日本ペインクリニック学会誌
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短報
3主徴の発現が非定型的であったRamsay-Hunt症候群の1例
西田 賀津子津野 信輔牧野 佐和宮﨑 博文
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2022 年 29 巻 5 号 p. 81-83

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I はじめに

Ramsay-Hunt症候群(RHS)は顔面神経麻痺,めまいや耳鳴りを伴う耳介帯状疱疹の一病型である.今回われわれは,耳介帯状疱疹発症数日後に顔面神経麻痺が出現したRHSの症例を経験したので報告する.

本論文発表については患者本人から承諾を得ている.

II 症例

症 例:62歳,女性.

現病歴:左耳介に痛みと腫脹感を自覚した(第1病日).第4病日に同部位に刺されるような痛みと発疹が出現したため,当院救急外来受診,非ステロイド性消炎鎮痛剤と抗菌剤が処方された.痛みが続くため,第9病日に当院皮膚科を受診,耳介帯状疱疹と診断された.発症して数日経過していたため抗ウィルス剤は処方されず,同日痛みのコントロール目的に当科に紹介された.

既往歴:48歳時左乳がん手術,62歳時左突発性難聴.

現 症:耳介と口腔の左側に発疹を認め,左耳介の発疹は痂疲化と発赤を伴っていた(図1).左三叉神経第三枝もしくは左第2頚神経領域の帯状疱疹を考えた.同部位に電気が走る痛みを訴え,numerical rating scale(NRS)は8であった.

図1

当科初診時(第9病日)の耳介所見

入院までの経過:左耳介帯状疱疹と診断.帯状疱疹痛に対しプレガバリン100 mg/日,トラマドール100 mg/日の内服を開始した.星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)は,患者が希望しなかったため行わなかった.2%リドカイン100 mg静脈内投与で痛みは少し改善した.帯状疱疹の診断は遅れたがファムシクロビル1,500 mg/日の内服を開始した.第12病日,同側の閉眼困難が出現したため当院耳鼻科を受診,RHSと診断された.

入院後経過(図2):顔面神経麻痺は,顔面神経麻痺スコア(40点法)1)で20であった.13病日に入院し,プレドニゾロン投与を開始.アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物錠とビタミンB12製剤の内服を併用した.痛みは入院時NRS 7であったが,改善傾向であったため内服で経過観察とした.少し開眼が可能となった22病日に退院.25病日には閉眼が可能となった(顔面神経麻痺スコア24)同時期にめまいが出現したためベタヒスチンメシル酸経口投与を開始した.50病日の診察では顔面神経麻痺スコア40と改善,めまいも消失した.NRSも0となり鎮痛剤を中止した.なお,水痘・帯状疱疹ウィルス(varicella zoster virus:VZV)IgG抗体値は初診日である第9病日と退院直後の第23病日に測定されており,いずれも128倍と上昇していた.

図2

治療経過

ATP:adenosine triphosphate disodium hydrate,アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物

III 考察

RHSは,顔面神経の膝神経節に潜伏感染したVZVの再活性化により発症する2).耳介帯状疱疹,顔面神経麻痺,内耳症状が3主徴である.今回の症例は耳介帯状疱疹12病日に同側の顔面神経麻痺,29病日に内耳症状が出現した.村上らの報告によれば,3主徴の発現順序については帯状疱疹が顔面神経麻痺に2日以上先行して発現した症例は243例中47例(19.3%),同時発現例が113例(46.5%),帯状疱疹が顔面神経麻痺に2日以上遅れて発現した症例は83例(34.2%)であった2).これを考慮すると,本症例の症状発現順序はあまり定型的ではないと考える.

また,本症例では,顔面神経麻痺に対し早期にステロイドによる治療を開始することができた.ステロイドによる治療開始時期については,Murakamiらが発症3日未満で治療開始した群では完全緩解は75%,3日~7日未満群では48%,7日後群では30%であったと報告,早いほうがよいとしている3)

他の治療については,SGBによる交感神経遮断で痛みや神経障害を抑える効果が期待できるとする報告4)が見られる一方,SGBは顔面神経麻痺の予後に影響しないという報告もある5)

本症例の限界は,予後判断に有用とされる顔面神経機能検査(ENoG)を設備上の問題から施行できなかったことであった.

IV 結語

RHSの症状発現順序は一定ではないため,耳介帯状疱疹の診断後は顔面神経麻痺の発症を念頭に入れ経過観察することが予後改善の点から重要である.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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