精密機械
Print ISSN : 0374-3543
チタンと工具材の摩擦特性
チタンの穴加工に関する基礎的研究
佐久間 敬三藤田 武男
著者情報
ジャーナル フリー

1975 年 41 巻 485 号 p. 578-583

詳細
抄録

以上の実験から,チタンと工具材の摩擦において,乾式および湿式のいずれの場合も高速度鋼(SKH4)が使用工具中最も耐摩耗性にすぐれ,超硬合金工具としてはK10がすぐれていることがわかった.したがってSKH4とK10の切削性能を比較するため穴加工工具に類似する条件での切削実験を行った.そのため工具は深穴加工工具のマージン部を含む刃先形状に類似させ,前逃げ角およびすくい角を0°とし工具形状を(0°,0°,0°,5°,0°,30°,0)とした(図8参照).図9はそのときの逃げ面摩耗幅を比較したものである,これから高速度工具で切削速度V=200m/min程度の切削が可能であり,この程度の速度であればK10よりすぐれた切削性能を示している.しかし高速度鋼の場合につき速度を変えて行った実験,図10よりV=250m/min以上では切削温度の上昇により短時間で切削不能となることがわかる.したがって高速度鋼を穴加工工具の切れ刃として使用する場合はV=200m/min以下にする必要がある.
次にチタンの切削面は高速・低速いずれの場合でも非常に良好であり,逃げ面摩耗幅が0.25mm以内であればほとんど問題はない,しかしこれ以上の摩耗幅になると切れ味がにぶり切れ刃と被削材間に微小な切削粉が付着して加工面が害されることが多くなる.したがってチタンの外径旋削においては工具摩耗のあまり進行していない状態で切りくずが切削中加工面に接触しないように注意すればよい.しかし穴加工工具のパッド部またはマージン部のように工具とチタンが摩擦状態にある場合は前記の工具摩耗幅が特に大きくなった場合と同じであり,軟質材である純チタンがむしりとられて工具上に付着するためチタン同志の摩擦を避けることが困難となる.図11は各種工具材と純チタンを摩擦させたときのチタンの表面状態である.チタンの摩擦表面をP01,K10およびSKH4の場合で比較すると,P01の場合がわずか粗いが,その差は顕著でなく,いずれも著しく悪い.相手材が黄銅の場合はチタンの表面は良好である.このような純チタンの摩擦表面の差異は相手材との親和性に依存していると考えられるが,工具材との摩擦のように相手材が著しく硬い場合はチタンの表面が掘り起こされて付着するため表面はいっそう悪化するようである.チタンの摩擦面は押付圧力を小さくすることおよび油剤の使用により,その付着片をより微小に,また少なくできるが,摩擦時にチタンのむしり現象があるかぎり,切削で認められるような良好な面を得ることはできない.
以上よりチタンの穴加工において加工中案内部が穴壁に強く摩擦する形式の工具,例えば深穴加工用ソリッドボーリング工具(BTA方式)などでは工具材として案内パッド部には高速度鋼が適し,切れ刃部にはK系超硬合金または高速度鋼が適しているものと推定される.一般のP系超硬合金は適当でない.このことはガンドリルおよびリーマの場合も同じと考えられる.

著者関連情報
© 社団法人 精密工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top