日本ペインクリニック学会誌
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症例
仰臥位での腸骨筋膜下前方アプローチを用いた超音波ガイド下L4神経根パルス高周波法の1例
中村 恵梨子旭爪 章統中村 里依子緒方 洪輔上林 卓彦中本 達夫
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2024 年 31 巻 8 号 p. 184-188

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Abstract

L4神経鞘腫術後疼痛を有する患者にShamrock view(SV)や腸骨筋膜下前方アプローチ(anterior approach through fascia iliaca compartment:FI)を用いL4神経根パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行し疼痛緩和を得た症例を経験したので報告する.症例は50代男性.X−8年,他院で右L4神経鞘腫に対し運動枝温存可及的腫瘍摘出術が施行された.手術後は元来の腰痛に加え右下肢痛が出現した.内服加療では疼痛緩和を得られず,X−3年に当科紹介となった.腰神経叢のハイドロリリースが有効で,仰臥位でのSVやFIで大腰筋内の神経鞘腫と神経根が確認でき,腹膜外で超音波ガイド下に右L4神経根へとアプローチできることから,22G 100.5 mmスライター針(AC 5 mm)を用いて,42℃,8分間のPRFを施行した.施行後は疼痛緩和を得ることができ,以後,定期的にPRFを施行している.仰臥位腹膜外アプローチによる下位腰部神経根ブロックは,従来法が困難な場合の代替アプローチとして有用な方法であると考える.

Translated Abstract

We report a case of postoperative residual pain for L4 schwannoma treated with pulsed radiofrequency (PRF) to the L4 nerve root using Shamrock view (SV) and anterior approach through fascia iliaca compartment (FI) in the supine position. The patient, a 50-year-old man, was diagnosed with right L4 schwannoma and had undergone tumor resection with motor branch preservation at another hospital. Following the surgery, he developed pain and numbness in his right lower extremity. He came to our hospital because of his residual pain. We performed an ultrasound-guided pulsed radiofrequency (PRF) treatment at 42℃ for 8 minutes on the right L4 nerve root via SV and FI in the supine position, as we could confirm the schwannoma and the nerve root within the psoas muscle. The patient experienced pain relief from the PRF treatment. Our case suggests that lower lumbar root PRF with an extraperitoneal approach in the supine position can be effective when conventional methods are challenging.

I はじめに

腰部神経根ブロック(lumber root block:LRB)は従来X線透視下に実施され,近年では腰神経叢ブロック(lumbar plexus block:LPB)のアプローチとして報告された超音波を用いたShamrock view(SV)がLRBに応用されている1).SVでは横突起による音響陰影の影響を受けずに椎間孔や大腰筋などの腰椎周囲筋を観察できるものの2,3),背部からの穿刺であり下位腰椎では腸骨が穿刺経路の障害となりうる.

今回,第4腰神経(L4)神経鞘腫術後疼痛を有する患者にSV,腸骨筋膜下前方アプローチ(anterior approach through fascia iliaca compartment:FI)を用いた仰臥位腹膜外アプローチでL4神経根パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を行った症例を経験したので報告する.

本症例の報告にあたり,患者本人より承諾を得た.

II 症例

患 者:50歳代,男性.

既往歴:高血圧,睡眠時無呼吸症候群.

現病歴:X−8年,他院で右L4神経鞘腫に対し運動枝温存可及的腫瘍摘出術が施行された.術後,元来の腰痛に加え右下肢痛が出現し,セレコキシブ400 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,フェンタニルクエン酸塩テープ1.5 mg/日,プレガバリン375 mg/日,アセトアミノフェン600 mg/回頓用,ジクロフェナクナトリウム50 mg/回頓用で疼痛緩和は難しく,X−3年に当科紹介となった.初診時の疼痛数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)は10/10であった.

検査所見:MRIで右L4神経根へと連続する右大腰筋内の神経鞘腫を認めた(図1).

図1

MRI所見

A,B:横断面と矢状面におけるT2強調画像で右大腰筋内に径3.2 cm大の神経鞘腫を認める.C,D:神経鞘腫は丸印で示したL4神経根へと連続していることが確認できる.

治療経過:術後の腰痛・右下肢のしびれ・右股関節痛に対して右仙腸関節ブロック・pericapsular nerve group block(PENG block)を行った.右股関節枝や後枝内側枝に対する高周波熱凝固も併用し,フェンタニルクエン酸塩テープを漸減,休薬することができた.

X−2年,残存する前屈姿勢での腰から下肢にかけての痛みに対して0.125%レボブピバカイン20 mlとベタメタゾン2 mgを用いた側臥位SVによる後側方からの穿刺で腰神経叢のハイドロリリースを行ったところ有効であった.残存する右L4神経鞘腫による右下肢痛と考え,同薬剤を使用して腫瘍周囲でのハイドロリリースを試みたところ効果を認めた.繰り返し行ったが効果は1カ月程度であったため,右L4 PRFを計画した.側臥位SVでのL4神経根へのアプローチでは神経鞘腫が障害となったため,仰臥位で観察したところ大腰筋内の神経鞘腫とL4神経根が確認でき,腹膜外FIでアプローチできると判断した.

III 腸骨筋膜下前方アプローチによるL4神経根ブロック

上前腸骨棘直上の側腹部にコンベクスプローブ(C5-2,コニカミノルタ)をあて,プローブ外側より22G 100.5 mm電磁波凝固療法用針(active tip 5 mm,高周波熱凝固用ポール針TL-S®,TOP,東京)(以下,スライター針)を進めた(図2A,B).運針時には針の進路調節のために適宜プローブによる圧調整を行いながら,スライター針を確実に腸骨筋膜下に進めた.続いて,腫瘍穿刺とならないよう腫瘍の上縁を通過して針先を神経根近傍へと進めた(図2C,D).本法では横突起の音響陰影を受けることがないため,常に針先を確認しながら手技を進めることが可能であった.スライター針が目標部位に到達した後に,50 Hz,0.5 mA刺激で再現痛を確認し42℃,8分間のPRF刺激を行った.以後,定期的に同手技を繰り返し,現在は下肢のしびれは残存するものの,PRF施行後はNRS 8/10からNRS 5/10へと疼痛緩和が得られ,杖歩行から独歩可能となっており,自覚・他覚的にも症状は改善していると考える.内服薬も漸減可能となり,現在,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,トラマドール塩酸塩徐放錠100 mg/日,アセトアミノフェン1,500 mg/日,アミトリプチリン塩酸塩10 mg/日,プレガバリン100~150 mg/日を継続中である.

図2

右L4神経根パルス高周波法

A,B:腸骨筋膜下前方アプローチでのPRF施行時の様子.圧調整をしながらスライター針をコンベクスプローブ外側から刺入する.C,D:穿刺時超音波画像.スライター針は腹腔内と腫瘍を避けL4神経根へと進んでいる.

IV 考察

本症例では術後残存する右L4神経鞘腫による右下肢痛に対し,FIを用いた超音波ガイド下右L4神経根PRFを行うことで疼痛緩和を得ることができた.PRFは1993年に提唱され普及してきた4).針先温度を42℃に調整した間欠的な高周波刺激により生じた電場が神経に影響を与えることで鎮痛を得る治療手段である.神経組織の熱変性を起こす可能性は極めて低く,理論的には筋力低下や運動麻痺が生じることはなく,高周波熱凝固の禁忌とされる運動神経を含む神経根に対しても施行できるという利点がある.腰仙部神経根性痛に対する神経根PRFは有効とされていることから5),本症例においてもPRFを施行した.PRFの臨床的有効性を示した研究はみられるが,正確なメカニズムは未だ明確にはなっていない.侵害受容シグナル伝達,免疫活性,シナプス機能を含んださまざまな経路に作用すると考えられている6).PRFの適正な施行条件について検討した報告は少ないが,通電時間により鎮痛効果が異なる可能性が示唆されている.本症例においても,より長期の鎮痛を得るためのPRFの刺激部位や条件に関しては今後も検討していく必要があると考える.

本症例では右L4神経根へのアプローチについては仰臥位でのFIを選択した.SauterらのSVを用いたLPBは側臥位で行い背部から穿刺するのが一般的であるが,近年,仰臥位で行ったとする報告もみられる.Yang7)らは股関節骨折患者の周術期疼痛管理で,仰臥位での超音波ガイド下腰仙骨神経叢ブロック(lumbosacral plexus block:LSPB)と腰方形筋ブロックを報告している.彼らは仰臥位SVで行っているが,平行法で穿刺が困難で交差法により行っている.本症例では残存する神経鞘腫が経路にあり,運針中の針先の描出が必須であることからFIを用いた.Liu8)らは体位変換が困難な患者に対して仰臥位でコンベクスプローブを後腋窩線上で体軸と平行にあて,頭側から平行法でLPBを行っている.本症例では神経鞘腫が大腰筋内に残存するため,体軸と平行にプローブを置くことで神経根の確認や運針が困難になることから,FIを選択した.Wang9)らは人工骨頭置換術の周術期疼痛管理に仰臥位で超音波ガイド下仙骨神経叢ブロックを行う際,コンベクスプローブを体軸と垂直にあて腹側から平行法で穿刺している.本症例ではL4神経根とより頭側のブロックであるが,彼ら同様にコンベクスプローブを体軸と垂直にあて平行法で穿刺した.SVの特徴の一つに側腹部にプローブを置くことで軟部組織の圧迫が可能となり標的神経までの距離の短縮が可能となる点が挙げられ1),本症例でも当初は仰臥位SVを用いた.横突起と神経鞘腫の影響を受けずに運針可能であることから腹側から穿刺し,腹腔穿刺と腫瘍穿刺には十分注意して運針した.腹膜穿刺とならないようプローブ圧の調節に技術が必要であったため,やや腹部前方(前腋窩線レベル)にプローブをずらすことで圧調整がより簡便になるのではないかと考え,FIへと修正を行った.Xu10)らは下肢骨折手術におけるLSPBの有効性を仰臥位と側臥位で比較した前向きランダム化比較試験を行い,仰臥位で行うLSPBは簡便で幅広く応用される価値があるとすると同時に,LPBの前方アプローチとされる腸骨筋膜下ブロックは安全かつ容易に行うことができると報告している.本症例で行ったFIは穿刺部位がより頭側かつ目標がL4神経根と深部になるため,腎臓や腸管損傷,また大血管穿刺には十分な注意が必要である.われわれの実施した仰臥位での腹膜外FIではコンベクスプローブを腹壁に沈み込ませるようにあて,腹膜近傍では適宜圧調整を行いながら運針を行うため,極端な肥満患者や腹部膨満患者では困難な可能性となり側臥位SVでのアプローチや一般的な透視下での実施が良いかもしれない.また,本症例では問題とならなかったが,腸管ガスが多い場合は深部構造の確認が困難になるため,プローブを用いてプレスキャンの段階で穿刺経路上の腸管ガスを圧排する必要がある.しかしながら,本法実施にあたって絶食の必要性については現時点では感じていない.以上より,横突起や腸骨稜の音響陰影が影響せず常に穿刺針先端を描出して進められる点,またプローブの圧調整が容易となる点からは腹腔内の範囲を見極めた安全な運針が可能となるため,下部腰椎神経根ブロックを行う際には本症例のような仰臥位腹膜外アプローチも選択肢の一つになると考える.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

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