日本緑化工学会誌
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最新号
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論文
  • 加藤 顕, 青柳 寛太郎, 中島 史雄, 上原 浩一, 瀬戸口 浩彰
    2024 年 50 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は森林内の樹木や下層植生などの有形物ではなく,有形物以外の空間である「空隙」が微気象へ与える影響を評価した。森林内空間を3次元的に計測する手法として地上レーザー,森林内の気温・湿度を計測する手法として気象センサーを使用した。有形物と空隙のボクセル数の比較より,森林内の空隙は高さによって分布が異なることがわかった。また,空隙のボクセル数と気象データの相関解析より,森林内空隙は最低気温に大きく影響を及ぼすことがわかった。林冠の有無が微気象に影響を与えることは従来指摘されてきたが,本研究はその関係を森林内空隙の空間分布から解析できた。

  • 中村 真優, 高橋 輝昌, 中村 純子, 関根 大樹, 荒井 幸司
    2024 年 50 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    緑化壁面に利用されるヤブコウジ,オタフクナンテン,プミラ,テイカカズラ,ヤブラン,へデラ,ローズマリーを対象に,植物の炭素固定量を簡易に推定する方法について検討した。植物を植栽し,成長に伴う植物の地際から先端までの長さ,葉面積,乾燥重量の変化を測定した。いずれの植物でも植物の地際から先端までの長さと乾燥重量,および葉面積と乾燥重量の間には有意な正の相関関係が見られた。植物体の炭素濃度はどの植物も概ね400~450 g kg-1であった。これらから,植物の長さからおよその炭素固定量を推定可能であった。

  • 中島 宏昭, 松永 佳子, 田村 秋汰, 水庭 千鶴子, 髙橋 新平
    2024 年 50 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    長期に亘り管理放棄されてきた関東地方のクヌギ-コナラ林の林床に生育するアズマネザサを刈り取った時のナラ枯れ被害(枯死または,穿入生存木)について,2020年から2023年まで調べた。カシノナガキクイムシによる被害木は初期段階に調査対象地の林縁部から侵入・拡大したと予想され,特にコナラについては,被害発生初期は幹周が大きい個体の方が被害を受けやすい傾向を示した。調査後2~3年経過した時点では刈り取りの有無や幹周に関わらず,コナラとクヌギ両種で被害木は増加した。コナラではアズマネザサの刈り取りの影響は確認されず,短期間ではアズマネザサの刈り取りの有無が植生構造に与える影響は小さいと考えられる。

  • 砥上 音々, 岡 浩平, 吉﨑 真司
    2024 年 50 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,海岸砂丘地の飛砂対策につなげる目的で,飛砂の発生リスクを把握し,地形条件に適した植物種の選定手法の提案を行った。小型UAVを用いて,オルソ画像やDSMを作成し,植生と地形の関係を分析した。その結果,対象地の植生は,汀線からの距離や地盤高によって明瞭に変化した。分類木の予測をもとに,対象地の裸地の発生確率を求めたところ,海側の低地盤で高く,陸側の高地盤で低かった。砂丘中央部では,約20~50%の裸地の発生確率を示し,飛砂対策の導入種として,堆砂が多く平坦な立地ではコウボウムギ,地盤が高く傾斜の大きい立地ではケカモノハシが適していると考えられた。

  • 勝田 真一, 加藤 顕, 小牧 義輝, 田中 健文, 上原 浩一, 瀬戸口 浩彰
    2024 年 50 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    小笠原諸島の固有種であり絶滅危惧ⅠA類に指定されているムニンノボタンとタイヨウフウトウカズラが衰弱する要因はよくわかっていない。そこで本研究では,水分と光の条件に着目し,実験により衰弱する条件を把握した。灌水制限と遮光の有無による4つの実験設定を行い,栽培実験を実施したところ,2種とも水分と光を制限することで生育阻害が生じた。また,小笠原諸島の生息地での環境を実験で得たデータをもとに評価したところ,水分条件には大きな差がないが,光量は不足している個体もあるなど個体差があることがわかった。本研究により,生息地における光環境の改善が2種の良好な生育には必要であると考えられる。

  • 及川 凌雅, 中村 大, 川口 貴之, 川尻 峻三, 宗岡 寿美
    2024 年 50 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究では植生工を模擬した模型盛土法面を砂質土で構築し,夏期の降雨,春期の融雪水の流出・浸透特性を解明することを試みた。構築した盛土法面は裸地法面と張芝工を施工した法面の2種類である。用いた土槽は盛土法面内に浸透した水と,法面を流下した水を別々に回収できる構造となっている。また,土槽を荷重計に載せることで,装置全体の質量変化を計測可能にした。夏期の計測結果から,張芝工を施工した法面では裸地法面に比べて,降雨を表流水としてより多く流下させていることが確認できた。また,融雪期の計測結果から,裸地法面において融雪水が深部へと浸透できず,極表層が飽和状態となって土砂が流動する様子が観察できた。

  • 本郷 悠夏, 森本 淳子, 堀田 亘, 饗庭 正寛, 中村 太士
    2024 年 50 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    地域生態系保全に配慮した緑化手法として,レガシー活用緑化が提案されている。この手法は,自然撹乱後に残された生物学的遺産(レガシー)が生態的レジリエンスを高める効果を利用して植生回復を図るものである。本研究では,胆振東部地震で発生した表層崩壊地の一部を対象として実験的に採用されたレガシー活用緑化を,生態系機能の回復の観点から,植物機能形質に注目して評価した。結果,植栽処理及びマット処理により,機能的多様度が向上することが明らかになった。侵入・定着に影響する種子重は,植栽処理及びマット処理により大きくなる傾向がみられた。緑葉窒素濃度の処理による変化は,落葉分解速度の回復に寄与するほどではなかった。

  • 田村 和也, 佐野 香織, 石田 弘明
    2024 年 50 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,工場跡地で整備されている尼崎の森中央緑地を対象に植生調査や植物相調査を行い,都市部における生物多様性に配慮した森づくりの課題を抽出することを目的とした。調査の結果,中央緑地では498種の在来植物を確認し,在来種率は74%であった。また,森林植生の単位面積あたりの種数は照葉人工林で28.6種/100 m2,コナラ人工林で33.5種/100 m2であった。周辺地域の植生の種組成と比較した結果,両人工林ともに欠落種群が認められた。目標植生に近づけるためには,照葉人工林においては多年草,シダ植物の導入,コナラ人工林においてはツツジ科植物に適した土壌条件への改善などが必要と考えられた。

  • 矢尾板 晃弘, 中村 大, 宇高 優介, 川口 貴之, 川尻 峻三, 宗岡 寿美
    2024 年 50 巻 1 号 p. 49-64
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究では,在来種のクサヨシ(Phalaris arundinacea L.)を生育させた供試体を凍上性の高い砂質土で作製し,凍結融解履歴を与えた上で低鉛直応力の定圧一面せん断試験を実施した。試験結果から,クサヨシの根系を含む土供試体のせん断抵抗は凍結融解履歴を受けて幾分低下するものの,地盤補強効果そのものは失われていないことがわかった。特に,既往研究で確認された大きなせん断変位においてせん断抵抗が増加する延性的な挙動は,凍結融解履歴を受けた後でも維持されていることが確認できた。以上の成果から,クサヨシは積雪寒冷地において植生工を行う際に用いる地域性種苗として,極めて有望であることがわかった。

技術報告
  • 大澤 啓志, 石丸 智浩, 有田 匡輝
    2024 年 50 巻 1 号 p. 55-58
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    2~8齢の外来種トウネズミモチに対し,地際部での伐採後の再生能を評価した。2023年3月の伐採に対し,同年10月末時点で,枯死率は8.4%(N=225)と低かった。最大萌芽枝長は平均 87 cm (N=206),萌芽枝数は平均5.3本(同)であった。個体(切株)当たりの萌芽枝の乾燥重量は,最大萌芽枝長,地際径,年輪数と関連が認められ,特に地際径との相関(r=0.752)が高くなっていた。4月上旬より芽が動き始め,4月中旬から5月中旬に著しい萌芽枝の伸長を見せていた。本種は萌芽能力が強く,1回限りの防除作業では直ぐに生育量は回復するため,伐採回数を増すことで,大径化する個体が少なくなる状態にするのが効果的と考えられた。

  • 高橋 輝昌, 石井 匡志, 荻野 淳司
    2024 年 50 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    土壌に差し込んだノズルから高圧の空気を瞬間的に3方向に噴射させるエアレーションの効果を検証した。関東ローム由来の固結した土壌でエアレーションを実施し、圧縮空気が届く範囲と実施前後の土壌硬度を測定した。圧縮空気が届く範囲は3方向の平均で圧縮空気の噴射点から 25~50 cm である。また、圧縮空気の噴射点から 75~100 cm の範囲は土壌の物理的な構造に影響を受けている。このため、 75~100 cm の間隔でエアレーションを行うことで面的な土壌改良を行える。圧縮空気によるエアレーションは土壌硬度を変化させず、土壌内に亀裂を生じさせるような効果があると考えられる。

  • 松本 瑞紀, 高橋 輝昌, 松井 邦夫
    2024 年 50 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    愛知県のマサ土地域での芝生地土壌の炭素量に影響する要因を明らかにするため,コウシュンシバの低草丈品種を植栽した芝生地において,炭素含有量を測定し,芝草の生育状況や土壌の性質との関係について検討した。各芝生地の土壌の炭素量,窒素量,芝草の草丈,葉色を測定した。土壌深 0~30 cm までの土壌炭素量は 0.9~5.0 kg m-2であった。土壌深 0~10 cm の炭素量は芝草の葉色が濃くなるほど増加した。また,芝草の葉色は土壌深 0~10 cm の窒素量が多いほど濃くなった。これらから,芝生地土壌の窒素量が多いと芝草の葉緑素量が増え,有機物生産量が増加し,表層土壌の炭素量が増加すると考えられる。

  • 家根橋 圭佑, 平林 聡, 森岡 千恵, 屋井 裕幸, 益田 宗則, 宇野 誠一郎
    2024 年 50 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    グリーンインフラとして注目される雨庭を対象とし,暑熱緩和機能の定量評価を試行した。土地被覆・樹木被覆・不浸透面被覆等のラスターデータとリファレンス気象局の実測値を用いた気温・湿度の推定モデルi-Tree Cool Airを用いて,団地内の雨庭と駐車場舗装面・芝地・緑陰地等,周辺箇所における降雨翌日の気温・湿度等の経時的計測値と推定値とを比較検証した。また,雨庭に樹木や水面の機能を追加した場合の気温・湿度を推定した。試行結果より,雨庭等の温度・湿度等の推定値は実測値と近似し,評価モデルとしての妥当性を確認できた。更に,雨庭に樹木や水面を組み合わせることで各2℃程度の温度低下が期待できることが示唆された。

  • 宮本 脩詩, 福井 亘
    2024 年 50 巻 1 号 p. 71-74
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    都市部の生物多様性の向上のためには,都市部に残る緑地の保全とともに,数少ないオープンスペースの緑化や屋上緑化,壁面緑化などによって新たに緑地を整備していくことが必要である。本研究では,都市部の緑地を新たに整備することで生物多様性がどの程度向上するか明らかにすることを目的として,生物多様性の指標種である鳥類の出現を調査した。対象地は東京都港区に位置する麻布台ヒルズ,虎ノ門ヒルズとし,鳥類の越冬期に調査を行った。その結果,都市環境を積極的に利用する種や都市環境にも適応可能な種以外に都市を忌避する種も確認され,麻布台ヒルズや虎ノ門ヒルズの緑地が都市の生物多様性を高めていることが明らかとなった。

  • 大西 竹志, 石黒 一弘, 石栗 太, 飯塚 和也, 根津 郁実
    2024 年 50 巻 1 号 p. 75-78
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    都市緑地は,多様な役割があり,最近では脱炭素社会および循環型社会構築への貢献も求められている。本研究では,CO2固定のための植栽基盤へのバイオ炭施用が緑化樹木の生育に及ぼす影響を評価することを目的とした。植栽基盤(黒土およびマサ土)に3種類のバイオ炭(木炭,竹炭およびもみ殻くん炭)を施用し,造園樹木の苗木の生育試験を行った。前報では,4ヶ月程の生育期間における結果を報告したが,本研究では1年以上(2022.9~2023.12)の長期の生育期間を経て得られた成果を報告する。得られた結果から,バイオ炭施用区のほとんどで樹木が生育する傾向が認められた。また,成長量は,土壌やバイオ炭施用割合,樹種によって異なることが明らかとなった。

  • 津田 優一, 川西 良宜
    2024 年 50 巻 1 号 p. 79-82
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    高速道路の硬岩及び土砂の切土のり面において,植被率と土中の粘着力の関係や根系の分布範囲を推測するために,植生調査と簡易に粘着力と内部摩擦角を計測できる土層強度検査棒を用いた土壌調査を行った。硬岩の切土のり面では表層土深が浅く,木本植物と草本植物を含んだ積算植被率と粘着力に相関関係は確認できなかったが,土砂の切土のり面では表層土深が硬岩の切土のり面より深く,サンプル数は少ないものの積算植被率と粘着力に正の相関関係が見られ,植被率が増加すると斜面の安定性が増加する可能性が示唆された。

  • 石丸 巧, 中村 剛, 藤原 宣夫
    2024 年 50 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    自然侵入促進型マット工が施工された京都府道西陣杉坂線(京都市北区大宮,2009年施工)および国道482号線(岡山県真庭市蒜山,2019年施工)ののり面において,のり肩~のり尻にベルトトランセクトを設置し,ベルト上の全てのアカマツの位置の記録と節数による樹齢推定を行い,施工直後からのアカマツの侵入過程を再現した。その結果,アカマツの侵入は,施工当年から5,6年の間に集中し,その後のアカマツ密度の変化はほとんど見られなかった。アカマツの生育密度は強酸性土壌部分で低かったが,土壌条件が生育に適する範囲では,のり面内での位置に関わらず生育密度は均一になるものと考えられた。また特定年の侵入数減少は初夏の寡雨が原因である可能性が示された。

  • 石垣 幸整, 蔵谷 樹
    2024 年 50 巻 1 号 p. 87-90
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    大容量施工による生産性向上を目的とした植生基材吹付工法の開発をおこなった。既にモルタル吹付工で実績のある法面省力化吹付工法「スロープセイバー」3)の吹付アタッチメントを使用し,材料供給システムを新たに見直し大容量化を図ることで,最大で約2倍の生産性向上が期待できることを確認した。大容量吹付に伴い,土壌硬度や植生生育試験から本試験条件下における最適吹付距離は3.5 mであることも明らかにした。ただし,土壌硬度の増加により人力吹付よりも初期生育が遅れる傾向が確認された。また,LIDARによるリアルタイム吹付厚管理を実施することで,大容量吹付においても従来工法と同程度の吹付厚で施工できることが確認できた。

  • 佐藤 厚子, 山木 正彦
    2024 年 50 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    北海道では,道路および河川堤防ののり面は植物により保護する方法が一般的であり,国土交通省北海道開発局ではハードフェスク,クリーピングレッドフェスク,ケンタッキーブルーグラスのイネ科外来植物を混播してのり面を緑化している。しかし,近年の高温多雨,乾燥などの異常気象によりこれらの植物の生育が妨げられることにより種子が不足し,緑化によるのり面保護が困難になると考えられる。そこで,これに対応するため,新しい緑化植物としてメドウフェスクおよびチューイングフェスクを加えた配合で試験施工を行い,従来の配合によるのり面緑化と比較した。その結果,これらの植物が北海道ののり面緑化に適用可能であることがわかった。

  • 佐藤 厚子, 山木 正彦
    2024 年 50 巻 1 号 p. 95-98
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    舗装補修の切削作業にともない発生するアスファルト廃材は,再資源化が義務づけられており,路盤材料や舗装材料に再利用する方法により有効利用されている。一方,北海道の盛土のり面は植物の緑化により保護されており,その維持管理は定期的な草刈りにより行われている。このため維持管理の費用が膨大になる。そこで,アスファルト廃材をのり面や中央分離帯に被覆することにより植物の生育を抑制することを目標とした施工について,施工から3年までの調査に引き続きさらに植物の生育抑制とのり面の状況を調べた。その結果,長期にわたり生育を抑制できた植物があったこと,およびアスファルト廃材を被覆したのり面は保護されたことを確認した。

  • 蔵谷 樹, 石垣 幸整, 藤田 哲
    2024 年 50 巻 1 号 p. 99-102
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    これまで,LIDARを用いたリアルタイム吹付厚計測の植生基材吹付工への適用事例の報告はなく,筆者らは導入事例のあるモルタル吹付工と同様 1,2)に,植生基材吹付工においても生産性向上を目的とした大容量施工のためには,LIDARによるリアルタイム吹付厚計測が不可欠であると考えている。本報告では,その計測精度を検証するために,発泡ポリスチレン板および植生基盤材を用いて,異なる計測距離での計測結果を比較した。これらの精度検証試験の結果,植生基材吹付工への適用は可能であり,20~30 m程度までの計測距離であれば,実用に適する計測精度となることを確認できた。

  • 田中 淳, 杉原 忠弘, 吉原 敬嗣
    2024 年 50 巻 1 号 p. 103-106
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    ノシバ(Zoysia japonica Steud.)の種子は,シカに採食され糞とともに周辺へ拡散される。シカが好む固形飼料にノシバ種子を付着させた資材を野生シカに採食させ,周辺への排糞とノシバの生育拡大について調査した。種子を付着させた固形飼料を食べ,種子が拡散している可能性がある糞は15箇所存在した。2年5ヶ月後の調査ではその1箇所からノシバが生育しているのが確認された。試験地では,別に播種工にてノシバが生育しており,播種した種子が風や動物等により拡大した可能性もあるが,資材からの排糞か,生育結実したノシバ種子かは確認できないが,シカの生育地でも分布を拡大する採食耐性の高い植物である。

  • 島田 博匡
    2024 年 50 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    間伐木を等高線方向に並べた筋工と地面との間の隙間が表面侵食と筋工背後の土砂堆積に及ぼす影響を明らかにするために,三重県津市内の53年生ヒノキ林において3つの処理区(筋工隙間あり区,筋工隙間なし区,筋工無区)を設け,土砂受け箱法による表土移動量,筋工付近のSfM写真測量から生成した地表面高について2年間の追跡調査を実施した。筋工隙間あり区の筋工の隙間は1年程度で閉塞し,閉塞後には筋工背後の地表面高が高まり,堆積量が大きくなった。同時に表土移動量は減少して筋工隙間なし区とは同程度になり,筋工無区よりも小さくなった。隙間の有無は表土移動の大きさに密接に関係していると考えられた。

  • 長野 文乃, 貫名 涼, 柴田 昌三
    2024 年 50 巻 1 号 p. 111-114
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,竹林においても獣害が問題となっているが,発筍期のタケノコ被害に着目した研究や報告が主である。本研究では京都府長岡京市の竹林を対象として発筍期以外を含む野生動物管理の状況を明らかにすることを目的に,生息環境管理,個体群管理並びに被害管理の観点から総合的に調査を行った。 その結果,生産竹林での獣害防止のためには 1)竹林での作業頻度を高め,野生動物の侵入が困難な環境を維持すること,2)イノシシの捕獲を強化すること,3)柵の仕様・配置を適切に行うこと,4)管理作業により発生する竹稈残渣を適切に処理することなどが,実施すべき対策項目として示され,発筍期に限らず通年で野生動物管理に取り組む必要性が明らかになった。

  • 稲垣 栄洋, KUNWAR Ishwor Jung, 瀧田 萌, 切岩 祥和, 小田部 美智男, 山口 直信, 真坂 博男, 大塚 政洋
    2024 年 50 巻 1 号 p. 115-118
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    草刈りは効果的な雑草管理方法の1つであるが,大量の植物残渣が発生したり,草刈り圧に強いイネ科雑草が繁茂したりする等の問題点もある。そこで本研究では,草刈りに代替する方法として雑草管理ロボットによる「踏圧」の効果を検証した。飛行場と果樹園で雑草管理ロボットによる踏圧処理を行なった結果,踏圧処理により,ネズミムギやメヒシバ等の斑点米カメムシ類の発生源となるイネ科雑草や強害雑草のセイタカアワダチソウ等の草刈り圧に強い雑草が抑制される効果が認められた。今後,踏圧によって雑草管理を行なうロボットの実用化が期待される。

  • 武内 千紘, 柴田 昌三, 貫名 涼, 津田 その子, 南光 一樹
    2024 年 50 巻 1 号 p. 119-122
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,山間部に位置する送電鉄塔敷地内において,浸食防止のため緑化工を行っているにもかかわらず,植生の衰退が進行している。原因として,送電鉄塔を伝って通常の降雨よりも大きくなった雨滴の衝撃による影響が示唆されている。そのような雨滴の衝撃が緑化面および緑化植物に与える影響に関して知見を得るため,緑化面を模した供試体と送電鉄塔下の雨滴エネルギーを再現した降雨装置を用いて降雨実験を実施した。その結果,供試体の植被率が63%-97%の場合は雨滴衝撃の影響を受けなかったが,植被率が10%未満の場合は雨滴衝撃による植生の定着阻害や土壌浸食が確認できた。

  • 武藤 惠, 上條 隆志, 小川 泰浩, 石森 良房
    2024 年 50 巻 1 号 p. 123-126
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究で扱うスケルトン型治山緑化資材は三宅島2000年噴火を受けて生態系保全と土壌保全を目的に開発された従来型資材の改良型であり,従来型よりも軽量化した資材である。本研究ではスケルトン型資材の土砂流出防止および植生回復の効果を検証するため,資材設置2年経過区,資材設置4年経過区における本資材の土砂捕捉能力調査と,対照区(未設置)を加えた3区域における侵食量調査と植生調査を実施した。植生調査では全ての資材設置区で土砂の堆積が確認され,植生調査では4年経過区で植被率が有意に増加した。今後本資材のより長期的な効果や設置方法の検証を行うことで,幅広い環境における実践的な利用が期待できる。

  • 由本 達真, 中村 大, 川口 貴之, 川尻 峻三, 宗岡 寿美
    2024 年 50 巻 1 号 p. 127-130
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    植物根系による地盤補強効果は,複数の既往研究で行われた定圧一面せん断試験によって解明されてきた。しかしながら,植物根系を含む土供試体はどの程度のせん断変位で破壊に至っているのか,せん断によって植物根系が切断されていないのかといった基礎的な疑問も存在している。そこで本研究では,これらの疑問を解明する足掛かりとして,定圧一面せん断試験時にAcoustic Emission(AE)を計測することを試みた。また,せん断試験前後にX線CTスキャンを行い,供試体内部の根系の状態を詳細に観察することにも取り組んでいる。実験結果から,植物根系の有無でせん断試験中のAE発生挙動に違いがあることが確認できた。

  • 矢野 菜々絵, 木村 圭一, 大黒 俊哉
    2024 年 50 巻 1 号 p. 131-134
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    湿地再生のポテンシャルを定量的に評価する手法の検討のため,北海道の圃場と近隣の湿地を対象に現地調査を行い,多基準分析(MC-SDSS)を用いた評価を行った。評価指標は地下水位,水みちからの距離,植生,農地からの距離とし,植生には現存植生とシードバンクのデータを用いた。評価指標ごとに0~1点の範囲をとるスコアを0.5 mメッシュ単位で算出して統合し,湿地再生適性マップを作成した。その結果,対照湿地の面積の95%以上が0.6点以上となり,0.6点以上となった41.2%の候補地が湿地再生に適していると考えられた。各評価指標の点数によって適切な再生手法が異なる可能性が示された。

  • 中山 恵都子, 山田 晋
    2024 年 50 巻 1 号 p. 135-138
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    植生復元に資する知見を得るため,耕作水田,ため池,水路,放棄水田において埋土種子集団を比較した。東京都町田市の一小水域から土壌を採取し,撒き出し試験を実施した。水路における埋土種子集団が種数,個体数とも最大だった。水路の埋土種子集団には,他の地点にも頻出した水田雑草のみならず,畦畔を主な生育地とする種,隣接する斜面草地に生育する種も含まれた。複数の植物群落から土砂が流入しやすいことが,水路の埋土種子集団の種多様性が高い一因と考えられた。耕作水田の埋土種子集団における絶滅危惧種の種数と個体数は4地点中最大となった。耕作水田の埋土種子集団における水田雑草の種数の割合は4地点中最大だった。

  • 田崎 冬記, 川嶋 啓太, 稲垣 乃吾
    2024 年 50 巻 1 号 p. 139-142
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    釧路湿原では湿原の質的・量的変化として,ヨシ・スゲ類等を主体とした植生がハンノキ群落に置き換わっていること等が問題視され,その対策として様々な自然再生事業が実施されてきた。そこで自然再生事業で整理された湿原内のハンノキ群落や調査範囲・方法等が統一された2001年以降の釧路川の河川水辺の国勢調査のハンノキ群落の変化と自然再生事業の実施状況との関係を整理し,考察した。その結果,湿原内のハンノキ群落も釧路川のハンノキ群落も自然再生事業が実施された2006年以降は増加傾向が見られず,釧路川では近年減少に転じている可能性も示唆され,自然再生事業が一定の効果を果たしていると考えられた。

  • 重村 愛貴, 藤原 宣夫
    2024 年 50 巻 1 号 p. 143-146
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    海浜植物の減少が問題となっている大阪湾の人工・自然海浜8か所を対象に漂着種子及び植生・フロラ調査を行うことにより,海浜植生の自然維持の可能性と適切な管理手法を検討した。また人工海浜と自然海浜を比較することにより人工海浜整備による植生回復効果の評価を行った。その結果,植生・フロラ調査では13種の海浜植物が確認された。漂着種子調査では6種の海浜植物の種子が確認されたものの,量的に少なく,人工海浜と自然海浜での差は認められないことから,植生の維持及び海浜造成には海浜植物の人為的導入が必要であると推察された。またアメリカセンダングサなど外来植物3種について海流散布による分布拡大の可能性が確認された。

  • 栗栖 寛和, 岡 浩平, 平吹 喜彦, 松島 肇
    2024 年 50 巻 1 号 p. 147-150
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,津波で倒壊した砂丘上の海岸林を対象にして,重機の走行などの人為攪乱がマツ類の天然更新に与える影響を明らかにすることを目的に実施した。盛土と植栽を実施していない場所を対象に,小型UAVによる空撮画像をもとに,マツ類の分布を比較したところ,重機の走行などの人為攪乱が大きい場所では,マツ類の植被率が低かった。一方,重機の走行がなく,倒木も残した場所では,津波から約10年後にはマツ類の植被率は50%を超えた。これらのことから,津波などの大規模攪乱後にマツ類の天然更新を期待する場合には,表土や稚樹などの残存植生を保全することが重要と考えられた。

  • 阿部 建太, 川合 椎奈
    2024 年 50 巻 1 号 p. 151-154
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本研究は実空間での植物配置がPC作業時の作業効率や疲労感に与える影響を検証することを目的として,室内実験を実施した。その結果,作業効率は植物配置による差が認められなかったが,疲労感については「机置き」「壁掛け」において「ねむけ感」および「不快感」が軽減されることが明らかとなった。また,「机置き」に関してはPC作業によって増加した疲労感の項目がみられず,特に有効な配置である可能性も示唆された。

  • 梁 健和, 梅原 瑞幾, 那須 守, 岩崎 寛
    2024 年 50 巻 1 号 p. 155-158
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    働き方改革やCOVID-19の影響で勤務方法が多様になり,テレワークが広まっている。都市域にある社寺内緑地もワークプレイスの選択肢の一つになり得ると考えられるが,利用実態や必要な要素など詳細は把握されていない。そこで本研究では,社寺内緑地のワークプレイス利用の現状や必要な設備等の把握を目的とし,テレワーク勤務者にオンラインアンケート調査を行った。その結果,社寺内緑地のワークプレイスとして利用している人は少なかったが,利用した経験のある人は,社寺内緑地特有の雰囲気が,仕事のはかどりに繋がるといった印象を持つことがわかった。また,屋外におけるワークプレイスに関する既往研究と同様に,Wi-fi環境の整備等が必要であることがわかった。

  • 漆谷 綾乃, 小笠原 秀治, 淵江 知宏, 岩崎 寛
    2024 年 50 巻 1 号 p. 159-162
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    高速道路休憩施設の緑地は安全運転に資する休憩効果を目的として整備されるが,主要な動線から外れたエリアにあるケースが多く,利用者が緑地の存在に気付かないなど,その恩恵を享受出来ていないことが多い。また,高速道路は供用後50年を経過する路線もあり,施設の老朽化に加え,樹木の老齢化や大木化も課題となっている。そのため,東日本高速道路株式会社(以下NEXCO東日本という)では新たな緑化の観点「ゼロ次予防緑化」を取り入れながら,園地の管理やリニューアルを行い,より快適な休憩施設の実現を図っている。本報告では,既往研究を踏まえ,利用者アンケート結果解析による利用者視点からの高速道路休憩施設における緑地の在り方について考察する。

  • 岩崎 寛, 中村 友紀
    2024 年 50 巻 1 号 p. 163-166
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    トイレ空間における植物設置が利用者の印象に与える効果を明らかにするために,オンラインアンケート調査および設置実験をおこなった。オンラインアンケート調査の結果,トイレ空間での植物の必要性を感じていない人でも,設置されたトイレを利用することで植物設置の効果を実感し,トイレへの植物設置を求めるようになること,植物設置実験の結果,植物は空間の印象向上に有用であり,設置する植物量が少なくても植物の効果を得られることなどが明らかとなった。

  • 富田 尚子, 上町 あずさ, 森本 順子
    2024 年 50 巻 1 号 p. 167-170
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,老朽化の進んだニュータウンの再生事業が進められており,ニュータウンの再評価が求められている。本研究では大阪府堺市に位置する泉北ニュータウンを対象とし,緑道をはじめとするニュータウン内の歩行空間に焦点を当て,利用実態調査を行った。ニュータウン内の緑道,市道および府道について観察経路法を用いて調査した結果,緑道の利用が他の歩行空間よりも多いことが明らかとなった。また緑道は単に通行のためだけではなく,遊びや運動,休息など多様な使われ方をしていることが明らかとなり,緑道の重要性が確認された。

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