日本ペインクリニック学会誌
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短報
内服コントロール困難な特発性舌咽神経痛に対してパルス高周波併用舌咽神経ブロックが有効であった1例
富田 梨華子岡田 寿郎綾部 里香都築 有美合谷木 徹大瀬戸 清茂
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2025 年 32 巻 4 号 p. 85-86

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I はじめに

舌咽神経痛(glossopharyngeal neuralgia:GPN)は舌咽神経の支配領域である咽頭後壁,扁桃,下顎に生じる反復性かつ重度の疼痛発作を特徴とする.今回,薬物療法による疼痛コントロールに難渋した特発性GPNに対して,パルス高周波併用舌咽神経ブロック(pulsed radiofrequency treatment:PRF)が有効であった1例を経験したので報告する.

なお,本症例報告に関して患者本人に説明をし,承諾を得ている.

II 症例

50歳男性.身長175 cm,体重80 kg.当院初診15年前に舌がんで舌部分切除後.当院初診9年前より右耳介から右下顎にかけての疼痛と右内耳の違和感を自覚していた.同年,同部の疼痛を主訴に近医を受診,痛みの性状,部位よりGPNと診断された.カルバマゼピンの内服が開始されたが,疼痛コントロールに難渋,既往に舌がんがあり頭蓋内転移の可能性もあり,前医脳神経外科を受診した.耳鼻咽喉科,口腔外科疾患を除外し,脳神経学的異常を認めず,茎状突起の過長含め頭蓋内の腫瘍,神経への圧迫血管の存在の除外により器質的疾患が除外され,特発性GPNの診断となった.プレガバリン,カルバマゼピンによる薬物療法が継続されたが,症状軽快に伴い用量を減量すると3カ月以内に再燃するエピソードを繰り返す中で両薬剤の用量は増加した.初診1年前,プレガバリン400 mg/日,カルバマゼピン1,000 mg/日まで増量したが疼痛コントロールに難渋し,眠気により日常生活に支障をきたすようになっていたため当院当科紹介となった.

当院初診時現症:右耳介,下顎周囲,舌根部,咽頭後壁に瞬間的に走る電撃痛を自覚していた.特に夜間に増悪し,誘発因子は嚥下,発声,欠伸であった.感覚障害,アロディニア,しびれ,睡眠障害は認めなかった.

当院治療経過:当院初診時,再診時に口内法による8%リドカイン噴霧を施行した.数時間ではあったが疼痛の消失を認めたが効果は限定的であった.眠気があり内服薬の減量を希望していたため,X線透視併用超音波ガイド下に側頸部法によるPRFを施行する方針とした.事前に頭部CTを撮影し,乳様突起と下顎角のそれぞれの頂点を結んだ中央点(刺入点)から茎状突起先端から根本までの約1/3の点(到達点)までの距離を測定し,皮膚より4.7 cmであった.茎状突起は,触診で下顎角,乳様突起を同定後,X線透視下で確認した.刺入路の頸動静脈を避ける目的で超音波装置を併用した.超音波ガイド下にガイディングニードル(22G 53 mm Active Tip 4 mmトップ社)を刺入し,針先が茎状突起に固定されたのちに2 mm程度前方に向かってすべらせるように進め,造影剤0.5 mlで血管が造影されないことを確認した.1%リドカイン1 mlを注入,スライター針を挿入しPRFを42℃で3分間施行した(図1).合併症を生じることなく,現在に至るまで1年以上にわたり発作痛は消失している.減量に対する患者の不安もあり,プレガバリン400 mg/日,カルバマゼピン800 mg/日の減量にとどまっているが,内服の増量をすることなく効果が継続して得られている.内服による眠気は消失した.今後,前医にて少しずつ減量していく方針となっている.

図1

X線透視下穿刺時の正面像

皮下穿刺距離は47 mmであった.破線〇は針先端と茎状突起が固定された箇所.血管造影はされていない.

III 考察

本症例のように十分な薬物療法が導入されたが疼痛コントロールに難渋した場合,舌咽神経ブロックを考慮する1).舌咽神経へのアプローチ方法として口内法と透視を用いた側頸部法が知られている.口内法は局所麻酔薬噴霧,塗布,口腔咽頭法があり,耳鼻科,口腔外科領域からのアプローチによる舌咽神経ブロックの有効性が報告されている2,3)

本症例では口内法によるブロックの効果は数時間と限定的であった.患者が遠方で頻繁に来院できないこと,側頸部法は手技を行う上で注意すべき周辺組織が多く技術的に困難,何度も穿刺を行うことは避けたいため長期間の効果が期待できるPRFを選択した.穿刺の段階でエコーを併用することで頸動静脈への穿刺を避け,より安全に茎状突起近傍まで針を進めることができた.処置後,発作痛は消失している.事前の頭部CTで挿入まで4 cm以上と深いことが予想されたためさらなる安全面を考慮し,エコー併用のみならずCTガイド下に行うことを考慮すべきであった.CTを組み合わせることが適切な穿刺を行う上で有効と報告されている4)

PRFは高周波を間欠的に発生させることで針先端が42℃に保たれ,熱の拡散を抑え,感覚障害や運動麻痺などの合併症が少ない5).神経破壊薬や高周波熱凝固術を選択した場合,ブロック効果は神経が再生されるまでの数カ月~年単位で期待できるが,感覚障害,運動麻痺が長期間にわたり出現する可能性がある.舌咽神経は迷走神経,副神経が並走しており,バイタルの変動,嗄声,嚥下障害,味覚障害,鼻声などをきたしうる.隣接する重要構造物への影響を考慮するとGPNにおけるPRFの有用性が示唆される.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第57回大会(2023年7月,佐賀)において発表した.

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