樹木の衰退が各地で認められているが,その原因について解明されておらず,対策技術も確立されていない。一方,モリブデンは植物の必須元素であり,窒素代謝に大きく関わっているが,植物中の必要量が微量であること,土壌中に必要量以上に存在することから樹木についてその欠乏症は考慮に入れられていない。しかし,土壌が酸性化すると溶解度が低下し,植物が利用できなくなり,モリブデン欠乏症を引き起こし,窒素代謝に影響して衰退を引き起こしていると考えられる。著者らは樹木中の必須元素濃度を測定した結果,衰退が始まっている樹木ではモリブデン濃度が著しく低下していることを認めた。本研究では衰退が始まっているクロマツ(Pinus thunbergii Parlat)についてモリブデン主体の活性剤を樹幹に埋設し,針葉中の必須元素濃度の変化を10 ケ月にわたって追跡調査した。その結果,針葉中のモリブデン濃度が増加し,樹勢が回復することを認めたので報告する。