背景.COVID-19の合併症としてニューマトセルを伴う気胸の報告は非常に稀である.症例.62歳男性.COVID-19に対し入院加療後16日目に退院した.発症23日目に航空機搭乗中に突然の胸痛と低酸素血症を伴う呼吸困難が出現した.患者は着陸後急病センターに搬送され,搬送後胸部X線撮影で右側高度気胸を指摘され緊急胸腔ドレナージが行われた.ドレナージ後の胸部CT検査で約10 cm大の囊胞性病変を右肺下葉の中下葉に接した部位に認めた.COVID-19発症時に撮影されたCTでは囊胞性病変が存在しなかったことから,囊胞性病変はニューマトセルと判断し,ニューマトセルによる気胸を強く疑った.その後入院8日目に胸腔ドレーンを抜去しその後気胸は再燃無く患者は自宅退院した.気胸発症12週後の胸部CTで囊胞性病変の消失を確認した.結論.COVID-19治療後に新たな肺囊胞性病変を伴う気胸を発症した場合,ニューマトセルを原因とした気胸の可能性を考慮すべきである.
背景.Bordetella bronchisepticaは人畜共通感染症であるが,本邦にて報告された例は2例であり稀な菌種である.症例.75歳女性.主訴は咳嗽.既往歴は悪性リンパ腫.血液検査,画像検査で異常所見はなく,原因検索で施行した気管支鏡検査で両側上葉支分岐部に肥厚性変化を認め,同部位からBordetella bronchisepticaを検出した.レボフロキサシンの投与を4週間行い,症状の改善と気管支内腔所見の改善が得られた.結語.治療に難渋した慢性咳嗽患者へ施行した気管支鏡検査により原因菌が検出された.慢性咳嗽に対しての気管支鏡検査は有用であるかもしれない.
背景.成人の気管支異物は気管支鏡で摘出可能な場合が多いが,症例により摘出困難な場合がある.症例.73歳男性.数日前からの倦怠感と咳嗽を主訴に前医を受診した.胸部CTで左主気管支異物及び閉塞性肺炎と診断された.異物は脱落した義歯と推察された.同院では気管支鏡での摘出が出来なかったため,当院へ転院した.閉塞性肺炎を合併しており,可及的早期の摘出が必要と判断した.転院同日に全身麻酔下で軟性及び硬性気管支鏡による摘出を試みたものの,肺炎による多量の喀痰のため視野が確保困難で,さらに気道上皮の浮腫のため異物が埋没しており摘出を断念し,肺炎の軽快を待ってから摘出を行う方針にした.その後肺炎のため人工呼吸器管理を要したが喀痰が減少せず,抗菌薬投与を行った後に気管切開を施行し喀痰が減少した.肺炎が改善したのち,入院後14日目に再度異物除去を施行した.喀痰は減少し,気管支の浮腫も軽減しており軟性気管支鏡で摘出した.
背景.顆粒細胞腫のうち肺が原発巣となるのは稀である.症例.41歳,女性.健診で胸部異常陰影を指摘され当科を受診した.胸部CTで左肺S3に16 mm大で造影効果のない類円形の充実性結節を認めた.気管支鏡検査では,左肺B3気管支入口部に壁外から圧排性に突出する腫瘤を認めたが,上皮の異常はなかった.診断的治療を目的に胸腔鏡下左肺上大区域切除術を施行した.病理診断では,腫瘍細胞は異型の弱い中型類円形核と好酸性顆粒状の豊富な細胞質を持ち,免疫染色でS-100蛋白(+),CD56(+)であり顆粒細胞腫と診断した.気管支腔内に入り込むように見えた部分の気管支上皮は,腔内側に圧排されるものの保たれていた.結論.気管支の圧排性狭窄を伴う顆粒細胞腫の1例を経験した.呼吸器系領域における顆粒細胞腫は稀であり,文献的考察を加え報告する.
背景.気道狭窄が複雑な場合は複数のステントを組み合わせた治療が行われる.状況によってはステントのカスタマイズが必要となるが,そのような場合,狭窄解除に要する時間が長くなるため酸素化の維持が問題である.今回我々は,肺癌に起因した左主気管支狭窄に対してハイブリッドステントを留置した後の気管分岐部から右主気管支の狭窄に対して,体外式膜型人工肺(ECMO)下にDumon Yステントを留置した症例を経験したので報告する.症例.70歳男性.左下葉非小細胞肺癌,気管分岐部リンパ節転移に対して化学療法が行われていた.経過中に腫瘍浸潤による左主気管支狭窄を来たし,ハイブリッドステントが留置された.その後化学療法が再開されたが,気管分岐部から右主気管支に及ぶ腫瘍浸潤による気道狭窄が出現した.当初硬性気管支鏡下にDumon Yステントの追加留置を試みるも困難であり手技を中止した.後日にECMO下にDumon Yステントを留置し呼吸状態の改善を得た.結論.主気管支にステントが留置されている場合のDumon Yステントの留置は困難であり,ECMOの使用を含めた入念な準備が必要であると考えられた.
背景.胸腺腫の中枢気道への進展は比較的稀であるが,気道狭窄による呼吸状態の悪化から気道インターベンションが必要になることがある.近年,中枢気道病変に対するクライオ生検の有効性と安全性が報告されてきている.症例.69歳男性.X年に胸腺腫,正岡分類stage IVb期に対して,縦隔への緩和照射を行い,その後経過観察となっていた.X+4年に咳嗽が出現し,気管支鏡にて左上葉入口部に腫瘤を認め,生検で胸腺腫とアスペルギルス症の合併と診断.ボリコナゾールを1年間内服後,経過観察としていた.X+6年4月に呼吸困難が出現,低酸素血症をきたし,気管支鏡で左主気管支を閉塞する腫瘤を認めた.クライオプローブならびに高周波スネアを用いて腫瘤を除去し,すみやかに呼吸状態が改善した.病理組織より,前回同様,胸腺腫の気管支内進展にアスペルギルス症が合併して腫瘤を形成し,気道を閉塞したと考えた.結論.アスペルギルス症を合併した胸腺腫の中枢気道への進展に対してクライオプローブを用いて安全に腫瘤除去が可能であった.