日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
日本ペインクリニック学会 第4回東海・北陸支部学術集会
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2024 年 31 巻 6 号 p. 124-131

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会 期:2024年2月10日(土)

会 場:JPタワー名古屋ホール&カンファレンス

会 長:柴田康之(名古屋大学医学部附属病院手術部)

■特別講演

1. がんサバイバーの痛みをペインクリニックの視点で考える

住谷昌彦

東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター

2. 麻酔科医と自律神経~交感神経と副交感神経の関わり~

松崎 孝

三重大学医学部附属病院麻酔科

■一般演題

1. 環指末節骨骨折を伴う外傷後の難治性疼痛に正中神経と尺骨神経パルス高周波法が著効した1例

杉浦弥栄子 木村哲朗 小林 充 佐藤徳子 加藤 茂

聖隷三方原病院麻酔科

【はじめに】近年,神経障害性疼痛や関節痛に対する末梢神経パルス高周波法(PRF)の有効性が報告されている.今回,外傷後の指先部の痛みに対して末梢神経PRFが著効した症例を経験したので報告する.

【症例】40代男性.仕事中に鉄の角材に指先を挟んで受傷.左環指末節骨骨折,爪損傷を伴う挫創と診断され整形外科で加療していた.指先部の痛みが増強したため受傷から3カ月後に当科に紹介された.痛みは拍動性で,運動やシャワーを浴びるなど血流増加に伴い増強し,冷やすと軽快した.また,指先に物が触れると激痛が走るアロディニアもあった.トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠,セレコキシブ,ノイロトロピン,越婢加朮附湯などの内服薬の調整でADLは改善したが,触ると強い痛みが出るため,復職はできなかった.当科初診から6カ月後に前腕で超音波ガイド下に正中神経と尺骨神経ブロックを1%ロピバカインで行った後,2日間は痛みなく過ごせたが,1週間後には元の痛みに戻った.2回目のブロックの効果も同様であった.正中神経と尺骨神経PRFをそれぞれ480秒で行った.PRFの翌日より痛みが3割程度に軽減し,翌週に復職した.その後徐々に痛みは軽減し,PRFから2カ月後には接触や加温で誘発される痛みもなくなった.PRFから1年後も痛みは再燃していない.

【結語】指先の外傷後難治性疼痛に対して末梢神経PRFが著効し職場復帰につなげることができた.

2. 腰椎神経根嚢胞による下肢痛に対して神経根パルス高周波が著効した1例

中西真有美*1 中村好美*2 金 優*2 操 奈美*4 長瀬 清*3 田辺久美子*2 紙谷義孝*2

*1岐阜大学医学系研究科周術期疼痛制御・人材育成講座,*2岐阜大学医学部附属病院麻酔科疼痛治療科,*3岐阜大学医学部附属病院手術部,*4岐阜大学医学部附属地域医療医学センター

【はじめに】腰椎神経根嚢胞が症候性となって神経根症状を発症することは非常にまれである.今回,腰椎神経根嚢胞による下肢の激痛に対して神経根パルス高周波が著効した1例を経験したので報告する.

【症例】43歳男性,1カ月前から左大腿前面の痛みが出現した.その数日後には激痛となり救急搬送されたが,原因は特定できなかった.針で刺されたような強い痛みが持続するため当院整形外科受診となった.腰椎MRIでは,左L3神経根に10 mm大の嚢胞があり,これによる左L3神経根症状と診断された.手術適応はなく,疼痛治療目的で当科紹介となった.当科初診時は,左大腿前面から膝上,大腿内側にかけて安静時NRS 4/10,体動時8/10の疼痛があり,同部位にヒペステジア5/10があった.腰椎伸展で左大腿前面放散痛があった.筋力低下や膀胱直腸障害はなく,SLR,FNSともに陰性であった.

【治療経過】本症例は職業運転手であり,薬物治療よりも神経ブロック治療を優先して行うこととした.神経根嚢胞がある部位よりも遠位で,X線透視下左L3神経根パルス高周波を施行した.3週間後,ヒペステジア,冷感は残存しているものの,NRSは2まで改善し従来の職務に復帰した.5カ月後のMRIで嚢胞は消失していた.

【考察】神経根嚢胞は神経根に沿った硬膜の拡張で成人の1~15%にみられ,MRIなどの画像診断の発達によって偶発的に発見されることが多い.無症状のことが多いが,周囲への神経根圧迫や骨破壊により神経根症状や交感神経刺激症状を呈することもある.多くは仙骨でみられ,薬物療法や外科的治療,穿刺吸引法,ステロイドの内服または硬膜外投与の効果が報告されている.本症例ではほとんどの鎮痛薬の使用が禁忌であり,単独の神経根症状であったため神経根パルス高周波で良好な鎮痛が得られた.

【まとめ】神経根症状を有する腰椎神経根嚢胞に対して,神経根パルス高周波が有用である可能性が示唆された.

3. 高電圧パルス高周波法による治療経験22例における短期成績

新城健太郎

山之手痛みと内科のクリニック

パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)は,疼痛治療において広く臨床応用されている.近年,従来機器よりも,パラメーターをより自由に設定できる製品も利用可能となっている.今回,従来機器(JK-3)より電圧を高く設定できる機器(TLG-20:TOP社製)を使用し50~70 Vの高電圧を用いて治療する機会を得たため,施行後2カ月までの短期成績を報告する.

【対象症例】2023年9月から10月にPRF適応となった22例.男性12例,女性10例.平均年齢75.7歳.

内19例は従来機器によるPRF経験あり.原疾患:帯状疱疹関連痛18例(内発症後1年以上13例),腰下肢痛3例,三叉神経痛1例.施行部位:神経根ブロック18例(頚椎6例,胸椎9例,仙椎3例),眼窩上神経3例,眼窩下神経1例.

【PRFパラメーター設定】42℃ 2 Hz 20 mA,6分間は従来機器と同一設定.電圧設定のみ変更,神経根ブロック70 V,三叉神経末梢枝50 Vとした.

【評価方法】NRS,3段階(良い・不変・悪化)の患者評価.

【結果】全22例中,良い11例,不変9例,悪化2例.その内,帯状疱疹関連痛遷延例の13例中,良い6例,不変5例,悪化2例.

【考察】治療に難渋している帯状疱疹関連痛遷延例の内,6例43%で症状の改善が得られたことは,高電圧PRFの治療効果が優れている可能性を示唆する.一方,2例15%で悪化との結果には留意する必要がある.電圧以外のパラメーターも変更可能であり,どの要素が治療効果に影響を与えるのかが,今後の検討課題となる.

4. 当院で行っている術後尿道カテーテル関連膀胱不快感(CRBD)への工夫と発生状況についての検討

宗石啓和 内野絢子 荘司 勧

杉田玄白記念公立小浜病院麻酔科

【はじめに】術後尿道カテーテル関連膀胱不快感(catheter-related bladder discomfort:CRBD)は男性やカテーテルの太さに関連しているとされる,尿道カテーテル留置の合併症の1つであり,発症率は47~90%とされている.当院では,コスト面や侵襲性を考慮し,0.3%ロピバカインもしくは2%リドカインを尿道カテーテル挿入の前に,12Frのネラトンカテーテルを用いて,投与している.今回,本方法の有効性について検討した.本研究に関して倫理委員会の承認を得ている.

【対象と方法】2023年10月1日から,12月8日までの,全身麻酔を受ける男性患者において,上記の方法で経尿道的局所麻酔を投与し,CRBDの発症率について記録より調べた.

【結果】51人の患者に,経尿道的な局所麻酔が施行され,10人が術後CRBDを発症した(19.6%).3名が抜管後の尿道カテーテルの違和感と,不穏が強く,手術室で尿道カテーテルを抜去した.2%リドカインを用いたのは17名であり,0.3%ロピバカインを用いたのは34名であった.CRBDの発症率は,2%リドカインで11.8%,0.3%ロピバカインで23.5%であった.

【考察】今回の方法では,これまで報告されているCRBDの発症と比較し,減少傾向であった.神経ブロックや硬膜外麻酔などにより,手術の疼痛が良好に管理されたとしても,CRBDの方が苦痛に感じることもある.また,CRBDにより,せん妄や不穏を引き起こすこともある.CRBDの薬物学的治療として,NSAIDsやトラマドールなどがあり,区域麻酔では,陰茎背神経ブロックなどが有効とされている.今回の検討では,長時間手術においても術前カテーテル時の局所麻酔投与となり,手術終了時には局所麻酔の効果が薄まってしまっていた可能性がある.長時間手術の際や術後CRBDが発症した際は,薬物学的治療などを併用するなどの工夫が必要と思われる.

【結語】経尿道的局所麻酔薬の投与は術後CRBDの発生予防につながる可能性がある.区域麻酔や薬物学的治療との組み合わせや有効性の比較も,今後検討していく.

5. 帯状疱疹神経炎および帯状疱疹後神経痛に対するマグネシウム+リドカイン静脈内投与の有効性

永井修平 新井健一 尾張慶子 牛田享宏

愛知医科大学疼痛医学講座疼痛緩和外科・いたみセンター

【序章】帯状疱疹は臨床の現場でよく遭遇する病気である.年齢が上がるにつれてその発生率は上昇し,今後さらなる増加が予想される.帯状疱疹による神経痛は難治例になると,生活に支障をきたすほど重篤化することがある.発症後早期からの介入は治療成績を上げるといわれており,われわれは可能な限り早期の介入を目指している.しかし抗血小板薬や抗凝固薬内服中,またはneedle phobiaのためにインターベンショナル治療の速やかな介入が不可能な症例があり,苦慮することがある.また,マグネシウムはカルシウムチャネル阻害薬であり,鎮痛作用があることは知られている.モルヒネの効果を強める作用や中枢感作の重要な役割を担うN-methyl-Daspartate(NMDA)受容体阻害作用もある.われわれは以前,三叉神経痛に対するマグネシウム+リドカイン静脈内投与の有効性について報告した.そこで今回,帯状疱疹神経炎および帯状疱疹後神経痛患者に対し,マグネシウム+リドカインの静脈内投与の有効性について調査した.

【対象】帯状疱疹後神経痛患者23人(男5女18),インターベンショナル治療の速やかな介入が不可能な症例,平均年齢:73.3歳(55~87),部位:顔面,上肢,胸部,側腹部,下肢.

【方法】硫酸マグネシウム1.2 gとリドカイン100 mgを合わせた製剤を1週間ごとに1時間かけて静脈内投与.numerical rating scale(NRS)を初診時から4週後まで測定し検討した.

【結果】初診時,点滴施行前のNRS平均値(6.3)と施行後のNRS平均値(5.2)の間に統計学的有意差を認めた.同様に,初診時点滴施行前(6.3)と1週後(4.5)間や,初診時点滴施行前(6.3)と4週後(2.6)間においても統計学的に有意差を認め,点滴回数が増加するにつれてNRSは減少する傾向があった.

【まとめ】本研究ではマグネシウム+リドカインの静脈内投与が帯状疱疹神経炎および帯状疱疹後神経痛患者に対し有効であることを示し,インターベンショナル治療の速やかな介入が不可能な症例における介入方法の1つとなりうることが示された.

6. 自己赤血球感作症試験陽性であったガードナー・ダイアモンド症候群の1例

安藤貴宏 西脇公俊

名古屋大学医学部附属病院

【背景】ガードナー・ダイアモンド症候群(自己赤血球感作症,心因性紫斑病とも呼ばれる)は,赤血球間質の成分であるホスファチジルセリンに対する感作を伴う自己免疫血管障害と考えられている.他の出血症状はなく,凝固系検査は正常である.非常にまれな疾患と考えられており,これまでに200症例程度が報告されている.本疾患は臨床症状としては非常に強い痛みが特徴的で,複合性局所疼痛症候群(CRPS)として考えられることもあり,ペインクリニックでの対症療法が求められる.

【症例】患者は38歳,女性,血友病Bキャリア.25年前の虫垂炎手術,第2子,第3子の出産時の大出血があるが,輸血歴はない.

【現病歴】X−1年7月,脚立から転落し右手背を負傷した.その後,右手に色調変化が現れ,痛みが悪化.CRPSと診断され,整形外科で経過観察された.X年1月,疼痛コントロール不良が続き,当院ペインクリニック紹介受診された.

【症状】右手全体に浮腫と紫斑,NRS 10の疼痛を認めた.

【治療】直ちに入院し,持続硬膜外ブロックを開始した.治療反応性は良好で,NRS 5まで減少した.治療は5週間継続し,退院となった.その後外来通院にて,疼痛コントロールしていた.X年3月,右脚全体に紫斑と腫脹が認められ,翌週に強い疼痛が出現した.X年6月,左脚に紫斑が出現した.その2週間後に左脚に痛みが出現した.右腕,右脚,左脚の紫斑は出現消退を繰り返し,疼痛悪化とは関連がなかった.

【診断】ガードナー・ダイアモンド症候群が疑われX+1年6月,自己赤血球感作症試験を実施した.患者本人から全血採血を行い,洗浄赤血球を作成した.その洗浄赤血球0.1 mlと生理食塩水等張液0.1 mlをコントロールとして紫斑や痛みなどの症状がない部位に皮内注射を行った.24時間経過観察し,疼痛の再現や紫斑の出現をもって陽性と診断する.注射後15分程度で右肩に紫斑と疼痛が出現し,陽性と診断された.

【結論】四肢に激しい痛みを伴う出血斑が出現消退を繰り返す場合は,ガードナー・ダイアモンド症候群を疑うべきである.なお本症例報告に関して,患者本人より書面にて同意を得ている.

7. 強大音暴露後の耳痛,聞こえ方の違和感に対し内服薬と星状神経節ブロックが奏効した1例報告

浅野市子 佐藤威仁 西脇公俊

名古屋大学附属病院麻酔科

【緒言】強大音の暴露直後から片側の難聴,耳痛,聞こえ方の違和感を発症した症例に対し内服薬と星状神経ブロックが奏功したので報告する.

【症例】51歳男性.就業中に高圧ガスの急な吹き出しによる破裂音と衝撃波の暴露直後から右耳の難聴,耳奥の持続痛と突発痛,違和感を自覚した.受傷同日,近医耳鼻科で聴力検査を施行され異常はなかった.内耳傷害の疑いで治療薬の処方により難聴,耳痛ともに多少の改善(NRS 10→8)が得られたが,左右の聞こえ方の違和感が継続するため内耳傷害の精査目的で当院耳鼻科へ紹介となった.当院での聴力検査の再試行および画像診断はいずれも異常なく,続発性の内リンパ水腫疑いと診断された.ロキソプロフェンを処方されたが耳痛と違和感が継続するため,受傷から8カ月後にペイン外来へ紹介となった.アセトアミノフェン,ミロガバリン,漢方薬の追加と星状神経節ブロックの施行後,耳痛はNRSとしては6~7程度とわずかな改善であったが,「痛みの質」が変化し音が聞き取りやすくなり健側に近い程度まで改善し仕事に集中できるようになり,突発痛や痛みによる夜間覚醒も消失した.

【考察】強大音の暴露後に発症する聴器障害を急性音響性聴器障害といい,難聴,めまい,耳鳴り等を症状とする続発性内リンパ水腫との関連性が報告されている.急性音響性聴器障害は検査異常値が短時間内に正常化してしまう場合もあり本症例では確定診断はつかなかった.内リンパ水腫の原因の一つには内耳循環障害があると考えられており,星状神経節ブロックによる内耳循環障害の改善が効果をもたらした可能性が考えられた.また,耳への衝撃波による外耳/中耳/内耳間の瞬間的な圧差の変化から生じる神経への負荷が遷延性耳痛を引き起こした可能性を考慮しミロガバリンを試験的に処方したところ一定の効果が得られた.

【結語】強大音の暴露直後に発症した急性音響性聴器障害に関連する内リンパ水腫疑いで,内服薬と星状神経節ブロックにより症状が改善したと考えられる1例を経験した.症例報告にあたり書面による患者の承諾を得た.

8. 集学的痛み治療が有効であった難治性膀胱痛症候群の1例

高 ひとみ*1,4 加藤利奈*1,2 酒井美枝*1,3 杉浦健之*1,2 祖父江和哉*1,2

*1名古屋市立大学病院いたみセンター,*2名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野,*3名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野,*4名古屋市立大学医学部附属西部医療センター麻酔科

【はじめに】膀胱痛症候群(bladder pain syndrome:BPS)は,病因・病態がいまだ不明であり,根治的治療がない.難治性のBPS患者に対して,多剤薬物療法と認知行動療法の併用が有効であった症例を経験した.

【症例】59歳の女性.身長163 cm,体重60 kg.X−5月にCOVID-19罹患後,陰部の強い不快感が出現した.X−4月,強い尿意と陰部の痛みで近医を受診し,子宮脱と診断された.内服治療とペッサリー留置が行われたが効果はなかった.以降,複数の医療機関を受診し,CT,MRI,膀胱鏡検査が施行されたが,症状の原因となる器質的異常はなかった.過活動性膀胱に対する内服治療や膀胱水圧拡張術にも反応せず,X月に当院いたみセンターへ紹介となった.

【既往歴】不安症,子宮脱.

【内服薬】デュロキセチン,ブロチゾラム,ロラゼパム,ロフラゼパム,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠.

【初診時所見】陰部から肛門部の痛み(NRS 7/10),頻尿,排尿後の疼痛増強,下腹部圧迫にて圧痛と尿意が増強.hospital anxiety and depression scale(HADS)は,不安16/抑うつ17であった.

【経過】上記内服薬にプレガバリンと抑肝散を追加し,HADSの結果や不安を示す言動から,心理療法を行った.尿意と疼痛の改善があり,さらにプレガバリンを増量したところ,X+7月にはNRS 0/10となり,旅行にでかけるなど生活の質の向上が得られた.現在は頓用のロキソプロフェンのみで日常生活を送ることができている.

【考察・結語】BPSは頻尿・尿意切迫感等の下部尿路症状に骨盤部・会陰部・尿道の痛みを伴うもので,ペインクリニック領域でも念頭に置くべき疾患である.間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドラインには,治療薬としてデュロキセチン,プレガバリン,トラマドール,漢方薬の記載があるが,いずれも推奨度は低い.多剤併用が有効との報告や認知行動療法との併用が治療成績を向上させるとの報告がある.本例は多剤併用と認知行動療法併用の集学的治療が症状の改善に寄与した可能性がある.

9. 大後頭神経三叉神経症候群による顔面痛に漢方治療が奏効した1例

松田修子*1 竹内健二*1 松木悠佳*1,2 野口桃子*1 重見研司*1

*1福井大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2社会医療法人財団中村病院麻酔科

ペインクリニック治療指針改訂第6版によると,大後頭神経三叉神経症候群の病態は,C2,3と三叉神経の一次求心性ニューロンは三叉神経脊髄路核に収束し,さまざまな疾患により上位頚神経が刺激されると,後頭神経部の痛みとともに三叉神経第I枝の領域に痛みが生じるとされている.治療法としては各種神経ブロックや薬物療法の有効性が報告されているが確立された治療法はまだ存在しない,今回われわれは長期間三叉神経領域に原因不明の痛みを生じていた症例で,大後頭神経三叉神経症候群と診断し漢方治療が著効した症例を経験したので報告する.症例は49歳,女性.主訴は右頬部痛.既往歴として気管支喘息・右腕神経鞘腫摘出術・鬱病・更年期障害があり,シムビコートタービュヘイラー®,イフェクサーSR®,女性ホルモン剤2種類(詳細不明)を常用していた.現病歴は,5~6年前から右前頭部に鈍痛を認め,半年前から右頬部痛も出現し眼科・耳鼻科受診したが異常所見は指摘されなかった.特発性三叉神経痛疑いで当科紹介受診した.痛みの性状から神経障害性疼痛の可能性は低いと考え,理学所見を確認したところ,右後頭神経走行部に一致して圧痛を認めたことから大後頭神経三叉神経症候群の可能性を考えた.これまで,アセトアミノフェン・ロキソプロフェン・カルバマゼピンが処方されたがいずれも無効であった.プライベートでも職場でも常にイライラ感を感じストレスを感じているとのことであり,病態的にストレスに伴い交感神経系が亢進し,後頚部の筋緊張や血流低下が局所での発痛物質の蓄積を生じ痛みを増悪させる,いわゆる痛みの悪循環が生じていると推察した.上半身の疼痛疾患に頻用される葛根湯エキス7.5 g/日といわゆる実証の瘀血に使用される桃核承気湯エキス7.5/日を併用したところ,即座に疼痛消失しイライラ感も激減したとの報告を再診時に受けた.疼痛消失とともに,他の自覚症状も改善したことから,漢方治療は有効であったと判断した.

10. 高容量フェントス®テープ使用中の高齢患者の緊急上腕骨骨折に対する周術期経験

森 玲央那 内山沙恵 横田修一

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院麻酔科

【背景】高容量オピオイド貼付剤使用中患者の緊急手術にはしばしば直面する.

【経過】症例は70歳の女性,下行結腸がん(stage IV)でbest supportive careの方.手術麻酔の依頼時,元のがん性痛である上下腹部の痛みは安静時numerical rating scale(NRS)3~4,突出痛NRS 5~6で,骨折部の痛みは安静時NRS 3,体動時NRS 6~8であった.しかしperformance status 3~4で全身状態不良で内服薬は少量しか摂取できずフェントス®テープ24 mg(8 mg×3枚)/日がベースで鎮痛されていた(レスキューはオキノーム®散20 mg,アブストラル®舌下錠200 µg).20XX年9月に院内でベッドから落下し右上腕骨近位端骨折にて全身麻酔下で緊急観血的骨接合術となった.スイッチング・タイトレーションの時間が限られ貼付剤は同量で健側の胸部と上腕に移し消毒液や加温(下半身のみ加温)の影響を受けないようにし,麻酔科医から貼付部位が常に視認・触診できる位置に配置した.術中は追加フェンタニル100 µgとレミフェンタニル0.1~0.4 µg/kg/minと麻酔覚醒前の静注用アセトアミノフェン800 mgの投与で対応した(手術時間1時間).術直後は創部痛とレスキュー経口摂取困難な場合に備えフェンタニル25 µg/h(疼痛時は30分あけて1時間分早送り可)の持続静注を実施し,創部痛と既存のがん性痛は術後3日間NRS 3未満で経過した.

【考察】高容量オピオイド使用患者が手術を受ける際は静注や長時間型経口剤に変更されることもあるが,緊急手術では貼付剤からの短期間での変更・中止により過量投与や退薬症状が懸念される.術中の貼付剤使用は金属素材(フェントス®テープは合成ケイ酸アルミニウム材あり)による熱傷,加温による効果増強,消毒液の浸潤や発汗による脱落(効果減弱)等が問題になるが短時間手術で貼付部位が加温器より遠く,視認・触知可能であればそのまま使用できる可能性を考える.

【結語】高容量フェントス®テープをそのまま継続して周術期管理できた症例を経験した.

11. 悪性褐色細胞腫の多発転移に起因する立位時に増悪する肛門部痛に対して,仙骨硬膜外エタノール注入療法が奏功した1例

佐藤威仁 浅野市子 安藤貴宏 柴田康之 西脇公俊

名古屋大学医学部附属病院手術部

悪性腫瘍の浸潤に起因する肛門部痛はオピオイドのみでは疼痛コントロールが困難となる場合が多く,患者のQOLを大きく低下させる一因となる.仙骨硬膜外エタノール注入療法は仙骨硬膜外にカテーテルを留置し,無水エタノールを持続投与することで会陰部付近のみの知覚を消失させることが可能であり,他の神経破壊薬を用いたブロックと比較して膀胱直腸障害をきたしにくい特徴があるため排泄機能が保たれている患者に対して良い適応となる.

今回われわれは,悪性褐色細胞腫の多発転移をきたし,立位時に増悪する肛門部痛を訴える患者に対し,仙骨硬膜外エタノール注入療法を行い良好な疼痛コントロールを得られた症例を経験したため報告する(本症例報告に対して患者から書面での同意を取得済み).

症例は45歳女性.悪性褐色細胞腫の多発転移により化学療法を施行されていたが,奏功せず余命3カ月程度と診断された.疼痛の増悪のため緊急入院となりヒドロモルフォン塩酸塩18 mg/日を投与開始され疼痛コントロールされ状態は改善したが,立位により増悪する安静時肛門部痛に関してはオピオイドレスキュー投与で改善が認められなかったため当科紹介となった.

現症として,膀胱直腸機能は残存し,歩行も可能であるが,NRS 8程度の肛門部痛があり,特に立位時に増悪するため病棟内の移動のみかろうじて可能な状態であった.CTでは子宮と肛門部付近に大きな腫瘍塊が認められ,立位による荷重で腫瘍の位置が肛門側へ移動することで肛門部痛をきたしたと推測された.仙骨硬膜外エタノール注入療法の適応と判断し,透視下で仙骨裂孔から硬膜外カテーテルを留置した.テストブロックを行い,疼痛緩和効果を確認後2%キシロカインを2 ml/hで一晩持続投与(約14時間)を行った後,無水エタノールを緩徐に1.5 ml投与したのちに2 ml/hで持続投与を開始.計13.5 ml投与を行い終了とした.投与終了後,肛門部痛はNRS 0~1程度まで減少し,特に立位時の増悪する痛みは消失し歩行が可能となった.その後も疼痛の再燃は認めず経過し,今後は在宅での緩和ケアを行う方針となったためエタノール注入施行後5日目に自宅退院となった.

12. CT撮影可能な移動型X線透視診断装置を用いた内臓神経ブロック導入の取り組み

河野 優*1 三宅舞香*1 大石紗代*1 加藤えり*1 横山幸代*1 木村智政*1,2

*1独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター麻酔科,*2きむらクリニック

【はじめに】内臓神経ブロックは上腹部のがん性疼痛に対して有効であり,オピオイドの使用量を減少させるため,推奨度が高い.2023年から当院では,cone beam CT(CBCT)を撮影可能な移動型X線透視診断装置(Cアーム装置)を用いた手術室での内臓神経ブロックを導入したので,導入の取り組みについて考察を含めて報告する.

【症例】膵がんによるがん性疼痛を有する3症例に対して,第12胸椎/第1腰椎の経椎間板法による内臓神経ブロックを施行した.はじめの2症例はBSC方針になってからの施行であったのに対し,3症例目は抗がん剤治療中の施行であり,オピオイドの開始から日が浅かった.いずれの症例も大きな合併症はなく経過し,施行後のNRSの低下を認めた.病期が早かった3症例目では著明にQOLの改善が認められた.

【考察】Cアーム装置を用いた手術室での内臓神経ブロックは,時間枠の確保や物品の手配が容易であり,普段手術室で業務を行う麻酔科医にとっては,看護スタッフとの連携もとりやすく導入しやすい手段である.経椎間板法は正中に針先を留置できるため1度の穿刺で両側に薬液を投与できる可能性が高く,肺や腎臓の臓器損傷が起こりにくいため安全性が高い.またretrocrural spaceへの腫瘍浸潤が高度な症例でも施術可能な可能性が高い.CBCTを撮影することで,より正確に造影剤の広がりを確認することができた.内臓神経ブロックは早期に行うことで,より効果があるとされているが,当院で導入した段階では,上腹部のがん性疼痛を有する院内患者の病期は進んでいた.がん治療担当医,緩和ケア科医師と協議し,連携を深めることで,3症例目ではより適切なタイミングで内臓神経ブロックを提供することができた.

【まとめ】CBCTを撮影可能なCアーム装置を用いて,内臓神経ブロックを大きな合併症を起こすことなく施行することができた.今後も適切な時期に内臓神経ブロックを提供できるよう,さらなる検討を重ねたい.

13. サイレント・マニピュレーション術後理学療法中のエコー評価にて発見された小胸筋下腕神経叢神経鞘腫の1例

南端翔多*1 柳原 尚*2

*1名古屋栄ペインクリニックリハビリテーション科,*2名古屋栄ペインクリニック

【はじめに】凍結肩に対する評価・治療は筋・末梢神経を中心に行われることが多いため肩甲上腕関節周辺をエコー描出することが多い.

今回サイレント・マニュピレーション(以下,SM)後の理学療法中に,上腕外側痛と前胸部の圧迫感を遅発的に訴えた症例に対してエコー評価を行ったところ占拠性病変様の所見を認め,医師にて腕神経叢神経鞘腫と診断された症例を経験したため報告する.

【症例】60歳代,女性.凍結肩に対して,SMが施行され理学療法開始となった.ROMは改善したものの,腋窩神経,肩甲下神経領域での筋力低下を認め,前胸部の締め付け感,上腕外側痛が残存していたためエコー評価を行った.小胸筋下腕神経叢の神経束周辺に20 mm台の低エコー像を認めた.医師に報告しMRIおよび手術にて腕神経叢神経鞘腫と診断された.腫瘍摘出術後は筋力,疼痛の改善を認めた.

【まとめ】SM前は肩関節拘縮を呈していたため,神経鞘腫に伴う末梢神経症状が出現していなかった可能性が考えられたが,SM後はROMが拡大したことで症状が遅発的に出現した.

腫瘍などの占拠性病変は触診だけでは分からないこともあるが,当院では,エコーを用いながら理学療法を行っておりSM後早期に神経鞘腫を発見することが可能であった.理学療法を安全に進めていくには,エコーを共通言語に医師と連携していくことが重要である.

14. 慢性痛の診療中に発見された脊髄空洞症を伴う巨大頚髄上衣腫の1例

友成 毅 徐 民恵 山添大輝 杉浦健之 祖父江和哉

名古屋市立大学病院

【はじめに】慢性痛患者はさまざまな症状を訴えるが,その中でも主症状にフォーカスして診療がなされる場合が多い.今回,下腹部痛を主症状に他院から紹介されたが,痛み以外の症状に対する精査により巨大な頚髄上衣腫を発見した教訓的な症例を経験したので報告する.

【症例】50歳代の女性.初診時の主症状は下腹部痛であった.4年前の乳がんに対する乳房全摘術と腹直筋皮弁再建術直後から,下腹部の腹直筋採取部位の痛みが遷延していた.4カ月前に前医でロボット支援下子宮全摘術を行った後から下腹部の痛みが増強し,当院いたみセンターへ紹介となった.前医で下腹部痛に対する画像検査などは行われており,遷延性術後痛と診断した.また,乳がん術後のホルモン療法後から両上肢のしびれがあったが,前医で行った神経伝導検査では異常はなく,化学療法誘発性末梢神経障害は否定された.当院初診時は頚部伸展でしびれの増悪はなかったが,再診時に四肢のしびれを訴えたため,頚椎MRIを施行したところ,C2~6レベルでの脊髄空洞症を伴う占拠性病変を発見した.直ちに整形外科に紹介し,頚髄上衣腫と診断され,他院で摘出術を行った.術後は体幹以下の感覚鈍麻が残存しているが,独歩は可能である.

【考察と結語】頚髄上衣腫をはじめとする髄内腫瘍は進行が遅く,症状が出現するまでに時間がかかる.そのため,診断時には既に上下肢の麻痺が進行していることが多い.本症例は下腹部痛で当科に紹介されが,痛み以外の症状にも焦点を当て精査を行ったことで,麻痺症状が出現する前に頚髄腫瘍を発見し,手術に至った.紹介患者では,紹介状に記載された主症状と依頼内容を患者の一番の問題点であるとしてしまう認知エラーを引き起こしやすい.認知バイアスに陥ることを避けるためにも,病歴聴取と身体診察を十分に取り直すことが,慢性痛診療でも重要である.

15. 難治性頚部帯状疱疹後神経痛患者において3度目の脊髄電気刺激装置留置による高頻度刺激により長期モルヒネ内服から離脱可能となった1症例

飯田潤基 西脇公俊

名古屋大学医学部附属病院麻酔科

【背景】脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,脊髄後索を電気刺激し鎮痛を得る方法で,神経障害性疼痛や虚血痛に有効と報告されている.その刺激方法も,トニック刺激に加えてさまざまな高頻度刺激の有用性が報告されている.対象患者の帯状疱疹後神経痛に対してSCS埋め込みによるトニック刺激を行ってきたが,それだけでは疼痛管理が難しく長期にわたりモルヒネなどを併用しながら疼痛管理を行ってきた.今回われわれは3度目のSCS電極留置による高頻度刺激で良好な疼痛管理ができ,モルヒネ内服を離脱できたため報告する.報告にあたり患者本人から文書による承諾を得た.

【症例】49歳,男性.身長164.6 cm,体重66.5 kg.特記すべき既往歴なし.X−19年に右頚部帯状疱疹を発症した.発症2カ月後に当科受診し,持続硬膜外ブロック療法など行うも難治性であった.発症8カ月後にSCSを頚部硬膜外腔に留置しトニック刺激を開始したが,それにモルヒネ1,000 mg/日の内服と月に2回のケタミン点滴を併用して,何とか社会復帰となった.X−14年感染を起こしSCS一式を摘出し,以後経口モルヒネやフェンタニルパッチによる治療を継続していた.X−11年に2度目のSCS埋め込みを実施し,トニック刺激によるSCS療法に経口モルヒネ800 mg/日程度と月2回のケタミン点滴で治療継続していた.X−1年バッテリー消耗をきっかけにMRI対応で高頻度刺激可能なSCS一式の3度目の埋め込みを行った.電極を適切な位置に留置でき,高頻度刺激により良好な鎮痛が得られ,19年間にわたって使用していた経口モルヒネを離脱でき,ミロガバリンとトラマドールの内服で社会復帰した.

【結語】頚部PHNに対して,SCS電極を適切な位置に留置し,高頻度刺激により19年間1,000 mg/日程度必要としていたモルヒネ内服から離脱可能となった症例を経験した.頚部痛に対するSCS療法においてトニック刺激が効果不十分な場合に高頻度刺激が有効な場合がある.また慢性痛患者で強オピオイドを長期に使用していても,常に減量を試みることが大切である.

16. 脊髄刺激療法中にリード位置を調整した全身性強皮症患者の1例

川津文子 越川 桂

中部国際医療センター

【はじめに】脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)は,難治性の神経障害性疼痛や虚血性疼痛に施行が検討される治療法である.今回,SCSを始めてから4年目に足趾潰瘍と疼痛が増悪した全身性強皮症患者に対しリード位置の調整を行い,症状が改善した症例を経験したので報告する.

【症例】70歳台,女性.全身性強皮症の下肢血行障害による両足関節以下の疼痛と足趾潰瘍に対し,脊髄刺激装置植込術を行った.リードはL1/2から挿入し,右側をTh11~Th12,左側をTh9~Th11の位置に留置した.足趾潰瘍は,SCS開始から右足が約3カ月,左足が約6カ月で完治した.その後も時折,左足にのみ潰瘍ができたが早期に治癒していた.しかし,SCS開始から4年目にできた左足趾潰瘍が悪化し,疼痛も増悪した.内服薬はコデインリン酸塩とアセトアミノフェンを使用していたが,副作用のため薬剤の追加は困難であった.腰部交感神経節ブロックを行ったが症状改善は得られなかった.脊髄刺激装置の動作に問題はなかったが,刺激開始当初から左足趾が刺激範囲に含まれていなかったため,リード位置の調整を行うことにした.手術室で,脊髄刺激装置植込術時の手術痕から開創し,刺激電極の下端がTh12になるように左側のリード位置を調整した.左足趾に刺激感が得られることを確認したうえで,リードを再固定し閉創終了した.リード位置調整から約1カ月で左足趾潰瘍は縮小傾向となり,疼痛も軽減した.

【結語】SCSのリード位置を調整し,足趾潰瘍と疼痛が改善した全身性強皮症の1症例を経験した.SCSの刺激が疼痛部位をカバーしていない場合は,リード位置調整も治療選択肢の1つになると考えられた.

17. 肺移植術後遷延痛に脊髄刺激電極パンクチャートライアルが有効であった1例

加藤祐貴 安藤貴宏 西脇公俊

名古屋大学医学部附属病院麻酔科

【緒言】1998年,岡山大学において肺移植が成功し,日本における肺移植がスタートした.2021年末時点での本邦における累計の肺移植数は928例となり,増加傾向にある.肺移植は術前の患者状態が重篤であることや,術中には人工心肺使用が考慮されるため,区域麻酔併用は困難である場合が多い.周術期疼痛管理における区域麻酔は,術後遷延痛予防において重要であると考えられる.また本邦において,肺移植患者における術後遷延痛の報告はない.本発表は患者本人からの同意を書面で得ている.

【症例】70歳,男性,159.3 cm,55.7 kg.X−5年に特発性肺線維症を発症し,抗線維化薬の投与などの加療を受けたが症状が進行した.X年8月,A病院で脳死右肺移植術を受けた.X+3年ごろより,創部に引きつるような痛みが出現した.徐々に疼痛悪化を認め,X+8年に当院麻酔科を紹介受診.

【既往歴】睡眠時無呼吸症候群,糖尿病,狭心症,盲腸がん.

【現症】NRS 5程度で,右創部に沿ったピリピリとした痛みを自覚.NSAIDsは無効で,プレガバリンは副作用のため内服不可であった.

【治療】術後遷延痛であり,神経障害性疼痛の要素が強いと判断しトラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠を開始した.バイアスピリン内服中であったため,休薬に問題がないことを確認後,硬膜外ブロックを施行した.ブロック後,右創部痛は楽になったが痛みは継続しているため,脊髄刺激電極パンクチャートライアル施行となった.Th3/4から穿刺し,パレステジアマッピングを行った.電極をC4上端正中とC5上端右側に留置し,手術終了した.

【経過】Burst刺激を開始し,POD 1より疼痛軽減を自覚したが,左方から肘に違和感を抱くようになった.POD 2,さらに右創部痛は軽減した.POD 6,左肘痛が悪化しNRS 4程度であった.POD 8には右創部痛はNRS 2となり,電極抜去した.その後,外来にて経過観察し,右創部痛NRS 1で左肘から肩の痛みはNRS 0となり終診となった.

【結語】肺移植術後遷延痛に脊髄刺激電極パンクチャートライアルが有効であった1例を経験した.

18. DTMTM(differential target multiplexed)刺激による脊髄刺激療法(SCS)が有効であった複合性局所疼痛症候群(CRPS)の1例

鈴木興太*1 木村哲朗*1 寺田和弘*2 中島芳樹*1

*1浜松医科大学医学部附属病院麻酔科・蘇生科,*1寺田痛みのクリニック

【症例】40歳代,女性.職業:タクシー運転手.

【現病歴】X-1年3月,仕事中に右足を踏まれ,中足骨剥離骨折の診断となる.3カ月経過しても痛みが軽減せず,前医でCRPSの診断で末梢神経リリース・腰部硬膜外ブロックなどを行うも治療抵抗性であった.腰部交感神経節ブロック目的に当科紹介となった.

【初診時所見】右足背および足関節前面の灼けるような,電気が走るような痛みで,NRS 3~7のベースの痛みに加え,触刺激・運動刺激で誘発されるNRS 10の強い発作痛を認めた.右足関節背屈制限を認めた.

【治療経過】L2・L3レベルで熱凝固による右腰部交感神経節ブロック施行後,一時痛みは軽減したが,X+1年2月,痛みが右臀部から下腿に拡がり,左下肢にも痛みを感じるようになった.次の治療法としてSCSサージカルトライアルを選択した.Medtronic社製8極リードを使用し,パレステジアを確認してT7椎体頭端レベル正中に1本,その右隣,電極2個分尾側に2本目を留置した.DTMTM刺激でトライアルを開始したところ,術後2日目より痛みの程度や発作痛の頻度が軽減し,トライアルから1週後IPG埋め込み術を行った.

退院後初来院では右臀下肢痛はNRS 1~2と著明に軽減し,日常生活の活動性も向上した.術後5カ月で一部痛みの再燃を認めたが,刺激設定調整で対応可能となっている.

【考察】本症例で使用したDTMTM刺激はMedtronic社より2021年に国内導入されたグリア細胞の活性を抑制して痛みを緩和させるという考え方に基づくワークフローである.腰痛に対して有効性を示す多施設共同研究報告があるが,CRPSに対して有効性を示すエビデンスは不十分であり,今後さらなる検討を要するが,本症例ではCRPSに対して有効であり,従来の刺激方式に加わる新たな選択肢となりうると考えられた.

 
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