抄録
目的: 局所麻酔薬あるいは麻薬性鎮痛薬を硬膜外腔に投与した際と静脈内にのみ投与した際の疼痛抑制に対する短潜時体性感覚誘発電位 (SEP) およびACTHと b-endorphin の変動について解析を行ない, 短潜時SEPの「痛み」反応因子としての可能性について考察した. 対象と方法: 対象は, 中枢神経系に異常を認めなかった乳癌予定手術患者70例とした. これらを無作為に, 1: 生食硬膜外腔投与群(C), 2: リドカイン硬膜外腔投与群 (40mg (2ml=L2), 80mg (4ml=L4), 120mg (6ml=L6) (L), 3: フェンタニル硬膜外腔投与群 (フェンタニル50mg=F50, 100mg=F100, 200mg=F200) (F), 4: フェンタニル静脈内投与群 (フェンタニル50mg=FI50, 100mg=FI100, 200mg=FI200) (FI), の4群に分類した. 短潜時SEPの変動を経時的に解析した. 結果: C群は短潜時SEPの潜時と振幅に有意な変動は全経過中みられなかった. L群は, 用量依存性に潜時の延長と振幅の抑制を示した. F群は投与後20分と30分で有意な振幅の増大を認めた. FI群においては投与10分後から60分後まで有意な振幅の増大を認めた. ACTHとβ-endorphin 量はC群では正常範囲内であるが, 手術前と比較して有意に増加した. また, L群, F群, FI群は, 用量依存性にこれらのホルモンの増加が抑制された. 特に, L群では短潜時SEPの変動とストレスホルモンの変動はほぼ連動した. しかし, F群, FI群はこれらの連動は認められず, フェンタニルの高用量投与でも中枢興奮発現の可能性を見出した. 結論: 吸入麻酔下に局所麻酔薬を硬膜外腔に投与したとき短潜時SEPは手術侵襲のモニターとして使用しうる. しかし, 麻薬性鎮痛薬投与時は短潜時SEPの手術侵襲モニターとしては適用性は低い.