抄録
小腸広範切除後には、糖や蛋白質に比べ脂肪の吸収障害が長期に及ぶ。脂肪の消化吸収試験には便中脂肪の染色や定量法、放射線同位元素を用いる試験があるが日常臨床では頻用されていないのが現状である。症例は20歳代の重症心身障害者で、16歳時に腸回転異常症に伴う中腸軸捻転・壊死に対して回盲弁を含む小腸広範切除および術後の小腸皮膚瘻に対する再手術により残存小腸は幽門以下75cmとなった。栄養投与は胃瘻からの半固形化栄養剤の投与と中心静脈栄養で、脂肪源は経腸栄養剤に含まれる脂肪のみであった。血清中リノール酸分画は当初低値であったが、短腸となって2年3ケ月後には基準値に達し以後維持した。また、ω6系必須脂肪酸欠乏時に高値を呈する5,8,11―エイコサトリエン酸も短腸となって2年5ケ月後に基準値に達した。以上より、本症例では短腸となって2年以上を経過して脂肪の消化吸収能が回復したことが示唆された。