2015 年 37 巻 2 号 p. 219-222
背景.良性石綿胸水は職業性の比較的高濃度の石綿ばく露により生じる疾患と考えられているが,疫学的調査が十分ではなく,その実態については不明な点が多い.症例.76歳男性.職業性の石綿ばく露歴はないが,小児期よりかつて操業していた石綿工場近隣に居住しており,工場周辺でよく遊んでいた.健診で右胸水貯留を指摘され経過観察をしていたが,胸水の増加を認めたため入院となった.胸水は血性,滲出性でリンパ球優位であり,確定診断のため局所麻酔下胸腔鏡検査を施行した.胸腔鏡検査では壁側胸膜にプラークを認めたが,腫瘍を疑う所見はなく,発赤部の生検でも悪性細胞は検出されなかった.上記より良性石綿胸水と診断してフォローしているが, 2年以上経過した現在でも悪性腫瘍の出現はない.結論.近隣ばく露が原因と考えられる良性石綿胸水の1例を経験した.良性石綿胸水は比較的低濃度の石綿ばく露でも発症し得るため,原因不明の胸水の鑑別診断には当疾患も念頭に置き,職業歴のみならず,居住歴も聴取することが重要である.