日本周産期・新生児医学会雑誌
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会長講演
母体と胎児の安全を求めて
池田 智明
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2024 年 59 巻 4 号 p. 432-439

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抄録

 1971年(昭和46年)の鹿児島市立病院における五つ子の生存は,日本の周産期・新生児医療において歴史的な出来事であった.この成功は,外西寿彦部長と池ノ上克先生が率いるプロジェクトチームによるものである(図1).1991年(平成3年),池之上先生は宮崎大学産婦人科教授に就任されたが,筆者は当時33歳で病棟医長として勤務していた.以来,池ノ上先生からは多くの貴重な教えをいただいた.特に,「主治医の体力の切れ目が患者の生命の切れ目ではいけない」,「医療チームは戦争における戦闘チームと同様で,情報の共有,コマンダーの役割が重要」,「薩摩藩の郷中教育のような屋根瓦式教育」などを強調された.

 私が36歳の時,池ノ上先生と親交の深かったカリフォルニア大学アーバイン校産婦人科の村田雄二教授に師事する機会を得た.前AJOG編集長のエドワードキリガン教授も同大学の所属で,私は彼らの指導の下で学んだ.

 我々の研究は,胎児と新生児の脳障害に焦点を当てていた.具体的には,妊娠中のヒツジを帝王切開し,胎仔に電極とカテーテルを装着し,子宮に戻して実験を行った.約60分間の臍帯部分閉塞後,胎仔血中BEが-20mEq/Lに達した時点で臍帯閉塞を開放し,72時間観察した.アシドーシスの推移は一定に保たれていたにもかかわらず,脳障害の程度は個体によって異なっていた.病理学のベン・チョイ教授の判断によれば,脳組織の損傷は,白質に軽度の損傷を受けただけのものから,白質と灰白質の両方に重度の損傷を受けたものまで様々であった.脳組織は,白質と灰白質の障害の程度によって5段階に分類された.この研究の重要性は,胎児が低血圧であった時間と脳組織障害のレベルとの間に明確な相関関係が確認されたことである.10分間の低血圧は障害レベル4に相当する障害を引き起こした.一方,胎児が徐脈であった時間との相関はみられなかった(図2)1).このことは,臨床において胎児血圧を測定することは不可能であり,胎児心拍数陣痛図(CTG)を用いて心拍数のみから脳障害を推定することは困難であることを示している.

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