2024 年 31 巻 9 号 p. 199-201
オピオイド抵抗性の腫瘍浸潤による難治性上肢痛に対して神経根高周波熱凝固法(radiofrequency thermocoagulation:RFT)が著効した症例を経験したので報告する.
本症例報告にあたり,患者から書面による承諾を得た.
58歳の女性.
現病歴:55歳時に左上腕類上皮肉種と診断された.上肢切断を拒否したため化学療法が開始されたが,腫瘍の増大に伴い左上肢の痛みが生じ薬物療法が行われた.漸増しミロガバリン30 mg/日,タペンタドール500 mg/日,モルヒネ徐放製剤300 mg/日,モルヒネ速放製剤20 mgを3回/日程度用いたが,オピオイドによる眠気の副作用が強く,痛みの制御が困難となり58歳時に当科紹介受診となった.
初診時現症:Computed tomography画像検査で左腋窩から上腕を占拠する腫瘍と血管の圧迫が確認された(図1).左上腕の皮膚は静脈鬱滞により浮腫状で,前腕から末梢側では虚血により暗紫色,第1~3手指は黒色壊死がみられた.しびれの訴えはなかったが,左上肢全体の感覚低下がみられた.左上肢の自動運動機能はほぼ廃絶し肩関節外転がわずかに可能だった.左肘関節以遠で絞られるような痛みがあり,末梢側ほど強く手指はnumerical rating scaleで10と訴えた.
造影CT冠状断
左腋窩動脈~上腕動脈周囲に中心部が低吸収域,辺縁に増強効果を伴う境界不明瞭な腫瘍がみられる(白丸).鎖骨下~腋窩動脈(白矢頭)より末梢は閉塞している.
治療経過:今後も腫瘍増大の制御は困難で左上肢運動機能の改善は見込めないことや初診時に施行した局所麻酔薬によるC7,8神経根ブロック(各1%メピバカイン1 ml)に短期的な効果がみられたことから左頚部神経根の神経破壊治療を行う方針とした.超音波ガイド下にC7,8神経根RFT(90℃,180秒)を行い,痛みの緩和が得られた.その後も痛みの再燃や範囲の拡大に応じて左C5~8神経根のRFTを施行し,痛みの低減とオピオイド減量による眠気の改善がみられた(図2).その後も痛みは低値で推移し,初診より約9カ月後に壊疽により左前腕は自然脱落し,その2カ月後に急激な昏睡状態に至り永眠された.
治療経過
横軸に時間経過,縦軸上段に最大の痛み(NRS)の推移,中段に神経根高周波熱凝固法施行時(矢印),下段に内服薬治療の経過を示す.
類上皮肉腫は若年成人の四肢に好発するまれな悪性軟部腫瘍である.皮膚や腱などに結節性病変として発生し,治療は広範切術が推奨される1).本症例では腫瘍の増大に伴う腋窩動脈狭窄が患側上肢の虚血痛を引き起こした.虚血に陥った組織から疼痛誘発物質が分泌され,血流改善されない場合,この物質がさらなる炎症や血管収縮を引き起こして痛みが増強される2).また,重症虚血に加えて本症例では,腫瘍増大に伴う神経障害や上肢機能廃絶など複合的な要因により強い痛みが生じたと考えられた.
RFTは正確に針先を配置した場合,局所の神経破壊が可能で長期的な鎮痛効果が期待できる3).しかし,温度や施行時間にかかわらず運動神経などの太い神経線維へも影響することが報告され4),頚部や腰部神経根での施行は四肢筋力低下をきたす可能性が高い.過去のがん性疼痛に関する文献では,単一の腰部神経根RFT施行後に下肢筋力低下が生じ理学療法を必要とした症例が報告されており5),RFT施行時は患者への十分な説明とその後の支援体制が必要と考えられた.本患者のように運動機能改善が期待できない場合は,腫瘍増大に伴う痛み部位の広がりに応じて複数神経根RFTの検討や,その頻度・回数を決定する必要があると考えた.その他の侵襲的治療法の一つとして,くも膜下鎮痛法があるが,ポートや投与薬剤の管理等の煩雑さを考慮すると外来通院でも施行可能な神経根RFTが優先されると考えた.
悪性腫瘍による運動機能が廃絶した難治性上肢痛に対して神経根RFTは簡便で有効な治療法となる可能性がある.
本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会 第4回九州支部学術集会(2024年3月,熊本)において発表した.