚した.COVID肺炎では血管病変系の合併症が多いとされている.そのため脳出血などの合併症の発症を考慮し頭部CTを行ったが,異常は認められなかった.帯状疱疹に対しては,痛みが強いため硬膜外鎮痛の強度を強めようとした.しかし,体力と運動能力の低下があったため,徐々に薬液を増量した.薬物療法は,多発腎嚢胞による腎機能低下のため,多量の薬物療法は行いづらい状態であった.最終的に鎮痛薬としてアセトアミノフェン1,500 mg/日,トラマドール100 mg/日,デュロキセチン20 mg/日の投与を行うこととなった.また体力低下に対して十全大補湯5 g/日の投与を行った.

2週間集中治療を行いNRS 40 mm程度に低下したため退院通院となった.

【考察】本症例では,①COVID肺炎への偏見,②肺炎後による体力,気力の低下,③COVID肺炎の合併症への配慮,④多発腎嚢胞による薬物療法の制限,⑤COVID肺炎回復期でのバックアップ病院の使命,などさまざまな問題があった症例であった.

【結語】COVID肺炎感染後の帯状疱疹患者の1症例を経験した.

III–2 帯状疱疹後神経痛に併発した腹筋麻痺による偽性腹膜ヘルニアが生じた1例

北山智哉子 岩元辰篤 白井 達 辻本宜敏 松本知之 湯浅あかね 中尾慎一

近畿大学医学部麻酔科学講座

体幹部の帯状疱疹に伴う運動神経麻痺はまれな合併症である.今回,下位胸神経領域の帯状疱疹後神経痛に偽性腹壁ヘルニアの併発を認めた症例の治療を経験した.

症例は,76歳,男性.X年3月に右腹部から背部にかけての痛みと発疹が出現したとして,近医内科を受診.帯状疱疹の診断でバラシクロビルを投与され,発疹は軽快したが,痛みと右腹部膨隆による食思不振が持続した.腹部膨隆のため,摂食は著しく制限され,15 kgの体重減少があったとした.数回の肋間神経ブロックとミロガバリン,トラマドールなどの薬物治療が行われたが,痛みが持続するとして,X年7月当科紹介受診となった.初診時,右第8~9胸神経領域の強い痛み(numerical rating scale:NRS 8~9)と腹部膨隆,摂食障害および睡眠障害が存在した.内服治療の継続(ミロガバリンの増量とサインバルタの追加)と硬膜外ブロック,右胸部神経根ブロック(第8,9胸神経)を施行し,NRS 2と痛みは軽減したが,腹部の膨隆と食思不振が持続したため,当院外科を紹介した.CT所見上,ヘルニア嚢の存在など器質的な異常は存在せず,右側腹直筋の萎縮が確認され,なんらかの神経障害(帯状疱疹)による偽性腹壁ヘルニアが疑われた.以後,理学療法士介入のもと腹筋のリハビリにより腹部膨隆の軽減,コルセットを使用することで食事は可能となり,さらなる体重減少は認めなかった.

以上,帯状疱疹後神経痛に腹筋麻痺からの偽性腹壁ヘルニアを併発した症例を経験した.体幹部帯状疱疹に伴う運動神経障害は極めてまれであり,報告例は限定的であるが,診断のポイント,治療上の注意点などにつき考察を加え報告する.

■一般演題IV(特殊症例)

IV–1 脳脊髄液漏出症を疑われ紹介となった特発性頭蓋内圧亢進症の1症例

石川慎一*1 高野昌平*2 松本直久*1 南 絵里子*1 岡部大輔*1 小野大輔*1 小橋真司*1

*1姫路赤十字病院麻酔科,*2姫路赤十字病院脳神経外科

【緒言】特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension:IIP)は,頭蓋内圧亢進により頭痛とうっ血乳頭などをきたす疾患である.脳脊髄液漏出症を疑われ紹介となったIIPの1症例を報告する.

【症例】症例は10代女性,身長160 cm,体重47.4 kg.スポーツクラブで活躍するほど生来元気であった.1カ月前より腰痛と手足のしびれが,2週前より頭痛が出現した.頭痛出現2日後より登校困難となった.

近医受診し脳脊髄液漏出症が疑われ,当院脳神経外科・小児科紹介となった.血圧90/60 mmHgを示したが,それ以外特記すべき所見はなかった.起立性障害と診断されたがメトリジンの反応乏しく,脳神経外科での頭部MRI診断後に当科紹介となった.

頭痛は,非拍動性の締め付ける頭部全体の痛みで,体位性の変化を示さないが長時間の立位は困難であった(VAS 63~75/100).頭痛のため食事など基本生活動作以外はほとんど寝たきりであった.全脊椎MRIでは漏出が否定的であったが,家族の希望によりCT脊髄造影を行った.CT脊髄造影でも漏出を示さなかったが,初圧26 cm水柱と高値を示したためIIPを疑い,脳神経外科に逆紹介した.眼底検査では乳頭浮腫を示していた.髄液20 ml排出を2回行い,アセタゾラミド,トピラマートの投与にて髄液圧は低下しつつある.

【考察】IIPの有病率は0.9/10万人であり,脳脊髄液漏出症の5/10万人よりもまれである.出産可能性年齢の肥満女性に多いといわれている.症状は,頭痛,視力低下,視野欠損,嘔気などである.国際頭痛分類では,正常な脳脊髄液組成を示しかつ脳脊髄液圧が25 cm水柱を越えることが診断基準の一つである.

【結語】IIPの1症例を経験した.起立性障害や脳脊髄液漏出症と鑑別を要し,CT脊髄造影に伴う腰椎穿刺と初圧測定が診断に有用であった.

IV–2 疼痛管理に難渋した小児XIAP欠損症関連腸炎の1例

間嶋 望 成尾英和 中尾謙太 石尾純一 南 敏明

大阪医科薬科大学麻酔科学教室

X-linked inhibitor of apoptosis(XIAP)欠損症は,X染色体の遺伝子変異によって引き起こされるX連鎖リンパ増殖疾患で先天性免疫不全症と炎症性腸疾患を合併する.多くは若年性,難治性であり,根本的治療は造血幹細胞移植のみである.今回,疼痛管理に難渋した小児XIAP欠損症関連腸炎の1例を経験したので報告する.

【症例】12歳男児,身長118 cm,体重18.9 kg.6年前より発熱,腹痛,下痢,血便などの症状を認め,プレドニゾロンやタクロリムスなどの治療を長期継続するも,再燃と寛解を繰り返し,治療抵抗性であった.骨盤内膿瘍と血性腸炎に伴う排便時の腹痛,骨盤内と脊柱起立筋に及ぶ炎症による腰痛にて,坐位が困難であり疼痛コントロール目的で当科紹介となった.トラマドール,アセトアミノフェンでも疼痛強くケタミン0.05 mg/kg/h持続投与した.疼痛軽減せず,リン酸コデイン1.5 mg/kg/day追加し,リハビリが可能となったが,ケタミン中止後,排便量が増加し,再び疼痛増悪を認めた.ロペラミド0.1 mg/kg/day開始したところ疼痛軽減を認めたため,排便量を考慮し投与量を調節した.その後,室内歩行が可能となり,退院となり造血幹細胞移植の方針となった.

【考察】本症例は出血性腸炎を合併しており,非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用が困難であった.また神経ブロックも適応外であった.トラマドールとリン酸コデインの併用で疼痛コントロール不良であり,強オピオイドの使用も考慮したが,小児の非がん性慢性疼痛にて強オピオイド使用は長期投与や依存などのリスクから使用が困難であった.また強オピオイドによる著明な腸蠕動抑制が腹痛増悪をきたす可能性も懸念された.本症例はロペラミド投与で腹痛軽減を認めたが,ロペラミドによる腸蠕動抑制作用のみならず末梢性µ受容体作用が疼痛緩和に関与した可能性がある.

■一般演題V(インターベンション)

V–1 経椎間孔硬膜外ブロックへの良好な反応が手術回避の予測因子となるか? 腰部脊柱管狭窄症患者での検討

藤原亜紀*1 渡邉恵介*2 重松英樹*3 木本勝大*1 田中康仁*3 川口昌彦*1

*1奈良県立医科大学麻酔ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学ペインセンター,*3奈良県立医科大学整形外科

【はじめに】経椎間孔硬膜外ブロック(TFEI)は腰部神経根症に対して世界中で広く用いられており,短期間の鎮痛効果は示されている.しかし,手術回避効果に関しては一定の見解が得られていない.

【目的】腰部脊柱管狭窄症による腰部神経根症に対して,TFEIの早期の良好な反応が2年間の手術を回避する予見因子となるかを調べる.

【方法】2016年7月1日~2018年12月31日に奈良県立医科大学整形外科で脊椎専門外科医が手術適応ありと判断した成人患者のうち,手術の前に神経ブロック治療を希望した患者を対象とした.ペインセンターで本研究への同意を得たのち,TFEIを行った,1カ月後のNRSが初診時より2以上低下した患者をpositive response(PR)群とし,2未満であった患者をno response(NR)群とし,2年間の手術回避率を比較した.統計学的解析は,Mann-Whitney U,Chi-square testを使用し,p<0.05を有意とした.

【結果】本研究の登録者は88人であった.2年間のfollow upが完遂できた患者は76名であった.そのうち腰部脊柱管狭窄症の患者は42名であった.PR群は19人,NR群は23人であった.2年間の手術回避率はPR群78.9%,NR群73.9%であり,有意差を認めなかった(p=0.99).

【考察】痛みは患者のADL,QOLを損なうが,患者が手術を選択する因子は痛みの強さだけではない.他の因子の検討も必要.

【結語】腰部脊柱管狭窄症による腰部神経根症に対して,施行1カ月後のTFEIへの良好な反応は,2年間の手術回避を予測する因子であるとは示せなかった.

V–2 生食リリースが有効であった股関節術後meralgia parestheticaの1症例

小野大輔 石川慎一 松本直久 南 絵里子 岡部大輔 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科

【緒言】meralgia paresthetica(MP)は,外側大腿皮神経の絞扼性神経障害性痛である.股関節術後に発症したMPの1症例を報告する.

【症例】症例は40代女性.身長158 cm,体重57 kg.左大腿外側の痛みとしびれで当院へ紹介された.特記すべき合併症はなかった.

10年前に左臀部痛を発症し,骨盤形成不全の診断で両側股関節棚形成術が実施された.術後から左大腿外側の痛みと異常感覚を自覚したが経過観察されていた.2年前,3人目の児出産後に左大腿部の症状が増悪し,前医で股関節ブロックと内服治療を行うも改善しないため当科紹介となった.

左大腿部の症状は,感覚低下を伴った焼けつくような痛みで,日内変動を認めた(VAS 0~100/100).痛みの全くない時間(VAS 0)もあったが,疼痛時は陣痛以上の痛み(VAS 100)が1日中続くという訴えであった.鼠径靱帯外側部の創部近傍に明らかなTinel sign(左>右)を示した.明らかな下肢筋力低下と股関節の可動域制限はなく,各種誘発テストに伴う痛みの増強は訴えなかった.前医からプレガバリン75 mg/日,デュロキセチン40 mg/日が処方されており継続とした.

当科で外側大腿皮神経生理食塩水リリースを超音波ガイド下に実施したところ,直後に痛みが0になった.1週間後の診察時に,疼痛発作頻度の減少が見られたため,同処置を再度行った.その後から痛み発作が消失し,1カ月後の診察時も再燃なく経過した.減薬を試みたが,症状の再燃が見られたため投薬は継続した.その後9カ月間,内服のみで良好に経過した.

【結語】股関節術後に発症し,妊娠・出産を契機に増悪したMPの1症例を経験した.外側大腿皮神経生食リリースを実施し,劇的な症状軽減と長期的に良好な治療効果を得た.

V–3 ダブルニードル法で行った不対神経ブロックの1例

永井貴子 高雄由美子 石本大輔 橋本和磨 廣瀬宗孝

兵庫医科大学ペインクリニック部/兵庫医科大学麻酔科・疼痛制御科

【緒言】不対神経節ブロックは肛門および会陰部の交感神経依存性疼痛に行うブロックである.今回ダブルニードル法で不対神経ブロックを安全に行うことができたため報告する.

【症例】75歳,女性.

【現病歴】X年2月右第5仙髄神経帯状疱疹と診断され皮膚科で抗ウイルス薬を投与された.皮疹は改善したが痛みが強く,近医ペインクリニックを紹介された.薬物療法に加え硬膜外ブロックを施行されたが,硬膜外ブロックは一時的な効果しかなかった.さらなる治療を希望されたため当院紹介となった.初診時には右会陰部にアロディニアを伴っており,同部位の痛みはVASで73 mmであった.入浴により痛みが軽減することから交感神経依存性の疼痛である可能性があり,不対神経ブロックの適応と考え入院の上行うこととなった.

【手技】患者を左側臥位とし仙骨を側面から撮影した.仙尾関節レベルで穿刺し椎間板が穿刺されたため造影剤を1 ml投与したところ椎間板が描出された.その後仙骨を正面像とすると椎間板が造影剤でよく描出されており,経椎間板法(垂直法)で不対神経ブロックを行い,造影剤で確認後にアルコール2 mlを注入し終了した.1週間後の再診時には,痛みは半減していた.

【考察】不対神経ブロックは腹臥位で曲針を用いる原法と仙尾骨接合部より針を垂直に進める垂直法などがある.垂直法はX線透視下でも仙尾関節間の同定が困難な場合が多い.本症例では側方アプローチで試みたが,適切な位置への誘導が困難で偶発的に仙尾関節部の椎間板が造影された.これにより仙尾関節の位置が明らかとなり容易に穿刺できた.

【結論】仙尾関節の同定が困難な症例に対してダブルニードル法で不対神経ブロックを安全かつ容易に行うことができた.

V–4 直腸がんの局所再発による会陰部痛に対して,不対神経節ブロックが有効であった1例

小川舜也 栗山俊之 川股知之

和歌山県立医科大学麻酔科学教室

【はじめに】不対神経節ブロック(ganglion impar block:GIB)は会陰部の痛みに適応があり,交感神経幹内の内臓求心線維を遮断することで痛みの緩和を得る.今回,直腸がんの局所再発による持続する会陰部痛に対して,経仙尾関節法でのGIBが有効であった症例を経験したので報告する.

【症例】53歳,男性.直腸がんと肝転移に対して,X−2年に腹腔鏡補助下直腸切除術と肝部分切除術が施行され,術後,化学療法が行われた.Y−7月に吻合部再発による腸管閉塞に対して人工肛門が造設された.Y−6月会陰部痛が出現し,Y−4月には局所再発病変に放射線治療が施行されたが痛みは軽減せず,X年Y月に当科を受診した.オキシコドン徐放製剤60 mg/日を内服していたが,安静時の会陰部痛はnumerical rating scale(NRS)4/10,増悪時はNRS 7/10と痛みはコントロールされていなかった.経仙尾関節法で2%メピバカイン4 mlによるGIBを行ったところ会陰部の痛みが2日間消失した.テストブロックが有効と考え,アルコールブロックを計画した.X線ガイド下で仙骨前面を造影したのち,2%メピバカイン3 mlと無水エタノール3 mlを用いてGIBを行った.1カ月後の安静時の会陰部痛はNRS 3/10,肛門からの排泄後の痛みはNRS 5/10と軽減した.オキシコドンは40 mg/日に減量されたが,6カ月経過した時点で痛みの増悪はない.

【考察】放射線治療後は薬液の広がりが悪くGIBの効果が得られないことがあるが,局所麻酔薬によるテストブロックによる効果確認と造影剤による薬液の広がりを確認することにより有効なブロックを行うことができた.

【結語】直腸がんの局所再発による会陰部痛に対して,経仙尾関節法での不対神経節ブロックが有効であった症例を経験した.

■一般演題VI(基礎,その他)

VI–1 オピオイド持続投与下での内因性μオピオイド受容体発現量の解析

清水覚司 白木敦子

京都大学医学部附属病院麻酔科

オピオイドを長期的に使用すると,耐性を形成し鎮痛効果が減弱する.活性化したμオピオイド受容体(MOP)は脱感作されて内在化し,エンドソームで再感作されて再利用されるか,リソソームで分解を受ける.また,MOPの活性化はMOPの新規合成を促進する.これらの受容体制御機構は,MOPの発現量を協調的に,かつ,厳密に制御しており,耐性形成に重要な役割を果たすと想定される.しかし,先行研究では,生理学的な制御を無視した異所性・過剰発現系を利用し,個々の制御機構における重要な分子や翻訳後修飾などに焦点を絞った研究が主流であった.また,神経系細胞に発現する微量の内因性MOPを十分な感度で検出する抗体がないため,生理的制御の下で持続的な刺激を受けた場合に,MOPの発現量がどのように変化するか十分に理解されていない.われわれは,CRISPR/Cas9を用いて,内因性MOPを十分な感度で検出できる神経細胞株を樹立し,日本麻酔科学会第67回学術集会でその方法論を発表した.今回われわれは,同細胞株を,全トランス型レチノイン酸および脳由来神経栄養因子によって初代培養細胞に近い状態に分化誘導し,MOPアゴニストで持続的に刺激して,内因性MOP発現量の変化を72時間にわたり解析した.DAMGO,モルヒネいずれで刺激した場合も,48時間までMOPは減少し続け,その後はリガンドの特性に応じて一定の発現レベルを維持した.72時間後の時点で,DAMGOは細胞表面のMOPを約70%減少させ,モルヒネは約40%減少させた.わずか数日間のオピオイド持続投与でも,MOPの発現量は大幅に減少した.すなわち,周術期のような比較的短時間のオピオイド使用であっても,患者の神経系には大きな変容をもたらす可能性が示唆された.われわれの樹立した細胞株は,オピオイドの長期使用によって引き起こされる臨床的問題の分子機構の解明に有用である可能性がある.

 
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