日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
日本ペインクリニック学会 第4回北海道支部学術集会
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2024 年 31 巻 2 号 p. 55-58

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会 期:2023年9月8日(金)~2023年9月29日(金)

会 場:Web開催

会 長:森本裕二(北海道大学大学院医学院侵襲制御医学講座麻酔・周術期医学教室教授)

■一般演題

1. サドルフェノールブロック時に体位変換の工夫をした直腸がん患者の1例

萩原綾希子 合田由紀子

市立札幌病院緩和ケア内科

【緒言】サドルフェノールブロックでは一定時間座位を保つ必要があるが疼痛などの理由で適切な体位がとれない症例はまれではない.

【症例】70歳代女性.X年1月に右大腿骨頚部骨折で入院中に直腸がん腟浸潤が判明した.人工骨頭置換後に腹腔鏡下に人工肛門を造設し,原発巣に45Gy/15frの放射線療法を行った.腫瘍は著明に縮小し,アセトアミノフェン1,800 mg/日とリドカインの肛門部への塗布で疼痛コントロール良好となり,3月に杖歩行で退院した.外来化学療法を施行し腫瘍の再増大なく経過したが肛門周囲膿瘍を発症し,11月には疼痛のため歩行困難となり入院した.抗生剤投与と洗浄,オキシコドン12 mg/日の持続注射で疼痛は再び改善したが化学療法の継続は困難であり12月にホスピスへ転院した.しかし,転院後に肛門周囲膿瘍の再増悪と骨盤内リンパ節転移の増大をきたし疼痛コントロールが困難となったため,X+1年1月当院緩和ケア科に神経ブロック目的で再入院した.転院時,疼痛のため右股関節は屈曲外旋のまま拘縮しており座位も立位もとれなかった.まず右側臥位でL3/4から0.8 mlのフェノールグリセリンを注入した.右下肢と肛門の痛みは速やかに消失したが翌日には肛門痛のみが再燃した.4日後に右側臥位でL3/4から高比重ブピバカイン1.0 mlを注入し,肛門部の疼痛消失を確認した後に端座位に体位を変換し,フェノールグリセリン0.6 mlを追加注入した.疼痛は改善しホスピスへ帰院した.ブロック後は車椅子の自走が可能となり永眠までの6カ月間肛門部・右股関節の疼痛の再燃を認めなかった.

【考察】L3/4レベルでは脊髄は終糸となっており側臥位では馬尾神経も重力方向に垂れ下がることが知られている.この性質を利用して一期的に馬尾神経のブロックを試みたが肛門部のブロックは不完全であった.拘縮や疼痛のため座位をとることが不可能な患者でもあらかじめ局所麻酔薬で除痛してから適切な体位をとることでサドルフェノールブロックが可能となった.

2. 食道がんの関連痛が疑われた頚部痛の1例

永島聡美 矢島悠太 小坂真子 竹中志穂 荒井麻耶 小山祐介 日高秀邦

福山市民病院麻酔・がんペインクリニック

【緒言】左頚部の疼痛加療を行っている経過で,傍食道リンパ節,左噴門部リンパ節転移を伴う食道がんが発見された症例を経験したため報告する.

【背景】50代女性,既往歴なし.当院口腔外科にて両側口蓋扁平苔癬を経過観察中に,左頚部から鎖骨付近に持続性,難治性の疼痛が出現した.整形外科にて精査されたが,明らかな頚椎由来の異常は指摘されず疼痛管理目的に当科に紹介受診となった.

【症状】左頚部から鎖骨付近に及ぶ持続的な疼痛を認めた.頚部には硬結を伴う圧痛点が散在し睡眠障害も認めた.

【経過】口腔内疼痛を代償した筋膜性疼痛症候群として加療開始し,筋弛緩薬,NSAIDs内服およびトリガーポイント注射(TP)を行うが,疼痛性状は変わらずTPの効果は短期的であった.神経障害性疼痛も考慮し三環系抗うつ薬も開始し,夜間の睡眠は改善した.数カ月後より後頭部痛,続いてしゃべりにくさなどの各種症状が出現したため消化器内科に紹介されたところ,胸部中部食道左側壁に2 cm大の食道がんを認めた.左噴門部のリンパ節転移はPET-CTにて肺底部で横隔膜中心腱付近に接していた.

【考察】関連痛は痛みが原因部位に局在するだけでなく原因部位に隣接する,または離れた部位に発症する痛みと定義されており,内臓がんや骨,リンパ節など深部組織に発生したがんにみられる.横隔膜は肺の発育に伴って頚部の筋群の一部が上腹部に移動して形成されたもので,中心腱は頚髄神経の支配を受ける.横隔神経と同レベルのC3~5に支配される肩の痛みを発症するものとして,肝胆膵の上腹部がん,肺がんの報告は多い.今回,左噴門部リンパ節転移が左横隔神経を介して頚部痛,後頭部痛に影響し,治療抵抗性の筋膜性疼痛症候群を引き起こした可能性があると考察した.TP効果が不十分である場合,関連痛も考慮し早めに原因精査することでがんの早期発見につながる可能性も考えられた.

【結語】頚部痛の原因として食道がんの関連痛を疑われた1例を経験した.

3. 上肢の複合性局所疼痛症候群に対し星状神経節レーザーと薬物療法が奏功した1症例

黒川達哉 伊藤智樹 宮田和磨 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【はじめに】橈骨遠位端骨折後のギプス固定後に発症した左上肢の複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)に対して,リハビリテーションに加えて星状神経節レーザー治療と西洋薬,漢方薬を組み合わせた薬物療法が有効であったので報告する.

【症例】60代女性.既往歴にはうつ病と片頭痛がある.X−1年8月に転倒し,左橈骨遠位端骨折の診断で近医整形外科にてギプス固定がなされた.手関節掌屈位,手指伸展位での3週間にわたるギプス固定後より左前腕部から手指にかけての腫脹と疼痛が出現した.手関節の拘縮,他動運動に伴う疼痛が強く,リハビリテーションが困難な状態が続いたためX−1年10月に当科初診となった.手関節と手指に高度な拘縮,手指骨と皮膚の萎縮性変化が認められたことからCRPSを強く疑った.手掌側のアロディニアと母指球筋の萎縮の所見から正中神経障害も疑われた.近位整形外科で処方されていたロキソプロフェンに加えてプレガバリン,牛車腎気丸,抑肝散の内服を開始した.星状神経節ブロックの提案にはブロック治療に対する恐怖感を強く訴えたため,星状神経節レーザーでの治療を開始した.X年1月には痛みは半減し,リハビリテーションも積極的に行うことが可能となった.X年5月には関節の拘縮は著しく改善し,皮膚の萎縮性変化やアロディニアも認められなくなった.

【考察】CRPSに有効な治療法は確立されておらず,さまざまな治療法が併用されている.本症例では西洋薬と漢方薬だけでなく,星状神経節ブロックの代替として星状神経節レーザー治療を組み合わせることでCRPSを治療し得た.星状神経節レーザー治療や漢方薬を併用することがCRPS治療の選択肢となる可能性が示唆された.

4. 腰部交感神経節ブロックが著効した原発性肢端紅痛症の2症例

小川 覚

京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室

【背景】原発性肢端紅痛症は四肢末端の灼熱痛,発赤,皮膚温度上昇を三徴とする臨床症候群であり,温度刺激により誘発された痛みが冷却により緩和されるという特徴を有している.今回,薬物治療に抵抗性を示したが,腰部交感神経節ブロックが著効した2症例を経験したので報告する.

【症例1】19歳,女性.受診1カ月前より四肢末端の痛みを自覚した.両下肢の腫脹と発赤が徐々に出現し,灼熱感を伴った強い痛みとなった.トラマドール,アセトアミノフェン,ロキソプロフェン,プレガバリンでは疼痛は改善せず,両下肢の浸漬冷却のために一日のほとんどを浴室で過ごすような状況であった.当科受診時,肢趾末端の発赤,熱感,腫脹が高度で,強い疼痛と灼熱感を伴っていた.腰部持続硬膜外ブロックで疼痛は半減したが,強い灼熱感が残存し,腰部交感神経節ブロックを施行した(両側L2+L3高位,エタノール).直後より灼熱感は完全に消失し,両下肢の腫脹や発赤も劇的な改善を認めた.ブロック施行から約3年が経過したが,症状の再燃を認めていない.

【症例2】16歳,男性.受診の3カ月前ごろより,温熱刺激で増悪する四肢末端の痛みが急速に悪化した.アスピリン,ロキソプロフェン,プレガバリンで疼痛の改善は得られなかった.当科受診時,肢趾末端の発赤,熱感,腫脹,灼熱感が高度で,自力歩行は困難であった.硬膜外ブロックによる効果は限定的であったため,腰部交感神経節ブロックを施行した(両側L3+L4高位,エタノール).直後より疼痛はほぼ消失し,皮膚症状も1週間程度で大きく改善した.ブロック施行から約2年で温熱刺激により軽度疼痛が誘発されるが,明らかな再燃を認めていない.

【結論】薬物治療抵抗性の原発性肢端紅痛症に対して,腰部交感神経節ブロックが疼痛の緩和と病態の改善へ有効である.

5. 痛み緩和に難渋し最終的に高用量メサドンで鎮痛が得られたがん性痛の1例

敦賀健吉 三浦基嗣 黒川達哉 伊藤智樹 宮田和磨 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【はじめに】神経ブロックやケタミンを含めたオピオイドスイッチ,鎮痛補助薬など各種痛みコントロールに向けたアプローチの結果,高用量メサドンの使用で痛み緩和に成功した症例を経験したので報告する.

【症例】卵巣がんの50代女性.腫瘍の骨盤壁浸潤による腰背部痛のため202X年Y月当院入院となり緩和ケアチーム介入となった.介入1日目フェンタニル注での調整を開始したが4日目フェンタニル1,500 µg/日まで漸増し無効と判断,ヒドロモルフォン注にスイッチ.介入8日目ケタミン50 mgを追加するも介入11日目の時点でヒドロモルフォン24 mg/日まで漸増となっておりT12/L1より硬膜外チューブ留置し0.25%アナペインでの硬膜外鎮痛を開始した.介入15日目手術が行われたが試験開腹となり痛みの軽減なく介入18日目の時点でヒドロモルフォン40 mg/日まで漸増となっておりオキシコドン注480 mg(明け方にかけて痛み増強するため夜間1.25倍)にスイッチ.硬膜外鎮痛は何回か中止と再開を繰り返したが効果なく介入21日目に中止,メサドン45 mg/日,デュロキセチン20 mg/日を開始した.その後オキシコドン注は漸減中止し,オキシコドン即放散50 mg頓用処方で介入38日目自宅退院となった.その後も治療のため入退院を繰り返しているが都度メサドン増量が必要となり,介入から3カ月後にモルヒネ併用を開始,介入から5カ月後の時点でメサドン90 mg/日+モルヒネ徐放剤390 mg/日で痛みコントロール良好に過ごしている.傾眠やQT延長などの副作用は認めていない.

【考察】硬膜外チューブは複数回穿刺しても効果薄く硬膜外癒着など存在するのかもしれない.ケミカルコーピングも疑ったが痛み緩和後レスキュー回数も減少した.NMDA受容体拮抗薬はオピオイド耐性の形成を阻害する作用もあり,メサドンが奏功した理由の一つかもしれない.

6. 帯状疱疹による広範囲の痛みに対し超音波ガイド下神経ブロックが有用であった1症例

菅原亜美*1 小野寺美子*1 岩田千広*1,2 井上真澄*1 佐藤 泉*1 牧野 洋*1

*1旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*2名寄市立総合病院麻酔科

【緒言】帯状疱疹は一般に片側の一つもしくは隣接する神経支配領域に一致した病変を生じる.今回,帯状疱疹による広範囲の痛みに対し超音波ガイド下(USG)神経ブロック(NB)が有用であった症例を経験したので報告する.

【症例】60代女性(身長154 cm,体重52 kg),既往に潰瘍性大腸炎(プレドニゾロン15 mg/日内服),気管支喘息があった.S状結腸憩室穿孔術後のため当院消化器外科入院中に左前胸部から背部にかけて水疱形成と痛みがあり,帯状疱疹と診断された.アシクロビル点滴とロキソプロフェンナトリウム内服で鎮痛効果が得られた.発症から約2週間後より痛みの再燃があり,トラマドール100 mg/日,アセトアミノフェン1,200 mg/日を処方されていた.痛みの増強と睡眠障害があり,当科紹介初診となった.身体所見は左第3,4胸神経に一致した前胸部から背部にかけての自発痛(NRS 8/10)と皮疹痂皮化を認めた.また皮疹はないが,左前腕から肩にかけての自発痛(NRS 6/10),電撃痛,アロディニアを認めた.薬物治療に抵抗性であったため,Th2よりUSG傍脊椎ブロック(PVB)を0.2%ロピバカイン20 mlにて施行し,皮疹に一致した痛みはNRS 4となった.ミロガバリン5 mg/日の内服を開始した.2回目はTh2,Th4のPVBを施行し,皮疹に一致した痛みは消失したが,夜間に上腕内側から腋窩部位の痛みが増強した.3回目はPVBに加え,上腕の痛みに対して0.2%ロピバカイン20 mlを用いてUSG腕神経叢ブロック(腋窩法)と内側上腕皮(MBC)NBを行った.上肢の痛みは軽快したが,ブロック後約24時間運動麻痺を認めた.4回目はPVBとMBCNB,尺骨NBを施行し,痛みが消失した.内服治療などを併用して,痛みは自制内となった.

【結語】帯状疱疹による痛みの部位に合わせてNBを行い,良好な鎮痛を得ることができた.

7. ノルトリプチリンと星状神経節ブロックが有用であった脊髄空洞症の1症例

垣本和人*1 高田幸昌*1 御村光子*2 木村さおり*1 佐々木英昭*1 山本明日香*1 山澤 弦*1

*1NTT東日本札幌病院麻酔科,*2NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター

【はじめに】脊髄空洞症はChiari奇形などの先天奇形や外傷により脊髄内に空洞が形成される疾患である.頚髄から上位胸髄に好発し,痛みやしびれのほか,温痛覚障害,自律神経障害,筋力低下など多彩な神経症状を呈する.今回,脊髄空洞症による左上肢痛に対し,ノルトリプチリンと星状神経節ブロックで良好な疼痛コントロールを得た症例を経験したので報告する.

【症例】60代の女性.X−12年より誘因なく左上肢に痛みとしびれを自覚,X−6年にChiari 1型奇形に伴う脊髄空洞症と診断された.手術適応なく薬物療法の方針となり,プレガバリンが処方されていたが,X−2年より痛みが徐々に増強してきたためX年当科初診となった.身体所見として,左上肢の温痛覚障害,頚部から肩にかけての筋緊張,痛覚過敏を認めた.また左上半身に発汗増加を認めた.MRIでは第4頚髄から第10胸髄レベルの脊髄中心部に空洞形成を認めた.脊髄空洞症による症状と考え,ノルトリプチリンと星状神経節ブロックを開始した.治療への反応は良好であり,半年後には痛み,しびれが自制内となり,現在も加療継続中である.また,脊髄刺激療法も検討したが,保存療法にて一定の効果が得られたため保留になっている.

【考察】脊髄空洞症は,脊髄内感覚伝導路の障害に起因する難治性の神経障害性疼痛を呈する.神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改定第2版では脊髄障害性疼痛に対する三環系抗うつ薬の有効性のエビデンスは比較的高いとされており,本症例でもノルトリプチリンが疼痛コントロールに有用であった.また,自律神経障害に由来する発汗異常を認め,星状神経節ブロックも効果的であったと考えられる.従来脊髄障害性疼痛に対する脊髄刺激療法の有効性は中等度とされていたが,近年ではパレステジアフリーの新しい刺激方法で痛みが軽減したとの報告が散見されており,今後の治療の選択枝となり得る.

8. 演題取下げ

9. 20年以上持続した歩行時痛に超音波ガイド下fasciaハイドロリリースが著効した1例

岩田千広*1 菅原亜美*2 井上真澄*2 佐藤 泉*2 小野寺美子*3 牧野 洋*2

*1名寄市立総合病院麻酔科,*2旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*3旭川医科大学病院緩和ケア診療部

【緒言】超音波ガイド下fasciaハイドロリリース(US-FHR)が歩行時痛に著効した症例を経験したので報告する.

【症例】80代,男性.X−26年に頚椎症に対し頚椎前方固定術と右腸骨採取を行い,術後より右大腿外側部の歩行時痛が出現した.腸骨採取の痛みとしてさまざまな医療機関で内服加療,神経ブロック等を行ったが,効果は持続しなかった.X−15年に旭川医科大学病院整形外科にて,大腿骨転子部へのステロイド等の局所注射で一時的に症状は軽快し,腰部脊柱管狭窄症のフォローを行っていた.X−7年に歩行時痛が増悪したが,近医の神経ブロックでは痛みは改善しなかった.X−3年に旭川医科大学病院ペインクリニック外来を自ら受診した.

初診時は右大腿外側部近位に剣山で刺されたような痛みが出現し,100 mほどしか歩けなかった.プレガバリン50 mgを内服開始して歩行時痛は一時的に軽快し,少し長く歩けるようになったが眠気等の副作用を認めていた.X−1年4月に腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎椎弓形成術後は歩行時痛が消失した.プレガバリンを25 mgに減量したが,3カ月ほどで手術前と同程度の強さの歩行時痛が再発し,50 mgに戻した.X年5月に痛みがさらに増強し30 mしか歩けなくなり,痛みと同部位に筋硬結と圧痛を認めた.超音波で外側広筋の筋膜の高エコーな重積を認めたため,重積部周囲に0.025%リドカイン20 mlでUS-FHRを行ったところ痛みが完全に消失した.効果は1週間ほど持続し,US-FHRを繰り返し行った.ミロガバリン5 mgに変更して痛みのコントロールが可能となり,副作用は認めなかった.

【結語】20年以上持続した歩行時痛にUS-FHRが有効であった症例を経験した.本症例は筋硬結や圧痛を認め,超音波上でも筋膜の重積を認めたので,筋筋膜性疼痛を疑い施行したUS-FHRにより副作用なく有効な鎮痛が得られた.

10. 神経ブロック治療を希望しない頚椎症症例に対して治打撲一方と桂枝加朮附湯の併用療法が有用であった2例

藤井知昭

平岸ペインクリニック

【はじめに】治打撲一方,桂枝加朮附湯はいずれも整形外科的疾患による痛みに適応があり,ペインクリニック診療所での処方機会は多い.今回,それらを併用することにより神経ブロックを行わずに経過を診ている頚椎症2例を経験したので報告する.

【症例1】80歳代女性.左頚部の痛みとしびれを主訴に前医整形外科を受診した.頚椎MRIにて椎間板ヘルニアおよび黄色靱帯骨化症による脊髄の軽度圧迫を認めた.痛みの治療目的に当院紹介.神経ブロック治療の希望はなく,クロナゼパムを投与したが眠気,ふらつきで中止した.桂枝加朮附湯を3週間投与したが,症状改善はわずかであった.桂枝加朮附湯に加えて治打撲一方を併用したところ,数日後から症状改善を認めた.

【症例2】40歳代男性.左頚部から上肢の痛みとしびれを主訴に前医整形外科を受診した.頚椎MRIにて頚椎椎間板ヘルニアと診断された.内服治療で改善なく当院受診.神経ブロック治療の希望はなく,漢方治療を希望したため,治打撲一方と芍薬甘草湯を投与した.4日後,症状改善なく芍薬甘草湯を桂枝加朮附湯に変更し,クロナゼパムを追加した.5日後,症状は改善しており,クロナゼパムは眠気で自己中断していたため,治打撲一方と桂枝加朮附湯のみ継続した.1カ月後,numerical rating scale(NRS)=2に改善した.

【考察】治打撲一方は近年では頚椎椎間関節症などの頚椎疾患に応用されているが,しびれの強い頚椎症・神経根症に対しては効果が不十分な場合がある.桂枝加朮附湯は神経痛や関節痛に適応があり,治打撲一方との併用療法は頚椎症症例に対する内服治療として試みてよいと考えられる.

【結論】神経ブロック治療を希望しない頚椎症症例に対して,治打撲一方と桂枝加朮附湯の併用療法は有用な可能性がある.

 
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