2025 年 32 巻 3 号 p. 63-66
会 期:2024年9月24日(火)~10月14日(月・祝)
会 場:Web開催
会 長:牧野 洋(旭川医科大学麻酔・蘇生学講座教授)
河村翔平 西田遼子 片山勝之
医療法人渓仁会手稲渓仁会病院
【目的】当院は上腹部内臓疾患患者が多いがん拠点病院である.2014年にシーメンス社のコンビームCTを導入し,2016年7月から2024年8月まで65例のコンビームCT下の腹腔神経叢ブロックを行ってきたため,その概要を報告する.
【方法】腹腔神経叢ブロックは全例コンビームCT下に腹臥位経椎間板アプローチで行った.過去の腹腔神経叢ブロックを行った患者の背景疾患,有効性,合併症の有無,患者予後から適用の妥当性を検討した.
【結果】49症例の基礎疾患は膵臓がんであり,その他は腹部悪性疾患に加え,慢性膵炎後遷延性上腹部痛などの良性疾患であった.全例で疼痛が改善し,特に13症例では鎮痛薬必要量が減少した.全例で低血圧や代償性頻脈を生じたが,血管内薬液誤注入や出血などの重大な合併症はなかった.1名が施行16日後にトルソー症候群で死亡したが,処置との因果関係は認められなかった.
【結論】コンビームCT下では針先を後横隔膜脚腔および大動脈側面まで正確に誘導することができるため,末期がん患者にも安全に行うことができる.緩和ケアチームの一員が術者であることにより,スムーズに適応できると考える.
2. 緩和ケアにおける神経ブロックの院内外との連携の現状敦賀健吉 三浦基嗣 黒川達哉 伊藤智樹 宮田和磨 森本裕二
北海道大学病院麻酔科
【はじめに】地域がん診療連携拠点病院の指定要件として「難治性疼痛に対する神経ブロック等について,自施設における麻酔科医等との連携等の対応方針を定めていること.また,自施設で実施が困難なために,外部の医療機関と連携して実施する場合には,その詳細な連携体制を確認しておくこと」と記載があるが,神経ブロックが提供可能な体制を構築するためのハードルは高い.当院における神経ブロックの提供体制について報告する.
【成績】2020年度から2023年度まで当院で行われた緩和ケアにおける神経ブロックの症例数は15例,ブロック件数は19件であった.15例のうち10例が緩和ケアチームからの提案,1例が当院主科からの依頼であり,外部の医療機関からの依頼は4例であった.ブロックの内容は硬膜外/くも膜下カテーテル挿入が9件,硬膜外/くも膜下ポート挿入が4件,内臓神経ブロックが3件,サドルブロックが2件,腕神経叢ブロックが1件であった.
【結語】実際の神経ブロック施行は麻酔科医が行うべきだが,適応の評価や施行後の鎮痛薬調整など緩和ケア医が神経ブロックについての知識を持つことも必要と考える.
3. 持続腕神経叢ブロックと高用量オピオイドを併用してがん性疼痛を治療した1例黒川達哉 敦賀健吉 三浦基嗣 宮田和磨 伊藤智樹 森本裕二
北海道大学病院
【背景】がん性疼痛の緩和を目的とした持続腕神経叢ブロックの報告は少なく,その適応の明確な基準はない.高用量のオピオイドと持続腕神経叢ブロックを併用してがん性疼痛の治療を行った症例を報告する.
【症例】50代女性.子宮平滑筋肉腫の骨転移に伴う左上腕の強い疼痛に対してメサドン60 mg/日とオキシコドン持続静注60 mg/日に加えてアセトアミノフェン,プレガバリン,リドカイン持続静注を使用しても疼痛コントロールに難渋し入院.
【経過】斜角筋間にカテーテルを留置し,0.2%ロピバカイン4 ml/hの持続投与で各種鎮痛補助薬を中止することができた.しかし,横隔神経麻痺による呼吸苦を認めたため,0.1%ロピバカイン4 ml/hに変更し,横隔神経麻痺は改善したが疼痛は増強した.横隔神経麻痺を避けるため,鎖骨上から穿刺してカテーテルを上神経幹近傍に置き,皮下埋込型ポートを留置した.0.2%ロピバカイン4 ml/hで横隔神経麻痺は認められず,ポート埋込2日後に退院となった.
【結語】腕神経叢への腫瘍浸潤による上肢の痛みに対してはポート埋込による持続腕神経叢ブロックが治療の選択肢の一つとなる可能性がある.
4. 帯状疱疹関連痛治療中に菌血症となった3症例神田知枝 実藤洋一 笠井裕子
JCHO北海道病院
【症例1】81歳女性.関節リウマチで当院内科通院中.左下肢帯状疱疹関連痛/運動障害で発症2週後に当科受診した.内服および大腰筋筋溝ブロック,仙骨硬膜外ブロック施行で痛み軽減傾向となり,下肢運動障害は軽度で積極的に動かすことを推奨した.発症約1カ月後に下肢浮腫がみられ,1週間ほどで改善傾向となったが,皮膚には痂皮化した発疹が残存していた.発症55日後に発熱,救急搬送となった.
【症例2】72歳女性.透析中,糖尿病,摂食不良で当院内科入院となり,左臀部大腿帯状疱疹関連痛で発症約2週間後に当科受診した.受診時皮膚は広範囲に発赤,痂皮がみられた.内服および硬膜外ブロック施行で痛みは軽減傾向となったが,発症約1カ月後発熱した.
【症例3】86歳男性.右C4/5帯状疱疹関連痛で発症約2週間後に受診.受診時痂皮化した発疹が残存.硬膜外ブロック,神経根ブロック,星状神経節ブロックを施行,種々の内服薬を使用し,痛みは軽減傾向となったが,発症約6週後に運動後発熱,救急搬送となった.運動やブロックにより皮膚血流が増加したことを契機に帯状疱疹で障害された皮膚から細菌が侵入し菌血症を発症したと考えられた.
5. 過換気が原因の症状に星状神経節ブロックとミロガバリンが有効だった1例実藤洋一 神田知枝 笠井裕子
JCHO北海道病院
症例は85歳女性.X−8年,原因不明の前胸部痛で前医に通院していた.夜間に焼けるような前胸部痛を訴えて同院に救急搬送された.複数の科で精査を受けたが原因不明,アセトアミノフェン・エチゾラム等を投与されたが効果がなく当科を紹介された.前胸部に焼けるような痛みが夕方から増強,後頭~頸部~肩~上肢にかけて強い筋緊張を訴えていた.筋膜性の痛みに自律神経機能障害・不安要素が加わった状態と推測した.内服薬が多数処方されていたため新たな処方を避け,星状神経節ブロックで経過をみる方針とした.ブロック注射後気になる症状は消失,1週間程度有効だった.前述の症状以外にめまい・頭痛・四肢のしびれが出現するとの訴えより,原因として過換気を疑った.過呼吸で症状が誘発され,中止で改善することを確認した.X−1年,頭痛・右半身のしびれで脳神経外科を受診,何らかの神経障害性疼痛が疑われ,ミロガバリン5 mg/日が処方された.内服開始後,前述の症状は改善した.
6. 手関節尺側部痛を主訴にペインクリニックを受診した三角線維軟骨複合体損傷の1例原田修人 岡田華子 寺尾 基 髙畑 治 的場光昭
旭川ペインクリニック病院
【はじめに】手関節尺側部痛をきたす疾患にはさまざまなものが挙げられるが,三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)損傷は代表的疾患の一つである.今回,手関節尺側部痛を主訴にペインクリニックを受診したTFCC損傷の症例を報告する.
【症例】10代男性.X年5月,野球の練習中,捕球時に左手関節尺側部痛が出現した.練習を継続していたが,痛みは続いていた.X年7月,当院受診,左手関節尺側部に痛みがあり,腫脹がみられた.ペットボトルの開栓時にも痛みが出現した.ulnar fovea signおよびulnocarpal stress testは共に陽性,DRUJ ballottement testは陰性であった.左手関節MRI検査ではTFCCにT2*で高信号を認め,TFCC損傷の診断となった.また尺骨遠位の骨髄にT1で低信号,T2*で高信号像を認め,尺骨頭不全骨折の併発が考えられた.治療は保存的治療を選択,手関節部装具を用い4週間の常時装着とし,関節の安静を図った.リハビリテーションを導入し経過をみたところ,徐々に痛みや腫脹の軽減が得られた.
7. 直腸がん放射線治療後に発症した肛門痛に対し乙字湯が有効であった1例佐藤麻理子 袖山直也 櫻田幽美子 安達厚子
仙台市立病院麻酔科
【緒言】乙字湯は痔疾患に用いられる漢方であるが,難治性の肛門痛患者に使用し症状の緩和を得られた症例を経験したので報告する.
【症例】51歳男性.直腸がんに対し放射線療法を受けた.治療開始後から排便時・排便後の肛門部の痛みを自覚し注入軟膏や鎮痛剤の内服をしていたが改善なく,徐々に針で刺すような痛みが増強したため当科を紹介された.当科初診時は肛門注入軟膏,トラマドール,セレコキシブ,アセトアミノフェンを使用していたが排便時および排便15分後から数時間続く痛みを自覚され痛みの強さはNRS 8であった.アミトリプチリンやデュロキセチン,ミロガバリン,オキシコドンも試したが効果を得られなかった.乙字湯を開始したところ完全な痛みの消失には至らないものの以前は痛みが半日続いていたものが2~3時間程度まで改善した.
【考察】乙字湯は痔疾患に用いられる漢方で,当帰,柴胡,黄苓,甘草,升麻,大黄を含む.その成分により肛門括約筋・腸管平滑筋の痙攣を寛解,骨盤内筋肉の緊張を正常化,抗炎症作用やうっ血性腫脹を取り除く作用を有す.難治性の肛門痛の患者に対し乙字湯の有効性を実感した症例であった.
8. 慢性疼痛に対する治療により誘発された焦点意識減損発作の1例川﨑侑希*1 高田幸昌*1 木村さおり*1 坂野知世*1 佐藤順一*1 御村光子*2
*1 NTT東日本札幌病院麻酔科,*2 NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター
【背景】ペインクリニックでは鎮痛目的で抗てんかん薬を使用する機会も多いが,一方で,てんかん発作を誘発する鎮痛薬も存在する.今回,当科での治療が焦点意識減損発作を誘発したと考えられる症例を経験したので報告する.
【症例】50代女性.2年以上前から続く左足関節遠位の痛みに対する治療目的で当科紹介となった.合併症としてうつ病,甲状腺機能亢進症がある.前医より処方されていたトラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合錠に加え,仙骨硬膜外ブロック,リドカイン点滴を開始した.経過中に前回の治療内容を想起できないなど認知機能低下を疑うエピソードがあり,うつ病で通院中の精神科病院へ病状照会と精査を依頼した.その結果,認知機能は問題ないものの発作性失見当識が確認され,焦点意識減損発作と考えられた.精神科病院と連携しながら使用薬剤を調整し,現在は焦点意識減損発作を認めず,外来治療を継続している.
【考察】トラマドールおよびリドカインはてんかん発作の閾値を下げるとされており,当科の使用薬剤が発作誘発の一因となっていた可能性が考えられた.
9. 脆弱性椎体骨折により疼痛が増悪した腰部脊柱管狭窄症患者の1症例太田孝一
江別市立病院
転倒後,歩行困難となった腰部脊柱管狭窄症症例に対して,MRI検査を行ったところ,脆弱性椎体骨折が確認された1症例を経験した.
【症例1】91歳,男性.腰部脊柱管狭窄症の腰下肢痛と間欠跛行で,外来治療を行っていた.疼痛レベルはVAS 50/100で安定していた.転倒後に腰下肢痛はVAS 80/100に増悪した.間欠跛行についても100 m程度歩行可能であったが,10 m程度しか行えず入院となった.腰椎X線撮影では,特記すべきことはなかったが,腰椎MRIでは,腰部脊柱管狭窄症の変化とL4にT1強調像で低信号,脂肪吸収(STIR)T2強調像で高信号が認められる骨髄浮腫が認められため,脆弱性L4椎体骨折と診断した.腰部脊柱管狭窄症に対して,生理食塩水による硬膜外腔癒着剥離術を行った.腰下肢痛はVAS 50/100に減少したが,体動時腰痛が継続したためL4脊椎骨穿孔術を行った.これにより,腰下肢痛はVAS 20/100と減弱して,歩行についても100 m以上可能となり退院となった.
【結論】腰部脊柱管狭窄症の急性増悪がみられた場合,MRI検査を行い椎体骨折などの器質的疾患について検討することが必要である.
10. 強皮症患者のレイノー現象に対するキセノン光の効果と手温変化を観察した1症例渡辺麻由*1 菅原亜美*1 井上真澄*1 佐藤 泉*1 小野寺美子*1,2 牧野 洋*1,2
*1旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*2旭川医科大学病院緩和ケア診療部
【緒言】抗血小板薬や抗凝固薬を内服中の患者に星状神経節ブロック(SGB)と同様の効果を期待してキセノン光の星状神経節近傍照射(SGL)を施行した報告はあるが,今回SGLを連日行い,手温変化を観察した1症例を経験したので報告する.
【症例】80代女性.強皮症によるレイノー現象で冬季になると手指・足趾の疼痛が増悪し,当科初診となった.初診時,上肢の血流低下による症状が著しく,血流改善のためにSGBを考慮したがシロスタゾール内服中のため,SGLを2週間継続して行った.施行後は毎回手が温かくなったと効果の実感があり,皮膚赤外線体温計でも施行前後で平均0.7度の手温上昇を認めた.疼痛もNRS 10/10から4/10程度まで改善し,しびれは前腕あたりまであったものが,手先のみと改善した.連日SGLを施行することで自覚症状の改善を認めたが,施行前の手温に大きな変化は認めなかった.
【考察】SGL施行により手温の基礎値は上昇しなかったが,SGL施行前後での手温上昇を認めた.また,自覚症状は回数を重ねることで改善したため,SGLの治療効果と手温変化の関係性についてのさらなる研究が必要である.
11. 膠原病背景の重症虚血肢の術前に血管攣縮予防で腰部交感神経節ブロックを施行した1例佐藤 泉*1 菅原亜美*1 渡辺麻由*1 井上真澄*1 小野寺美子*1,2 牧野 洋*1,2
*1旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*2旭川医科大学病院緩和ケア診療部
【緒言】下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)に対しては血行再建術が適応となることがある.一方,膠原病関連疾患のレイノー症状に対し腰部交感神経節ブロック(LSGB)の有効性が報告されている.今回,器質的な動脈閉塞を有するシェーグレン症候群の患者に対し,術前に周術期の血管攣縮予防目的でLSGBを行った症例を経験した.
【症例】80代女性.左下肢重症虚血に対してバイパス術が予定され,前日にLSGBを施行した.透視下で左L3/4より穿刺し椎体前面の造影効果を確認後,L3/4の各レベルに無水エタノールを2 mlずつ投与した.翌日,全身麻酔下で膝下,足関節動脈バイパス術が施行された.手術は問題なく終了し,術後再狭窄やその他の合併症なく経過している.
【考察】本症例はシェーグレン症候群を背景とした重症虚血肢で上肢にレイノー症状があり,周術期に下肢の末梢血管の攣縮が懸念されたため,予防目的で術前にLSGBを施行した.長期予後は経過を追う必要があるが,周術期は再狭窄なく良好な経過をたどっている.膠原病関連のLEADに対し,術前に血管攣縮予防でLSGBを行うことは,血行再建術の予後改善に有効な可能性がある.