2013 年 28 巻 4 号 p. 945-952
膨大な研究により腸内フローラの代謝産物・短鎖脂肪酸 (SCFA) は、生体にとって極めて有益で且つ重要な物質であることは間違いない。近年、慢性炎症性疾患・歯周病が糖尿病などさまざまな全身疾患の誘因となることが各方面で報告され、口腔と全身との関わり広く注目されている。歯周病の主要原因菌である一群の口腔内嫌気性菌は、大量のSCFA、特に酪酸を産生する。酪酸は、高濃度において歯周組織にさまざまな為害作用を及ぼすと同時に、潜伏感染ヒト免疫不全ウイルス (HIV) やEpstein-Barr virusを再活性化し、AIDSや種々の腫瘍発症、がん細胞の転移にも関与する可能性が判明した。内因性感染症や自己免疫疾患研究において、共生細菌体が宿主に及ぼす直接的影響の研究は必須であるが、新たな視点から、SCFAなどの微生物代謝産物の影響を検討することも極めて有意義であると考える。