日本周産期・新生児医学会雑誌
Online ISSN : 2435-4996
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教育講演
受精から捉える成育医学研究の現在地,そしてその先
阿久津 英憲
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2023 年 58 巻 4 号 p. 607-610

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抄録

 ヒト初期発生の捉え方

 私たちの身体はたった一つの細胞である受精卵から始まる.発生学的な見地からみると,個体すべてを形成する細胞を生み出す能力は多能性(Pluripotency)とされるが,受精卵は個体形成とその発生に必須な胎盤などの胚体外組織も作成し,「自律的」に個体を生み出す能力,つまり全能性(Totipotency)を有する細胞である.着床前期胚発生といわれる受精から着床までの受精胚発生の期間は,ヒトでは7日間程度とされる.本来,卵管内で受精がおき卵割期を経て胚盤胞期に至った受精胚は子宮内膜に着床するが,受精から受精胚発生が体外培養系(in vitro)で再現可能となることで生殖補助医療が発展してきた.細胞の特性や動態に対して遺伝子発現を網羅的に解析する技術が1990年代に生み出され,哺乳類の着床前期胚発生に対してもその技術を適応することで遺伝子発現のダイナミクスさが明らかになってきた.マウス受精卵では,受精後の胚性ゲノムの活性化や胚発生中期の遺伝子転写活性化など何千もの遺伝子がダイナミックに変動する様子が明らかになるとともに,いくつもの初期胚発生特異的な新規遺伝子が見出されてきた1)2).特定の遺伝子や発現動態が明らかになってくることでその機能性を評価することは生物学的にも極めて重要である.初期胚の遺伝子発現動態(Embryo genomics)の理解では,成育医学的な観点が非常に重要であると考える.つまり,受精からの胚発生は個体発生へと通ずるもので,着床胚発生も個体発生への流れの中で捉える必要がある.

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© 2023 日本周産期・新生児医学会
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