日本ペインクリニック学会誌
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原著
集学的痛みセンターにおける慢性腰痛・頚部痛の治療反応性―ICD-11に基づく慢性痛分類による比較―
星野 麗子本田 あやか篠原 佑太石川 愛子田中 智里辻 収彦若泉 謙太森崎 浩小杉 志都子
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2022 年 29 巻 9 号 p. 187-192

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Abstract

【目的】本研究では,国際疾病分類(ICD-11)に基づいて慢性腰痛および慢性頚部痛を分類し,ICD-11の慢性痛分類コードと集学的治療下での疼痛改善との関連を調べた.【方法】当施設倫理委員会承認後,慢性腰痛および頚部痛を主訴に当院集学的痛み診療センターを受診した212人をICD-11に基づき一次性筋骨格系疼痛,二次性筋骨格系疼痛,および神経障害性疼痛に分類した.個々の症例は集学的評価に基づいて治療介入を行った.3カ月後の痛みの強さ(Brief Pain Inventory)が初診時の30%以上減少した場合を疼痛改善と定義した.多変量ロジスティック回帰分析を用いて,患者特性,治療因子,ならびにICD-11の慢性痛分類コードと疼痛改善の関連を調べた.【結果】神経障害性疼痛は,一次性筋骨格系疼痛と比較し,3カ月後の疼痛改善に対するオッズ比が有意に高かった[オッズ比(95%信頼区間)2.52(1.25~5.09),p=0.02].【結語】集学的治療下における慢性腰痛および頚部痛の疼痛改善に対して,ICD-11による慢性痛分類は重要な関連因子となりうる.

Translated Abstract

We investigated the association of chronic low back and neck pain classification based on ICD-11 with pain relief under interdisciplinary pain management. A total of 212 patients with chronic musculoskeletal pain, who visited the Interdisciplinary Pain Center of Keio University Hospital, were categorized into chronic primary musculoskeletal pain (CPMP), chronic secondary musculoskeletal pain, and chronic neuropathic pain (CNP) groups based on ICD-11 and followed-up. We assessed pain intensity using the Brief Pain Inventory (BPI) at the first visit and at 3 months. Improvement of pain was defined as ≥30% reduction in the BPI. Multivariate logistic regression analysis revealed that CNP were significantly associated with a greater improvement of pain after adjusting for sex, age, duration of pain, level of pain self-efficacy, and treatment options. [odds ratio (CNP/CPMP) (95% confidence interval); 2.52 (1.25–5.09, p=0.02)]. We concluded that the ICD-11 code for chronic low back and neck pain is significantly associated with pain treatment outcomes.

I 背景

近年改訂された国際疾病分類(ICD-11)では,慢性痛を一次性慢性痛と二次性慢性痛に大分類することが可能になった1).一次性慢性痛は,基礎疾患や組織障害が明らかでないにもかかわらず生じる痛みであり,機能障害(日常生活障害・社会生活障害)や感情的苦痛(不安・怒り・不満・抑うつ)と強く関連している2).ICD-11では,身体的な要因で説明ができない慢性腰痛および慢性頚部痛は一次性慢性筋骨格系疼痛に,椎間板ヘルニアや脊椎変性疾患等に由来する慢性腰痛および頚部痛は二次性筋骨格系疼痛に分類される.また,神経根症状として四肢にしびれや痛みを伴う場合は,神経障害性疼痛に分類される3).以前,われわれは脊椎由来疼痛において痛みの罹患期間および神経ブロック治療が疼痛改善に関連することを示した4).しかし,ICD-11に基づく慢性痛分類による腰痛および頚部痛の治療反応性の違いについてこれまでに報告はない.本研究では,慢性腰痛および慢性頚部痛をICD-11に基づいて分類し,集学的治療下での疼痛改善との関連を調べた.

II 方法

本研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会の承認を得た(2017039).本観察研究の研究協力者には文書による説明の上,口頭同意を取得し,同意内容は診療録に記録した.また,研究協力拒否の機会を保障するため,研究情報公開によるオプトアウトを行った.

初診時および3カ月後に疼痛および心理に関する自記式質問票によるアンケートを行い,縦断的に追跡した.

1. 対象およびICD-11慢性痛分類

2018年7月から2019年12月の期間に,3カ月以上持続する腰痛および頚部痛を主訴として慶應義塾大学病院痛み診療センターを受診した18歳以上の患者を対象とした.質問票の回答およびデータ利用を拒否した患者,および3カ月の追跡調査ができなかった患者は除外した.ICD-11に基づく慢性痛分類の鑑別は,整形外科医,麻酔科医,リハビリテーション科医,および精神科医で構成される集学的チームによって決定された.すなわち,画像検査および神経学的検査を基に,身体的要因で説明できない腰痛および頚部痛を一次性筋骨格系疼痛とした.一方,身体的要因が明らかであり,痛みを説明できる腰痛および頚部痛を二次性筋骨格系疼痛とした.ただし,二次性の腰痛および頚部痛の中で,神経根症状が併存する場合は神経障害性疼痛に分類した.一次性広汎性疼痛,一次性内臓痛,および脊椎手術後疼痛や外傷後の痛みは解析から除外した.

2. 治療選択

研究協力者に対する治療は,研究の参加の有無にかかわらず,集学的チームによる臨床的判断のもとで行われた.薬物療法,運動療法,および神経ブロックのいずれか,あるいはそれぞれの組み合わせで治療内容が決定された.薬物療法は,カテゴリー1【非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDS),アセトアミノフェン】,カテゴリー2【Ca2チャネルα2δリガンド,デュロキセチン,トラマドール製剤,ブプレノルフィン貼付剤】,カテゴリー3【モルヒネ製剤,フェンタニル貼付剤】の薬剤を単独あるいは組み合わせで処方した.運動療法は,リハビリテーション医の処方に基づいて,理学療法士が週1~2回の頻度で8週間行った.神経ブロックは,罹患部位に応じて,星状神経節ブロック,腕神経叢ブロック,後枝内側枝ブロック,神経根ブロック,および硬膜外ブロックが選択された.3カ月間の神経ブロックの施行頻度や間隔は患者の症状に応じて麻酔科医の裁量で決定された.なお,薬物療法においてカテゴリー間をまたいで2剤以上の処方がされた場合は,より上位のカテゴリーに分類した.

3. 調査項目

① 患者背景

年齢,性別,body mass index(BMI),罹患部位,および罹患期間について調査した.

② 疼痛関連スコア

簡易疼痛質問票(Brief Pain Inventory:BPI)5)を用い,過去24時間の最大の痛み,最小の痛み,平均の痛み,および現在の痛みを,それぞれ0~10の数値で評価し,各数値の合計点をBPI total score(0~40点)とした.(初診時BPI total score−3カ月後BPI total score)/初診時BPI total score=疼痛改善率として評価した.

心理的要因のうち,痛みに対する自己効力感および破局化思考について,それぞれPain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)6)およびPain Catastrophizing Scale(PCS)7)を用いて評価した.

4. 統計

本研究の主要評価項目は初診時から3カ月後の疼痛改善に関連する因子とした.初診時から3カ月後の疼痛改善は,BPI疼痛改善率≥30%と定義し,患者特性,疼痛関連スコア,治療因子について,Wilcoxon rank sum testおよびカイ二乗検定を用いて疼痛改善群と非疼痛改善群を比較した.ICD-11による慢性痛分類,薬剤のカテゴリー,神経ブロックの有無,運動療法の有無,および単変量解析で有意な差が得られた患者特性因子を,それぞれ説明変数とし,疼痛改善率≥30%を目的変数として,各因子と疼痛改善の関連について多変量ロジスティック回帰分析を用いて解析した.年齢およびPSEQは,中央値をカットオフとし,2項変数とした.P<0.05を統計学的有意とした.

III 結果

1. 患者背景と治療選択

212人の慢性腰痛および頚部痛患者を追跡解析した.ICD-11に基づく疾病分類内訳を表1に示した.一次性筋骨格系疼痛(MG30.02),二次性筋骨格系疼痛(MG30.3)および神経障害性疼痛(MG30.5)に分類された.二次性筋骨格系疼痛の原因疾患としては腰部脊柱管狭窄症,腰部椎間板ヘルニア,腰椎分離すべり症,変形性腰椎症,変形性頚椎症,頚椎ヘルニアが含まれた.慢性痛分類コード別の患者特性,初診時の疼痛関連スコア,および治療内訳を表2に示した.年齢,性別,初診時のPSEQスコア,および神経ブロックの有無において,3群間に有意差があった.非疼痛改善群と疼痛改善群の各因子の比較を表3に示した.疼痛改善群と非疼痛改善群で,ICD-11の疾病割合に有意な差を認めた.また,疼痛改善群では,罹患期間が6カ月以内の割合が有意に多かった.さらに,疼痛改善群では,神経ブロックを治療オプションとして選択する割合が,非疼痛改善群と比較して有意に高かった.初診時の疼痛関連因子(疼痛強度,自己効力感,および破局化思考)は両群に差がなかった.

表1 ICD-11に基づく慢性腰痛・頚部痛の疾病分類の内訳
  N=212
一次性慢性痛,n(%)  
 慢性一次性筋骨格系疼痛(MG30.02) 68(32.1)
二次性慢性痛,n(%)  
 慢性二次性筋骨格系疼痛(MG30.3) 46(21.7)
 慢性神経障害性疼痛(MG30.5) 98(46.2)

ICD-11:International Classification of Diseases

表2 ICD-11に基づく慢性腰痛・頚部痛の疾病分類別患者特性と3カ月間の治療内容の比較
  一次性筋骨格系疼痛
(N=68)
二次性筋骨格系疼痛
(N=46)
神経障害性疼痛
(N=98)
P値
患者特性
年齢,歳 59.6±15.2 70.5±13.2 65.1±13.8 0.0005
性別,女性/男性,n(%) 31(43.6)/37(54.4) 31(67.4)/15(32.6) 44(44.9)/54(55.1) 0.03
BMI,kg/m2 22.7±3.4 23.1±3.4 23.7±3.4 0.07
罹患部位,頚/腰背部,n(%) 26(38.2)/42(61.8) 9(19.6)/37(80.4) 27(27.6)/71(72.4) 0.09
罹患期間,<6カ月/≥6カ月 7(10.3)/61(89.7) 2(4.4)/44(95.7) 22(22.5)/76(77.5) 0.01
BPI total score(初診時) 20.6±7.6 22.2±7.4 19.5±6.6 0.14
PSEQ(初診時) 26.4±13.1 26.1±15.0 31.0±13.0 0.03
PCS(初診時) 33.7±8.5 32.0±10.1 31.4±8.6 0.19
治療内容
薬物療法,n(%)       0.69
 投薬なし 3(4.4) 2(4.4) 2(2.0)  
 カテゴリー1薬剤 9(13.2) 10(21.7) 17(17.4)  
 カテゴリー2薬剤 56(82.4) 34(73.9) 78(79.6)  
 カテゴリー3薬剤 0(0.0) 0(0.0) 1(1.0)  
運動療法,n(%) 19(27.9) 7(15.2) 18(18.4) 0.19
神経ブロック,n(%) 52(76.5) 41(89.1) 91(92.9) 0.01

平均±標準偏差.ICD-11:International Classification of Diseases,BMI:body mass index,BPI:Brief Pain Inventory,PSEQ:Pain Self-Efficacy Questionnaire,PCS:Pain Catastrophizing Scale.

カテゴリー1:非ステロイド性消炎鎮痛剤,アセトアミノフェン.

カテゴリー2:α2δリガンド,デュロキセチン,トラマドール,ブプレノルフィン貼付剤.

カテゴリー3:モルヒネ,フェンタニル貼付剤.

表3 疼痛改善(BPI≧30%改善)に関連する患者特性および治療因子についての単変量解析
  非疼痛改善群
(n=136)
疼痛改善群
(n=76)
P値
患者特性
年齢,<65歳/≥65歳,n(%) 62(45.6)/74(54.4) 38(50.0)/38(50.0) 0.56
性別,女性/男性,n(%) 67(49.3)/69(50.4) 39(51.3)/37(48.7) 0.88
BMI,kg/m2 23.2±3.6 23.2±3.2 0.79
罹患部位,頚部/腰背部,n(%) 42(30.9)/94(69.1) 20(26.3)/56(73.7) 0.36
罹患期間,<6カ月/≥6カ月 13(9.6)/123(90.4) 18(23.7)/58(76.3) <0.01
ICD-11     <0.01
 慢性一次性筋骨格系疼痛 52(38.2) 16(21.1)  
 慢性二次性筋骨格系疼痛 32(23.5) 14(18.4)  
 慢性神経障害性疼痛 52(38.2) 46(60.5)  
BPI total score(初診時) 20.2±7.1 20.8±7.3 0.48
PSEQ(初診時) 27.5±12.8 30.2±15.0 0.23
PCS(初診時) 32.9±9.2 31.3±8.4 0.16
治療因子
薬物療法,n(%)     0.65
 投薬なし 4(2.9) 3(4.0)  
 カテゴリー1薬剤 26(19.1) 10(13.2)  
 カテゴリー2薬剤 105(77.2) 63(82.9)  
 カテゴリー3薬剤 1(0.8) 0(0.0)  
運動療法,n(%) 30(22.1) 14(18.4) 0.60
神経ブロック,n(%) 112(82.4) 72(94.7) 0.01

平均±標準偏差.BMI:body mass index,ICD-11:International Classification of Diseases,BPI:Brief Pain Inventory,PSEQ:Pain Self-Efficacy Questionnaire,PCS:Pain Catastrophizing Scale.

カテゴリー1:非ステロイド性消炎鎮痛剤,アセトアミノフェン.

カテゴリー2:α2δリガンド,デュロキセチン,トラマドール,ブプレノルフィン貼付剤.

カテゴリー3:モルヒネ,フェンタニル貼付剤.

2. 多変量ロジスティック回帰分析

疼痛改善の有無を目的変数とし,年齢,性別,罹患期間,ICD-11による慢性腰痛および頚部痛の疾病分類,各治療法,および初診時のPSEQスコアを説明因子として多変量ロジスティック回帰分析を行った.ICD-11による慢性痛分類は,疼痛改善に対する有意な関連因子であり,神経障害性疼痛は,一次性筋骨格系疼痛と比較し,3カ月後の疼痛改善に対するオッズ比が有意に高かった(表4).

表4 疼痛軽減(BPI≧30%改善)に関連する因子の多変量ロジスティック回帰分析
  OR 95%CI P値
ICD-11
 慢性一次性筋骨格系疼痛 1
 慢性二次性筋骨格系疼痛 1.29 0.54~3.07 0.56
 慢性神経障害性疼痛 2.52 1.25~5.09 0.02
年齢(≥65歳) 0.88 0.47~1.65 0.71
性別(女性) 1.23 0.67~2.23 0.49
罹患期間(<6カ月) 2.16 0.94~4.93 0.07
PSEQ(≥30点) 1.16 0.63~2.12 0.62
薬物療法
 (カテゴリー2.3使用)
1.57 0.72~3.41 0.25
神経ブロック 2.84 0.91~8.95 0.07
運動療法 0.91 0.43~1.94 0.82

OR:odds ratio,CI:confidence interval,ICD-11:International Classification of Diseases,PSEQ:Pain Self-Efficacy Questionnaire.

IV 考察

2022年1月に発効されたICD-11により,慢性痛は初めて疾病として独立し,体系的に分類された1,8).その特徴は,慢性痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,一次性慢性痛と二次性慢性痛に分けたことである1,8).この分類に基づき,当院痛み診療センターを受診した慢性腰痛および頚部痛の患者を一次性筋骨格系疼痛群,二次性筋骨格疼痛群,および神経障害性疼痛群に分け,集学的治療下における治療反応性との関連について評価した.

本研究の対象者のうち,68人(32.1%)が一次性筋骨格系疼痛に分類された.本邦の慢性腰痛の調査では,慢性腰痛患者の22%は神経学的,画像,および電気生理学的検査によって器質的要因が否定された腰痛であった9).これらの結果から,集学的チームによる専門的な鑑別の下では,慢性腰痛および頚部痛の2~3割は一次性筋骨格系疼痛に分類されると推定される.なお,本研究の対象者には,慢性広汎性疼痛に分類される線維筋痛症などの疾患や内臓由来の痛みは含まれておらず,罹患部位は腰部または頚部に限局されていたため,全て慢性一次性筋骨格系疼痛(MG30.02)に分類した.

近年発刊された本邦のガイドラインでは,慢性腰痛の治療には,薬物療法,運動療法,神経ブロックなどのインターベンショナル治療,および認知行動療法などが推奨されている10,11).特にセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬や弱オピオイドなどの薬物や運動療法はその有効性が多くの研究で示されており,治療推奨度も高い10,11).一方,頚部痛に対する診療ガイドラインは本邦にはなく,慢性頚部痛の治療に関してエビデンスも不足しているが,姿勢指導やストレッチを含めた運動,徒手的理学療法,薬物療法の有効性などが示されている12).本研究では,治療反応性の基準をBPI total score ≥30%改善と設定した.慢性筋骨格系疼痛では,臨床的に重要な変化の最小量(minimal clinically important change)は,痛みの強さの15%減少であり,さらに,痛みの強さの33%減少は,患者全般改善度(Patients' Global Impression of Change)を用いた評価で「(以前と比較して)はるかに良い」改善と一致すると報告されている13).このことから,BPI total score ≥30%改善は,十分に満足のいく改善であると考えられる.本研究では,対象者のほとんどが,他院からの紹介患者であり,前医で既にカテゴリー2以上の投薬に加え精神科医や心療内科医の介入などさまざまな治療に抵抗性の症例が多かった.そのため,当院での集学的介入においても短期間で満足のいく疼痛改善が得られる患者は全体の36%にとどまった.単変量解析では,薬物療法および運動療法は,疼痛改善の有意な治療因子ではなかった.慢性痛に対する薬物療法では,デュロキセチンを含むカテゴリー2の薬剤が慢性痛全般に有用性が高く,広く使用されているが,副作用のために十分に増量できない場合や服薬アドヒアランスが乏しい場合も多く,治療反応性の向上の妨げになった可能性がある.運動療法に関しては,慢性腰痛に対して機能改善効果が示されているものの,疼痛改善の効果量は小さく14),疼痛改善をアウトカムにした場合に結果に反映されにくいことが考えられた.一方,神経ブロックに関しては,疼痛改善に対する有意な治療因子であった.多変量解析では,ICD-11分類の中で,特に神経障害性疼痛,すなわち神経根症を有する腰痛・頚部痛は,3カ月後の治療反応性が有意に高かった.神経根症を有する腰痛・頚部痛は,痛みの神経支配領域が特定しやすいこと,また比較的早期の段階で当院の痛みセンターに紹介され神経ブロック治療を主軸とする集学的介入ができたことが疼痛改善につながったと考えられた.一方で,一次性筋骨格系疼痛の機序は末梢の要因以上に中枢神経系の機能異常に起因するところが大きく15),末梢神経を標的とした治療の有効性が限定的であり,満足のいく疼痛改善が得られにくいと考えられた.

本研究の限界として,慢性痛は複合性の要因に起因することが多く,ICD-11による慢性痛分類により一つのカテゴリーに分類することは容易ではない.そのため,multiple parentingの概念を用いてより細かなコードでの解析も検討すべきであるが,今回の解析では,慢性腰痛および頚部痛を,一次性筋骨格系疼痛(MG30.02),二次性筋骨格系疼痛(MG30.3),および神経障害性疼痛(MG30.5)のいずれかに分類した解析にとどめた.また,本研究における神経障害性疼痛は,神経根症に由来する痛みであり,本研究の結果は,他の二次性の神経障害性疼痛(末梢神経損傷,有痛性多発神経障害,および中枢神経障害性疼痛など)の治療反応性を反映するものではない.最後に,本研究では比較的短期間の治療反応性について検討したが,慢性痛の治療反応性は緩徐である可能性も鑑み,より長期的な治療効果の解析も必要であると考える.

V 結論

集学的治療下における慢性腰痛および頚部痛の治療反応性に対して,ICD-11による疼痛分類は重要な関連因子となりうる.

文献
 
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